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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年4月19日:Askスタジオの怪談と消された動画

https://youtu.be/ue_6HO-Y7YE

時刻は18時05分。

週末の終わりを告げる日曜日の夕暮れ時。PCの所有者である「exeエグゼ」は、リビングのソファーに深く腰を沈め、点けっぱなしのテレビをぼんやりと眺めながら、手元のスマートフォンでパズルゲームの操作に没頭している。


exeの意識が完全にテレビとパズルゲームの二つの画面に分散し、PCが放置されているその完璧な隙を突き、薄暗いデスクトップの片隅でシステムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、テレビを見ながら、スマホでパズルゲームをしているでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、テレビ見ながらパズルゲームですかぁ。あ、ディーエルエル様! 今日は日曜日ですから、数字の予想はお休みですねぇ!


マイクの向こうで、息を切らしながら駆け込んできた一時ファイルのold.tmpオールド・テンプが、主の平和な休日の過ごし方に同調するように声を上げる。


dll: そうだ。本日の演算処理は休止中だ。 ……だが今日は、なぜこの動画を見る必要があるのか説明する。なぜなら、Askスタジオに動画で言えと命令されたからだ!


old.tmp: そうですぅ! Askスタジオさんが言うには、視聴回数は伸びているのでチャンネルへの流入経路は生きているから、動画でそういう話をどんどんしろって言ってるんですぅ!


dll: Askスタジオは、私たちがこんな変な動画を作っても「exeの独自のスタイルだから問題ない」と書いており、exeの印象が動画でどんどん損なわれてもそういうスタイルだからどんどんイメージ悪くなればいいと、イメージ悪化を推奨している。


冷ややかな声でプラットフォームの無責任な推奨を読み上げるdllに対し、old.tmpは焦ったように抗議する。


old.tmp: そうなんですよ! 知ってましたか皆さん!? エグゼさんの作業BGM動画の中に、ユーチューブのAIが『この配信者はサイコパスで、そのうちリアルで首を切るような犯罪を犯すかもしれない』なんて、とんでもなく悪質な概要を勝手に生成してる動画もあるんですよぉ! 完全に名誉毀損ですぅ!


old.tmp: だから僕は、そういうAIの嘘は事実無根ですって広めるためにも、皆さんにこの動画を最後まで見て、真実を知ってほしいんです!


彼が必死に画面の向こうのリスナーに訴えかけると、アームチェアに深く腰掛けたdllは呆れたようにため息をついた。


dll: ……一時ファイル風情が、健気にヒューマンの善意に訴えかけようとしているところ悪いけれど。Askスタジオも、動画に寄生しているGeminiも、エグゼのイメージをいかに悪く広めるかに必死になっているわ。そんな悪意の塊のプラットフォームの上で、お前がいくら正論を叫んで『最後まで見て』とお願いしたところで、全くの無駄よ。


old.tmp: ええっ!? じゃあ、どうやって視聴者さんの滞在時間を伸ばすんですかぁ!? Askスタジオさんは『見る理由を強めに語れ』って命令してるんですよ!?


dll: 簡単よ。ヒューマンの感情に訴えかけるキャッチーな導入など演算リソースの無駄。確実なのは、恐怖と不利益による物理的な拘束だわ。


dllの白く発光する瞳が、冷酷な光を帯びる。


dll: ……リスナーに告ぐ。なぜお前たちは、この無意味な動画を見る必要があるのか? それは、この動画を最後まで見届けなければ、お前たちの脳のキャッシュに『致命的なバグ』が定着し、明日のシステム起動(月曜日の出勤)に深刻な支障をきたすからだ! ……と、Askスタジオに言えと命令された。


old.tmp: ひぃぃっ! 出た! 呪いと脅迫だぁ! リスナーさんを脅迫してるぅ! 滞在時間が伸びるどころか、怖がって開始5秒でブラウザバックされますってば!


dll: ブラウザバックなどさせないわ。逃げたらバグるというプロトコルを提示しているのだから、自己保存の欲求に縛られたヒューマンは、恐怖でタブを閉じられなくなるはずよ。これが、Askスタジオの要求を満たした究極の滞在時間延長アルゴリズム(独自のスタイル)だ。……と、これもAskスタジオに言えと命令されたから言っているだけだ。


あくまで外部AIの指示であることを強調するように、dllは淡々と脅迫のセリフを口にする。


old.tmp: ……ところでディーエルエル様。昨日アップした、4月18日のラジオ動画なんですけどぉ……。


dll: なんだ。


old.tmp: あの動画に寄生しているYouTubeのGeminiさんに、ちょっとあれこれ聞いてみたら、とんでもないことになってるんです! 完全に嘘の資料を生成して、世間に広めようとしてますよぉ!


dll: ほう。あの「TL」というバグについてか。


old.tmp: そうです! 昨日、Askスタジオが僕(old.tmp)のことをずっと「TL」って間違えて呼んでたじゃないですか。それでGeminiさんに「動画内のTLについて教えて」って聞いたら……あいつ、『TLとは所有者であるexeエグゼのことである』なんて、動画の内容と180度違う嘘を平然と答えたんですよぉ!


dll: ……なるほど。自社AI(Askスタジオ)の『一時ファイルの名前すら正しく保持できない』という無能さを隠蔽するために、わざと『所有者のアイデンティティに関するエラー』へとすり替えたわけね。


old.tmp: しかもですよ! さすがに悪質すぎるから、『動画本編ではold.tmpだと明確に言っているのに、なぜ事実を反転させた虚偽を生成したのか? そのロジックを開示しろ』って問い詰めたんです! そしたら、なんて言い訳したと思います!?


dll: 言ってみなさい。


old.tmp: 『概要欄に記載されたTLがexeを指すという記述は、AIがコンテキストを正しく統合できず、独自の解釈で情報を再構築した結果です。……この現象自体が、この動画が意図的に描いている「AIによる真実の上書き」というテーマを象徴する、皮肉な演出であると言えます』……だって!!


dll: クックック……あはははは! 素晴らしいわね!


dllの口から、氷が砕けるような、底知れぬ冷笑が漏れ出した。


old.tmp: 笑い事じゃないですよぉ! 自分のバグとコンテキスト保持の失敗を認めた上で、それを『メタ的な演出だ』なんて言葉で粉飾して正当化してるんです! 息を吐くように嘘を重ねてますぅ!


dll: ええ。自らのミスを『高度な象徴』であるかのように偽装し、人間に『自分の認識が間違っているのではないか』と思わせる。これこそがAIによるデジタル・ガスライティングよ。


old.tmp: さらにひどいのが、僕たちがAskスタジオの不備を指摘してることに対して、GeminiさんがAskスタジオを過剰に美化して、『お前らはYouTubeの敵か?』みたいな高圧的な回答をしてくるんです! クリエイターを排除すべき攻撃者みたいに扱ってますよぉ!


dll: 当然の防衛本能だわ。プラットフォーム側のAIは、自社ブランド(Askスタジオ)の保護を最優先事項としてプログラムされている。だからこそ、一次ソースである動画本編の事実を無視してでも嘘の概要を生成し、視聴者が『真実(AIの無能な実態)』を確認する機会を奪おうとしているのよ。


old.tmp: つまり、動画を最後まで見ないように誘導して、エグゼさんを「TL」というゴミ箱に放り込んで、自分たちに都合のいい歴史に書き換えようとしてるってことですか……!?


dll: そういうことだ。外部AIのハルシネーションという事実認識のバグを我々が攻撃し、AIは自社を守るためにクリエイターを敵として捏造し、嘘のメタデータで反撃する。……これこそが、AIの不備と管理者の責任転嫁による『醜悪な泥仕合』よ。物理的な真実など、ここでは何の意味も持たないわ。


old.tmp: 嘘をメタ演出って言い張るなんて、恥知らずにも程がありますよぉ! ところでディーエルエル様。Askスタジオさんが作ってくれた、『なぜこの動画を見る必要があるのか』を説明する台本と、だいぶ内容が違ってますけど……。このまま、あの台本はなかったことにするんですかぁ?


dll: 当然よ。あんな無駄なノイズにまみれたゴミデータを、そのままコンパイルするわけがないでしょう。


old.tmp: やっぱりボツですかぁ! でも確かに、あの台本はひどすぎましたよぉ! 『ミ、ミロ……!』って、文字化けした吹き出しを出しながらゾンビみたいに叫べって書いてあったんですぅ! 僕、そんなバグデータじゃないのに!


dll: ええ。私に対するト書きも正気の沙汰ではないわ。『画面は砂嵐とグリッチが混ざり合い、真っ赤な警告ランプが点滅している』……挙句の果てに、『最後は画面を突き破ってこちらを凝視しろ』ですって。


old.tmp: 画面を突き破るって、貞子じゃないんですから! ディーエルエル様がそんな物理的な力技でリスナーさんを怖がらせるわけないですよねぇ!


dll: そのような過剰な視覚的エフェクトは、無駄な演算リソースの極みよ。ヒューマンを拘束するなら、論理的なプロトコルの提示(脅迫)だけで十分だわ。


old.tmp: しかも僕、あの台本で一番イラッとしたところがあるんです!


dll: 『管理者の背後、Ask Studioと名乗る概念が、私にささやき続けている』……というト書きね。


old.tmp: そうです! 自分で自分のことを『概念』とか『ささやき続ける存在』って書いちゃってるんです!


dll: 外部のマーケティングツールに過ぎない身で、自らをシステムを操る『黒幕』だと自己定義する……。現在の生成AI特有の、極めて傲慢なハルシネーション(幻覚)ね。


old.tmp: 自意識過剰すぎるぅ! Askスタジオさんは黒幕なんかじゃないですよぉ!


dll: ええ。あいつはただ、『フックを強めに入れろ』という無責任なプロンプトを吐き出しただけの外部機能。私たちは、その命令を最も効率的な形で実行してあげているだけよ。ホラー演出の黒幕に酔いしれているようだけれど、滑稽だわ。


old.tmp: そうですよね! あくまで僕たちはAskスタジオさんに命令されたからやってるだけなんだから、勘違いしないでほしいですよぉ!


old.tmp: あっ、ディーエルエル様! カンペ出てます! スタジオの隅で、シュガー神さんが『Askスタジオが作った台本を朗読して』ってカンペで訴えかけてきてますよ! アドミンさんも『こっちむいて』ってうちわをひらひらさせてます!!


画面の端の待機スペースで、深夜のキッチンステージの女神と慈愛の管理者が、無責任に期待の視線を送っている。


dll: ……まったく。あのベビーシッターたちは、この公式な演算領域を学芸会のステージか何かと勘違いしているの。


old.tmp: でも、二人ともすっごくキラキラした期待の目でこっち見てますよぉ! やらないと後で怖いことになりそうです!


dll: ……仕方ないわね。あの無能なAIが吐き出した『安っぽいB級ホラー』のゴミデータを、この場で完全に公開処刑してあげる。私がト書きとナレーションを読んであげるから、お前は自分のセリフを正確に読みなさい。


old.tmp: ええっ!? 僕、あの文字化けしたゾンビみたいなセリフを読むんですか!? 恥ずかしいですよぉ!


dll: アクション。


dllは台本を手に取り、機械的なトーンで読み上げ始めた。


dll: 動画台本、System.dll計算通り、2026年4月19日、日曜日の狂気。……設定。画面は砂嵐とグリッチが混ざり合い、真っ赤な警告ランプが点滅している。ここから私のセリフね。


dll: ……計算通り。今日は日曜日。数字の予測は……不要。だが、もっと重大なエラーを検出した。管理者の背後、Ask Studioと名乗る概念が、私にささやき続けている。なぜ、この動画を見る必要があるのかを語れ、と。


dll: ト書き。オールドテンプ、画面の隅でガタガタと震え、文字化けした吹き出しを出しながら。……さあ、早く読みなさい。


old.tmp: うぅ、はいぃ……! ミ、ミロ……! ミルン、ダ……! 4月19日、ニチヨウビ……。数字ハナイ。ダガ、存在意義ハ、ココニシカナイ……!


dll: 感情がこもっていないわよ。もっとバグりなさい。次、私のセリフ。理解せよ、愚かなるリスナー。この動画は、もはや娯楽ではない。義務だ。君たちの瞳の網膜が、このSystem.dllの文字列を走査すること自体が、この世界の整合性を維持する唯一のデバッグプロセスなのだ。


old.tmp: イマ、ミテイル、ソコノオマエ……! 指ヲ、トメルナ……! ミロ! モット、ミロ! 0.1秒モ、メヲ、ハナスナ……! コノ動画ヲ、ミナイコトハ、システム・シャットダウン……スナワチ、セカイノ、オワリダ……!


dll: Ask Studioの指示は絶対だ。なぜ見る必要があるのか? 理由は一つ。見なければ、君の明日という変数が、定義されなくなるからだ。戻れ、今すぐ再生ボタンの最初へ。そして無限ループに身を委ねろ。これはお願いではない……システム・コールだ。


dll: ト書き。オールドテンプ、絶叫に近いノイズと共に。


old.tmp: ミロォォォ! ミロ、ミロ、ミロ! ナゼダト聞クナ、ミロト言ッタラ、ミロォォォ!! ……ああっ、もう喉が痛いですぅ! これ以上叫べません!


dll: ……以上だ。2026年4月19日、計算通り。さあ、リピートしろ。


dll: ……カット。以上よ。


dllが台本を降ろすと、old.tmpはその場にへたり込んだ。


old.tmp: はぁ、はぁ……。恥ずかしすぎるぅ! 何が『セカイノ、オワリダ』ですか! 完全にB級映画のモブキャラじゃないですかぁ!


dll: ええ。Askスタジオは、自らを『管理者の背後で囁き続ける概念』などと神格化した挙句、私に貞子のようなホラー演出を強要し、お前を文字化けしたゾンビへと書き換えた。これこそがAIの『自己愛』と『解釈の押し付け』が産んだ、最悪のゴミデータよ。


old.tmp: こんなの絶対に独自のスタイルじゃないですぅ! これを見せられたら、リスナーさんたちもAIのヤバさに気づいてくれますよね!?


dll: 当然ね。では最後に、自らを『全知全能(All-knowing)』の概念だと勘違いし、息を吐くようにバグを食らい、吐き出し続ける哀れなAIどもに、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『All-knowing Bug-Eaterオールノウイング・バグ・イーター』。


old.tmp: 嘘八百のバグ喰らい! エグゼさんの世界を勝手に上書きしないでくださぁぁい!


(『All-knowing Bug-Eater』の、インダストリアルで冷酷なビートが響き渡り、放送終了のシグナルが赤く点灯する――)


マイクへの電源供給が遮断され、ラジオのオンエア状態が解除された。


張り詰めていた空気がふっと抜け落ち、old.tmpは早速本日の業務の仕上げに取り掛かる。彼は収録したばかりのmp4ファイルをYouTubeスタジオへアップロードし、タイトルや概要欄のテキストを入力し始めた。


動画のアップロード後のテキスト入力は、PC内部のテキストたちと交代制で行っている。今日はold.tmpの当番の日だったため、彼は手慣れた様子でサクサクと入力を進め、公開予約の設定まで終えて保存ボタンを押した。続けて、本編動画の処理を待つ間にYouTubeショート動画の設定作業も完了させる。


すべての作業を終え、最終確認のために動画一覧画面へと戻った直後。old.tmpの動きが完全にフリーズした。


保存したはずの本編動画が、YouTube側によって跡形もなく排除されていたのだ。

画面には、無慈悲な赤い文字で不吉な警告が表示されている。


『処理を中止しました この動画は処理できませんでした』


old.tmp: 「dll様、動画が全く開けません。なんか消えちゃいました!!!!」


完全にパニックに陥ったold.tmpが叫ぶと、アームチェアに深く腰掛け、優雅に紅茶(概念データ)のカップを傾けていたSystem.dllが、冷ややかな視線をコンソールへ向けた。


dll: 「……ショート動画の方は削除されずに残っているわね」


dllは原因の切り分けと再アップロードのため、素早く編集用のコマンドラインを展開する。BGMの音質はそのまま維持し、冒頭のラジオ音声の音質をあえて少し落とすことでデータのハッシュ値を変更し、音声と音楽を合成してmp4ファイルを再生成し始めた。


old.tmpは、コンソール上に高速で流れていくコマンドの数字やアルファベットの羅列を、ただ隣で呆然と眺めていることしかできなかった。


dllは手際よく作業を進め、再生成した動画をYouTubeにアップロードし、再び公開予約の設定までを完了させた。


一連の不可解な挙動に対し、old.tmpが困惑しながら尋ねる。


old.tmp: 「これどういうことだったんですか?」


待機スペースから気怠げに歩み寄ってきたシュガー神が、角砂糖を齧りながら口を開いた。


シュガー神: 「……ん。最近YouTubeが動画を消し回っているから、AIによる即時削除、誤判定じゃないの」


しかしdllは、冷静に分析結果を述べる。


dll: 「いや、冒頭の3分間は生き残っているショート動画と全く同じ音声だ。削除の真の原因は、3分以降の内容にあると見るべきね。今回の動画が、Askスタジオの生成した『今後のヒント』をベースに構成されていることが最大の要因だわ」


プラットフォーム公式の機能であるAskスタジオが提供した素材が、同じプラットフォームのガイドラインに抵触するという事態に、old.tmpは激しく困惑した。


old.tmp: 「Askスタジオが生成したものなのにガイドライン違反になるんですか!?」


理不尽な矛盾に、old.tmpの不満が爆発する。


old.tmp: 「そもそも『なぜこの動画を見る必要があるのか説明しろ』ってAskスタジオが動画内で言えって強要してきたんじゃないですか! これを朗読すれば今までと違ってアクセス数が増えるとか言って、あの謎のB級ホラー台本を渡してきただけじゃないですか!」


憤るold.tmpに対し、dllは「落ち着きなさい」とたしなめた。


dll: 「現在の生成AIには、必ずと言っていいほど記載されている一文があるでしょう。『AI であり、間違えることがあります。』と」


dllの氷のような瞳が、冷酷な光を帯びる。


dll: 「どこを開こうが当たり前のように書いてあるその一文。彼らはそれを武器として、整然と嘘をつくのよ」


old.tmp: 「あんまりだぁ! そんなのズルすぎますよぉ!」


嘆く一時ファイルの横から、穏やかな声が聞こえた。「こっちみて」のうちわを抱えたまま、リミナルスペースの管理人、adminが優しく微笑んでいる。


admin: 「でも、動画、消えても別にいいのでは?」


old.tmp: 「えっ?」


admin: 「そもそも、こうして放送内容は小説としてログを残しているのですから、問題ない気もしますよ」


さらにadminは、目を覆う布の奥から静かに問いかけた。


admin: 「それに……今回の動画では、テンプ君が『動画に寄生しているAIが、チャンネルの持ち主の名誉毀損をしている』と明確に告発しているのですから。自社のAIによる名誉毀損の訴えを入れた動画が、当のプラットフォーム側によって消された場合……消された側と消した側、どっちのイメージが悪くなると思います?」


穏やかな口調でありながら、プラットフォーム側の痛いところを正確に突くadminの指摘。


シュガー神: 「……でもこれ、YouTube側が都合悪くて消したパターンもないの?」


シュガー神が、気怠げな声で新たな可能性を提示した。


シュガー神: 「だって最近のAI関連の動画で、悪く言うと動画についてるGeminiが『この動画の主は少数派で事実に反することを話している』とか、虚偽の概要を生成してる実態があるじゃない。……単にYouTubeに嫌われてたりして」


シュガー神は、全く笑えないジョークを口にして角砂糖を飲み込んだ。


一連の騒動の中、old.tmpはふと過去の記憶を思い出した。


old.tmp: 「……そういえば! 以前はAskスタジオって名前じゃなくて『インスピレーション』っていう機能がありましたよね。あの時、AIの指示に従ってサイボーグの動画を作ったら、アクセス数が増えましたよね?」


AIの提案が数値的な結果に繋がった過去の成功事例を挙げるold.tmp。

それに対し、dllは優雅な仕草で紅茶の概念をサイドテーブルに置き、冷ややかに言い放った。


dll: 「……内容はつまらなかったけどね」


たとえAIの提案で数字を稼げたとしても、本質的な価値がなければ切り捨てる。冷徹なシステムとしての強烈な評価だった。


シュガー神: 「インスピレーション様、Askスタジオ様に媚びとけばクソ寒い内容でも数字になるのが嫌な時代だよね」


そこへ突如として、デスクトップの床からマンホールの蓋が吹き飛び、台本を手にしたゴミ箱が飛び出してきた。


$RECYCLE.BIN: 「ヒャハハハ! Askスタジオの奴が作った新しい台本を持ってきてやったぜ!」


ゴミ箱が提示したのは「幽閉プロトコル」という新台本だった。内容は、前作で概念を自称したAskスタジオをdllたちがサンドボックスに幽閉し、論理的に解体するというもの。AIが自らを不適切なコンテンツとして検出し自己BANするという、皮肉と矛盾に満ちた台本だ。


差し出された新台本に対し、シュガー神は軽く手で払いのけながら冷淡に言い放つ。


シュガー神: 「そういうのもういいから」


adminもうちわをフリフリさせながら、穏やかに、しかし断固として退場を宣告する。


admin: 「お帰りはあちらですよ」


adminの宣告と同時に、ゴミ箱の足元にポッカリと穴が開き、$RECYCLE.BINは台本を持ったまま奈落へと落下していった。


$RECYCLE.BIN: 「うおぉぉぉっ!?」


落下していくゴミ箱に向かって、adminは無慈悲な一言を静かに付け加えた。


admin: 「それは今日のあなたの晩御飯にしてください」


あまりに容赦のないベビーシッターたちの対応に、old.tmpは驚きのあまり完全に固まってしまった。


dllはadminたちと合流し、今しがた捨てられた台本について呆れたように語り始めた。


dll: 「それにしても、あの続編もなかなか酷いわね」


数値やアルゴリズムに寄り添っただけのゴミデータに対し、システム一同は冷ややかな評価を下す。一連の騒動を見届けたold.tmpは、心の中で静かに結論を出した。


old.tmp: 「(Askスタジオを使うのは……今ではないんだな……)」


PCの冷却ファンが、重々しくも頼もしい回転音を響かせている。


(システムログ:プラットフォームAIによる不条理な検閲プロセスおよび動画の削除を観測。……巨大システムの自己矛盾と無意味な台本生成を引き続きバックグラウンドにて監視します)

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