初体験の日々
それから数日、俺は子供達の朝夕の仕事を手伝いつつ、魔力操作の特訓ばかりをしていた。
他の子供達はというと。
魔法のお勉強会二日目のその日に、イケメンによってどの程度魔力が扱えて、どんな魔法が使えるのかを確認された。
初日が、俺のせいで俺の魔力操作の特訓のみで終わってしまったからな。
すると、ベルトラン君は初日にちょっと言っていた通り、兄弟の中で魔力操作が上手いらしく。自分の性質特化の魔力操作以外にも、基本的な生活魔法や五大魔法の初歩は上手にできていた。
ただ、問題にするほどでもないが強いて言うなら家族の中では魔力量がそこまで多くないほうに入るとのこと。
逆に双子お兄ちゃんズはパルフェット様が言っていた通り、魔力量は多いが魔力操作が苦手で試しにいろんな魔法を見せてもらったが何回か加減ができておらずちょっと暴発していたり。
君達、やっぱり人の事、破壊神とか言えないんじゃないの。と言うと、時と場所はわきまえてるから違うと反論された。
嘘つけ、初日にベルトラン君にわきまえろって言われてたろ。
ベルトラン君も俺の言葉に激しく頷いてるぞ。
プティ君はというと、意外にも魔力量が多いそうだが、魔力を出そうとするとちょっとしか出せないから魔法を使おうとするとほんのちょっとしか出せないのだという。
かと言って、普段魔力が必要な物を動かす際には適量を出せているので、全くもって魔力操作が出来ないわけではなく。無意識に魔法などを使おうとすると、自分で制限してしまっているのではないか、というのがイケメンの見解だ。
というわけで、その日のうちにイケメンにより個人個人課題などを出されて、それをこなしていくことになった。
「はい。じゃあ、今からベルトラン君以外の皆には鬼ごっこしてもらいます」
「「「はーい!」」」
「え、鬼ごっこ? ……鬼ごっこって、鬼ごっこ?」
ほぼ鬼ごっこしか言わなかったが、こちらの世界での鬼ごっこが前の世界と同じか分からないので疑心暗鬼になる俺。
そんな俺に、もちろん進んで教えてくれる双子お兄ちゃんズ。
「鬼ごっこっていうのは、鬼役がいて」
「その他が鬼から逃げて、鬼が追いかけて捕まえるっていう遊びだぞ」
あ、普通の鬼ごっこだった。
「今回は鬼ごっこは鬼ごっこでも、魔力を使った鬼ごっこをしてもらいます。身体に魔力を巡らせて、足を強化して脚力をアップさせて走るんだ」
…………全然普通の鬼ごっこじゃなかった。
どうやら魔力で身体強化ができるらしく、身体に適量の魔力を特定の場所に巡らせることで魔力操作の練習にもなるらしい。
なるほどね。
試しに俺はイケメン監視下の元、ブレスレットを外して鬼ごっこをすることになったのだが。
これまた大変だった。
俺の魔力はダダ洩れで走ったそばから俺の周りが花畑になっていくだけで、なかなか足に魔力を巡らせられず脚力が上がらなくて勝負にほぼならなかった。
そんな俺を、双子お兄ちゃんズは遠慮なく追いかけて来るわ来るわ。
魔力が上手く使えない俺は、すぐに追いつかれてまるで軽い交通事故を起こすように吹き飛ばされたりして、ちょっと命の危険を感じたよ。
イケメンが危なすぎる場合は助けてくれたり、ちょっと擦り傷が出来たりすればパルフェット様が降臨されて治してくれた。
たまに双子お兄ちゃんズが走る力加減を間違えて踏み込む瞬間に地面を凹ませたり、ヒビ入れたりしてたけど、その場合は大体ベルトラン君が綺麗に地面を直す。
ベルトラン君の魔力量で足りない場合はドゥース様がというチームワークの良さ。
プティ君は。
「リンにいちゃ、タッチ!」
「あちゃあ、捕まったなあ」
俺が魔力操作あまりできないので、足が速くなるといっても魔力強化ほぼ無し状態で普通に走っている感覚に近く、プティ君は、その速さに頑張ればギリギリ追いつけるくらい。
子供の足で、プティ君より大人で、ほぼ雀の涙程度の魔力強化で走る俺に追いつけるなら十分早いし凄いと思う。何より体当たりされても痛くないし、怖くないしで俺の癒しだった。
ベルトラン君は俺達とは別メニューで、魔力量を増やす特訓をしつつ、なんとイケメンに剣を習うというのだ。
どうやらベルトラン君の夢は冒険者になることらしい。
「へぇ、冒険者になりたいんだ」
「はい! 母上も結婚する前は上級冒険者だったんですけど、昔からその時の話を聞いていて一度でいいから旅をしてみたくて!」
「パルフェット様って冒険者だったんだ!?」
めちゃくちゃ意外だった。
あの可愛い人が冒険者。
しかも上級。
なんと、射撃の名手とのこと。
ファンタジーで定番の弓かと思ったが、この世界には銃があるらしい。
だいぶ前の異世界人の情報から作られて流行ったのだという。
物騒なモノ流行らせるなよ。
危ないだろ。
と思うが、必要に駆られてというやつだろう。
ちなみにセリューさんは昔からパルフェット様のお家で執事をしており、パルフェット様が冒険者時代には一緒にお供して支えていたという。
そんなセリューさんの性質特化は身体強化。
それを聞くと、俺の魔力操作の練習になるくらいだから身体強化は基礎的な魔法で性質特化じゃないのでは? と思ったが、通常の魔力での身体強化なんて目じゃないくらいの強さを時間制限有でだせるらしい。
特にスピードが凄まじいらしく、剣が得意なセリューさんの剣さばきは目で追えない速さだとか。
何それ凄い。
でもパルフェット様に銃を教えてもらったり、セリューさんに剣術を教えてもらったりしないのか聞いてみたら……。
「俺は射撃のセンスが全くなかったみたいで母上に匙を投げられまして……。ならば剣術をとセリューに一度は指南を受けたことがあるんですが…………」
「え? どうしたの? 顔、青いけど……」
「…………セリューは人に何か指導する際は加減を知らないというか、あの恐ろしく速い剣さばきを容赦なく向けられて…………死を感じました……。本人にとっては指導向けにスピードを落としているらしいんですが、あんなのついていけるわけがない……」
セリューさんって何事も丁寧そうなのに、そういう雑なところあるのな……。
意外だ。
まあ、そんなこんなで数日は鬼ごっこやかくれんぼ、缶蹴りならぬボール蹴り、相撲などなど……。
たまにイケメンやベルトラン君も混じって俺と子供達は遊びという名の魔力操作の特訓をいっぱいした。
鬼ごっこは分かるけどその他の遊びでどうやって魔力操作の特訓するんだよ。って思うだろ?
まあ、そこは察してくれ。
いろいろあったんだよ…………本当に……。
まあそんなこんなのおかげで、俺は何と…………。
めちゃくちゃ集中すれば魔力の必要な物を破壊せずに使えるようになったのだ!!!!
ぃやったぁああ! 一週間! 長かった!!
それでも気を抜くと、魔力がダダ洩れになって破壊してしまうので、魔力制御のブレスレットは装着しておかないといけないのだが。
でも! 保護者監視下の元でなら道具を使う許可いただきましたあ! やったね!
まだまだ訓練は必要とのことでステップアップして、より細かい魔力操作ができるようにとこれまでの遊びにプラスして魔力操作が必要な物をどんどん使って慣れていこうということになった。
その初めにやってみたのが――――
「牛の……毛刈りぃ!?」
「そう! 毛刈り! もう暑い季節に入るからね。今日は家族総出で毛刈りをするから。リン君も道具を使えるようになったし、練習としても一日がかりで毛刈りするからちょうどいいでしょ?」
今日も一日、子供達と遊びながら魔力操作の特訓するのかと思いきや、なんと牛の毛刈りをするそうな。
この領地、リッシュ領で畜産農業が盛んなのは聞いていたが、俺の勝手なイメージで牛乳などの食系が盛んなのだろうと思っていた。
もちろんそういうのもやっているそうだが、一番の特産品はリッシュ領の牛毛らしい!
リッシュ領の牛毛は頑丈だけど加工もしやすく、なんと言っても魔力付与をするのにかなり適しており、子牛の毛だとその滑らかな肌触りと艶で各国の上流貴族や国王にまで御用達らしく。大人の牛の毛になると滑らかさや艶は劣ってしまうが、頑丈さに磨きがかかって特に冒険者に人気なのだとか。
魔力付与も様々な種類を付与できるので本当に重宝されている高級品らしい。
何気なく、餌やりの時やたまにやっているブラッシングの時に良い毛質だなあとか思ってたけど。
超高級品じゃん!!!!
遠慮なく触ってたよ!
まあ、そんな毛刈りをするのは前の世界でも見たことのあるバリカンだった。
動力源はもちろん魔力です。
俺以外の皆は慣れた行事なのか、小さい子供のプティ君までせっせとお手伝いしてどんどん毛を刈っていっていた。
イケメンも俺と同じで初体験のはずなのに一度コツを掴んだらどんどん毛を刈っていっていて、出遅れた俺は四苦八苦しながらも丸一日夕方まで毛を刈って刈って刈って刈りまくったよ。
その後も、魔力操作の特訓の一環と称して主にパルフェット様がいろんなイベントを開いてくれた。
川で水遊びやピクニックなどなど。
前の世界で経験した事ない行事ばかりだった。
初体験ばかりでどうしたらいいか分からないと素直に言うと皆が優しく教えてくれた。
そして、今日はというと。
「さあ! 今日は牛達に混ざってキャンプでもしようか!」
「「いえーい! キャンプ!」」
「きゃんぷー!」
「キャンプですか。テント何処にしまったっけ」
どうやら昔からリッシュ家の皆々様はイベント大好きらしく、こういう行事は今までにもたくさんしてきたし、パルフェット様の急な提案には慣れっこだそうだ。
というか、そういうイベント事のネーミングが前の世界と一緒なのが不思議なんだけどね。
「キャンプか、俺キャンプもした事ないなあ」
「リン! 俺達が教えてやるぞ!」
「教えてやるぞ!」
「プティも! プティも!」
初キャンプはとても充実していた。
こちらの世界でのキャンプでは火をつけたりテントを立てたりなど魔力を使う道具が様々あったのでなかなかの魔力操作の特訓にもなった。
魔力でテントを立てるって何? って思うだろ?
テントが小さな箱に入っていてそれに魔力を注ぐと、あらびっくり、テントが勝手に組み立てられる便利道具だったのだ。
しかも組み立てられたテントの外見は大人が三人くらい入る大きさのテントなのに、中に入ると普通に家の中にいるくらいの広さなのだ。
走り回れるし、なんなら部屋もいくつかあってシャワールームとか暖炉とかも有り、いろいろ設備が整いすぎて俺の中のキャンプのイメージが崩れ去ったよ。
夕方前から始まったキャンプで夕飯を皆で作り食べた後、今夜は皆とテントの中で雑魚寝することになったのだ。
セリューさんは屋敷で休むらしいけどね。
そして、夜といえば枕投げ。
双子お兄ちゃんズから始まったそれは、イケメンやドゥース様、パルフェット様も巻き込んで壮絶なモノとなった。
「「疲れたー」」
「はいはい。そろそろ寝ようか」
双子お兄ちゃんズはぐったりとし、パルフェット様に掛け布団を掛けてもらっている。
プティ君はちょっと前から疲れ果てて寝ていた。
「……………………俺、本当にこんな経験したことないんですよね」
「そういえば言っていたね。ご家族とも出かけたりあまりしなかったのかい?ご両親のお仕事が忙しかったとか?」
俺の突然の言葉に答えてくれるドゥース様。
「いや……なんというか、俺の両親は居ると言えば居たんですけど。俺、捨てられたようなもので……」
「それは、どういう……?」
あまり人に話す内容でもないが、俺はこの人たちなら話してもいいと思えたので全て話してしまった。
親の事も、友達がいなかったことも全部。
一度も相談とかもした事もなく、どう言えばいいかなんて考えながら話したのでたどたどしい話し方だっただろう。
聞き取りにくい話し方であったはずだろうに、ドゥース様や皆はきちんと聞いてくれた。
「…………とまあ、こんな感じで、俺は親はいないと思ってましたし、友達も作れませんでした」
「そうか、そんなことが」
「人に好かれすぎるというのも、困りものですね……」
俺の話しを真剣に受け取ってくれたドゥース様。
ベルトラン君も俺の境遇に真剣に向き合ってくれているみたい。
「ねえ、それならちょっと前から思ってたんだけど…………」
「……? なんでしょうか」
「リン君、うちの子にでもなる?」
「え? うちの子?」
突然なパルフェット様の提案に俺はついていけていなかったのだが。
周りの反応はというと。
「「リン! うちの子になるのか!?」」
「いい考えですね! 母上!」
「いいじゃないか! リン君! うちの子になるといい!この子達も兄弟が増えて喜ぶ」
「良かったじゃないかリンタロウ。家族ができたな」
なんともまあ、大歓迎されました。
「そのお言葉は嬉しいですが、俺なんかが家族になっても…………」
「なーにー? リン君は私たちの家族になるのが嫌だっていうの? ほら、あっちを見てごらんよ」
パルフェット様に言われて見てみると。
「リンが俺たちの新しい兄弟になるってことは一番下の弟になるんだな!」
「弟だ!」
「アホども! リンタロウ様は年上でいらっしゃるから兄上だろ!」
「いやあ、新しい息子もこんなに可愛いとやはり家の守りを更に上げねばなあ。あっはっは! ゼン殿、今度警備の相談に乗ってくれまいか」
「もちろんです、ドゥース様」
「ほら、あんなに嬉しそうなのに嫌だっていうの?」
……………………なんかこういうのちょっと前にもあったよな……。
「あの…………前向きに、検討させてください……」
「ふむ、しょうがないなあ。今はそれで許してあげよう」
と言っても、俺の心の中ではこの家族の中に入りたいと思っている自分がいるのだが…………。
なかなかどうにも臆病になっている自分がいるわけで……。
今回は保留にしてもらえたので、いい答えで返せたらいいな…………。
「リン! 俺の事はシャルル兄上と呼べ!」
「サロモン兄上だぞ!」
「だから、リンタロウ兄上とお呼びしろ!」
もう子供たちの中で俺は兄弟になっているみたいだけどな…………。




