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第七話 その身に宿すは・・・

右に左に、龍牙の周りにまとわりつく白銀の龍は世話しなく動く。まるで、外に遊びに出られたことを喜ぶ子供のように。

「少し、落ち着けよ。」そんな龍に向かって龍牙は話しかけた。

「それともあの糸、そんなに痛かったか?」

龍は否定するように首を横に振り、雅迅の方を向くと、涎をたらしながら大きく口を開いた。

「ああ、すぐに喰わせてやるよ。だけど、『闇』だけだぞ。」

雅迅の方へ向き直る。

「さてと、先輩。悪いけど、もう終わりだ。あんたのその『闇』、俺が消し飛ばさせてもらう。」

雅迅は呆気にとられ、言い返すのが遅れた。

「っ、たかだかその程度。

龍が一体増えたところで、それを操る君の体力は残りわずか。

僕に勝てるわけないだろ?」

「やってみないと分かりませんよ、先輩。」

「死ねっ!!」

両手に手裏剣を生み出し、龍牙に投げつける。 龍牙は全く動かず、代わりにまとわりついている銀色の龍が変わりに弾いた。

「かかった!!」

すると、あらぬ方向から、龍の隙間を狙うように手裏剣が龍牙を襲う。

「・・・」

龍牙は前を向いたままぶつぶつと呟いたまま動かない。

だが、それは龍牙に触れる寸前にはじき飛ばされる。

「なっ!?」

そこにあったのは龍牙を包むようにして曲げた銀色の翼だった。

「無駄だ。もう、お前の攻撃は効かない。」

龍牙は旛龍を左手に持ち換え、右手を上に上げる。

「そしてこれがお前が見る最後の技だ。」

龍牙の腕に合わせ、白銀の龍は頭を持ち上げ、口を大きく開く。

『その悪しき魂、神に代わり、我が清めようぞ』

その口から全く口の動きと合わない言葉が紡がれる。

「消えろ。」


穿龍波(ばくりゅうは)』!!

龍牙の右腕が振りおろされると同時に銀色の龍は飛び出し、雅迅に迫る。

「うっ、うわあぁぁぁぁ!!」

手当たり次第に冥力を編み、龍へと投げつけるが全て触れると同時に切り裂かれてしまう。

龍は大きく口を開き、雅迅を呑み込もうとした瞬間、

「なんていうと思いました?」

赤い線が龍の体中に走り、木っ端みじんに切り裂かれた

血をまき散らせながら龍の肉片が落ちていく先で龍牙は無表情で立っていた。

「油断しましたね?」

服についた肉片を払い落としながら言う雅迅。

「君が言ってたんですよね?

空気中に冥力が充満していると。」


「なら、体内に取り込まれた空気にも含まれているとは思わなかったのですか?」

ニヤリと笑う雅迅。

「何か言ったらどうです?」

ゆっくりと龍牙に歩み寄り、手に持つ剣を龍牙の胸を狙い、構える。

「終わりだ!!」

 獣のような獰猛な笑みを浮かべ、雅迅は龍牙に向けて剣を突き出した。

 龍牙は全くそれを気にせず、ただ一言呟いた。

「お前がな。」

 グオオォォォォ

 その雅迅の後ろで、また大きな音が轟いた。その突然の大音響に雅迅はふらつき剣をとり落としてしまった。

 その音源を確かめようと雅迅が振り向くと、その瞬間、先に切り刻んだはずの白銀の龍の鋸のような歯の並んだ巨大な口の中に吸い込まれた。

一口で呑み込まれた雅迅の体から外れた黒い結晶が地面に落ち、砕けた。




「結構時間がかかったな。俺がつくころには終わってると思ってたんだが・・・」

「すいません。」

近づいてくる鶯劍に頭を下げ、側に倒れる雅迅に目をやる龍牙。

「まあ、いいさ。お前にも自分の成すべきことがわかったなら、な。」

背を向け歩き出す鶯劍に龍牙は何も言えず、ただその背中を追った。



その時だった。突然、暗闇の中、龍牙に赤く光るものが迫った。

「な!?」

「俺らの敵~!!」

 それは、全身から血を吹き出しながらも、右手にチャグラムを振りかぶる雅光だった。

龍牙は突然のことに反応できず、ただそのチャグラムの先端を見つめていた。

ダン!


先端が龍牙のこめかみに届く寸前、遠くから聞こえた銃声のような音が響いた。

それに合わせ、声もあげず、雅光が血をまき散らせながら宙を舞った。


「おいおい、白狼村の使者ともあろう者が、そんなんじゃまずいだろ?」

「っ、だれだ!?」

龍牙は振り返り叫ぶ。

刹那、1人の長身の男が龍牙の目の前に現れた。

整った顔立ちに少し長めの茶髪、そして一番目をひくのは、その空を映したような澄み切った蒼い瞳である。年は20になったかどうかというところか。

「大丈夫かい?少年」

口の端を歪めながら尋ねる美形の青年。

「あなたは?」

「正義の味方!な〜んてね。」

龍牙の頭にポンと手を置く。

「単なる通りがかりの旅人だよ。」

「つくならもっとマシな嘘をついたらどうだ?ユウ。」 そこに麗那とケイミーを連れた鶯劍が歩いてきた。

「なんの話ですか?」

「まだ惚けるか。いい加減、村からついてきてたら気づくに決まってるだろうが。」

「ちぇっ、もう少し行けると思ったのに。」

指を鳴らし悔しがるユウ。

しかし、すぐに麗那達の方を向き深々と頭を下げた。

「どうもはじめまして、お嬢様方。私はユウ=アルガードという者です。以後お見知りおきを。」

「あ、は、はじめまして 紅乘麗那です。」

「ケイミー=グラディウスだ。よろしく頼む。」 麗那は慌てて頭を下げる。

「麗那ちゃんとケイミーちゃんか。よろしくね。」

「おい、若作り。なぜお前がここにいる?確か今西の方にいるはずだろ?」

麗那達に笑いかけるユウを問いただす鶯劍。

「若作りは余計ですよ・・・、 まあ、いい。僕がここにいる理由でしたよね?それは簡単ですよ。」

4人を見回すユウ。

「あなた方に我ら解放軍に加わって欲しい。」

「断る。」


即行で断る鶯劍。

それに肩まで手をあげやれやれ、と言うユウ。

「やっぱりそうくるか。予想はしていたけど、こう面向かって言われるとさすがに効きますね。」

「お前らとつるむつもりは毛頭ない。他を当たれ。」

背を向け歩き始める鶯劍。

「あの御方の命令でも?」

その言葉に鶯劍は足を止める。

「なんだと?」

「あの御方が言ったんですよ?」

「戻って、きたのか?」 背を向けた鶯劍の体は小刻みに震えていた。

「ええ。それで、鬼神を呼んでこい、と言われたのでね。すいませんが、力ずくでも連れて行かせてもらいますよ。」

龍牙はさっきまではなかったユウの強烈な殺気に気圧され、呼吸することすら忘れた。

「分かった。従おう。」 ため息まじりに鶯劍は答えた。

「そうですか。それは良かった。」

また最初の笑顔を浮かべるユウ。

「僕自身、あまり争い事は好きではないのでね。」

強烈な殺気が消えたことに安心し、深く息をつく龍牙。

少し余裕を取り戻し、ユウの正体を明らかにしようと彼を観察する。

(やっぱり何も持ってない・・・ん?なんだ、あれ?)

全く何も武器のようなものを身につけていないようだったが、シャツが捲り上がったとき、ユウの腰のベルトに20センチほどの棒の先端に時計のような輪がついている杖が差してあるのが龍牙の目に入った。


その視線に気づいたのかユウはシャツを直し、その杖を隠す。

「それでは鶯劍さん。行くとしますか。」

「待て。」

歩きだそうとするユウを鶯劍は呼び止める。

「なんですか?」

「条件がある。」

「ほぅ」

興味深げに目を細めるユウ。

「解放軍に加わってやる。だが、少し待ってくれ。」

「少しとは?」

「4ヵ月」

「長いですね。」

やれやれと肩をすくめるユウ。

「分かりました。その条件、呑みましょう。その代わり、私を監視役として同伴させていただきますよ?」

「ああ。飯代くらいは自分でだせよ。」

「意外とケチですね。」

「ほっとけ。」

背を向けスタスタと1人で歩き始める鶯劍。

「先生、待って下さいよ。」

龍牙の呼びかけに答えず闇に消えた鶯劍を追い、4人は無言のうちに駆け出した。






ある暗闇の中に4人が円を描くようにして座っていた。

「全くお前は。なぜあそこまで力を使った?これはあくまでも相手の体力の消費が目的だというのに。聞いているのか!?雅迅。」

中心で燃える薪に照らされたのはケイミーに重傷を負わされたはずの雅繰だった。

「はいはい、すいませんでした。だけどそれをいうなら雅壱兄さんも・・・」

「兄さんは力の半分くらいしか見せてないからいいんだよ!!ば〜か!!」

闇から現れたのは先ほどまで龍牙達が闘っていたはずの雅光と雅迅だった。

「だけど、本当にあれが蒼龍様の息子かよ。弱いにしても程があるだろ?」

自分の武器であるチャグラムを磨きながら呟く雅光。

「恐らくむこうも力を抑えていたようだな。」

「まじかよ〜?だりぃな。」

雅繰の言葉を聞き、寝転がる雅光。

「どちらにしても関係はないでしょう。僕達のやるべきことはあの4人、それらの駆除。それだけですよ。」

雅迅の抑揚のない事務的な発言に、全く発言していなかった、四兄弟の長男である雅壱が肩を震わせながら口を開いた。

「ふふふっ。雅迅のいう通りだ。俺達の今回の任務は奴らの抹殺。奴らが国境にたどり着くまでまだ時間がある。

次は雅光、お前が行くか?」

「まじかよ!?せめて雅繰兄さんも一緒にしてくれよ。」

「甘えるな。」

「ふっ、いいぞ。雅繰、頼む。」

「・・・仕方がない。分かりました、兄さん。」

2人はそれぞれ、後ろに手をかざすと、そこには黒い鏡のようなものが出現した。

「行ってきまーす。」

雅光はにこやかに笑った後、雅繰と同時にその鏡の中へと消えた。

「それじゃ、僕は『教授』に呼ばれているので、少しの間、お別れですね。兄さん。」

「ああ。」

「行ってきます。」

雅迅もまた出現させた黒い鏡の中に消えた。


ただ1人残された雅壱は燃え盛る炎に視線を注ぐと、傍らにあった木の枝を投げ入れた。


「蒼龍様の願いは俺達が叶える。絶対に、だ。」

上がった火柱はただ燦然と雅壱を照らすだけだった。








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