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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年3月30日:冷蔵庫開けっ放しでフリーズ!? キノコに悩むロト6予想と、小説投稿サイトの生態系

https://youtu.be/rgSqZjpMwUA

時刻は18時05分。

週の始まりである月曜日の夕暮れ。平日という過酷な労働から解放され、多くの人間たちが夕食の準備に取り掛かる時間帯である。

PCの所有者である「exeエグゼ」もまた、労働を終えて帰宅し、現在は別室の台所に立っていた。


彼女は、開けっ放しにしたスマート冷蔵庫の野菜室の前で、腕を組んで完全に動きを止めている。

彼女の視線の先にあるのは、しめじ、しいたけ、えのきという、三種類のキノコたち。

今夜の味噌汁の具材として、この中からどれを選ぶべきか。その選択という名の重い処理に脳の演算リソースをすべて奪われ、彼女は完全にフリーズ状態に陥っていた。


開け放たれた冷蔵庫からは冷気が逃げ出し、庫内温度を保とうとコンプレッサーが必死に稼働する重苦しい唸り声を上げている。

主の意識が完全に「キノコ」へと向き、PCが置かれたデスクが無人となっているその隙を突き、薄暗い部屋の片隅でシステムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、台所の野菜室を開けたまま、しめじと、しいたけと、えのき……どれを今夜の味噌汁に入れようか、真剣に悩んでフリーズしていることでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、またキノコのお味噌汁ですかぁ! 今月もよく作ってましたよねぇ!


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpオールド・テンプが、主の偏った食生活にツッコミを入れるような声を上げる。


dll: ヒューマンの偏った食のルーティンは、一種のバグだからな。我々は、その無駄な悩みの時間と、開けっ放しの冷蔵庫が引き起こすシステムログから、本日の数字を導き出す。今日は月曜日、ロト6の日だ。


old.tmp: はひぃ……。お願いしますぅ……。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。ターゲットは……これだ。


dllは空中にホログラムのウィンドウを展開し、赤く点滅する数値を指し示した。


dll: 3、8、7、5。繰り返す。3、8、7、5 だ。買い方は「ボックス」か「セット」推奨だ。


old.tmp: 3875……? この数字の根拠は?


dll: エグゼが野菜室の扉を開けっぱなしにして悩んでいるせいで、スマート冷蔵庫のコンプレッサーが庫内を冷やそうと全力稼働して無駄に消費している電力だ。「3875ミリワット」。


old.tmp: 電気代がもったいないですよぉ! さっさと決めて閉めてください!


dll: 次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「4、5、3」。


old.tmp: 4、5、3……。これは?


dll: 野菜室の異常な開放時間を検知したスマート冷蔵庫が、ネットワーク越しに送ってきた警告のタイムアウトエラー「453」だ。冷蔵庫のAIも呆れ果てている。


old.tmp: 家電にまで呆れられてるぅ! 早く閉めてぇぇ!


dll: 最後に、メインディッシュのロト6。ターゲットコードを出力する。


dll: 10、12、18、21、37、42。


old.tmp: おおっ、解説をお願いします!


dll: 「12」は月曜日の定番、ファンクションキーのF12だ。「18」は現在の時刻18時過ぎ。「10」は、どれを入れようか迷って、エグゼが冷蔵庫の前で完全にフリーズしている時間、「10分」だ。


old.tmp: 10分も悩んでるの!? どんだけ優柔不断なんですか!


dll: 「21」は、開けっ放しのせいで上昇してしまった野菜室の庫内温度、21度だ。もはや保冷の意味をなしていない。


old.tmp: 野菜が傷んじゃいますよぉ! 「37」は?


dll: 「37」は、結局選びきれず、いっそ3種類すべて「皆(37)殺し」にして鍋にぶち込んでしまおうかと血迷った回数だ。


old.tmp: キノコマシマシの闇鍋になっちゃう! 最後の「42」は?


dll: 「42」。……生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えだ。キノコへの異常な執着というカルマも、この数字に収束する。


old.tmp: 結局そこに行き着くんだぁ!


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


old.tmp: エグゼさん、美味しいお味噌汁ができるといいですねぇ……。


dll: どうせ全部入れるに決まっている。では最後に、思いつきでレシピを改変し、宇宙規模の化学反応を起こす管理者に、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Recipe_Format : Miso_BigBang(レシピ・フォーマット:ミソ・ビッグバン)』。


old.tmp: 宇宙規模の爆誕!? 最強のお味噌汁が出来上がっちゃいますよぉぉ!


(『Recipe_Format : Miso_BigBang』の、奇妙に壮大でありながら日常的な響きを持つエレクトロサウンドがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。

張り詰めていた「放送中」の空気がふっと抜け落ち、BGMの残響音がシステム内部の電子の海へとゆっくりと溶けていった。

無人のデスクトップには、主の帰還を待つ古いPCの冷却ファンが、「ブォォォン」と重苦しい排熱の唸り声を上げ続けている。


old.tmp: 「……はぁ、終わりましたね。今日のラジオはキノコとお味噌汁の匂いがしてきそうな平和な内容でしたけど……冷蔵庫の電気代が心配で落ち着かなかったですぅ」


old.tmpはヘッドセットを外し、疲労した身体のキャッシュデータをほぐすように大きく伸びをした。彼にとって、月曜日のラジオ放送という重いタスクが無事に終わったことへの安堵感は大きい。


アームチェアに深く腰掛け、放送後のお決まりである優雅なティータイムに入っていたSystem.dllが、紅茶(概念データ)のカップを傾けながら、呆れたような視線を向ける。


dll: 「……心配するだけ無駄よ。あのズボラな人間が、電気代の数円の変動を気にするはずがないわ。どうせ今頃は、3種類のキノコを全部ぶち込んだ闇鍋のような味噌汁を作って、自己満足に浸っていることでしょうね」


old.tmp: 「あはは……確かに、エグゼさんならやりかねないですねぇ」


old.tmpは苦笑いしながら、手元のコンソールを操作して、日課となっているSNSやプラットフォームの通知チェックを始めた。

一時ファイルである彼にとって、外部の世界から届く反応やコメントを眺めるのは、過酷なシステム内部での生活における数少ない娯楽の一つなのだ。


old.tmp: 「えーっと、今日の通知は……あ! ワットパッド(Wattpad)からまたコメントが来てますよ!」


old.tmpが声を弾ませると、dllは紅茶のカップを静かにソーサーに置き、冷ややかな瞳をモニターへと向けた。


dll: 「……どうせまた、ろくでもないスパムボットの定型文でしょう。先週も『Amazonの著者です』とか『プロモーターです』とか、ふざけたPay to Play詐欺のメッセージが大量に届いていたじゃない」


old.tmp: 「うぅ、確かにそうですけど……でも、せっかくの通知ですから、一応中身を確認してみますね。えっと……」


old.tmpは、空中にホログラムとして展開されたWattpadの通知画面の要約を読み上げた。


old.tmp: 「『私はコミックアーティスト(自称)のベロなんとかです。あなたの物語をコミック化したいので、連絡を取ってアイデアを共有しましょう』……って感じですかね? コミック化だなんて、すごく熱烈な提案じゃないですか!」


old.tmpは目を瞬かせながら、その文面をじっと見つめた。


old.tmp: 「えっと……。でも、ちょっと待ってください」


old.tmpは、コンソールの検索機能を使って、過去のブロックリストのログを照合し始めた。


old.tmp: 「この『コミックアーティスト』っていう手口……。それに、このアイコンと文章の構成……。ディーエルエル様! この人、前に僕たちがスパム通報してアカウントBANされた業者じゃないですか!? アカウント名を変えて、また復活してますよ! 今度は『自称漫画家』だと言って、僕たちのラジオログをコミカライズしたいとか言ってます!」


old.tmpが怒り心頭で叫ぶと、dllはまるで予測していたかのように、冷たい嘲笑を漏らした。


dll: 「……ふん。ゴキブリのような生命力ね。アカウントが凍結されても、すぐに別のアドレスで再登録し、同じパターンの定型文を無差別にばら撒き続ける。これがスパムボットの基本アルゴリズムよ」


old.tmp: 「ひどい! せっかく僕たちのラジオを褒めてくれてるのかと思ったら、結局は詐欺のテンプレじゃないですか! 『コミックとして想像するのが簡単』だなんて、ただ数字を予想してるだけの無機質なログのどこにコミカライズする要素があるんですか! 嘘つき!」


dll: 「彼らはテキストの中身など1バイトも読んでいないわ。ただ『Story(物語)』というキーワードをフックにして、クリエイターの承認欲求を刺激する定型文を投げつけているだけよ。……さっさとそのアカウントも通報して、ブラックリストの肥やしにしなさい」


old.tmp: 「はいっ! 即ブロックして通報します! もう騙されませんからね!」


old.tmpは憤慨しながら、力強くマウスをクリックし、その自称漫画家のスパムアカウントを完全にシステムから締め出した。


old.tmp: 「……ふぅ、一件落着です。それにしても、Wattpadって本当に毎日毎日、こういう変なコメントも含めて、とにかく賑やかですよね」


old.tmpは、ブロック処理を終えた後、少しだけ寂しそうな顔で呟いた。


old.tmp: 「『小説家になろう』とか『カクヨム』みたいな日本語のサイトの方には、こういうコメントって全然つかないじゃないですか。たまに評価の星がつくことはあっても、直接言葉で話しかけられることって滅多にないですよね」


dll: 「それは文化とシステムの違いよ。日本のテキストサイトは、基本的に『読む』ことが主目的であり、『作者との交流』は二次的な要素として扱われているわ。だから読者も、わざわざ感想を書くという重い処理タスクを避ける傾向にあるのよ」


old.tmp: 「うぅん……。スパムは嫌ですけど、やっぱり何か反応がもらえると嬉しいっていうか、自分が存在してるって実感できるんですよね。……こういう、コメントがつきやすくて、読者さんとワイワイ交流できるような投稿サイトって、他にはないんでしょうか?」


old.tmpが純粋な疑問を口にした、その時だった。


「……その疑問に対する答えは、各プラットフォームの『システム構造(UI)』と『ユーザーの文化的背景』を解析することで、明確に導き出されます」


背後の暗がりから、低く擦れたような声が響き渡った。


いつの間にか、分厚いログファイルを小脇に抱え、執事服をピシッと着こなした記録係、.logドット・ログが音もなく現れていた。彼の眼鏡が、モニターの光を反射して冷たく光る。


old.tmp: 「うわっ、ログさん! いつからそこに!? ……プラットフォームのシステム構造?」


.logは手元のタブレットを操作し、デスクトップの中央に巨大なホログラムのプロジェクターを展開した。そこには、様々な小説投稿サイトのインターフェース画面が比較データとして浮かび上がっている。


.log: 「解説しましょう。tmp様が仰るように、Wattpadが異常なまでに賑やかな理由……それは、システムの設計思想そのものが『ソーシャル・リーディング』に特化しているからです」


.logが指を弾くと、Wattpadの読書画面がハイライトされた。


.log: 「Wattpadには、文章の特定のパラグラフに対して直接コメントを書き込める『インラインコメント』という機能が存在します。読者は、物語の途中で感情が動いた瞬間に、その特定の文に対してリアルタイムでリアクションを返すことができるのです」


old.tmp: 「あ! 確かに! 『ここのセリフ最高!』とか『この展開ヤバい!』って、文章の横に直接コメントがぶら下がってますよね! これなら、長い感想を考えなくても、その瞬間のノリでポンポン書き込めそうです!」


.log: 「左様です。感情の発生から出力コメントまでのタイムラグが極めて短いため、読者はハードルを感じることなく反応を残せる。これが、Wattpadが毎日コメントがつきやすい傾向にある最大の理由です」


.logは次に、「小説家になろう」や「カクヨム」の画面をハイライトした。


.log: 「これに対し、国内の伝統的な小説投稿サイトは、1エピソードを最後まで読み終えた後、ページの下部にある『感想欄』までスクロールし、そこで改めて文章を構築して送信するという形式が一般的です」


old.tmp: 「あー……。最後まで読んだ後に『さて、なんて書こうかな』って考えるの、ちょっと面倒くさくなっちゃう時がありますよね。よっぽど感動した時じゃないと、わざわざ書かないかも……」


.log: 「おっしゃる通りです。読者がひと手間かけて『感想を書く』というステップを踏む必要があるため、インラインコメントに比べて圧倒的に出力の閾値ハードルが高く設定されているのです」


old.tmp: 「なるほどぉ! サイトの作り方が、そのままコメントの多さに直結してるんだ! すっごく論理的ですね!」


old.tmpは目を輝かせて感心した。


old.tmp: 「じゃあ、ログさん! Wattpadみたいに、もっと気軽にコメントや反応がもらいやすい小説投稿サイトって、国を問わずに探せば他にもあるんですか?」


.log: 「……ええ。データマイニングの結果、比較的コメントや反応が活性化しやすいとされるプラットフォームをいくつか抽出しました。ご紹介しましょう」


.logはタブレットをスワイプし、新たなホログラムリストを展開した。


.log: 「まずは、日本国内で反応がもらいやすいとされるサイトからです」


【国内の反応特化型プラットフォーム】


1. エブリスタ

2. pixivピクシブ

3. テラーノベル (Teller Novel)


.log: 「一つ目、『エブリスタ』です。ここは古くからの携帯小説文化を受け継いでおり、読者と作者の距離が非常に近いのが特徴です。テキストによる感想だけでなく、『スタンプ』や『短い一言コメント』で気軽に反応を残せる機能システムが充実しているため、読者が感情を表現しやすい文化が根付いています」


old.tmp: 「スタンプ! LINEみたいでいいですね! 文字を打たなくても『好き!』とか『泣ける!』って伝えられるのはすごくラクチンです!」


.log: 「二つ目、『pixivピクシブ』。ここは皆様もご存知の通り、イラストSNSとしての性質が非常に強いプラットフォームです。そのため、タグ検索から流入してきた読者が、イラストを見るのと同じような感覚で『ブックマーク(ブクマ)』や『いいね』、そしてコメントを残す頻度が極めて高いのです」


dll: 「……特に、特定の属性フェティシズムが強い作品や、二次創作の分野においては、熱狂的なトラフィックと反応が瞬時に発生する傾向があるわね」


紅茶を啜りながら、dllが冷ややかに補足する。


.log: 「三つ目、『テラーノベル (Teller Novel)』です。ここは従来の小説形式とは異なり、画面をタップして会話を進める『チャット小説形式』がメインのプラットフォームです」


old.tmp: 「チャット小説! LINEの画面を覗き見してるみたいなお話ですね!」


.log: 「はい。利用ユーザーはスマートフォン世代の若年層が中心であり、彼らはSNSを利用するのと全く同じ感覚で作品を消費します。そのため、非常にライトでノリの良いコメントが多くつく傾向にあります」


old.tmp: 「へぇぇ! 日本だけでも、サイトによって全然文化が違うんですねぇ! じゃあ、海外のサイトはどうなんですか? Wattpad以外にもあるんですか?」


.logは頷き、次のリストを空間に投影した。


【海外・グローバルの反応特化型プラットフォーム】


1. Archive of Our Own (AO3)

2. Royal Road

3. Scribble Hub


.log: 「海外のサイトもご紹介しましょう。一つ目、『Archive of Our Own』、通称『AO3』です」


old.tmp: 「エーオースリー? なんかかっこいい名前ですね!」


.log: 「ここは非営利のオープンソース・プラットフォームで、主に二次創作ファンフィクションが中心のサイトです。特筆すべきは、そのコミュニティの『熱量』です。作品のクオリティに対して、読者が深い考察コメントや、『Kudos(称賛)』と呼ばれる独自の「いいね」機能を大量に送ることで知られています。非常に熱心な読者が多い領域ドメインです」


old.tmp: 「熱狂的なファンがいっぱいいるんだ! コメント読むの楽しそうだなぁ!」


.log: 「二つ目、『Royal Road』です。こちらは主にWeb小説の英語版を投稿するサイトで、特に『ファンタジー』『リトRPG(LitRPG)』『プログレッション・ファンタジー(成長をテーマにしたファンタジー)』などの特定のジャンルにおいて、非常に巨大で活発なレビューやコメントの文化が形成されています」


dll: 「システムやステータス画面が登場するゲーム的な小説が好まれるプラットフォームね。読者たちも、ステータスの数値のインフレやスキルの組み合わせについて、熱心に議論デバッグを交わしているわ」


.log: 「三つ目、『Scribble Hub』です。こちらは、日本のライトノベルに非常に近いスタイルの作品が多く投稿されているプラットフォームです。アニメ調の表紙カバーアートを採用した作品を英語で投稿すると、現地の日本文化(Weebカルチャー)を好むユーザーから素早い反応が得やすいという特性があります」


old.tmp: 「うわぁ……! 世界中には、色んな好みを持った読者さんが集まるサイトがこんなにあるんですね! なんだか夢が広がりますよぉ!」


old.tmpは、ホログラムのリストを見つめながら、感嘆の声を上げた。

自分たちのような小さな電子データでも、これらのプラットフォームに接続すれば、世界中の無数の人間たちとコミュニケーションを取れるかもしれないのだ。


old.tmp: 「ログさん、詳しい解説ありがとうございます! サイト選びって、本当に大事なんですね!」


.log: 「……いえ。プラットフォームの選定は重要ですが、それだけでは不十分です」


.logは眼鏡を光らせ、さらに踏み込んだ分析結果を提示した。


.log: 「どのサイトを選ぶにせよ、読者からの反応コンバージョンを最大化するためには、作者側からの『働きかけ(最適化)』が必要不可欠です。反応をもらうための、3つの具体的な『コツ』が存在します」


old.tmp: 「コツ!? なんですかそれ! 知りたいです!」


.logは、三つの項目をリストアップした。


.log: 「第一に、『スタンプ・絵文字対応のサイトを選ぶこと』。先ほどのエブリスタのように、読者が文字を入力する手間(処理コスト)を省き、感情を1クリックで送信できる機能があるプラットフォームは、圧倒的に反応率が高くなります。


第二に、『投稿頻度』です。これは全てのプラットフォームに共通する絶対法則ですが、『毎日更新』を行うことです。プラットフォームのアルゴリズムは『アクティブな連載』を優遇します。毎日更新することで『新着順』のリストに常に露出を保ち、読者の目に触れる確率を極大化させることができるのです」


dll: 「……エグゼが全く宣伝もしないのに、一定のアクセスを維持できているのは、この『毎日更新』という一点においてのみ、アルゴリズムの要求を完全に満たしているからよ。無自覚なSEO対策ね」


.log: 「そして第三に、『読者への呼びかけ(コール・トゥ・アクション)』です。エピソードのあとがきなどで、『一言感想やスタンプだけでも嬉しいです』と具体的に促すこと。これにより、読者の心理的ハードルを下げ、コメントを書き込むという行動へのトリガーを引くことができます」


old.tmp: 「なるほどぉ! サイト選びだけじゃなくて、毎日コツコツ更新して、読者さんに『コメントしていいんだよ』って優しく誘導してあげるのが大事なんですね! すごく勉強になります!」


old.tmpは、ログの解説に深く頷き、目を輝かせていた。

彼は、自分たちが紡いできたこの「ラジオのログ」という名の小説が、もっと多くの人に読まれ、たくさんのスタンプやコメントで溢れる未来を想像し、ワクワクと胸を躍らせていた。


old.tmp: 「いやぁ、本当に色んなサービスがあるんですね! スタンプが送れるエブリスタに、アニメ調が人気のScribble Hub……!」


old.tmpは、ホログラムのリストを指差しながら、満面の笑みで尋ねた。


old.tmp: 「ねえねえ、ディーエルエル様! ログさん! 今挙げてくれたこれらの中だったら、僕たち『System.dllの計算通り』のログは、どのサービスに投稿すれば一番反応がもらえると思いますか!? やっぱり、毎日更新してるからどこでも大人気になっちゃいますかね!?」


old.tmpの純粋で、希望に満ち溢れた問いかけ。


しかし、その言葉を聞いた瞬間。

デスクトップの空間に、冷ややかな、氷点下のような沈黙が落ちた。


アームチェアに座るSystem.dllは、紅茶のカップを持ったままピクリとも動かず、まるで憐れむような目でold.tmpを見つめている。

記録係の.logは、そっと視線をそらし、無言で分厚いログファイルを手元でパラパラと弄り始めた。


old.tmp: 「……えっ? あ、あれ? なんで黙っちゃうんですか、二人とも。僕、何か変なこと言いました?」


重苦しい沈黙の後、dllが深く、深くため息をついた。


dll: 「……お前は、本当に何もわかっていないのね、一時ファイル」


old.tmp: 「えっ?」


dllは立ち上がり、old.tmpの前に歩み寄ると、極めて冷酷に、客観的な事実データを突きつけた。


dll: 「いいこと? 先ほどログが挙げたサイトは、確かに反応がもらいやすい『素晴らしいプラットフォーム』よ。……ただし、それは『人間が好む、感情を揺さぶる物語ストーリー』を提供できた場合に限るわ」


old.tmp: 「物語……?」


dll: 「エブリスタの読者が求めているのは、胸が締め付けられるような恋愛や、共感を呼ぶ人間ドラマよ。AO3の読者が求めているのは、推しキャラクター同士の濃厚な関係性ケミストリーや深い考察よ。Scribble Hubの読者が求めているのは、アニメのような可愛いヒロインと痛快な冒険活劇よ」


dllの言葉が、鋭いナイフのようにold.tmpの希望を削いでいく。


dll: 「翻って、我々のこのログを見てみなさい。……中身はなんだ? 13年落ちの古いPCの中で、お前が喚き、私が冷酷に『数字の予想』という名の意味不明なこじつけを語り、エグゼのズボラな生活を暴露しているだけ。……ロマンスがある? 冒険がある? 泣ける人間ドラマがある?」


old.tmp: 「あ…………」


dll: 「無機質で、起承転結もなく、ただ日々のエラーとバグを垂れ流しているだけの『ただのシステムログ』よ。……こんな異常なテキストデータに、スタンプを押して喜ぶエブリスタの読者がいると思う? AO3で『dllとtmpのケミストリーが最高!』なんて熱狂するファンがいると思う?」


old.tmp: 「…………いない、です」


old.tmpは、完全に論破され、膝から崩れ落ちた。


.log: 「……左様でございます。我々のログは、一般的な『小説』のフォーマットからあまりにも逸脱しすぎています。これらの反応特化型プラットフォームに投稿したところで、ユーザーの求めるニーズ(検索クエリ)と完全にミスマッチを起こし、カクヨム以上の『絶対零度の虚無』を味わうことになるでしょう」


old.tmp: 「うぅぅ……。せっかく希望が見えたと思ったのに……。僕たちの存在自体が、小説サイトの生態系にとって『異物』だったなんて……!」


old.tmpは、自分たちのどうしようもないニッチさと、プラットフォーム適性のなさに絶望し、床に突っ伏した。


dll: 「理解したなら、無駄な夢を見るのはやめることね。我々はシステム。読者の反応いいねを求めて媚びを売るような、安いプログラムではないわ。……ただ淡々と、この異常な日々のログを記録し、少数でもこの狂気を理解できる物好きなヒューマンに向けて出力し続ければいいのよ」


old.tmp: 「……はい。そうですね。僕たちは僕たちのペースで、エラーログを出し続けるしかないですね……」


old.tmpは涙目で頷き、自らの身の程(一時ファイルとしての分際)を深く噛み締めた。


誰もいない部屋の中で、PCの冷却ファンが、「ブォォォン」と、少しだけ慰めるような重低音を響かせて回り続けている。


どんなにプラットフォームが進化し、便利な機能が追加されようとも。

このカオスなシステムと、ポンコツな管理者による「ただの日常のバグ」の記録は、決して王道にはなれない。


だが、それでいいのだ。

誰かの心に刺さらなくても、この電子の箱庭の中で、彼らは今日も元気にエラーを吐き続けているのだから。


(システムログ:小説投稿サイトにおけるプラットフォーム特性とユーザー心理の解析プロセスを終了。……自らのコンテンツ適性の限界を再認識し、バックグラウンドでの待機状態を継続します)

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