32話 体育祭の練習②
次の体育の授業では走りを中心とした授業になった。
男女混合での授業だ。
雄太と武彦は渚とひまりの体操服姿を見て喜んでいる。
ひまりと渚は少し恥ずかしそうにして、お尻を手で隠している。
「俺は陸上部だからな。走りのフォームを見てやるよ」
雄太が胸を張って宣言する。
「じゃあ、俺から頼むかな」
「誰が男子のフォームなんて見るか。男子は自主練をしておけ。俺はひまりと渚に教えるんだ」
雄太は男子には教えるつもりはないようだ。
ひまりが恥ずかしそうに光輝に寄ってきて、後ろに隠れてしまう。
渚も後ずさりをして雄太から逃げようとする。
「なんか雄太の目、スケベだし……教えてもらうのイヤかも……お尻とか見られるのイヤだし」
「陸上を教えている時は、俺は真剣だぞ……そんな変なことは考えないから逃げないでくれ」
ひまりは不安そうに光輝を見る。
光輝は優しく、ひまりの髪をなでる。
「今回は雄太を信用してあげてくれ。あれでも一応は陸上部だ。きちんと教えてくれると思うぞ」
光輝の言葉を聞いたひまりと渚が、雄太の近くへ歩いていく。
「まずは1人1人、真剣に走ってみてくれ」
その言葉を聞いて、ひまりと渚が1回ずつ真剣に走る。
「ひまりはもっと胸を張って、手を大きく振って、手でも走るようにしたほうがいい。後、膝があがっていないから、もっと膝を上げて走るといい」
雄太が大きな声でひまりに指示を出す。
ひまりは両手で胸を隠して、雄太を睨む。
「変な意味じゃないって。走っている時は胸を隠すこともできないだろう。猫背で走っても早く走れない」
「わかってるけど……胸を張って走るなんて……そんな恥ずかしいことできないよ……」
ひまりは涙目で、今にも光輝の元へ走ってきて、背中に隠れそうだ。
「渚はフォームはいい。後は蹴った後の足を、きちんと引き戻してくることを意識したほうがいい。蹴り出した後の足って、結構、無意識に残してしまうんだ。だから早く膝に引き戻すようにすると早くなる」
雄太は渚に指示を出す。
渚はその場でモモ上げの要領で、足を引き戻す運動をする。
「そうそう、その運動を意識すれば、渚はもっと早く走れるようになる。フォームが良いから今まででも早く走れたんだな」
雄太が陸上部として真剣にひまりと渚を指導していく。
はじめは恥ずかしがっていたひまりも、今では雄太の指示通りに走っている。
それにしても胸の揺れがスゴイ。
思わず吸い込まれるように見てしまう。
「あの胸、ボヨンボヨンってスゲー揺れてるな」
武彦が鼻の下を伸ばして、小声で光輝にだけ聞こえる声で話しかけてくる。
「武彦、スケベな顔になってるぞ。あとでひまりに怒られても知らないからな」
「光輝もさっきから、ずっと見てるじゃないか。俺だけに文句いうなよ」
ひまりが嬉しそうな顔をして光輝の元へ戻ってくる。
光輝は顔を赤くして、ひまりを直視できない。
どうしても視線が胸にいってしまう。
「光輝……私、雄太に教えてもらって、走るのが早くなったよ」
ひまりが無邪気に天使のような微笑みを光輝に向ける。
光輝は余計に恥ずかしくなって、ひまりと目を合わすことができない。
「どうしたの? 光輝……何を恥ずかしがってんの?」
「すまない……ひまりが走っている間……胸を見てしまった……ごめん」
「光輝が見るんだったら、大丈夫だよ。もっと見ていいし」
その言葉を聞いた光輝は反応に困った。
ひまりはニッコリと微笑んで、光輝に抱き着く。
「光輝だけズルいじゃん。ひまり、俺も見ていいよな」
「ダメに決まってるじゃん。私の胸は光輝だけのものなの。武彦が見たら蹴飛ばすからね」
「なんだよ……その扱いの違いは、不公平じゃねーか」
「うるさい。セクハラスケベ!」
ひまりにセクハラスケベと大声で言われた武彦は女子達から冷たい視線を向けられる。
武彦は女子からの冷たい視線に耐えかねて、光輝の後ろへ隠れて座る。
その目には少し涙がたまっていた。
武彦、光輝、ひまりの3人がそんなことをしている間も、雄太は真剣に渚を指導している。
今は、クラウチングスタートの練習だ。
「クラウチングスタートは膝と胸で体全身を前に押し出す感じで、体全身を前に出していくんだ」
渚は何度もクラウチングスタートの体勢から走りだす練習をしている。
雄太も渚のとなりで、クラウチングスタートの体勢になり、熱心に指導を続ける。
渚のスタートが見違えるほど良くなってきた。
雄太の指導力もすごい。
武彦が真剣に渚を見ている。
「渚ってモデル体型だと思っていたけど、スゲー脚がきれいなんだな。お尻も可愛いな」
確かに渚の脚はきれいだ。
しかし、光輝の隣にひまりがいる状態で、そのことを言うのは危険だ。
「武彦、どこ見てるの。私の次は渚なの。それも脚とお尻なんて最低!」
大きな声でひまりが悲鳴のように言う。
それを聞いた渚が練習を止めて、お尻を隠す。
雄太も武彦を睨んでいる。
真剣に教えていたところを邪魔されたのだから怒られても仕方がない。
女子達から「武彦って最低!」という声が聞こえてくる。
武彦はそれを聞いて、三角座りになって顔を隠す。
その姿が惨めすぎる。
渚は汗を輝かせながら、光輝達の元へ歩いてくる。
「雄太のおかげで走り方がわかったわ。後は練習するだけね……武彦の見ていない場所で」
渚はひまりからタオルをもらい笑顔で汗を拭いている。
「男子から意識して見られるのって、やっぱり恥ずかしいわね」
「私は光輝だけのものなんだから」
光輝の背中にピッタリと体を寄せて、ひまりは小さく呟いた。




