命の結界は加護島にあり
ここでニッコリ微笑むルシファー。
「季節の早送りー」
樽に入った液体からブクブク・プクプク泡が出てきたと思ったら「フルーツ密造酒の出来上がりー」
酒税を払ってないから密造酒には違いないけど、何処かの法律なら普通に果実酒じゃないのかな。
ましてや、私達は税金も保険も責任も何にもないボルケーノの国民だよ。
密造酒と言う名の果実酒を味わってみる。
「複雑な味だねー」
テゲーラを平気で飲むくせに、果実酒は美味いって直に言えないのか。
それとも、妖精とか精霊は果物が苦手なのかな。
私的には「超絶品ーー! 美味しいよーー! ルシファー、ありがとう。褒めてあげる」
密造酒の樽をリンちゃんが持ってくれた。
樽から直にグラスにすくって、みんなで飲みながらの海岸散歩。
リンちゃんの箱庭は、海岸にそって石の長城になっていて、私達はその上を歩いている。
長城の内側が果樹園で、外側がぐるっとひたすら長い海岸線。
外敵なんか来るはずないのに長城は大げさだけど、陽が傾いてくると一枚の絵画世界に入り込めるのは良い感じに仕上がってるのね。
砂遊びには適しているけど、清々しさが私達のチャカポコ宴会とはとっても不釣り合い。
まあ、貝をとって生潮チャプチャプで食べたり、魚を獲って直ぐは申し分ない世界なんだけどね。
今日はこの海岸で野宿決定。
翌日、モイラちゃんの箱庭に案内してもらったのは良いんだけど、司書団の秘密研究が外部に流出しないように、ガレージの中には厳重な結界を張って、巨大コンピューターをびっしり設置してあるだけ。
殺風景と言うか、子供らしさ微塵も感じられないわ。
地下都市とも連絡しているシステムで、あらゆる情報管理にも使っているとかなんとか。
中ではゲームとか異世界との通信ができるってのは魅力だけど、ここには長居したいと思わない。
みんなの意見が一致して、ほんの一時間で撤退ですわ。
そのままエポナさんの箱庭へ移動。
元からエポナさんはガレージで自分用の牧草を作っていたけど、平行してやっていた家庭菜園を大規模にしたみたい。
巨大な農園はルシファーに頼んで季節調整していて、野菜に不自由する事はない。
とは言うものの、ここもやはり長居するような所じゃないみたい。
適当に今日の夕飯用野菜を収穫して、これで見学会は終了にしたかったのに、偉く早く回りきってしまって暇になった。
まだ未完成の私の箱庭へGOみたいな話になっちゃって、断りきれずに移動だものね。
私の箱庭は考えがまとまらなくてまだ未完。
ただ、どういった具合いかわからないんだけど、蛍の光に混じって魂の光が飛び交う妙竹林な空間に繋がってしまったままだ。
特に不都合もないし切り離し方を知らないので、とりあえずそのままにしてある。
気にしないでいたら、フェンリルが作った箱庭も同じ空間に繋がっているらしくて、奴が勝手に行ったり来たりしているとか。
ヘルも一緒に中でうろちょろしていたら、地球人とお友達になったとか教えてくれたけど、あの空間に出入りできる地球人がいるとは思えない。
なんだかんだ他の箱庭も見て回ったけど、どう考えても一番広いのが私の箱庭で、とりあえず未完の完成という事にして、みんなで遊び倒す事になった。
別世界としか良いようのない空間に繋がっているので、遊び場には困らない。
三日目の夜になって、異空間の海に浮かぶ無人島でどんちゃんやっていたら、フェンリルがのっそのっそ森の中から出てきた。
どこにいても宴会の臭いを嗅ぎ付けられるのは、並みの犬じゃできっこない芸当だわ。
いち早く魔界軍団を発見したエポナさんが「あらまあ、ヨルムンガンド様もこちらに来ていたのですねぇ。早速皆様のお食事を準備いたしますわね」
野菜なんかほとんど食べない三人の前に、ティンクが登山できるほどの野菜サラダをドーンと差し出す。
フェンリルが二歩三歩後ずさり。
「エポナどの……これはわしらに対する嫌がらせかな? 理由の如何によってはロバの丸焼きを食さねばならん事態であるぞ」
ヘルはフェンリル程怒ってはいない様子。
「あらまぁ、このトマトは美味しそうどすわぁ。お兄様もお一ついかがどすか」
まだ緑が濃いトマトをとってガブリとやると、ちょっと驚いた表情になった。
「僕もいただいてみますかね」ヨルムンガンドがパクッとトマトを丸のみ。
蛇の姿じゃなくても食べるときは丸飲みなのね。
「ヨルム兄はんたら、丸飲みしたら美味しさが分かりませんわよ。もう一つ、しっかり噛んで食べてみてくださいな」
言われるままにトマトをガブッとやってヨルムの表情もにんまり。
「兄さん、これ、食べた方がいいですよ。絶対に美味しいですから。さすがにエポナさん。やることがとびっきりですよ」
何かやったのか、エポナさん。
ただのトマト・ピーマン・にんじん・キャベツに玉ねぎ・大根・かぼちゃにナスだのレタスだのって、ドレッシングもなければ煮たり焼いたりもなしの生のまんまだよ。
ここで一歩前に出て、これ見よがしに大きな胸をはるエポナさん。
「野菜嫌いの御三方の為に、生肉味のお野菜を開発しましたのっ‼ 新種ばかりですのよ。たくさん召し上がれっ‼ 気麒麟様の計画のように島が作られたら、きっとお肉は貴重品ですわよねー」
ここで硬かったフェンリルの表情が一気に崩れる。
「なんだ、わしらがあそこに行くのをあまり好んでいない理由を、エポナどのは知っておったのか。肉なら十二分に持った。ありがたいが、それは不要である」
どうあっても野菜は食わない気か。
エポナさんがピーマンを一つ、フェンリルの鼻先に持っていく。
「これならいかがですか」
「いやいや、わしがこの世で一番嫌いな物ではないか。それを食らうと寿命が縮むのだ。勘弁してくれ」と言っているのに、鼻がクンクンはじまった。
犬っころは子供みたいな味覚してんのか。
そーと出したフェンリルの舌の上にピーマンを乗せるエポナさん。
これまたそーとピーマンを噛むフェンリル。
「美味い‼」
すんごい勢いで野菜の山を攻略していく魔界の三兄妹。
これを見た神仙さんがちょっと味見。
「不味くはないんですけどと言うか、美味しいんですけど、いやー、ギャップが大きすぎて、まいったな。なんと言ったらいいのか」
困ったちゃんになっちゃった。
エポナさんたら、なんてもんを作っているんだ。
無理に野菜を食べさせる必要もないだろうに、疑問は解決した方が精神衛生的に良い。
「ここまでして野菜を食べてもらう意味があるんですか。ビタミンとか繊維質とかの栄養素は不要の生物ですよね、あの人たち。私たちだって加護受けてるから、栄養とか気にしなくてもいいと思うんですけどー」
するとエポナさんの表情が集金の時の般若顔に豹変。
「奈都姫様、それではいけませんのよ。お料理は彩ですの。お肉もお野菜で綺麗に着飾った方が素敵でございましょう。ねっ、ねっ、ねっ」
たったそれだけの為に、これだけの野菜を品種改良したのか、なんというこだわり。
恐ろしかー。
夜も更けて来て……外の時間とは関係なく夜になっちゃうのがこの世界の難点なんだけど、シェルティーさんに貰った宇宙時計があるから問題なし。
いつものようにキャンプ飯で盛り上がっていると、フェンリルが手を挙げて発言。
でっかいけど肉球が可愛いんだわよ。
「命の結界を保管してある島の事だがな、わしらの間では【加護の島】を略して【加護島】と呼んでおるのだ」




