40話 結婚記念日
花蓮さんからご利益をもらい、神社から放り出されてしまったものの、無事プロポーズを受け取ってくれたときめと本殿の脇に立っている。
常日頃から夫婦宣言されてるので、ときめのリアクションもそれほど大きくは期待していなかったのだが、それは大きな誤算であった。
泣き付いてわんわん泣くし、幸せという言葉を何回も伝えてくれた。ずっと待っていてくれたようだ。ただでさえ十年も待たせてしまっている上、そんな姿を見て申し訳無い気持ちしかない。
そんな光景をあてられた他の参拝者の方からは一周回って暖かな拍手も送られた程だ。もう、恥ずかしのなんの……。
だけど、俺の心は澄み渡っている……これからは夫婦として二人三脚で支え合っていきたく思う。
神様に直接誓ったのだから。
その足で予約してある温泉宿へと向かったのだが、道中も薬指にはめた指輪を見てときめの表情は緩み切っている。タクシーでの移動だったが、車内は間違いなくピンク色のオーラ全開だった。
途中、運転手さんが窓を少し開けたのは間違いなく息苦しかったからだと思う。
ときめに伝えていた本来の目的である温泉宿に着き、美味しいご飯と気持ちいい温泉に浸かり、今は部屋で昔話に花を咲かせている。
「あの時はびっくりしましたよ、いきなり『十年待ったのじゃ!』って言われるし、珈琲は噴きかけられましたし」
「潤を見つけた瞬間、居ても立ってもいられなかったのじゃ……」
「他にもいろんな事がありましたねえ、そうそうエロ――おほん、海外のお土産を見つけられた時には冷や汗ものでしたよ」
「あれは我を忘れて怒り狂ったのじゃ! まだ隠し持ったりしておらぬじゃろうな!?」
しまった……地雷を自ら踏み抜いてしまった。尻尾の毛が逆立ってるし!
「も、もちろんですよ! あの次の日、ときめが居なくなってそれまでの事が夢だと思ってしまいましたよ」
「あ、あの時、初めて抱きしめてくれたのう……」
毛の逆立ちが収まった……ふう、やれやれ。
そんな話をしていると時間は日付が変わる前となってしまった。実はこれを狙ってときめと遅くまで話をしていたのだ。
「む、もうこんな時間じゃな。そろそろ休むとするかのう」
二組敷かれた布団から枕を移動させて二つ並べている姿が映る。一緒に寝ているのでいつもの光景ではある。
「もう夫婦じゃからの! 今日からは遠慮無く尻尾を触ってもよいのじゃ」
「はは、いつも遠慮はしてませんよ」
ふとスマホの時計を見ると11時57分を示している。さてと……。
「ときめ……実はプロポーズしただけでは夫婦にはなれないんですよ」
その言葉に先に布団入っていたときめは固まり、困惑の表情を浮かべ、こちらを見つめている。その瞳の端には涙が溜まっているのが伺える。
「なぜじゃ!? ときめは潤と夫婦にはなれぬのか!? そんなの、そんなの嫌じゃあ!」
「正式な夫婦になる為には役所に届けが必要になります。そっちの方はちょっと翔に頼んで細工してもらいましたが」
「な、何の事じゃ……?」
ケモミミが垂れ下がり、覇気の無い声で問いかけて来た。
日本の婚姻制度における届けにはいろいろと記載する項目があるのだが、神様であるときめにはなにより戸籍が存在しない。だか、その辺りは違法ではない方法で解決している。
そんな事も出来ちゃうスターシティ! 社長はいったい何者なのだろうか。
「ときめとは夫婦になれぬ……のか?」
「いえ、この瞬間、俺達は夫婦になりました」
スマホの時計は12時00分、25日、クリスマスの始まり、そして、俺とときめの初めての結婚記念日となる。あらかじめ、役所にはこの日に受理されるよう手配済みだ。
「え……?」
「プロポーズをする前からあまりやってはいけない方法なのですが、ときめが受けてくれる事を信じて根回ししておきました。今日、12月25日は俺達の結婚記念日です!」
「ほ、本当に……じゃな? 本当なのじゃな!?」
「はい、今この瞬間から正式な俺の妻でときめの旦那です。末永く、宜しくお願いします」
布団のほうに向い、腰を落とすと、そのままときめは抱き付いてきた。すすり泣きながら……。
「……潤、ならばときめも話さなければならないのじゃ……」
少し落ち着き、布団の上で足を崩して座り直した。神妙な面持ちである。
「末永く、と言ってくれたの。人の寿命はもちろん分かっておる。じゃが神に寿命は無いのじゃ」
不安が胸によぎる。先ほどの幸せ感が一気にふっ飛んだ。そう、俺とときめは永遠には居られない。ときめは永遠の存在、俺は人間。
この世に生きる全ての人はその理から逃れられない。ときめを残して俺は寿命で先に死ぬ。
「じゃが……ひとつ、永遠に居られる方法があるのじゃ。しかしそれは残酷でもあるのじゃ……」
いつか言っていた時が来れば話すと言っていた内容の事だろう。
「永遠の命を持つ神と永遠に居る方法……神との、は、初めての契りを交わせば、その相手は神となるのじゃ……」
……え? 俺、神様になっちゃうの? 初めての契りって、そういう行為をすればと言う事だよね? と、言う事は……。
頭の中がパニックになってる状況をときめは察してくれたのだろう。そっと口を開き伝えてくれた。
「翔はひすいと契りをすでに交わしておる。やつはすでに神じゃ」
なんですとお~!? ひすいさんと翔は仲睦まじいし、そりゃあ、大人の時間は満喫してるでしょうけど、翔って神様になってたの!? 社長で神? 完全無欠じゃん!?
「永遠にときめと一緒に過ごさねばならぬのじゃ……そ、それでも――」
ときめからとても簡単な質問が投げかけられた。そんな分かり切った事は返事するまでない。
唇を合わせる。これが答えだ。
そのまま、ゆっくりとときめを布団に寝かせた……頬を染めながらこちらを見て小さく頷いてくれた。
大きな胸に細い体、もふもふの尻尾にケモミミ、白く綺麗な肌が少し着崩れた浴衣から覗いている。
そのまま、体を合わせ再び優しく唇を合わす。ときめの全てが愛おしい。
俺……神様になり――
「あ! 待つのじゃ! まだ『よるのいしょう』を着ていないのじゃ!」
あの、折角いい雰囲気だったんですけど……てか本当に持って来てたんですね……。
今回のお話でクリスマス編もおしまいです!
ここでお知らせです!
次回、最終話となります! 最後に甘々、ラブコメ突っ走りますので見届けて頂ければと思います!
明日、十時頃に投稿いたしますので醤油ラーメン、もしくは塩ラーメンのご準備をお願い致します(笑)




