第12話 ほどいた糸は戻らない。
喫茶ロンドの三人掛けソファには、座る場所によって服を傷める危険がある。
右端は革のひびが深く、中央は沈みすぎる。そして左端には、その朝まで誰も気づかなかった小さな釘が出ていた。
岸本志津江が立ち上がったとき、焦げ茶色のコートの裾で、布が裂ける短い音がした。
「今、何か言った?」
七十代半ばの岸本は振り返ったが、ソファは何も答えない。代わりに、トレイを持って近くを通った芦屋玲奈が足を止めた。
「そのまま動かないでください」
「そんなに大変?」
「確認するまで、まだ決められません」
玲奈はコートの裾を釘から外した。表地は三センチほど裂け、裏地の縫い目も引かれている。岸本は「帰って縫うから平気」と笑ったものの、裂け目を指でつまむ玲奈の顔は、注文を間違えたときより険しかった。
「針と糸をお借りできますか」
カウンターの中から老田が裁縫箱を出した。蓋には、何年前のものか分からない菓子会社の絵が残っている。
「ボタンなら付けられる。服は知らん」
「十分です。岸本さん、十五分ほどお時間をいただけますか」
「コーヒー一杯ぶんで直るなら」
玲奈は窓際の空いた卓へコートを広げた。裂け目だけを閉じるつもりだったが、裏返すと、以前に直された縫い目が目に入った。太さの違う糸が途中で継がれ、縫い代が片側へ引かれている。このまま表だけを縫えば、次に力がかかった場所から裂ける。
玲奈は裁縫箱から糸切りばさみを取り、古い縫い目を一つほどいた。
もう一つ。
十五分後、裂け目は三センチから二十センチになっていた。
「広がってない?」
岸本がコーヒー越しに聞いた。
「正確には、以前の補修をほどいています」
「私が頼んだの、今日破れたところよ」
玲奈の手が止まった。
*
午前十一時、ロンドの窓際には、裏地を開かれたコートが横たわっていた。
岸本は午後五時に出かける予定があり、それまでに直るなら預けると言った。直らないなら別のコートを着る。怒ってはいなかったが、「頼んだところより大きくしないでね」と二度念を押して帰った。
「もう大きくしてるよ」
小森美咲は出勤前のコーヒーを飲みながら、開いた裏地を見た。
「この縫い方では、表地に負担が残ります」
「だからって、許可なくほどく?」
「直すために必要でした」
「それは玲奈さんの正解。岸本さんは、夕方着られるコートが欲しいの」
玲奈は反論せず、ほどいた糸を紙の上へ並べた。細かな糸くずまで捨てないのは、元の針目と長さを確認するためだった。
桐生蒼真がソファの釘へ布を当て、金槌の代わりに厚い本の背で叩いている。玲奈が見て、「その本は」と声を上げた。
「研究書ではなく、古本屋で百円だった辞書だから」
「本の価格で扱いを変えるのですか」
「今はソファを直す話だよね」
「本も直す必要が生じています」
美咲が時計を見て立ち上がった。「増やさないで。一つずつ終わらせる」と言い残し、店を出ていく。
玲奈はコートへ向き直った。実家なら、職人へ渡せば済む仕事だった。どの糸を使い、どこまでほどき、仕上がりをどう検めるかは知っている。しかし、自分の手だけで最後まで直した経験は、思っていたより少ない。知識と作業のあいだには、針一本ほどの細さで、思いのほか深い溝があった。
*
正午前、神崎大和が紙袋を持って入ってきた。
「玲奈さん、ボタンって付けられる?」
「はい」
「袖も?」
「袖にボタンがあるのでしたら」
紙袋から出てきたのは、淡い青色のシャツだった。左のカフスが半分ほどほどけ、ボタンが糸一本でぶら下がっている。
「今日の夜までに」
「会社で必要なのですか」
「仕事のあとに必要」
ソファにいた立花玲央が顔を上げた。膝には劇団ミナモの台本があり、赤い付箋だけが目立っている。
「デート?」
「仕事のあとに人と会うだけ」
「女?」
「人」
「人なら、だいたい男女どっちかだろ」
「お前は稽古で性別を二つやったんだから、黙って台本読んでろ」
玲央は紙袋を覗き込み、襟元のタグを確かめた。「普段よりいいシャツだ」と言うと、大和は紙袋ごと取り戻した。
玲奈は袖口を見た。ボタン付けだけなら十分もかからない。ただし、コートの裏地は開いたままで、必要な色の糸も裁縫箱にはなかった。
「午後四時まででよろしいですか」
「六時でいい」
「では、お預かりします」
「料金は?」
玲奈は答えられなかった。ロンドの仕事では、値段は最初から決まっている。コーヒーを淹れる時間が長くなっても、客の話を聞いても、一杯の価格は変わらない。しかし補修は、ほどく場所も、糸の種類も、相手が求める仕上がりも違う。
「友達価格で」
玲央が言った。
「お前は一円も払う側じゃない」
「じゃあ、友達無料」
「もっと悪くなった」
玲奈は紙へ『シャツ・袖口・午後六時』と書いた。「料金は、作業後に決めます」と告げると、大和は一瞬だけ意外そうな顔をし、それから「分かった」と答えた。
*
必要な糸を買うため、玲奈は昼休みに店を出た。
一番街商店街から茶沢通りへ抜ける道は、午後の人波で歩く速度が変わる。玲奈はコートの裏地から抜いた糸と、シャツの袖から切った一本を白い紙へ挟み、陽の当たる場所で色を見比べながら、住宅街にある架空の手芸店「糸口」まで歩いた。
焦げ茶だけで九色あった。棚の前で迷う玲奈に、店主は「古い布は光で色が変わるから、元と同じ色を買っても同じには見えない」と教えた。
「では、どれが正解でしょうか」
「正解を決めるのは、着る人だね。目立たせたくないのか、直した跡を残してもいいのか」
玲奈は岸本へ電話した。
「裏側の糸が完全には同じ色になりません。近い色で目立たなくするか、少し明るい色で次にほどけた場所が分かるようにするか、選んでいただけますか」
『裏でしょ? 見えないなら、分かりやすいほう』
「承知しました。それから、以前の補修をほどいたため、予定より時間がかかります」
『五時に間に合う?』
玲奈は、できると言いかけた。実家で聞いてきた職人なら間に合わせるだろう。けれど今、針を持つのは自分だった。
「四時半までに途中で一度ご連絡します。間に合わなければ、別のコートをお願いします」
『最初からそう言ってくれたらいいのよ』
電話が切れたあと、玲奈は焦げ茶の糸と、裏地用の少し明るい糸を買った。領収書も受け取った。
会計を終えたあとも、玲奈は針の棚の前から動かなかった。実家で使っていたものと同じ長さの針、革を傷つけにくい指ぬき、糸を寝かせて切れる小さなはさみ。道具の名前も用途も知っているが、自分で値札を見て選んだことはない。家では必要なものが作業台に揃い、減れば誰かが補充していた。
「仕事にするなら、最初にすべて揃えたほうがよいでしょうか」
店主は玲奈の籠を見て、「最初から道具を仕事にしないほうがいい」と言った。「使うものだけ買う。続いたら増やす。道具を揃えて満足する人、多いからね」
玲奈は指ぬきと針を一組ずつ加え、はさみは棚へ戻した。領収書には、コートに使う材料と自分の道具を分けて書いてもらった。店を出て一番街方面へ戻る途中、紙袋の軽さに比べ、財布から減った金額が大きく感じられた。
下北沢駅へ向かう人の流れを避けて細い道へ入ると、両側の建物から室外機の風が吹き、紙に挟んだ糸が飛びそうになった。玲奈は胸元で紙を押さえる。家で教えられた技術を使えば、家へ戻ったことになるのか。それとも、使う場所と相手を自分で決めれば、自分のものになるのか。答えを決める前にロンドの時計は進んでいる。玲奈は紙袋を持ち直し、人の流れへ戻った。
*
ロンドへ戻ると、修理する服が増えていた。
玲央の黒い稽古着は、平台を運んだときに肩が裂けている。ひばりの花柄の袖には、ギターケースの金具が引っかかった穴があった。蒼真は本の背を見せ、「これは服ではないけど」と辞書を置いた。
「受け付けていません」
「本は別枠?」
「修復方法が違います」
「方法を知ってるんだ」
「知識と作業の間には溝があります」
「急に今日の結論みたいなこと言うね」
「まだ結論ではありません」
玲奈は三人の品を紙袋へ戻した。「岸本さんのコートと、神崎さんのシャツが先です」と言うと、玲央が不満そうに肩を触った。
「俺、明日も稽古」
「別の服で行って」
玲奈は言ってから、敬語を足さなかった。
「今、完全に二種だった」
「分類は廃止しました」
「でも、扱いが一番下」
「順位ではなく期限です」
ひばりは自分の袖を光へ透かし、「穴から店が見える」と楽しそうに言った。
「ひばりさんも、今日はそのままでいてください」
「私は敬語」
「穴を気にしていないためです」
玲奈はコートへ針を入れた。
すると玲央が、稽古着のほかにもう一着、黒いジャケットを鞄から出した。第九話のフリーマーケットで売ろうとし、袖口を玲奈が直したものだった。
「これは壊れてないけど、もっと高そうにできる?」
「補修は、価格を高く見せるために行うものではありません」
「舞台で着たら、本当に舞台衣装になるだろ。先に整えておこうと思って」
「まだ舞台で着ると決まっていません」
「決まってからじゃ遅い」
大和が使った広告の論理を、今度は衣服へ持ち込んでいる。玲奈はジャケットを裏返し、以前直した袖口だけを確認した。
「補修箇所に異常はありません。何も壊れていない服には、何もしません」
「予防は?」
「洗って、正しく保管してください」
「一番苦手なやつだ」
玲央はジャケットを畳まず鞄へ戻した。玲奈は依頼票を三枚作り、品物、破損箇所、希望期限、見積もり前にほどいてよい範囲を書いた。玲央は期限欄へ『できるだけ早く』と記入し、美咲に「それは期限じゃない」と消される。ひばりは希望料金へ『石一個』と書き、玲奈に「通貨でお願いします」と返された。
蒼真は一連のやり取りを見ながら、辞書を静かに鞄へ戻した。
「桐生さんは、よろしいのですか」
「ここへ置くと依頼票を書かされそうだから」
「本には、本の受付方法を考えます」
「事業が広がってるね」
「まだ一件も終わっていません」
言葉にすると、窓際のコートが急に重く見えた。
*
午後三時を過ぎると、ロンドは客が増えた。玲奈は注文を取り、コーヒーを運び、戻るたびに二針か三針だけ進めた。まとまった時間が取れないため、糸を長くしすぎず、作業を止める位置を毎回決める。家で見ていた職人は、誰にも話しかけられない作業台で仕事をしていたが、ここでは徳田が「今日は四種類目のいつもの」と言い、玲央がプリンの残数を聞き、ひばりが糸くずを髪飾りにしようとする。
「触らないで」
「捨てる糸でしょ」
「長さを確認しています」
「終わったらもらえる?」
「終わったら捨てます」
「同じ行き先なのに」
午後四時、コートの表地は閉じた。裏地は半分残っている。大和のシャツにはまだ手をつけていない。
玲奈は一度立ち上がり、コートを遠くから見た。近くで針目だけを追っていると、縫い縮みや裾の傾きに気づけない。実家で検品を任されていた女性は、必ず三歩離れ、正面、横、裏の順に見ていた。玲奈も同じように確認しようとしたが、狭いロンドでは三歩下がるとカウンターへぶつかった。
「何してるの?」と徳田が聞く。
「全体を確認しています」
「店が狭いから、俺が持つか」
「お客様へ作業をお願いすることは」
「その喋り方、また融資の人になってるぞ」
徳田はコートの肩を持ち、入口近くに立った。玲奈が窓際から裾を見ると、わずかに左が引かれている。二針だけ戻して縫い直すと、裾はまっすぐ落ちた。
「助手代は、次のコーヒーを薄めにしてくれればいい」
「本日の“いつもの”は、薄めですね」
「いや、普通にする」
玲奈は注文を記録せず、頭の中だけで変更した。
そこへ美咲が、休憩時間を使ってロンドへ戻ってきた。テーブルの上を一目見て、未完成の二着と注文伝票を数える。
「間に合う?」
「岸本さんには四時半に連絡します」
「大和は?」
「六時です」
「それ、絶対六時より前に取りに来るよ」
「なぜですか」
「仕事のシャツなら会社で着替える。ここへ預けたってことは、帰りに寄る。待ち合わせ前の男は約束した時間を信用しない」
「詳しいですね」
「料理人は時間を守らない客を見てるの」
美咲はシャツの袋を裏返し、ボタンだけを取り出した。「これは私が付ける」と言ったが、玲奈は首を振った。
「神崎さんから、私が預かりました」
「じゃあ、コート手伝う」
「それも私がほどきました」
「全部、自分でやるつもり?」
「はい」
「間に合わないって分かってても?」
玲奈は針を止めた。自分で選んだ結果を引き受けたいと思って家を出た。だが、何でも一人で終えることと、引き受けることは同じではない。
「では、接客をお願いします。補修は私がします」
「店員じゃないんだけど」
「今、決めました」
「それ、前にも聞いた」
美咲はエプロンを借り、客席へ出た。
*
四時二十五分、玲奈は最後の玉留めを裏地の内側へ隠した。表から裂け目はほとんど見えない。裏返せば、少し明るい糸が以前の補修跡を囲み、次に力がかかった場所が分かる。
岸本へ連絡すると、五時前に取りに来た。
「着てみてください」
袖を通し、裾を確かめた岸本は、鏡の前で一度しゃがみ、立ち上がった。
「前より動きやすい」
「以前の縫い目が裏地を引いていました。ただ、最初に許可なくほどいたことは、申し訳ありません」
「次は、切る前に聞いて」
「はい」
「いくら?」
玲奈は、材料費の領収書と作業を始めた時刻を書いた紙を出した。考えていた金額を口にする前に、実家で同じ仕事を頼めばいくらになるかが頭をよぎる。職人の技術、店の信用、仕上げの検品。その価格を、自分の一日目の仕事へそのまま付けることはできない。
「材料費を含めて、千二百円です」
「安すぎない?」
「今回は、私の判断で作業を増やしました。次回から、作業前に見積もります」
岸本は千円札二枚を出した。玲奈が八百円を返すと、コートの内側をもう一度見て、「次は、このポケットをお願い」と言った。
右のポケットは底が薄くなっていた。
「次回は、先にほどく範囲を確認します」
「そうして」
岸本はコートを着て店を出た。
玲奈は受け取った千二百円を、ロンドの給料とは別の封筒へ入れた。表には『補修 一件目』と書いた。
「その千二百円、全部が収入ではないよ」
蒼真が、糸口の領収書と封筒を見比べて言った。材料費だけでなく、続けるなら場所や道具についても考える必要がある。老田はカップを拭きながら、「コーヒーを飲む客の服だけなら、場所代はいらん」と言った。
「では、飲まない方から依頼があった場合は?」
「そのとき考える」
「先に決めなくてもよいのですか」
「客が来る前に規則を百個作ると、また一種と二種ができるぞ」
玲奈は新しいノートの最初のページに、材料費、作業時間、受取額を書いた。千二百円から糸代を引き、さらに自分の指ぬき代まで引こうとして、蒼真に止められる。
「指ぬきは次の仕事でも使うから、一件目だけの経費にしなくていい」
「では、何件に分けますか」
「それは使用期間を想定して――」
説明を始めた蒼真の前へ、老田がコーヒーを置いた。
「冷める前に十二文字で」
「今は、糸代だけ引こう」
「承知しました」
計算後に残った額は、封筒の見た目ほど多くなかった。それでも、ロンドの時給とは違い、玲奈が作業の範囲を決め、相手へ金額を告げて受け取った金だった。
玲奈はノートの下へ、次回の確認事項を三つだけ書いた。『切る前に聞く』『期限を決める』『先に料金を伝える』。四つ目を書きかけ、老田の言葉を思い出してペンを置いた。
*
午後五時十分、大和が来た。
「早いですね」
「道が混むかもしれないから」
「待ち合わせ前の方は、時間を信用しないそうです」
「誰が言った?」
カウンターでコーヒーを飲んでいた美咲が、聞こえないふりをした。
「シャツは、これからです」
「あと五十分ある」
「お待ちください」
玲奈はカフスをほどき、弱くなった糸をすべて外した。今度は切る前に大和へ範囲を見せ、ボタンの位置を確認する。大和は珍しく口を挟まず、ソファで時計を見ていた。
玲央が隣へ座る。
「どこで会うの?」
「人と会うだけ」
「名前は?」
「人に名前はある」
「泊まる?」
「質問が三段飛んだ」
ひばりが大和の首元を見た。
「いい匂いする」
「会社の化粧室にあった消臭剤」
「首にかけたの?」
「もう黙ってくれない?」
午後五時四十二分、玲奈はシャツを返した。袖口は元の針穴へ合わせ、反対側と同じ間隔で縫ってある。
「おいくらですか」
大和が、今度は先に聞いた。
「三百円です」
「友達価格?」
「作業時間と材料費です。次回は通常料金にします」
「次回がある前提なんだ」
「神崎さんは、同じ袖を二度壊しそうです」
大和は三百円を払い、ロンドの狭い化粧室でシャツを着替えた。出てきたところを五人が揃って見たため、入口で足を止める。
「行ってきますは?」
玲央が聞いた。
「会社へ戻るだけ」
「鞄、会社と逆向きに持ってるよ」
ひばりが言う。
大和は鞄を持ち替えた。
「行ってきます」
美咲だけが、コーヒーカップを見たまま「いってらっしゃい」と答えた。
*
翌朝九時、大和は同じ青いシャツでロンドへ入ってきた。
袖口は無事だったが、ボタンを一つ掛け違えている。
すでにソファへいた玲央が、新聞を下ろした。
「会社、長かった?」
「長かった」
「何時まで?」
「今まで」
ひばりがシャツの襟を見た。
「裏返しじゃないね」
「そこまで失敗してない」
美咲は厨房へ続くカウンターの端で、パンを切っていた。大和を一度見ただけで、何も聞かない。
玲奈が水を置き、掛け違えたボタンを指した。
「直しますか」
「これは自分で直せる」
「無料です」
「余計に嫌だ」
大和は一番下からボタンを掛け直した。全員が黙って見ている。
途中で一つ飛ばしかけると玲央が指を上げ、ひばりが数を声に出し、美咲はパンを切る手を止めないまま「そこ違う」と言った。昨夜どこにいたかは誰も聞き出せなかったが、シャツ一枚を正しく着るまでの工程だけは、五人全員に監督された。
「見るなよ」
「補修後の確認です」
玲奈は袖口を確かめ、接遇改善記録とは別の新しいノートを開いた。
『補修 二件目。袖口。三百円。翌朝も異常なし』
「最後の情報、必要?」
「耐久確認です」
「どこで耐久を確認したかは書くなよ」
玲奈はペンを止めた。
「聞いていません」
「それが一番助かる」
(第13話につづく)




