魔力解放
「リン大丈夫か」
「大丈夫かー?」
「リンにいちゃ、いたいいたい? プティが治す」
「それより母上に治してもらいますか」
「ぷっ……くくく。 くぅ…………ふぅ、ぎっくり腰ではないから治癒では治らないんじゃないか?」
心配の台詞は言ってても、双子は俺を突いて遊んでいるので絶対心配はしてないだろう。
プティ君は、俺に手を当ててたぶん治療しようとしてくれてるんだと思う。
手が触れている場所がじんわりと温かくなっている。正直治ってる実感はないが……。
プティ君では無理だと分かりきっているっぽいベルトラン君が、母上パルフェット様を召喚しようとしているが丁寧に断っておいた。
何故なら、このクッソ笑いを堪えようとして堪えきれてない、イケメンの言葉に同意だからだ。
本当に!お前覚……(以下略)
「では、ちょっと話が脱線してしまったが元に戻して、次はリンタロウの魔力がどんなものか確認しようか」
「「わーい! 見る見るー」」
「みるぅ!」
「どんな魔力なんですかねえ。楽しみです!」
俺、腰抜かしたままですけど、俺のこの状況はスルーなのね。
分かったよ……。
ていうか、俺、魔力の使い方分かんないの。
どうすんの?
「俺、皆みたいに魔力出すなんて使い方分かんないから出来ないけど。……そもそも皆って、いつからそんなに魔力が使えるの?」
「「生まれつき」」
即答した双子は、俺の事またこいつおかしなこと聞いてるよといった顔でこちらを見てくる。
お兄さん泣いちゃうぞ。
「ベルにいちゃ、プティも? 生まれつき?」
「プティもそうだな。俺達というかこの世界で魔力の出し方は基本あまり教わりませんね。母親のお腹の中にいる時にその母親の魔力の流れとかを感じ取りながら成長して生まれるので、大体の子供は親の影響で生まれつき無意識に魔力を出したりできます」
「たまーに、腹の中で魔力を感じ取れないで、リンタロウみたいに生まれてから魔力使えないどんくさいやつがいるけどな!」
「超どんくさいやつ!」
「……はぁー、ふん!」
「「っほ!!」」
ひょいっと突然ベルトラン君が双子お兄ちゃんズに鉄拳制裁を振り下ろすが、慣れたことだからか双子お兄ちゃんズは見事に鉄拳を受け止めているではないか。
「「ぬははははは! いつまでもやられる俺達と思うな!」」
「お前らは本当に何処で要らぬ言葉を覚えてくるんだ! 領主の息子として言葉に気をつけろと!」
『あとリンタロウ様に謝れ!』と言うベルトラン君と『『何故だ! ホントのことだ! だから俺達がいろいろ教えてやるんだ!』』と言う双子お兄ちゃんズはギリギリと腕をお互い押し合っている。
うん。俺ってどんくさいやつと思われていたのね。
これでも俺って割と何でもできるほうなんだぞ。
ベルトラン君、そいつらやっちゃって。
攻防の末、双子は新しく頭にたんこぶをつけている。
「ほら、教えて差し上げるのだろう」
「どんくさ……じゃなくて、そういう魔力を使えない奴は親とか教会の神父様とか」
「大人に魔力の使い方を一度教えてもらうんだ!」
「あと謝りなさい」
「「ごめんなさい」」
ギロリと睨みを利かせているベルトラン君の視線から、逃れるように視線をあちこちにずらしながらそう説明してくれる双子お兄ちゃんズ。
根は純粋でいい子達なので素直に謝ったし、許してやろう。
俺もたいがい子供に甘いな。
「ということで、後見人でもあり、今回の先生でもある俺が魔力の使い方を教える」
「おぉ、なるほど?」
「……腰の抜けたリンタロウ君は動けないだろうからこのままやりましょうねー」
「言い方ムカツクんだよ! さっさと教えろ!」
まったく! こいつ俺を弄って楽しんでやがる!
顔がいいからって許されると思うなよ!
「はいはい。噛みつかない噛みつかない」
「本当に噛みついてやろうか。さっさと始めろ」
「かしこまりました。
…………じゃあ、両手を貸して。
今から俺の魔力でリンタロウの魔力の源に触れる。そうして、リンタロウは自分の魔力がどこにあるのか、どういう形をしているのかを感じ取るんだ。感じ取れたら俺がその魔力の解放を促すからそのまま身を任せて魔力を身体の外に出す。そうして身体から放出された魔力が周りに流れて変化する」
「ほうほう」
イケメンは俺の傍に座り両手を差し出してきたので、俺は素直に差し出されたイケメンの両手の上に自分の両手を重ねて置いた。
「俺達も魔力解放をしてするところを見るのは初めてなので勉強になります」
「リンは何がでるかな」
「何が出るかな」
「何が出るー?」
「皆はいい子に見学してるんだぞ」
「「「「はーい!」」」」
子供たちはわくわくした表情で俺とイケメンの周りに座り込んだ。
イケメンもそうだが……んー、皆距離近くない?
これ、魔力が出てなんか変化した時大丈夫か?
「じゃあ、いくぞ」
「ぉ、おう……」
ちょっと緊張してドキドキするが、イケメンはいつもの優しい瞳でこちらを見てくるので緊張した気持ちが違う意味でドキっとした。
…………気がするだけだからな。
「――――あ、あったかい」
「これが俺の魔力。このままリンタロウの中に入る」
掌に伝わってくる温かい《何か》が、イケメンの言葉の通り俺の中にゆっくりと心地よい速度で入ってくる。
その《何か》はイケメンの魔力とのこと。
不思議な感じだ。
俺の中に俺のではない魔力が入ってきているので異物感など感じるかと思ったが、全くもってそんなのは感じられず逆にとても落ち着く。
そして、あたたかい魔力が俺の中心と思われる部分に触れた瞬間、俺の身体の中なのに知らない俺の中の魔力の存在に俺は気づいた。
何て言うんだろう、俺の身体のある部分に俺の魔力らしきモノが塊で存在している。
殻の中に入っているイメージ。
なんとなくだけど、この殻が破れたら俺の魔力が出てくるんだと、ふと思った。
「――――感じ取れたみたいだな」
「うん、俺の中にあるよ、魔力。でも、殻の中にある。結構厚そう…………」
「大丈夫。俺ならその殻を破れる……、そのまま身を任せて」
イケメンの言葉に頷き、そのまま身を任せる。
そうすると、あたたかいイケメンの魔力が俺の魔力の殻に優しく触れていく。
――――いつも、俺に向けてくるあの優しい瞳と同じ優しさ。
イケメンの魔力が俺の魔力の殻を優しく起こしてくる。
すると、少しだけ殻にヒビが入ったのがわかった。
そして、そこから俺の魔力が少し漏れ出る。
「あ、魔力が…………」
「俺の魔力と一緒にリンタロウの魔力をこのまま殻の外に引き出す。俺が引き出さすその勢いで魔力の殻を全て破って身体の外まで引っ張るから、抵抗せずにリンタロウも感じ取っている魔力を解放させるイメージを持って」
「……できるかわかんないけど、やる」
「その意気だ。…………さあ、これが最後」
俺は思わずごくりと、唾を飲み込んで覚悟を決める。
その様子を見たイケメンはそれを合図とみなしたのか、俺の殻から少し漏れ出ている魔力に自分の魔力を絡め、少し殻の中にまで入ってきて勢いよく引き出していった。
「――――――――っ!ぁ!」
俺は抵抗せずに引き出されるまま殻の中にあった魔力を身体の外に解放した。
魔力が身体の中心から外に流れ出ていく。
己の一部が解放されて息がしやすくなったような…………。
そんな気がする。
――――魔力が解放され、俺の身体の外に魔力が放出され流れ出ると。
一瞬で、俺を中心にしてたくさんの花々が咲き誇ったのだ。
花は見たことあるのもあれば、見たことない花もある。
見たことない花はこちらの世界の花だろう。
俺の周り半径五メートルくらいに広がる花々。
その先もよく見てみると花は生えていないが、牧草が生き生きとしているような……。
遠目なので勘違いかもしれないが。
「わぁ、ファンタジー…………。これ、俺がやったの?」
俺は目の前に広がる光景に感動していると、不意打ちでドン!と身体に突然衝撃が走った。
「おぅ! なになに!?」
そこまで強い衝撃ではなかったけど、衝撃の原因を見てみると…………。
俺の身体に双子お兄ちゃんズとプティ君が抱き着いているではないか。
あとベルトラン君もさり気なく俺の背中に引っ付いてる。
「え、なに、どうしたの」
「「「「…………」」」」
「なんで黙ってるの。どうした? 具合悪くなったのか? 俺のせい?」
黙り込む子供たちに俺は何かやらかしてしまったのかと不安になり、子供たちの頭を撫でたりいろいろ試みる。
すると。
「「「「すぅうううう、はぁー…………」」」」
「えっ!? 俺、なんか吸われてる!?」
「「リン、いいにおーい!!!」」
「リンにいちゃ、いいにおいぃー」
「お会いした時からリンタロウ様はいい香りが少しするなと思ってましたけど……これはいい香りですぅ……」
「へっ!?」
え、何、匂い? 香り?
俺はすぐさま自分の匂いを嗅いでみるが、香りなんてしない。
無臭だ。
「匂いなんて何もしないけど……」
俺はもう一度自分を嗅いでみるけど、やっぱり無臭。
しかも会ったときから香りがしてたって。
俺、香水とかつけないし割と無臭なほうだと思ってたんだけど。
俺にくっついている子供たちは、深呼吸したり、スンスンしたり、すりすりゴロゴロとまるでマタタビに引き寄せられた子猫みたいだ。
俺って今マタタビの匂いでもしてるのか?
ふいに俺の目の前に影ができて、その影にデジャヴを感じた俺は勢いよく前を見ると。
すると、俺の目の前に居たイケメンがそのご尊顔を近づけてくるではないか!
しかも重ねていただけの手をいつの間にかもの凄い力で握られていてビクともしない!
「近い! 近い! 近い! 寄るな! 無駄にイケメンが!」
「リンタロウ……」
まるで花に吸い寄せられるかのように近づいてくるイケメンに思いっきり顔を背けるが、意味がない。
声を張り上げて静止を促しても、惚けた表情のイケメンは聞いていない。
「――っ! のぉ! 目ぇ覚ませ!!!!」
ゴツン!!!!
「ぃっ!!」
近づいて止まらないイケメンのご尊顔に俺は思いっきり頭突きをかましました。
イケメンの顔に傷が! とか思うだろ?
そんなの気にしてられるか!!!
こいつには前科があるんだ! そうやすやすと二度目ましてがあってたまるか!
「ぁー……、リンタロウ、君ね、どんだけ硬いの頭……。久しぶりの痛みだ。結構効いた
「そりゃあ加減しなかったからな! 俺も痛いわ! それよりこれをどうにかしてくれ!」
ごろにゃんごろにゃんと先ほどから俺にすり寄って離れない子供たち。
彼らをイケメンと同じように頭突きをかまして引き離すわけにはいかない。
「ふむ、まるでマタタビにすり寄る子猫だな」
「俺もそれは思ったよ!! ていうか、この世界にマタタビあるのかよ!」
出たよ! こっちの世界と前の世界の謎の共通部分!
そんなことよりお前の手もいい加減に離せ!
そして、この状況を終わらせてくれ!
手をすりすり触るなぁあああああああ!!!!!