新たな門出
———人間界の高校へ初登校する朝。
玄関にて。
「さぁ!黒宮様。一ノ瀬様。本日は待ちに待った転入生としての学園デビューでございますねっ!!!制服。お似合いでございますよーっ」
「なんか、はじめちゃん初めの頃より元気になってない?」
「あぁ」
「転校生とはいえまだ高校一年生の五月!お友達を作って。そしてぜひっ!我らのアレクサンドラ城にお招きください。私、腕を振るっておもてなしさせていただきます!!」
「プッ、アッハッハ。ここ、アレクサンドラ城っていうんだ。クラウスのお父さんが建てたんだもんね。それはそうか」
「おい、笑うな。俺の名前でもある」
「ごめんごめん」
「オホン。よろしいですかな?お二人に通っていただくのはここから徒歩20分!四葩高校でございます」
「あ、結構近いじゃん。ラッキ〜」
「無駄な時間だな。飛べば一瞬で」
「なりませーーーーん!」
皇は大きな声でクラウスの言葉を制し、続けた。
「お二人が悪魔だと人間に悟られるような行動はなんとしても謹んでいただきたい!」
「あ〜。そっか。調査できてるんだもんね。僕たち」
「いや。父上はそんなこと思ってなかった。調査は建前だ」
「じゃあ、ヴァルキリアムス様は何を?」
「さっぱりだ。『待っているぞ』と言われたが、その言葉は本心だった」
「働きすぎのクラウスと、クラウスを労いすぎの僕にプレゼントじゃない?」
「フッ……そうかもな」
「え、珍しいぃ〜。クラウスが否定しないなんて〜。ね、はじめちゃーん」
「なっ。お前。俺だってお前に…」
「パンパンッ」
皇が手を叩く。
「さあ、そろそろ時間がありません。今日は初日ですので遣いを玄関に待たせています。道も覚えてくださいね」
「ガチャッ」
皇が扉を開けると、外の光が城の中を照らす。
「ここはあなたたちの家なのです。何かあれば、私がおりますよ!さあ、行ってらっしゃい」
「行ってきまぁ〜す」
「じゃあな」
「コツコツコツ」
クラウスとハインツがバラの庭園を歩く。
噴水の霧が、虹を作り出す。
「キー」
ハインツが城門を開ける音。
「遣いの人どこかな」
「あの〜」
ハインツのすぐ横に人が現れる。
「わ!びっくりした!!遣いの人?」
「いたずらっ子のお前がしてやられるとはな」
「クラウスは気づいてたの?」
「いや、そいつは何も考えちゃいない。素だ」
「あ、すみません。ドライバーの五等 来間です」
「なんか普通じゃないのに普通な名前だね!」
「おい、ハインツ」
「あ、いいんです。よく言われます。あの、ハインツって?」
しまった。こいつは知らないのか!
「おい、ハインツ。行くぞっ!!!」
「プーーーーーーッ」
《ウケる。クラウス、僕の名前を『早く行くぞ』みたいに使って誤魔化した》
クラウスは真っ赤になっていたのだった。
「私はドライバーですが、会長の指示で今日は歩いてお二人を連れて行ってほしいとのことでしたので。こちらへ」
五等について行くクラウスとハインツ。
「ねー、ごとーちゃん。ドライバーって何?あと会長って誰?」
五等が道を走る車を見ながら話す。
「ドライバーでございますか?ドライバーは運転手でございますよ?」
《帰国子女って聞いたけど海外も車あるよな…》
「分かったぞ。ハイン……一ノ瀬 碧。あの乗り物の操作者だ」
「あぁーそう言うことね。会長は?」
「皇 一会長です」
「あぁ、なんだ。はじめちゃんか」
「すめらぎがどうした」
「はじめちゃ…すめらぎ……あの方は皇ホールディングスの会長ですよ!?」
《ちゃん付けに、呼び捨て…この人たち一体…》
「へ〜はじめちゃんすごい人なんだ〜」
「フッ。父上の足元にも及ばんだろ」
「ハハハ…あ。着きました。コチラデゴザイマス。では私はここで」
《えぇ〜〜〜。あなたたち、何者ですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜》
放心状態になっている五等。
「ありがと〜ごと〜ちゃ〜ん」
「ご苦労」
「てか、クラウス。碧って呼んでよ!
何?一ノ瀬 碧って。僕、監獄の囚人じゃないんだから。僕も律って呼ぶからさ」
「碧…人間界は美しいものが多いな」
「そうだね」
校内に見える桜の木は、ピンクの花がもうすっかり散り終わり、クラウスとハインツを迎え入れるかのようにピンクの絨毯が敷きつめられている。
花びらの散った木々からは、青々とした葉が顔を出す。
クラウスとハインツ。悪魔の二人が校門から四葩高校の校舎を眺める。
人間界での生活は、まだ始まったばかり。
この先、想像してもいなかった出来事が次々に起こることを、この二人はまだ何も知らない。




