33話 体育祭の練習③
次の体育の授業も男女混合の授業だった。
今回は各種目によって、男女共に練習方法が違う。
渚と雄太はリレーの練習をしている。
借り物競争の武彦は適当にトラックを軽く走っている。
光輝とひまりは二人三脚の練習だ。
ひまりと足首を紐で結って肩を組む。
「最初は歩いてトラックを1周しよう。ひまりに歩幅を合わせるから」
「最初は結わえている足から出すね」
ひまりと2人で肩を組んでトラックを1周する。
ひまりは光輝の背中に手を置いて、体を安定させて、密着している。
歩く度にひまりの豊満な胸が少し触れる。
それだけで、光輝は顔が赤くなるほど恥ずかしい。
「光輝の顔、真っ赤になってる。私の胸が当たってるからだよね」
「……」
「相手が光輝だから、私は平気だよ。光輝も早く慣れてね」
早く慣れろと言われても慣れるものではない。
柔らかい感触が脇に当たる。
そして、ひまりから良い香りが漂ってくる。
思わず緊張感が抜けそうだ。
もっと走りに集中しなければと、自分に喝を入れる。
ひまりが面白がって、もっと体を密着させてくる。
これでは練習にならない。
「ひまり……もう少し、ちゃんと練習しよう。本番の時にコケるのはイヤだろう」
「はーい」
1周目はひまりの歩調で歩くようにグラウンドを1周したが、2周目は、少し早くして光輝の足の速さに合わせて歩いていく。
ひまりは嬉しそうに隣を歩いて、時々、光輝の顔を覗き見して微笑んでいる。
トラックを2周して、息が合ってきたように思う。
それに二人三脚にも慣れてきた。
トラック3周目は競歩の速さで歩いていく。
歩幅はひまりに合わせる。
ひまりも競歩の速さなので、少し真剣になってきたようだ。
「大丈夫か? まだ慣れていないなら、スピードを落とすぞ」
「ううん。大丈夫。だいぶん体が慣れてきたと思う」
二人三脚で重要なことは、とにかく2人で息を合わせること。
それと絶対にコケないことだ。
女子のほうが歩幅が狭い。
だから女子に歩幅を合わせたほうが良い。
できるだけ主導権をひまりに渡す。
そしてひまりに合わせて、光輝は競歩していく。
一旦、休憩を取って、足を結んでいる紐を解く。
そしてトラックよりも外で休憩を取る。
2人で寄り添うようにして、トラックで走っている生徒達を見る。
特にリレー組の走りはすごい。
雄太も浩平も渚も、驚くほど走るフォームがきれいだ。
そして速い。
今はバトンを渡す練習を交代でしているが、
バトンをもらった時にはトップスピードになるように調整されている。
「渚って何でもできるでしょう。自慢の親友なの」
「本当に渚は何でも万能だな」
思わず、カモシカのような渚の走りに見惚れる。
ひまりも隣で同じように走りに見惚れている。
さすがに雄太も陸上部だけあって、フォームも美しくて速い。
部活に打ち込んでいるだけのことはある。
普段の雄太とは全く別人のようだ。
バトンの受け渡しについても、今は雄太が主導権を持って、渚と浩平に教えている。
渚と浩平は雄太の注意を聞いた後に、練習を再開する。
その姿は真剣そのものだ。
さすがはリレー候補者と言いたい。
ひまりはリレー組みの走りに見入っている。
そろそろ自分達の練習も始めないと先生に怒られる。
ひまりの足と自分の足を紐で結わえて準備を始める。
そして互いに立ち上がって、準備を整える。
ひまりが光輝の背中に手を置いて、光輝はひまりの肩を抱く。
そして競歩の速さからトラックを1周する。
先ほど、練習しているので、歩調も息もぴったりだ。
トラックを1周し終えて、次は軽く走ることにする。
「次は軽く走るけど、内容はさっきまでと変わらないから、ひまりは自分のペースで走って」
「うん……合わせてくれてありがとう」
スタートから始めて、ひまりに合わせて一緒にトラックを1周走る。
既にひまりの走る時の癖がわかってきているので、合わせるのに問題はない。
「最後の1周は全力で走ってみよう」
「それなら何かご褒美がほしい」
「ジュースぐらいなら奢ってやるよ」
「ううん……ひまりの髪をなでてほしい」
「それぐらいならいいよ」
あまり考えなしに、ひまりの要求を聞いてしまった。
ひまりは気合を入れて全力で走る。
光輝が思っていたよりも速い。
光輝もひまりにテンポを合わせて、同じ歩調で走っていく。
入念に練習してきたので、トラック1周を完走した。
これなら本番でコケることもないだろう。
光輝はひまりに怪我をさせることだけはしたくなかった。
「光輝……ご褒美」
ひまりが胸の中へ飛び込んでくる。
ここはグラウンドのトラックだ。
クラスの生徒達が全員、ひまりと光輝を見ている。
気づいた時は遅かった。
しかし、約束は約束だ。
恥ずかしそうに顔を赤くして、光輝はひまりを抱き寄せて、やさしく髪をなで続けた。




