微睡みの中の微笑み
あの後、嵐が止んで朝一でやって来てくれた都心部の衛生兵さん達に出くわしたのは俺達。
そして、一番事情を知っているのも俺達だから、他の手伝ってくれていた村民の皆さんには休息をしてもらう事に。
村民の皆さんは、俺達を残して休むわけにはいかないと言ってくださったが。
これまで村の皆さんが一番大変な思いをされたのだから、今一番落ち着いているこの時にしっかりと休んでもらうようにと、どうにか説得した。
そして、この村へと急いで来てくれたであろう衛生兵さん達に、事情を話すという仕事が残った俺達は衛生兵さん達のお偉いさんに謁見し、説明することに。
話をほとんどメインで進めてくれたのはヨルだ。
今回大活躍したのは、他でもない彼だし、筆頭になって患者の治療にあたってくれていたのだから。
そんなこんなで俺達と今回の件の話を聞いてくれているのは、都心部の衛生兵を纏めて連れてきたという隊長さんのオベール・ゲリールさんだ。
気さくな方で、都心部の衛生兵で隊長を務めるほどの方だからオベール様とお呼びしたら、そんなにかしこまらなくてもいいとおっしゃってくださって、オベールさんで収まった。
俺はスムーズに話が進むために、必要な時以外はほとんど会話に入らないように徹している。のだが、気になっていることがあるのだ。
それは、オベールさんの髪色と瞳の色。
その色はつい最近までよく見ていたから、大変見覚えがあり、絶対そうだろうという自信しかないのだが。
でも、顔つきは全くの真逆と言ってもいいくらい、オベールさんが精悍な顔つきなのが自信をちょっと無くしてしまう原因でもある。
俺が黙ってそんな事を考えている間にも会話は進み、終盤にかかっていた。
「――――と、いうわけで、今回の件は無事、朝日が昇る頃。つまりは、あんた達と出会う直前に落ち着いたってわけ」
「そうだったのですね。あなた方のおかげでこの村は救われた。我々の代わりに全力をつくしてくれて感謝申し上げる」
「いえいえー! たまたま俺が知識を持ってたっていうだけさ! それより、周辺に生えてるかもしれないサシニアの花の駆除はするのか?」
「あぁ、もちろん。このままにしておくとまた被害が出る。近隣と沿道に生えていないか確認し駆除する予定だ」
「それならもう安心だな! 良かった!」
話はどんどん進み、終わりが見えてきて、やはり気になるのがオベールさんの持っている色。
…………やっぱり、そうだと思うんだけどなあ。
俺は余りにも気になりすぎて、ゼンに相談してみる事にしてみた。
「なぁ、ゼン。オベールさんってもしかして…………」
「あぁ、俺もそう思ってたところだ」
「やっぱり、そうだよなぁ」
「ん? どうしたんだ? お前達。二人してこそこそ話して」
「いや、それがさ……」
ヨルの言葉のおかげで、俺は心の内に秘めていた謎をようやく確認する時がきた。
「あの、オベールさんってもしかして、パルフェットという方のご親戚か何かで?」
「ん…………? パルフェットは私の弟の名だが。知っているのか?」
やっぱりそうだったー!!!!
だって髪色と瞳の色がそっくりなんだもん!
桜の花弁のような髪色! レモンイエローのキャンディーみたいな瞳の色!
パルフェット様やプティ君の色と全く一緒なんだもの!
でも、顔つきがあの可愛いパルフェット様達と全然違って、精悍なもんだからちょっと迷っちゃったよ!
オベールさんはパルフェット様のお兄様なんだ!
「あの! 実は――――――」
かくかくしかじかで、と俺はオベールさんに俺の事情などを説明し、パルフェット様に大変お世話になった事を伝えたのだった。
「なるほど。君が噂のリン君だったわけか」
「あれ、俺の事ご存じだったんですか?」
「あぁ、パルフェットが数日前に手紙を送ってきてね。そこに君のことが書いてあって。もし会うことがあればよろしくするよう言われていたんだ。手紙には甥のアンドレにも手紙を送っていると言っていたから、きっと都心部であの子のことだから待ち構えているよ」
「えっ! そうだったんですか!?」
思わぬ所から、俺の情報は回っていたようで。
パルフェット様が俺の為にいろいろと手回しをしてくださっていた様子。
しかも、パルフェット様の長男であるアンドレ君が都心部で既に待ち構えているとのこと。
俺達が都心部につくまではもう少しかかる予定なのだが。
今から待ち構えていたらアンドレ君をだいぶ待たせてしまうはず。
大丈夫かな。とつい気になって心配してしまうのはしょうがない事だろう。
俺がその心配をオベールさんに伝えると。
「あぁ、あの子は好きで何かしらしながら待っているだろうから大丈夫。君が都心部へと入ったら噂を聞きつけて向こうからやって来るだろうから、特にこちらからアクションする必要もない」
「……そうですか。それなら、分かりました。でも、なるべく待たせすぎないようにします」
「気遣いありがとう。君達も村民の治療を終えて休んでいないのであろう。これ以上は、私達に任せて休みなさい」
「いいんですか?」
「お言葉に甘えて休もうか」
俺とゼンがオベールさんの言葉に甘えようとしたけれど、ヨルは違った。
「俺は、もう少し様子を見ておくよ。気になる子もいるし。俺の知識が役に立つ事もあるかもしれない」
おそらく、ヨルの言う気になる子とは、一番重症で右目まで火傷の様になってしまっていた子供の事であろう。
確かにあの子が一番気がかりであるのは俺もだ。
その後、俺やオベールさんがヨルの体調を心配し、少しだけでも休まないかと伝えたが、ヨルは絶対に首を縦には振らなかった。
結局は俺達が根負けして、ヨルの好きなようにさせる事に。
「ヨル、少しでも辛い、眠いと思ったら横になるんだぞ」
「大丈夫だ! リンタロウ! 心配してくれてありがとな。この通り俺はまだまだ元気だ! それよりリンタロウは魔力もたくさん使ったんだ。早く休むといい」
「ありがとうヨル。先に休ませてもらうよ。行こうゼン」
「あぁ、ヨルすまない。先に休む」
「あぁ! ゆっくり休めよ!」
ヨルの言う通り、俺の魔力はまだ余力が残っているとはいえ、なかなかの量を使ってしまっているので、疲労してないとは言い切れない。
だが、同じくらい動き回っていたヨルの疲労も相当なもののはずだが、それでも彼はまだ大丈夫だと言う。
心配していないわけがないのだが、彼の固く強い思いは変わらない。
一言感謝の気持ちを伝えてヨルと別れ、俺とゼンは病院内の隅で、自分たちの荷物の中から毛布を取り出して丸まり、つかの間の休息をしたのだった。
*********
「本当に休まなくて大丈夫だったのか」
「大丈夫だって! この通り元気さ。休んでいる間に患者の変化に気づけないほうが怖い」
「そうか…………」
リンタロウとゼンが休んだ後、ヨルとオベールは二人で患者の様子を見回っていた。
今は、一番重症であった子供達の部屋に入り一人ずつ様子を診察している。
他の衛生兵達も手分けして患者の様子を見たり、町周辺のサシニアの花の駆除にあたってくれている。
「それにしても、驚いた。君のような若い子がこんな珍しい花の治療法に詳しいとは」
「俺の爺様が薬学者でさ。昔から家の中にはそういう本がいっぱいあったし、爺様自身も俺に色々と教えてくれたんだ。俺を爺様と一緒の薬学者にしたかったみたいだ」
「……? その言い分だと君は薬学者ではないのか?」
治療のおかげか、患者たちの呼吸が落ち着いていて、すうすうと気持ちのよさそうな寝息が聞こえる病室の中。
患者を起こさないように小声で話す二人。
「俺は都心部に行って騎士団に入って、英雄王みたいな強い剣士になりたいんだ!」
「英雄王、あの有名な?」
「そう! 魔力を使えなくても英雄と呼ばれた騎士、英雄王。俺はあの人に憧れてるんだ。俺も、魔力がうまく使えないから……」
そう。ヨルが憧れている英雄王とは、ヨルと同じで魔力は持っていても、上手く思い通りに魔力が使えず。唯一扱えた魔法剣の腕一本で英雄王とまで呼ばれるまでのし上がった剣士であったのだ。
自分と同じ部分があるにも関わらず、英雄。しかも王にまでのし上がった剣士。
幼い頃、絵本で読んでからというもの、ヨルは憧れて仕方がなかったのだ。
ちなみに、この英雄王が実在したのは、ゼンの出身国であるカルバーア国。
魔法剣の腕一本で王へとのし上がった伝説は有名で、もちろんゼンもこの話をよく知っており、旅の途中でゼンとヨルの二人でリンタロウにも詳しく説明していた。
「そうだったのか、君ほどの知識の持ち主であれば我が医療部隊に招き入れたいほどなのだが」
「ははっ! 本当だったらありがたい申し出なんだろうけど、俺には目標があるから」
「……そうだな。それならばこれ以上勧誘するのも野暮だな」
どこまでも、明るく笑い、優しい夕暮れの瞳で人を癒そうと懸命な姿を見せるヨルに、オベールはぜひとも自分の下で共に働いてほしいという気持ちになるが。
ヨルの心の内を聞いたからには、無理強いはできない。
しかし、オベールの心を強く揺さぶるほどに、ヨルには知識の豊富さと判断力や行動力。そして、傷ついた者に対する心優しさがあった。
そして、ヨルは村人や村の医師、リンタロウ達が起きてくる昼頃まで。それまでずっと付きっ切りでオベールや他衛生兵達と病院内の患者達の看病を続け、オベールからさすがにもう休むように言われた後、さすがに事切れてぱたりと眠りについたのである。
言葉通り、ぱたりとオベールの目の前で倒れこむように眠ったヨルを、オベールは慌てて抱え込み地面に倒れるのを防いぎ、簡易に作られた空いたベッドの上へとヨルを寝かせた。
「お疲れ様。ありがとう」
温かな毛布を掛け、さらりとヨルの頭を撫で、オベールは安心しきった様子で微笑んで眠るヨルの寝顔をしばし眺めたのであった。




