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スラム・トライアングル

 字は違うんだろうけど、聞いた事のある地名だな。

 ちょっとだけ親しみをおぼえたわよ。

 なおも続けるフェンリル兄い。

「島が結界で守られているのは当然だがな、島のある星全体が加護の対象になっておるのだ。ただし、星そのものに対しての加護でな、星に生息する者は対象外なのだ。中でもとりわけ強い加護下にある島が加護島と思ってもらえば分かりやすいであろう」

 分かったような分からないようなだけど、あと何日かで現地に行くんだから、細かい事は聞き流しておこう。

 エポナさんが出してきたチスイウサギの丸焼きに夢中になって、話を途中で途切らせたフェンリルに変わって、ヨルムが島についての説明を繋げてくれる。

「こちらから行って島に張られた結界の中へ入るには、ダンジョンを攻略して通過しなければならないんですよ。行きの通路に巣食っているのが悪の魔物なんで、善の攻撃で中に入ります。出てくる時はこの逆。善の魔物が帰り道を塞いでいるので、悪の攻撃で攻略するんです。これの善と悪の区別が実にやこしくて、よく間違えるんですよね~」

 なるほどだけど『ですよね~』って事は、島に出入りした事があるって事だよね。

 私より先にティンクがヘルに耳打ちしている。

「三人とも加護島の結界を通過した事があるってことなのかなー」

 少しばかり酔っているのか、ヘルはみんなに聞こえる程の大きな声で答える。

「往復するとレベルアップしますよ。とは言うても、みなはんのレベルはほぼマックスどすから、変化には気付かいでしょうけど、特に奈都姫はんなんかは、中に入ったとたんにダンジョンの魔物が全部逃げ出してしまいますわぁ」

 そんなに私って凄かったのか? 持ち上げたって何も出してやれないぞ。

 チスイウサギをゴックンしたフェンリルが「確か、あの中には黄麒麟殿が【何でも百科】を置き忘れておるはずだ。久しく行ってないのでなー、どこに置き忘れたやら、本人もあきらめておるからの、奈都姫殿は本探しでもやればよかろうて」

 よかろうてって……私の意思を尊重する気ないのね。

 エポナさんが寄ってきて「それがよろしくてよ。何でも百科にはモイラ図鑑に似た性質がありますの。魔道具や魔物はもとより、一度本に取り込んだ物の能力を何から何まで奈都姫様が自由に使えるようになりますわよ」

 ちょっと聞くととても優れもの本みたいだけど、何か引っかかるのよね。

「持ち主に不幸が訪れるとか、維持費が異常にかかるとかありますよね、その本て、絶対に」

 私の疑問に即答してくれたのはティンク。

「あの本はね、持ち主の寿命を吸い取るんだよ。人間が持ったら半年くらいで終わりかな」

 いかん、そんな物絶対にいらない。

「私も人間なんだけど、地球人なんですけどー!」

 拒絶反応でジンマシンプツプツの私。

 この状態異常、黄麒麟さんの加護では振り払えないのかな。

 これを見てヘルが笑っている。

 人の不幸は幸せの素か、さすがに魔界の女王。

「黄麒麟様の加護を受けた奈都姫はんがー、あっはっはっはっー、寿命の心配をするなんて、あっあっあっはっはっはー。おなかが痛いー」

 食中毒になる生物でもなかろうに、何か悪い物でも食べたか。

 ティンクが同じく笑いながら「なっちゃんの寿命は魔力と同じで無限大だよー、忘れちゃってるよね。ハッハーハ~。それより、前に手に入れた魔道具とかを全部本に取り込んじゃえば、倉庫整理もできるし一石二鳥だよ。あたしも探すの手伝ってあげる」

 というより、私が入ったら待ち構えている魔物がみんな逃げ出しちゃうんじゃ、やることないんだよね。

「いやいや、奈都姫殿は後から入った方がよかろう。わしら三人は事情があって島には入れんのでな、外で待機となるのだ。奈都姫殿にあの星を見せてやりたいのでな。おぬし等はダンジョンを攻略すれば魔力が各段と増すであろう。島に入った頃合いを見計らって奈都姫殿にも入ってもらう方がよかろうて」

 何か企みでもあるのか、不自然な行動に思えるんだけど、案内役が言うんだから従うしかないわね。


 ほぼほぼ無限とも思えるような空間では、どんな無茶をやっても咎められない。

 こうなってくるとやりたい放題なんだけど、どういった具合か皆さん大人しい。

「ねえ、どうして焚火を囲んだ静かーな夜を過ごしているのかな~」

 するとティンクが「あの世界に行くのがねー、ちょっと重たいんだよ」

 何か余計な荷物でも持っていく気か。

 ガレージにでも放り込んでおけばいいじゃないか。

 エポナさんまで「そうですわねー。最近はどんな状況ですの」憂鬱な感じでヨルムに聞いている。

「僕もあまり詳しくは分かりません。なにせ皆さんと一緒に行ったきりですから。当番まであと八千年ありますからね。特に兄上達との連絡もしていませんでしたから」

 ここで私には見えない話が沸々と湧き出してきているのね。

「皆さんと一緒にって、いつ行ったんですか。結構と詳しく知ってるみたいじゃないですかー。知ってる事は全部教えておいてくださいよー」

 とりあえず、基礎知識は絶対に吸収しておくべきだ。

 鹿児島だから九州なのだ……これでいいのだ。


 ティンクが私の目の前にブーン。

「あたしが教えて上げるよ。温泉に入ろうよー」

 いきなり何の脈絡もなく温泉かい。

「温泉なんてないよ」

「さっきエポナさんと一緒に掘っておいた」

「神仙さんもルシファーも一緒に入れないよ」

「男連中はフェンリルに聞いておけばいいよ」

 何だろなー。

 一緒じゃいけないのかなー。

 ヘルが「リンちゃんには私が、やんわりお話しておきましょうか」

 するとエポナさんは「モイラちゃんにはわたくしが分かりやすく説明しておきましょうかね」

 個別じゃなきゃ説明できないのかい。

 なんだかややこし怪しになってきたな。

 

 出来立てほやほやホッカホカ温泉で星を眺める。

 密造酒と言う名の果実酒をちびりちびりとやりながらティンクが話始める。

「どこから話そうかなー。んーとね、あの島はー、暗黒銀河って所にあるんだけど、以前行った時には銀河の平定が目的だったんだよね。結局は失敗しちゃったんだけど、一部の星は確保できたんだ。その星の中でも比較的安定しているのがレンガ星で、そこに加護島があるんだよ」

 命の結界は安全な所に保管してあるとか言ってたけど、今の話からしたら全然安全じゃないよね。

「そんでね。レンガ星は地球と同じように麒麟界と繋がってるんだ。地球もそうなんだけど、この繋がりは黄麒麟様がくっつけたんじゃなくて、この宇宙が出来る段階で自然に繋がっていったんだって」

「自然にって、そんな事があるんだ」

「うん、保線さんが関わらないのに星同士が連絡線を出して引き合うって現象はよくある事らしいよ。だけど、ここからがこの宇宙で一か所だけの現象で、この暗黒銀河と天の川銀河が極太の連絡線で繋がっているんだって。この極太連絡線は麒麟界との繋がりも同じで、麒麟界はこの宇宙で一つの銀河って位置づけなのね。そんでもって、麒麟界と天の川銀河と暗黒銀河の関係を昔はスラム・トライアングルって言ってたんだ」

「三角でトライアングルは分かるけど、どうしてスラムが付くの。地球はちょっと危険な星だけど麒麟界は結構と安全だよね」

「それはなっちやんが星単位っていうか、その星の一世界しか見ていないからそう思うんだよ。天の川銀河って、地球はまだましな方で、他の星で創られている世界には凄まじいのがいっぱいあるんだ。麒麟界だって同じだよ。博物館のある世界でさえ以前退治したギルドの会長みたいのがウロチョロしてるんだからね。これから行く暗黒銀河なんかは暗黒って呼ばれているくらいだからさ。想像つくでしょ」

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