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『王環』―独りぼっちの死にゲー攻略―  作者: 玉葱将軍


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第三十四話


 目の前に立つ腐敗の騎士。


 黒い鎧の隙間から、絶えず黒い瘴気が漏れ出している。


 中に人間がいる気配はない。


 それなのに。


 鎧だけが、ゆっくりとこちらへ向かってくる。


「……気をつけろ、旺樹殿」


 アークが巨大な薙刀を構える。


「こいつは強い」


「分かってる」


 俺も長刀を握り直した。


 腐敗の騎士が動いた。


「来る!」


 次の瞬間。


 黒い鎧が一気に距離を詰めてくる。


「速っ!」


 巨大な剣が振り下ろされた。


 俺は横へ飛ぶ。


 地面が大きく抉れた。


「うおっ……!」


 すぐ横から、アークの薙刀が走る。


 ガキィン!


 黒い鎧を斬りつける。


 だが。


「硬い……!」


 アークが一歩下がった。


 俺も反対側から斬り込む。


 長刀が鎧を捉えた。


 確かな手応え。


 それでも。


 浅い。


「こいつ……」


 腐敗の騎士が振り返る。


 そして、こちらへ向かって剣を振る。


 俺は後ろへ飛んだ。


 アークが前に出る。


「俺が受ける!」


 巨大な薙刀で剣を受け止める。


 だが。


「ぐっ……!」


 アークの身体が大きく押し込まれた。


「アーク!」


「まだだ!」


 アークが踏ん張る。


 俺はその隙に横へ回り込んだ。


 長刀を振る。


 肩。


 腕。


 胴。


 三度斬りつける。


 黒い瘴気が噴き出した。


「効いてる!」


 そう思った瞬間。


 腐敗の騎士の身体から、さらに大量の瘴気が吹き出した。


「なっ……!」


 視界が一瞬、黒く染まる。


 息が苦しい。


「旺樹殿!」


「大丈夫!」


 俺は後ろへ下がる。


 そこで気づいた。


「……あれ?」


 身体が重い。


 さっきまでとは明らかに違う。


 俺は自分の身体を見る。


 傷を受けたわけじゃない。


 それなのに。


 体力が減っている。


「……何だ、これ」


「どうした!」


「いや……」


 俺はもう一度、身体の感覚を確かめる。


 減っている。


 少しずつ。


 戦っているだけで。


「アーク」


「何だ」


「ここにいるだけで、体力が減ってないか?」


 アークが一瞬、黙った。


「……気づいたか」


「知ってたのか?」


「赤き荒野では珍しいことではない」


 アークが腐敗の騎士を睨む。


「この土地には、瘴気が満ちている」


「……」


「長く留まれば、戦わずとも身体が蝕まれる」


「それを先に言ってくれよ!」


「すまん」


 アークは真面目な顔で謝った。


 そんなやり取りをしている間にも、体力は少しずつ減っている。


「まずいな……」


 俺は周囲を見る。


 逃げる場所はない。


 腐敗の騎士は、こちらを待っている。


「長期戦はできない」


「同感だ」


 アークが薙刀を構え直す。


「ならば、短期で決める」


「ああ!」


 腐敗の騎士が突っ込んできた。


 今度は俺から前へ出る。


 剣をかわす。


 長刀を振る。


 腐敗の騎士の腕を斬る。


 その瞬間、アークが反対側から薙刀を叩き込む。


「今だ!」


 黒い鎧が大きくよろめいた。


「まだ!」


 俺は踏み込む。


 長刀を構える。


 居合。


 今まで何度も使ってきた技。


 だが、ここでは失敗できない。


 体力は減り続けている。


 長引けば、俺たちが先に倒れる。


「いけぇっ!」


 一気に抜く。


 腐敗の騎士の胴を斬り抜けた。


 アークも同時に薙刀を振り下ろす。


 黒い鎧に大きな亀裂が走った。


 そして。


 腐敗の騎士の身体から、黒い瘴気が一気に噴き出した。


 鎧が崩れる。


 地面に落ちた鎧は、しばらく蠢いていた。


 やがて。


 完全に動かなくなった。


「……倒した」


 俺は長刀を下ろした。


 息が荒い。


 アークも薙刀を杖代わりにしている。


「……強かったな」


「ああ」


 俺は倒れた鎧を見る。


 ゲームでは何度も倒した敵だ。


 動きも知っていた。


 それでも。


「二人で戦って、これか……」


 俺は自分の身体を見る。


 傷そのものは、そこまで多くない。


 だけど体力はかなり減っている。


「しかも」


 俺は周囲を見る。


 戦闘は終わった。


 それなのに。


 体力はまだ、ほんの少しずつ減っている。


「……この場所にいるだけで削られる」


 アークが頷いた。


「だから赤き荒野では、長期戦を避ける」


「なるほどな……」


 俺は考える。


 回復薬は残り少ない。


 この先には教皇グレイスラットがいる。


 そして、その途中には。


 ゲームの記憶では、まだ強敵がいる。


「……対策が必要だな」


「対策?」


「ああ」


 俺は周囲を見回した。


 この場所で強い敵と戦うなら。


 ただ強くなればいいわけじゃない。


 戦っている間にも、体力が減っていく。


 だったら。


「回復する方法か……」


 俺は呟いた。


 あるいは。


 そもそも。


「この瘴気を防ぐ方法を探すか」


 アークが俺を見る。


「何か思いついたのか?」


「まだ分からない」


 俺は長刀を鞘に戻した。


「でも、次の強敵と戦う前に考えておかないとまずい」


 赤き荒野。


 敵が強い。


 それだけじゃない。


 ここにいるだけで、身体が削られる。


 俺はこの土地で戦うための方法を考えながら、再び歩き始めた。

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