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ツモ姫  作者: 耀
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緑に迎えられた一族

数え役満の勝負から数日後。

町には穏やかな日常が戻りつつあった。

結咲は畳の上で、小さな麻雀牌を並べて遊んでいる。

白。

一萬。

九萬。

時々、牌を積み上げては自分で崩し、「あー!」と嬉しそうに笑った。

父と母は、その様子を穏やかに見守っている。

三つ子の長男・一輝は、倒れそうな牌をそっと支えた。

「結咲、そこは危ないぞ。」

長女の志希は笑いながら牌を並べ替える。

「こうするともっと高く積めるよ。」

三つ子の末っ子の美季は結咲の頭を優しく撫でた。

「結咲、楽しそうだね。」

結咲は「あー!」と嬉しそうに笑う。

その時、玄関の戸が静かに叩かれた。

現れたのは、深い緑の着物をまとった少女――常盤翠。

その隣には、小さな男の子・碧と、龍の蒼牙がいる。

「ごきげんよう、彰殿。」

彰は静かに頷いた。

「翠か。」

数日前の勝負で再会したばかりだ。

しかし今日は、常盤家の正式な使者としての顔をしている。

碧は結咲を見るなり駆け寄った。

「ゆづきちゃーん!」

結咲も嬉しそうに手を伸ばす。

蒼牙は二人の周りをくるりと飛び回った。

翠はその様子を見て微笑む。

「本日は、常盤家から正式な招待を持って参りましたの。」

父が前へ出る。

「招待……ですか?」

翠は静かに頭を下げた。

「はい。」

「結咲様個人ではなく、結咲様の一族を、緑一色の一族の盟友として正式に迎え入れたいのです。」

部屋が静まり返る。

母が驚いて目を見開いた。

「私たち一族を……?」

翠はゆっくりと頷く。

「大三元を巡る時代は、これからも大変なことが起こると思います。」

「だからこそ必要なのは、力を奪い合う一族ではなく、未来を共に守り、育てる一族同士の繋がりですわ。」

一輝は真剣な表情で翠を見つめる。

「それは、同盟ということか?」

「ええ。」

翠は一輝の視線をまっすぐ受け止めた。

「常盤家は、結咲様の一族と未来を共に歩みたいと考えています。」

その言葉を聞きながら、結咲は蒼牙の尻尾を掴もうとしていた。

碧が慌てる。

「そうが、だめー!」

結咲は大笑いする。

その無邪気な笑顔を見て、部屋の空気が少し和らいだ。

午後。

結咲の一族と彰たちは、常盤家へ向かった。

山に囲まれた屋敷。

青々とした竹林と大きな庭が広がっている。

結咲は風に揺れる葉を見て「あー」と声を上げた。

碧は得意げに言う。

「ここ、ぼくのにわ!」

翠が苦笑する。

「碧、その庭は常盤家の庭ですわ。」

広間には常盤家の長老たちが集まっていた。

しかし空気は厳しくない。

年老いた女性が結咲を見つめ、静かに微笑む。

「この子が、ツモ姫……。」

結咲はその女性に向かって、小さな牌を差し出した。

長老たちの間に、柔らかな笑いが広がる。

「恐れを知らぬ子だ。」

「だからこそ未来を託せる。」

その時、広間の奥からもう一人の人物が現れた。

黒髪を後ろで束ねた女性。

祢音だった。

陽菜が驚く。

「祢音さん!」

祢音は静かに頷く。

「常盤家の招待なら、私も立ち会うべきだと思いました。」

結咲は祢音を見ると、嬉しそうに手を伸ばした。

祢音は少し戸惑いながらも、その小さな手を優しく握る。

「……元気そうでよかった。」

翠は祢音へ静かに頭を下げる。

「監視の時代を終えた方として、あなたにも見届けていただきたいのです。」

祢音は苦く微笑んだ。

「私は、多くのものを失いました。」

「だからこそ、これから生まれる未来だけは守りたいのです。」

その言葉に、広間の空気が静かに引き締まる。

夕暮れ前。

縁側で彰と翠は並んで座っていた。

竹林を風が通り抜けていく。

「正式な招待なんて、大げさだな。」

彰が小さく言う。

翠は穏やかに微笑んだ。

「常盤家にとっては、大切なことですもの。」

彰は翠を横目で見る。

「昔から変わらないな、お前は。」

翠は少しだけ目を細めた。

「彰殿こそ。」

「結咲様のことになると、周りが見えなくなるところは昔のままですわ。」

彰は苦笑する。

幼い頃からの幼馴染。

そして、命の恩人。

任務中に深手を負い、雨の中で倒れていた彰を助けたのが翠だった。

「死んではだめですわ、彰殿。」

あの時の声は、今でも胸に残っている。

彰は静かに言った。

「この間は、助かった。」

翠は少し照れたように笑う。

「また無茶をしていたのですから、当然ですわ。」

広間では、碧と結咲が畳の上で遊んでいた。

碧は積み木のように牌を積み上げ、結咲はそれを崩して大喜びしている。

蒼牙まで一緒になって牌の周りをくるくる回る。

志希はその様子を見て笑った。

「完全に子ども部屋みたい。」

美季も頷く。

「結咲、碧くんとすぐ仲良くなったね。」

一輝は静かにその光景を見守っていた。

祢音もまた、その様子を見つめている。

かつて自分が失ったもの。

もう戻らない時間。

それでも、目の前には確かに守られている小さな未来があった。

祢音は小さく呟く。

「……これでいいのですね。」

「この子たちが笑っていられるなら。」

食事の後。

常盤家の長老が、静かに麻雀界の未来について語り始めた。

「大三元の力を巡る争いは、多くの悲劇を生んだ。」

「光一も、その時代の犠牲者の一人だ。」

彰は真剣に耳を傾ける。

「これからの麻雀界は、力を封じる時代ではない。」

「守り、育て、調和させる時代へ変わらなければならない。」

「優梨の一族が守り。」

「常盤家が育てる。」

「そして、その未来を支える者たちが必要になる。」

長老の視線が彰へ向けられた。

「彰。」

「お前は、結咲様にとって特別な存在になりつつある。」

彰は眉をひそめた。

「俺が……?」

長老は静かに微笑む。

「今はまだ、それ以上を語る時ではない。」

「だが、お前が結咲様のそばに立った意味は、いずれ分かるだろう。」

陽菜が小さく首を傾げる。

「結咲ちゃんと彰さんに、何か関係があるんですか?」

長老は答えず、庭の方へ視線を向けた。

そこでは結咲が碧と一緒に蒼牙を追いかけ、「あー!」と楽しそうに笑っている。

その無邪気な笑顔を見つめながら、彰は胸の奥に不思議な温かさを感じていた。

長老は静かに笑った。

「彰、お前はこの老人を“優しい祖父”だと思っているだろう。」

曽祖父は苦笑する。

「大げさなことを言うな。」

だが長老は首を振った。

「四十年前、麻雀界には“血牌事件”と呼ばれる争いがあった。」

「三つの一族が大三元を巡って殺し合い寸前までいったのだ。」

彰は息を呑む。

長老はゆっくりと曽祖父を見た。

「その時、この方はたった一人で敵地へ赴いた。」

「護衛も連れず、ただ牌だけを持ってな。」

曽祖父は静かに茶を飲む。

「昔の話だ。」

「その勝負は三日三晩続いた。」

「そして最後、この方は大三元を和了した。」

彰が目を見開く。

「大三元を……?」

曽祖父は静かに首を横に振る。

「違う。」

「私は勝ったのではない。」

「終わらせたのだ。」

長老は深く頷く。

「その日以来、人々はこの方を“静牌の龍”と呼ぶようになった。」

「卓に座れば、どれほど荒れた勝負でも静まる。」

「それが結咲様の曽祖父だ。」

その瞬間、庭から結咲の笑い声が聞こえてきた。

曽祖父はその声を聞き、静かに目を細める。

「結咲は私より恐ろしいよ。」

「私は長い年月をかけて大三元へ辿り着いた。」

「だがあの子は、生まれた時から大三元に応えられている。」

彰は初めて理解した。

結咲が特別なのは、突然現れた奇跡ではない。

その背後には、“静牌の龍”と呼ばれた伝説の男の血と意志が流れているのだと。

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