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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
朱に染まる――。
84/124

13.

 バラリウス率いるゲンベルト隊はかなりの速さで馬を走らせる。結構酒を飲んでいたはずなのに、よくも手綱が握れるものだ……アケミはアレインに教えてもらってかなり馬の扱いが上手くなった気でいたが、なんとか併走できている感じだ。

 ただただ無言で馬を走らせ………四十分経って村に到着した。当然だが、すでに傭兵は引き上げた後だ。しかしバラリウスからは特に指示もなく、部下たちは別れて村の中をてきぱきと動く。アケミが下馬するとその手綱をひったくられた。

「何を…!?」

「預けておけシロモリ。馬も休ませねばいかん」

「ああ、そういう…」

 馬を放す…と、手綱を取った男の顔に見覚えが有る気がする。バラリウスの部下にしてはどこか優男で、結構若い。

「どうも」

「……?」

 笑顔でぺこりと頭を下げられる。面識はないはずだが…?

 そうこうしておよそ十分後、村の中に散っていった者たちが戻ってきた。各々の報告を常にバラリウスの脇に控えている男―――おそらく副長だろう―――が、まとめて聞いていた。

「隊長、取りまとめました」

「報告を」

「はっ。被害に遭ったのは村の商店、宿屋。金品を強奪されています。被害者はそれぞれの店の店主、村長をはじめとする自警団、通りすがりが数名。ただし死者・重傷者はなく、全員軽傷だということです。詳細はこのリストに」

 ぺらりと紙を見せられてバラリウスは苦笑いする。

「用意のいいことだ。子細間違いないな?」

「村長のサインもあります」

「よかろう。連中がいる場所は」

「十キロ離れた南西の山中に無人となった教会があり、おそらくそこに潜伏しているのだろうと」

「では十分後に出立する。必要な装備を揃えよ。そして道案内に一人連れてくるように」

「はっ」

 副長が離れ、また慌ただしく部下たちが動いていくが、動きに迷いはない。よく統制が取れている…。

 そのままきっかり十分後に出発し、案内役の若い男一人を伴って出発する。教会があるという山の麓で馬から降り、徒歩で進む。

「――確認しておくがシロモリ、今回の作戦に参加するのか?」

「作戦なんてあるのか? 捕縛するのだろう? もちろん要請があれば参加する。断る理由はないしな」

「ならば手出し無用。上から我の評価をつけるようにでも言われたのであろう? 一切見ておけばよい」

「……了解した。モテたければ手落ちのないようにな」

「フハハ、ぬかしおる」

 バラリウスは豪快に笑うが、その自信はどこからくる?

 木々の間から教会の屋根の天辺が見えたとき、バラリウスが足を止める。それを合図に五人ずつ左右に散開。取り囲む算段だ。そしてじりじりと間合いを詰め………バラリウスがおもむろに両手を構えた。

 

 パアアァァン――――!!


 乾いた手拍子とともにゲンベルト隊は一斉に突撃する。が、バラリウスは変わらぬ歩みのままだ。案内役の男はオロオロしているが…。

 喧騒が聞こえ、闘争の音が谺したがそれも一分もない間のことで、傭兵らしい集団の姿を見たときはすでに組み伏せられた後だった。

「どうだ? 間違いないか?」

 バラリウスに尋ねられ、男はなんのことかすぐにわからなかった。

「あ、はい……村に現れた傭兵で間違いないです……」

 「傭兵」は七人。一丁前に鎧で武装していて人相こそ悪いが、お世辞にも戦士の面構えとは言えなかった。

「これで全員のようです。強奪されたとされる品々もほぼ発見できました」

「ふむ……。頭目は誰だ」

 副長からの報告に頷いたバラリウスは地面に伏せるように抑えられている七人に尋ねる。誰も答えなかったが、目線や雰囲気でおよそ見当はつく。その男の前にバラリウスはかがみ込んだ。

「なぜこんなことをした? 誰ぞに雇われてやったわけではあるまい。察するに、貴様らは村と顔馴染みではないのか?」

 え…!?

「――でなければ、村の人間が傭兵と呼ぶはずもあるまい。ただの『賊』であろう。違うか?」

「………」

「………」

 傭兵も、村人も答えない。

「貴様らも傭兵と呼ばれるからには雇い主がいたのだろう。どうした? クビになったか?」

「…俺たちはこの辺り一帯を盗賊から守る、用心棒兼賞金稼ぎだった。俺たちの雇い主は、悪さをするやつが現れると俺たちを派遣し、受け取った報酬を分配していた。あの男は交渉術に長けていて、普通なら一所に落ち着く傭兵稼業だが、俺たちは広い範囲で活動できた。それなりにやりがいもあった……軍が追ってる指名手配犯を捉えたときなんざ小躍りしたもんだ。だが一か月前、俺たちの雇い主は急に稼業を辞めると言い出した。曰く、仕事がなくなったからだと。俺たちに対する依頼がなくなったんだ………アンタらのせいで!!!」

 男は必死に首を上げてバラリウスを睨む。

「アンタらがタダで賊を蹴散らしていくから、俺たちのような傭兵は食い扶持がなくなった…! 今まで感謝してくれてたのに、金を取ることがまるで悪のような目で見てきやがる! 別に正義の味方を気取ってたわけじゃない、だけどこれはあんまりだろ!!」

「なるほど……されど領内の治安維持に努めるのも我々軍人の役目、そもそも傭兵稼業はその隙間を縫っていたに過ぎん。我々もタダでやっているわけでもない、回り回っているが報酬は税金だ。貴様らがいくら稼いでいたか知らぬが、時間当りで換算すれば我々の方が給金が多いやもしれぬな」

「……なら俺たちはどうすればいいんだ! 惨めなだけじゃないか!」

「――――よかろう」

 バラリウスがくいっと手で合図すると、部下たちが男を解放する。

「チャンスをやろう。我らの中でもっとも新参の兵と戦い、勝てば貴様ら全員を我が隊の正規兵として加えてやろう」

「な…おい待て―――」

 一部隊が勝手に兵士を増員するなど許されない。まして、正規兵だと…!?

 文句を言う前にバラリウスがこちらを視線で制する。

「口出し無用……とは言っておらんが、口出しするなシロモリ。これは我々の任務だ。さてどうする? やるか? やらぬか? 必要であれば武器も貸し与えてやる」

「……やってやる。昼間から酒を煽っている奴らが俺たちより上だと認められるか…!」

「うむ。ラニエル!」

「え…自分ですか…」

 顔を強ばらせながら前に出てきたのは、馬の世話をしていた優男だ。大丈夫か、こんな男で…?

 二人を中央に囲みができ、決闘の場ができあがる。傭兵の男は片手剣と盾を持ち、ラニエルはほんの少し長めの剣一本。これはどっちに勝負が転がるか予想ができないな…。

「勝敗のルールはない。ただ、これは殺し合いの場ではないことは申し伝えておく。さあ―――存分にやるがいい!」

 バラリウスの掛け声を合図に始まった決闘。傭兵は全力で体当たりを仕掛けるが、ラニエルは出遅れてギリギリ避ける…。

「ラニエル! 負けたら貴様がクビだぞ」

「えぇ!? 無茶苦茶な…」

 冗談とも本気ともとれるバラリウスの叱咤にラニエルも嫌々ながら動く。気迫の差は歴然―――だが…

「ぐおぅ…!」

 ラニエルの蹴りが傭兵の腹に刺さる。それでもひるまずに全力で斬りかかるが、ラニエルの剣に止められ、逆に盾を弾かれ、今度は顔面に拳を見舞われる。ラニエルは他の隊員のように筋肉で膨れ上がった身体ではないが、見た目以上にパワーがある。そして余裕もある。傭兵の男に比べれば消極的………しかし、実力は圧倒的にラニエルが上だった。

 傭兵は諦めない……何度地面に倒れても立ち向かっていく。だがそれも三分と持たず、一方的な展開になる。傭兵の男の鎧は血と泥でわずかな輝きも失っていく……。

「くそ、くそ…っ」

 盾を捨て、両手で剣を構えるが、震えてろくに上げられない。それでも振りかざした剣をラニエルは力ずくで叩き落とし、

「だああぁぁりゃ!!」

 襟首を掴んで豪快に投げ飛ばす!! 五メートルかっとんだ傭兵は地面に叩きつけられ、ついに立ち上がれなくなった。

「……他に挑戦する者は?」

 他の傭兵の中からバラリウスの問いかけに答える者はいなかった…。

 バラリウスは倒れた男に歩み寄り、見下ろす――――。

「これが我々と貴様たちの力の差だ。無論、軍人もピンキリだ。貴様でも修練しだいで末端の兵士にはなれよう。しかし、戦士としての才能はない……はっきり言おう、向いていない。今日にも足を洗うが良い」

「うっ……う、ふ、ぐっ……うう、ぐあああぁ…!!」

 男は顔を覆って泣き出した。大の男が、子供のように……だがそれを笑う者は一人もいなかった。



 


「――ちょっと待て、どういうつもりだ…!」

 バラリウスの提案を横で聞いていたアケミは、今度こそバラリウスの肩を引いた。

「黙っていろ、話が進まんではないか」

「そうはいくか! お前は何を言っている!?」

「いいから黙って見ていろ。村長、話を戻すが―――この元・傭兵どもを引き取って欲しい」

 バラリウスの足元には膝を着いた元・傭兵たちがいる。

 村に戻ったバラリウスは村長の家の前に傭兵たちを座らせ、村長と交渉を始めたのだ。

「しかし、それは……」

 村長は顔を渋らせる。いや、村長だけでなく、集まってきた村人も表情を曇らせる。

「盗ったものは残らず返還させる。器物や人的な被害については賠償させる。幸い軽い怪我の者しかおらんのだろう? 取り返しがつかぬことでもあるまい」

「ですが…」

「…よくよく聞いてみれば、こやつらも心無い言葉を浴びせられて憤りを感じたようだ。剣に物を言わせたのは外道の所業だが、はたして一概に悪人と呼べるものか?」

 バラリウスがぐるりと見渡せば、村人の中に顔を逸らす者もいる。

「ここは我の顔を立てて水に流さぬか。こやつらとはこれまでにも縁があったのであろう? このまま牢獄送りはちと惨い気がするが」

「………」

 村長はしばらく考え、元・傭兵たちを見下ろす。その中の一人は、これ以上罰を与えるには偲びないほど顔が腫れ上がっているが、一方でどこかスッキリとした表情で、目は澄んでいた…。

「……わかりました。確かに私どもは彼らに世話になった身。もしかすると知らぬところで救われていたのかもしれません。傭兵という形でないのなら、受け入れましょう」

「うむ」

 もちろん村長の決断に賛否両論の声が上がるが、バラリウスは間髪入れずに声を張り上げる。

「許してやれとは言わぬ。されど、まずは謝らせてやれ」

 そう言われて傭兵たちに頭を下げられれば、村人たちもそれ以上文句を言えなくなった。






 村を出て、悠々と闊歩するバラリウスの馬。その横でアケミは眉根を寄せていた。

「あたしも他人のことを言えんが、いくらなんでも勝手が過ぎるんじゃないのか。こんなの、他の隊にも示しが付かないだろう。どう報告するつもりだ?」

「ブリッシュ、報告書にはどのように記す?」

「は。村からの要請があり出撃したものの、実際は内輪の諍いであり、それも解決に至ったと」

 バラリウスを挟んで反対側を併走している副長・ブリッシュは紙に書いてあることを読み上げるようにスラスラと述べる。なるほど、いつもこうして帳尻を合わせているわけか。しかし……

「そんな言い回しで誤魔化すのか?」

「それこそ見方の問題であろう。大したことではない」

「罪を犯した者を軍が見逃したのが問題だと言ってるんだ。処分の裁量を決める権限はお前にはないだろう」

「むぅ……監査を任されただけあって一端の口を叩くな。ならば今からでも奴らを引いて砦まで移送するか? しかしもう今晩の酒代と宿代を払ってしまっていたな………貴様が支払うか?」

「知ったことか。それにもう一つ……なぜあの傭兵たちに武器と防具を返した」

「んん? なんだそれは、知らんな」

 太い首を捻る仕草がわざとらしい…。

「どの口が言う……村長の言っていた『傭兵という形でなければ』っていうのは武器を捨てろってことも含まれていたはずだ。反故にさせてどうする……後で揉めるぞ」

「反故にしておらんだろう、第一、武器を捨てろなんて条件は出ておらんぞ」

「だから、そんな言い回しで…」

「事実だ」

 この筋肉ダルマ、この形でどれだけ口が減らないんだ。

 バラリウスは顎鬚を撫で、しばし空を見上げる……。

「確かにあの者らに戦士の才能はないと言った……しかし資質は別だ。シロモリ、戦士に必要な資質はなんだと思う」

「…………」

「どうした?」

「……いや。そうだな……戦えること、かな」

「ほう…。なぜそう考える?」

「自ら戦わずに助けを求めたのが村人、敵わない相手でも立ち向かっていったのが傭兵だ。剣は向けられる覚悟だけじゃない……刃を向ける覚悟も必要だ。少なくともあの傭兵にはそれがあった……そういうことじゃないのか」

「フン、なかなか鋭いところを突く。愛していた女を斬ったという経験からか」

 ガチャリ―――。

 剣の柄を握る………ブリッシュの手が。アケミの発したむき出しの殺気に条件反射で反応したのだ。しかしアケミは剣を取っていない―――殺せそうなほどバラリウスを睨んだだけだ。バラリウスは涼しい顔で受け流したが、乗っている馬は本能で危険を感じてパニックになりかける。

「…口には気をつけろ。手元が狂う時もある」

「なるほど。女には調子の悪い日もある、か?」

 一瞬、本気で長刀を抜こうかと衝動が沸き起こったが、堪えた。

「……あれだな、モテないのがまざまざとわかる一言だ。残念だがお前に紹介してやれそうな女はあたしには思い当たらない」

「なんだと!? そんなに酷い事を言ったかブリッシュ!?」

「…今のは隊長が悪いかと」

 ―――そう言いながらブリッシュは右手を手綱に戻した。

「ぬう……そう気を悪くするなシロモリ、最後のは冗談だ。その前のは事実を述べただけだ。触れられたくないことだというのはわかった、以後は留意しておこう。しかし遠く離れた任地に詰めている我らにも噂が耳に入るほどに貴様は有名人だ、これまでもこれからも、ずっと付きまとう逸話であろう。しかし貴様の中では一応の整理はできているようだ。貴様にも戦士の資質があるのだろう?」

「さあな…」

「…おい、本気で怒っているのか? 機嫌を直してくれんか、ん?」

「………」

「しまったな……すっかりヘソを曲げられたぞ。どうすればいい?」

 バラリウスに振られるブリッシュも困り顔だ。

「謝るしかないのでは…」

「―――すまん! 許せシロモリ!」

 すぐさま頭を下げるバラリウス、だが…

「――このとおり! 我が悪かった! だから、極上の女を紹介してくれんか?」

「っ…」

 必死に頭を下げてこの男は何を言っているのか!? 後ろで聞いていた部下たちも堪えきれず、笑い声が聞こえてくる。

「……女を代表してお前に言っておこう」

「おお?」

「黙れ。死ね。二度と話しかけるな」

 バラリウスの分厚い筋肉を纏った肩ががくりと落ちた…。




 元いた酒場に戻ると、バラリウスたちはそのまま乾杯。反省会という名の宴会が始まる。当然だが、今のゲンベルト隊は国境警備の任務中だ。飲酒は厳禁である。にも関わらず当然のように飲み始める連中にアケミは呆れ果てた。そりゃ下からは支持を集め、同じ中隊長からは睨まれるだろう。分かっていないのかあの男は……。

 付き合いきれず酒場を出ると、優男―――ラニエルだったか? 一人で馬たちに水をやったり、干し草を与えたりしていた。

「あ、どうも。お疲れ様です」

 親しげに頭を下げてくる……が、やはりアケミには覚えがない。

「なぁ、アンタどこかで会ったことある?」

「いえ、直接お会いするのは初めてです」

「?」

 腑に落ちない顔をすると、ラニエルは口元に手を当てて小声で話し始めた。

「僕、実は……ゴルドロンの婿養子です」

「ん?」

 ―――ゴルドロン? あ―――!

「えっ、まさかアンタ……あの人の旦那!?」

「そうです。妻や子供達、義父がお世話になってまして…」

「あ、あーあー……えー…」

 このラニエルがベルマンの娘の夫、あの孫たちの父親なのだ! 今まで見たことがないと思ってたら、大隊にいたのか! 言われてみれば、あの子達に顔立ちが似ている…。しかし…

「大分、若くない…?」

「ええまあ、妻とは十歳以上差がありまして……猛アタックされて付き合って、子供ができたらしいってわかったときまで僕、相手が将軍の娘だなんて知らなかったんですよね……」

「………あの奥さんもすごいな…」

 威勢のいい人だとは思っていたが、まさかそこまで肉食系とは……。

「当然義父には反対されまして、とにかく一人前になるまで認めんということで、籍は入れたものの軍に放り込まれました。剣なんか振ったことなかったですから義父の特訓がキツくてキツくて」

「いや、よくやってるんじゃないか? 道理で顔に似合わないパワーだよ…」

「でも馬は得意なんで、こうしてなんとか。僕、ライドルの門下生だったんで……あ、ジラーの件でもご迷惑を…」

「それはそっちには関係ない。それに結果的にアレインが来てくれたし」

「あ、妹弟子です」

「世間って狭いな…」

 …というか、この人は本当に腰が低いな……いくら若いといっても年上だと思うが。いい人なんだろうが、ベルマンが見たらイライラしそうでもある。

「あの……一応、僕が婿養子なのは内緒になってるんです。なのでここでも旧姓のスクィートを名乗ってまして…」

「ふうん…。もしかして……アンタもバラリウスの様子を見るように言われてる?」

「隊長の? いえ、特には……よく学んでくるようには言いつけられましたが」

 歯切れが悪い……これは言われてるな…。

「隊長はすごい方ですよ。中隊長の枠を超えてますし、ああやって惚けたようでいて、みんなのためになるように常日頃行動してらっしゃいますし」

 なるほど、権限を超えて己の裁量で好き勝手していると。

「それに義父に似ている気がしますね」

「うん?」

「政治をされたがるというか」

 確かに……そういう共通点はあるかもしれない。

「あと、性格もですかね。義父も部下を厚遇しますね」

「酒を振舞ってか?」

「あれは『固めの盃』だそうですよ。同じ酒を酌み交わすことで兄弟のような絆が生まれるんだそうです」

「……アンタは参加させてもらえないのか?」

「僕は下戸なんですよ。一杯でも潰れちゃうんで」

「そうなんだ…」

「みんな盛り上がってますけど、基本的に一杯だけなんですよ。一緒に飲むことに意味があるんで。逆に酒に呑まれるようではこの隊に入れてもらえないんです。それでもダメなものはダメなわけで、そこはみんなわかってるんですけど、やっぱり楽しいわけで」

「…………」

 窓からバラリウスたちが笑うのを見て、少し寂しい気持ちになった。

 自分もブラックダガーに残れていたら………あんなふうにできたのだろうか。

「――監査っていうのは、義父からのものだったんですか?」

「え? ああ……監査というより審査だが……まあそんなところだ。しかしそんなつもりなかったのに、なんだか家族ぐるみの縁になってしまったな。とはいえ、あたしは軍属じゃないからアンタを助けてやれないぞ」

「いえいえそんな……子供達と遊んでもらっているだけで、もう」

「なんか拍子抜けだなぁ……」

 そこに奥さんは惹かれたのかもしれないが…。




 翌朝、宿場町から移動するというバラリウスたちとアケミは別れることとなった。

「もうよいのか? たった一日で」

「お前という人間はよくわかった。少なくともあたしは仲良くなれんな」

「まだ打ち解けるには時間が必要であろう? 貴様は我の全てを知るまい。我も貴様のほくろの数を知りたくもある」

「…次会ったときもそんな口を利いたら喉を切り裂くからな」

 軽蔑の眼差しを浴びせつつ、封筒を渡す。

「これはなんだ?」

「欲しがっていた紹介状だ。ただし、相手はベルマン=ゴルドロンだけどな」

 ゲンベルト隊がざわめくが、バラリウスは一人顔を顰めた。

「何故に老人の相手をせねばならん…」

「知らん。本人に聞け。紹介状と言ったが、中身は招待状だろうから捨てるなよ」

「どうして貴様がこれを運んできた? 軍務は関係なかろう」

「個人的な都合だ。ではな……あ、貴様の実態はベルマン殿に正確に報告しておくからな。しっかり心構えしてから会うんだな」

「よかろう。せめて男くらいは口説き落としてみせんとな」

「…好きにしろ」

 少しくらい動揺すると思っていたが……バラリウス=ゲンベルト、食えない男だ。









 前回の分を埋めるようになかなかのボリュームになりました。


 ちなみにブリッシュとラニエルは「女王への階」でも登場しています。特にラニエルはこの時裏設定扱いでしたが、要するに今回と同じようにベルマンの命令で動いていたのです。つまり会話は調子を合わせていただけで、サジアートの反応を観察していたんですね。エピソードを盛り込んでなかったので読者置いてきぼりでしたが……今回登場の運びとなりました。

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