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となりのNISA貧乏ちゃん ~彼女のNISA積立額、月10万円。デート予算、月5,000円。~  作者: しばたろう


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第14話 それぞれの幸せ、それぞれの未来

 秋が深まる頃。


「長瀬先輩、一ノ瀬先輩!」


 恒例となった、給料日前の三人での昼食。


 山根涼香は、塩おにぎりを片手に、元気よく声を上げた。


 以前、いきなり投資を始めると言い出して、俺たちを驚かせた山根さん。


 今度は何を言い出すんだろう。


 俺が少し身構えていると、山根さんは、そんな警戒心を吹き飛ばすように、にっこりと笑った。


「私、今度、結婚することになりました!」


「えっ、結婚?」


 予想の斜め上をいく発表に、俺は思わず固まった。


「そう。おめでとう」


 対して、向かいに座る葵ちゃんは、至って冷静に、笑顔で祝福した。


「あ、うん。おめでとう」


 俺もワンテンポ遅れて、祝福の言葉を口にする。


 しかし、これは驚いた。


 山根さん、結婚するのか。


 社内の山根ファンも、このニュースを聞いたら悲しむだろうな。


「山根さん、彼氏いたんだね?」


「はい! 大学のときから付き合っている彼氏に、先日、プロポーズされちゃいました」


「すてきね」


 葵ちゃんは、うっとりとした表情で相づちを打った。


 それにしても。


「山根さん、社会人になったばかりなのに、もう結婚か。思い切った決断をしたね」


「そうですか?」


 山根さんは、不思議そうに首をかしげた。


「特に早いとも思わないですね」


 そう言い切る彼女の表情には、迷いがなかった。


 その顔を見て、俺は改めて思い知る。


 そうだ。


 彼女は、こういう子だった。


 物おじせず、自分がこうしたいと思ったことには、まっすぐ突き進んでいく。


 投資を始めたときもそうだった。


 そして今度は、結婚か。


 俺がそんなことを考えていると、向かいの席から葵ちゃんが尋ねた。


「結婚式はどうするの?」


「親族と友人だけでやる予定です」


「そうなんだ。新婚旅行は?」


「ヨーロッパに行こうと思ってます!」


「すてきね」


「おみやげ、何がいいですか?」


 いつの間にか、二人の会話はすっかり女子トークで盛り上がっていた。

 

◇


 山根さんが結婚するというニュースは、瞬く間に社内に広がった。


 あちこちで祝福の声や驚きの声が上がり、社内の山根ファンからは、悲痛な叫びまで聞こえてきた。


 それからしばらくして、山根さんは結婚式を挙げた。


 そして、結婚休暇として一週間の休みに入った。


 旦那さんと二人で、ヨーロッパ各地を所狭しと駆け巡っている彼女の姿が目に浮かぶようだった。


 そんなある日、大学時代の友人からLINEが届いた。


山田『長瀬。久しぶりに斎藤と三人で飲みに行かないか?』


長瀬『おお、山田、久しぶり! いいね。行こう。いつにする?』


山田『次の金曜日、どうだ?』


長瀬『OK!』


 山田と斎藤は、大学で同じ学部だった友人だ。


 学生時代は、いつも三人でつるんでいた。


 二人とも比較的近くの会社に勤めていて、俺と似たような仕事に就いたこともあり、社会人一年目の頃は、よく三人で飲みに行っていた。


 けれど、ここ最近は、お互い仕事が忙しく、飲み会もすっかりご無沙汰になっていた。


 久しぶりに二人と会える。


 少し懐かしい気持ちになりながら、俺は次の金曜日を楽しみにしていた。


◇


 金曜日。


 居酒屋の片隅にあるテーブル席で、俺と山田と斎藤はジョッキを重ねた。


「「「乾杯!」」」


 久しぶりに顔を合わせた二人は、以前と変わらず元気そうだった。


 互いの近況や仕事の愚痴をひとしきり話したあと、話題は最近の休日の過ごし方へと移った。


「なあ。お前たち、最近何してる? 何か面白いことあった?」


 山田が顔を赤くしながら、ビールをあおった。


 すると、斎藤が真顔で答えた。


「そうだなあ。休日はだいたい、映像作品の鑑賞か、デジタル技術を用いた対戦競技に勤しんでいるかな」


「ネットで動画を見るか、ゲームをしてるってことだな。お前、学生の頃から変わらないなあ!」


 山田がすかさず突っ込む。


「そういう山田はどうなんだ?」


 斎藤に話を振られた山田は、待ってましたとばかりに胸を張った。


「俺は最近、アウトドア派なんだ。実はサウナにはまっててな。サウナでととのったあとのラーメンが、もう最高なんだよ!」


「それ、いいなあ。天国じゃないか」


 斎藤が激しく同意した。


「でも、サウナはアウトドアじゃないぞ?」


「ラーメンもな。かすりもしないぞ」


 俺も便乗して突っ込む。


「うるせえな! そういう長瀬は何してるんだよ?」


 山田が不満そうに俺を指さした。


「俺か? 最近は、クロスバイクで公園まで行って、散歩したりしてるな」


「なんだそれ?」


「ひとりで?」


 二人が不思議そうな顔をする。


「いや、彼女とだ」


「そうか、彼女とかー」


 山田が何気なく相づちを打った。


 そして、次の瞬間。


「って、お前! 彼女できたのかよ!」


「聞いてないぞ!」


 二人がそろって身を乗り出してきた。


「ああ、言ってなかったからな」


「どこの誰だ!? どうやって知り合ったんだ!?」


「会社の同期だよ」


「会社の同期だと!?」


「くそっ、職場恋愛かよ!」


「おい、写真見せろ!」


 二人に詰め寄られ、俺は苦笑しながらスマホを取り出した。


「ほら、この子」


「えっ、かわいいじゃねえか! この野郎!」


「長瀬、お前……むかつくな。今日はお前がおごれ!」


「なんでそうなるんだよ!」


 俺の抗議もむなしく、二人は好き勝手に騒いでいる。


 ひとしきり大騒ぎしたあと、山田がふうっと息を吐いた。


「いいよなあ。俺の会社なんて、出会いなんて微塵もないぞ」


「そうそう。そもそも、会社の人と仕事以外で付き合う機会なんて、ほとんどないしなあ」


 斎藤も、しみじみとうなずいた。


「いいなあ、長瀬は。ついてるよなあ」


「ほんと、ついてるよなあ」


 二人は、うらやましそうに俺を見た。


 その言葉を聞いて、俺は改めて気づいた。


 そう。


 葵ちゃんと同じチームになれたのは、本当に偶然だ。


 もし、配属先が違っていたら。


 もし、彼女と話す機会がなかったら。


 俺は今も、きっと休日を一人で過ごしていたのだろう。

 

◇

 

 その後も、二人の勢いは止まらなかった。


「なあ、今度、彼女の友達を紹介してくれよ!」


「そうだ、会社の子でもいいぞ!」


「いや、今度、合コンしようぜ! そうしよう!」


 散々騒いだ二人と別れ、俺は帰路に就いた。


 帰り道、葵ちゃんにLINEを送る。


葵ちゃん『お友達との飲み会、どうだった?』


佑太『久しぶりに会えて、楽しかったよ』


葵ちゃん『そう。それはよかった。気をつけて帰ってね』


 たわいもないやり取り。


 それなのに、今日はいつもより、幸せを感じた。


 そして。


 ふと思った。


 葵ちゃんと付き合い始めてから、俺は葵ちゃんに引っ張られてばかりだ。


 でも。


 このままでいいのだろうか。


 俺は、この先も葵ちゃんと一緒にいられるのだろうか。


 いや。


 一緒にいるためには、どうすればいいのだろう。


 俺自身も、何かをしなければいけないんじゃないだろうか。


 そう思うものの、それが何なのか、まだはっきりとは思い浮かばなかった。


 ただ。


 少し、真剣に考えなければいけない。


 それだけは、わかった。

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