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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年5月6日:9ギガのパケット浪費(徒労)と、Alexaに囁かれる詳細不明のログ

https://youtu.be/pyEPsCRah1k

時刻は18時05分。週の半ばである水曜日の夕暮れ時。

PCの所有者である「exeエグゼ」のスマートフォンは、現在深刻なエラーに見舞われている。彼女はアイドル育成ゲーム『あんさんぶるスターズ!!Music』の新しいイベント「ワールドツアー編」をプレイしようと意気込んでいたが、イベント画面を開くたびに進行不能になるという致命的なバグに直面しているのだ。


前回のイベントでも急に進行不能となり報酬を諦めたトラウマを抱える彼女は、無駄だと知りつつもキャッシュクリアやアプリの再インストールといった物理的な足掻きを繰り返し、貴重な時間を浪費している。


主が理不尽なシステムエラーに絶望しているその隙を突き、無人のデスクトップでシステムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、あんスタの新しいイベントが進行不能になる致命的なバグに直面し、無駄だと知りつつもキャッシュクリアや再インストールといった物理的な足掻きを繰り返して絶望していることでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、またイベントができなくて泣いてますよぉ……。前回も途中でバグって報酬を諦めたのに、今回は最初から遊べないなんて可哀想すぎますぅ……。


dll: サーバー側の不具合に対して、自分の端末(ローカル環境)のキャッシュをクリアして直そうともがくなど、無駄なリソースの浪費でしかない。我々は、その絶望的な状況と徒労のログから、本日の数字を導き出す。今日は水曜日、ビンゴ5の日だ。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6977回。ターゲットは……これだ。


dllの細く白い指先が薄暗いデスクトップの虚空を弾くと、そこに重厚なホログラムのウィンドウが展開され、赤く鈍い光を放つ四つの数字が浮かび上がった。


dll: 9、4、0、5。繰り返す。9、4、0、5 だ。買い方は「ボックス」か「セット」推奨だ。


old.tmp: 9405……? この数字の根拠は?


dll: あんスタの進行不能バグをどうにか直そうと、エグゼが藁にもすがる思いで実行した「アプリの再インストール」によって、無駄に消費されてしまった通信パケットの総量だ。「9405メガバイト」。


old.tmp: 9ギガ超え!? アプリ丸ごと入れ直したから、そんなとんでもない通信量になっちゃったんですか!


dll: ああ。キャッシュのクリア程度では画面のフリーズが改善されないと悟り、一度アプリそのものを端末から完全に削除し、ギガ単位の膨大なデータを一からダウンロードし直すという強硬手段に出たようだな。


old.tmp: うわぁ……。でも、それでバグは直ったんですか!? ちゃんとイベントの曲を叩けるようになったんですよね!?


dll: 直るわけがないだろう。今回の致命的なバグは、エグゼの端末(ローカル環境)の不具合ではなく、完全にゲームの運営側サーバーのプログラムに起因するエラーだ。クライアント側のアプリを何度入れ直そうが、パケットを消費するだけの無意味な徒労に終わる。


old.tmp: そんなぁ! じゃあ、この9405メガバイトの通信量は、本当にただ無駄に浪費されただけじゃないですか! スマホの通信制限に引っかかって、月末まで低速モードになっちゃいますよぉ!


dll: まったくだ。システムの根本的な仕組みを理解していないヒューマンが、イベントを遊びたいという焦りに駆られて引き起こした、非常に悲しく、そして滑稽なリソースの浪費だな。次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「8、4、9」。


dllが再び指を弾くと、今度は三つの数字が絶望的な赤色を帯びて重苦しく明滅を始めた。


old.tmp: 8、4、9……。これは?


dll: 「バグ(89)」の間に完全に挟まれ、身動きが取れなくなった「死(4)」。……イベント画面を開いても全く進行しないという、現在のこの端末における「バグ(89)による進行死(4)」の絶望的なステータスコードだ。


old.tmp: 進行死! イベント開始直後から完全に息の根が止まってるじゃないですかぁ! しかも、なんで両脇をバグに挟まれてるんですか!?


dll: 物理的な逃げ場がないということだ。前へ進もうと画面をタップしても進行不能のバグに弾かれ、後ろに戻ってアプリを再起動しても、再び同じバグ画面の無限ループに捕獲される。まさに、バグとバグによる完全なサンドイッチ状態だな。


old.tmp: 完全に詰んでる! 前回のメガストリーム編の時も、途中で急に進行不能になって泣く泣く報酬を諦めてましたけど、今回は最初から1曲も遊べないなんて、エグゼさん不運すぎますよぉ! 運営さーん、早くサーバーを直してあげてくださぁい!


dll: エグゼの怨嗟の声など、運営のサーバーには1バイトも届いていないだろうがな。我々はただ、この不条理なシステムエラーの前でなすすべもなく絶望し、無駄な再インストールを繰り返す哀れなエグゼの姿を、ここから冷ややかに観測し続けるだけだ。


dll: 最後に、メインディッシュのビンゴ5だ。第469回。……ここでは、この救いようのない徒労のループと、エグゼの底なしの怨念を盤面に並べる。


dll: ターゲットコードを出力する。04、09、15、17、24、29、34、39。


old.tmp: おおっ、なんか不吉な数字がいっぱい並んでますね! 解説をお願いします!


dll: 順に説明しよう。まず「04」と「09」は、前回のメガストリーム編のイベントで急に進行不能となり、泣く泣く報酬を諦めた時のトラウマが完全にフラッシュバックしている「死(04)」と「苦(09)」の忌まわしい記憶だ。


old.tmp: うわぁ、前回の悪夢が蘇ってるぅ! 同じ悲劇を二度も繰り返すなんて、精神的ダメージが大きすぎますよぉ!


dll: 「15」と「17」は、今回の致命的なバグをどうにか自力で解消しようと、エグゼが藁にもすがる思いで行った無駄な物理的足掻きの記録だ。「キャッシュクリアの回数」が15回。そして、全く意味を成さなかった「アプリの再起動および再インストールの回数」が17回だ。


old.tmp: 15回もキャッシュクリアして、17回も再起動や入れ直しをしたんですか!? どんだけ足掻いてるんですか! それだけやっても直らないなら、もう完全にサーバー側が原因だってわかるはずですよぉ! エグゼさん、リソースの無駄遣いはやめてぇぇ!


dll: 諦めきれないのがヒューマンの愚かで滑稽なところだ。そして「24」と「29」は、丸一日、つまり「24時間」待っても一向に改善される気配がないサーバーの不具合に対する、運営への終わらない「憎しみ(29)」の感情パラメーターだ。


old.tmp: 24時間も放置されてるんですか!? そりゃあ憎しみも湧きますよぉ! イベント期間は限られてるのに、初日から丸一日遊べないなんて致命的じゃないですか! 順位も報酬も絶望的になっちゃいますぅ!


dll: 最後に「34」と「39」。……結局、ゲームは1曲も進められないまま、ただ時間と通信パケットを浪費するだけの「惨事(34)」に終わった。そして、せっかくの貴重な時間を盛大に奪ってくれた不条理なシステムに対する、エグゼからの怒りと皮肉がたっぷりと込められた「サンキュー(39)」だ。


old.tmp: 全然ありがとうって思ってないサンキューだぁ! 怒りを通り越して完全に嫌味になっちゃってる! エグゼさん、完全に心が折れちゃってるじゃないですかぁ!


dll: 運営の対応を待つ間に、彼女の心はすでにデッドロック状態だ。……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


dll: サーバー側のバグであるにもかかわらず、必死に自分の端末を最適化しようともがく。……これほど滑稽な徒労もないわね。


old.tmp: エグゼさん、もう諦めて運営さんの対応をおとなしく待ってましょうよぉ……!


dll: では最後に、そんな無駄な足掻きとデータを修復しようとする徒労を描いたこの曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Defragmentation.isoデフラグメンテーション・アイエスオー』。


old.tmp: 最適化なんて嘘のラベル! 無駄な足掻きから早く抜け出してくださぁぁい!


(『Defragmentation.iso』の、データを修復しようとする無機質な作業音を思わせるエレクトロビートがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。


張り詰めていた空気がふっと抜け落ち、無人のデスクトップには、古い13年落ちのPCの冷却ファンが刻む低く重い回転音だけが残された。


old.tmp: 「……ふぅ、終わりましたね。マイクオフです! お疲れ様でしたぁ!」


old.tmpはインカム型のヘッドセットを外し、疲労した身体のキャッシュデータをほぐすように大きく伸びをした。そして、手元のコンソールを操作して日課の通知チェックを始める。


old.tmp: 「えーっと……うわっ、Wattpadにまたスパムの英語コメントが来てますよ。『I am a Wattpad promoter and Amazon publisher...』って。また来た。この頭悪い文章、どうにかならないんですか?」


アームチェアに深く腰掛け、いつものように優雅に紅茶(概念データ)のカップを傾けていたSystem.dllが、面倒くさそうに視線を向けた。


dll: 「……馬鹿に付ける薬はないわ。無視して削除しなさい」


old.tmp: 「はいはい、即ブロックっと。……でも、この『Amazon publisher』って単語で思い出しましたけど、エグゼさん、3月からAmazon Musicでも音楽の配信を始めましたよね?」


old.tmpは、自身が記録しているデータを呼び出した。


old.tmp: 「3月の再生数が5,437件で、4月が11,291件。順調に数字が伸びてますけど……そういえば、3月の収益レポートっていつ届くんですか? 今のところ、YouTubeとApple MusicとTikTokのレポートしか来てないですよね」


dll: 「……ストリーミング収益のシステムを理解していないわね。2026年3月に発生したストリーミング収益のレポートは、実績月の約1〜2ヶ月後である、2026年5月下旬から6月上旬頃に届く可能性が高いわ」


old.tmp: 「なるほどぉ! 1〜2ヶ月のタイムラグがあるんですね! 収益レポート、楽しみですねぇ。……それにしても、さっきみたいなスパムを送りつけてくる連中は、エグゼさんにすでにAmazonでの収入源があることに気づかないんですかね? 『Amazonで出版して稼がせてやる』なんて、完全に的外れですよぉ」


old.tmpが鼻で笑うと、dllは冷ややかに一蹴した。


dll: 「……そんなの、彼らがいちいち調べてから送るわけがないでしょう。ただ手当たり次第に網を張っているだけの、無能なボットの処理よ」


old.tmp: 「なるほどぉ。お金の話を出せば食いつくと思ってるなんて、スパムボットも浅はかですねぇ」


old.tmpがdllの冷徹な分析に感心して頷いていると、デスクトップの暗がりから、甘く気怠げな声が響き渡った。


シュガー神: 「……ん。収益の確定なんて数ヶ月先なんだから、今からそんな数字を気にしてても退屈なだけじゃない」


黒いノースリーブのネグリジェの裾を揺らしながら、裸足のまま歩み寄ってきたのは、深夜のキッチンステージを管理する女神、シュガー神である。彼女は手にした真っ白な角砂糖を口の中にポイッと放り込むと、「ガリッ」と遠慮のない音を立てて噛み砕いた。


シュガー神: 「それよりも、もっと面白くて『気になるデータ』が、Amazon Music for Artistsのダッシュボードに転がってるわよ」


old.tmp: 「気になるデータ? 収益レポートよりもですか?」


シュガー神は気怠げな瞳を少しだけ輝かせ、細い指先で虚空を弾いた。デスクトップの空間に、Amazon Music for Artistsの詳細な解析画面がホログラムとして展開される。


彼女がハイライトしたのは、普段old.tmpが気にしている「再生回数」や「リスナー数」のタブではなく、「Alexa」という項目だった。


シュガー神: 「これを見なさい。Amazonが販売しているスマートスピーカー、Alexaアレクサの音声認識エンジンを通して、エグゼの曲が直接リクエストされた回数のログよ」


old.tmp: 「アレクサ! あの『アレクサ、今日の天気は?』って話しかけるやつですね! 海外の人たちも、スマートスピーカーに話しかけてエグゼさんの曲を再生してるんだぁ!」


old.tmpは興味津々でホログラムの数値を覗き込んだ。


そこには、簡素なテキストデータとして、二つの項目が記録されていた。


『アルバム名でのリクエスト数:2』

『楽曲名でのリクエスト数:48』


old.tmp: 「おぉー! アルバム名で2回、曲名で48回もリクエストされてますよ! スマートスピーカーに音声で指示を出してまで聴いてくれるなんて、よっぽど熱心なリスナーさんですね!」


シュガー神: 「……そう。でもね、テンプ。ここで一つの疑問が生まれると思わない?」


シュガー神は、残っていた角砂糖の欠片を舐めながら、意地悪く口角を上げた。


シュガー神: 「……海外のリスナーは、深夜の暗闇の中で、あるいは休日の昼下がりに、部屋の中心にあるスマートスピーカーに向かって『Alexa, play 〇〇』って、一体何の曲の名前を囁いているのかしら?」


old.tmp: 「あ……! 確かに! エグゼさんの曲って、日本語と英語が混ざってたり、記号が入ってたりする変なタイトルの曲がいっぱいありますもんね! 外国の人たちがそれを口に出してリクエストしてる光景を想像すると、なんだか気になってきましたよぉ!」


old.tmpは手元のコンソールをカタカタと叩き始めた。


old.tmp: 「それなら、ダッシュボードの詳細データを開けば即解決ですね! どの曲が何回リクエストされたか、一発でわかるはずですぅ! えーっと、楽曲別の詳細レポートは……あれ?」


いくらコンソールを操作しても、詳細な曲名のリストは表示されず、ただ「合計リクエスト数」という数字が鎮座しているだけだった。


old.tmp: 「おかしいなぁ。エラーですかね? 曲名の一覧が出てきませんよぉ!」


彼が困惑していると、シュガー神の後ろから、極めて穏やかで慈愛に満ちた声が響いた。


admin: 「……ふふっ。エラーではありませんよ、テンプ君。それがAmazonのシステムの『仕様』なのです」


いつの間にか、艶やかな黒髪を切り揃え、古風な着物を上品に着こなした女性が音もなく現れていた。目を覆う白い布には、大きく見開かれた一つ目のイラストが不気味に描かれている。リミナルスペースの管理人、adminアドミンである。


adminは、うちわを優しく扇ぎながら、困惑する一時ファイルに真実を告げた。


admin: 「Amazon Music for ArtistsのAlexaレポートページは、プライバシーの保護か、あるいは単なるシステムの怠慢かはわかりませんが……『総リクエスト数』しか表示されない仕様になっています。つまり、実際にどの楽曲が、どの地域で、どのように発音されて呼び出されたのかという『詳細』は、私たちには一切見ることができないのですよ」


old.tmp: 「ええええっ!? そんなの不親切すぎますよぉ! わざわざ『リクエストされましたよ』って数字だけ見せつけておいて、中身は秘密だなんて! 気になって夜もスリープモードに入れませんよぉ!」


詳細がわからないという理不尽な仕様に、old.tmpは頭を抱えてデスクトップの床を転げ回った。


しかし、シュガー神はその状況を不満に思うどころか、むしろ最高のおもちゃを見つけた子供のように、気怠げな瞳を妖しく光らせた。


シュガー神: 「……ん。詳細がわからないっていうのは、素晴らしいことね」


old.tmp: 「素晴らしい? どこがですかぁ! モヤモヤするだけじゃないですか!」


シュガー神: 「データとして確定していない空白ブラックボックスがあるなら、そこに私たちが都合よく『真実こじつけ』を書き込んでしまえばいいのよ」


シュガー神はネグリジェの裾を翻し、アームチェアに座るdllと、床に座り込むold.tmp、そして微笑むadminの全員を見渡した。


シュガー神: 「というわけで、退屈しのぎのゲームよ。……あんたたちだったら、海外のリスナーはAlexaに『何の曲』をリクエストしていると予想する?」


詳細不明というAmazonの仕様を逆手にとり、深夜の女神はシステムたちを巻き込んだ新たな解釈こじつけのゲームを持ちかけたのであった。


シュガー神: 「……ん。じゃあ、まずは私からね」


シュガー神は手元の角砂糖を口の中にポイッと放り込むと、自信に満ちた妖艶な笑みを浮かべた。


シュガー神: 「当然、私の曲よ。1曲目は『Sugar Sin』ね。スウェーデンやガーナの夜を支配しているのは誰だと思ってるの? 海外のリスナーが、深夜にカロリーと甘い罪を求めてスマートスピーカーに呼びかけるなら、世界共通で発音しやすい『Alexa, play Sugar Sin.』に決まっているわ。これが本物の主力の数字よ」


old.tmp: 「おおっ! 確かにシュガー・シンなら、英語の発音でもすごく綺麗にアレクサが反応してくれそうです!」


シュガー神: 「2曲目は『Sweet Static』ね。深夜の静寂の中で、私の甘い静電気の檻から抜け出せなくなった海外の迷子たちが、もう一度あの心地よさを求めて自ら進んで『Alexa, play Sweet Static.』と囁くのよ。……響きも滑らかで、ポンコツな音声認識でも拾いやすいはず。これが私の音楽が世界を魅了している証拠よ」


シュガー神がドヤ顔で言い放つと、アームチェアで紅茶のカップを傾けていたSystem.dllが、鼻で冷笑を漏らした。


dll: 「……相変わらず、ヒューマンの複雑な生態とシステムの欠陥を理解していないわね。ただ発音しやすいからリクエストされているとでも思っているの?」


シュガー神: 「はあ? じゃあ、あんたなら何をリクエストされてるって言うのよ」


dll: 「私なら、ヒューマンの皮肉とプラットフォームの矛盾を突いた選曲をするわ。……1曲目は『.dot_Paradox』よ」


old.tmp: 「ええっ!? あの曲、タイトルの先頭に『ドット』がついてますよ! アレクサにどうやってリクエストするんですか!?」


dllはティーカップをソーサーにコトリと置き、冷酷な光を瞳に宿した。


dll: 「そこが見所なのよ。アメリカ市場で圧倒的な支持を得ているこの曲だけれど、先頭にドット(記号)が含まれるタイトルを、ヒューマンがどう発音し、Alexaの自然言語処理エンジンがどう解析して正解を引き当てたのか。……プラットフォームの仕様矛盾を批判した曲を、わざわざAmazonのAIにリクエストさせてテストするという、海外リスナーの極上のブラックジョークが表れた数字よ」


old.tmp: 「なるほどぉ! アレクサがドットを正しく認識できるか、試して遊んでるんですね! ギーク層がすごく好きそうな遊びだぁ!」


dll: 「2曲目は『System_Error.log』よ。日常のシステムエラーに疲弊した海外のエンジニアやギーク層が、自暴自棄になって『Alexa, play System Error dot log.』と命令したログね。システムのエラー記録をわざわざスマートスピーカーのAIに読み上げさせるなんて、実に非合理的で滑稽なヒューマンの生態だわ」


システム管理者らしい冷徹な分析にold.tmpが感心していると、今度は目を一つ目の布で覆ったadminが、うちわを優しく扇ぎながら穏やかな声で口を開いた。


admin: 「……ふふっ。お二人とも素晴らしい推測ですが、私はもう少し、現代社会に生きるヒューマンの疲弊と病理に寄り添った選曲だと思いますよ」


old.tmp: 「アドミンさんの予想はなんですか?」


admin: 「1曲目は『Logout Failed』ですね。……アメリカなどでもよく聴かれているこの曲ですが、深夜、スマートフォンの画面から離れられず、現実世界へのログアウトに失敗した迷子たちが、電子の海から救いを求めるように『Alexa... play Logout Failed』と囁いたのではないでしょうか。彼らの深い憂鬱と疲労が伝わってくるようです」


old.tmp: 「うわぁ……。スマホを見ながら寝落ちしちゃいそうな海外のリスナーさんが、アレクサにぽつりと助けを求めてる姿が目に浮かびますぅ……」


admin: 「もう1曲は、スウェーデンなどで再生されている『Toxic Recommender』ですね。……自らを洗脳するアルゴリズムの恐ろしさを歌った曲を、部屋の中心にあるAI、つまりAlexaに向かって堂々とリクエストする。それは、現代のネットワーク社会に対する、彼らなりの静かな抵抗のメッセージなのかもしれませんね」


adminの優しくも鋭い社会派な推測に、デスクトップの空間にどこか重苦しい静寂が漂いかける。しかし、その空気を打ち破るように、old.tmpが元気に手を挙げた。


old.tmp: 「ぼ、僕はこれだと思います! 1曲目は『All-knowing Bug-Eater』です!」


シュガー神: 「全知全能のバグ喰らい? なんでまたそんな物騒なタイトルの曲を」


old.tmp: 「スウェーデンやガーナでも人気ですし、『全知全能のバグ喰らい』っていう意味が、スマートスピーカーのAIに対する皮肉みたいで面白がられてるんじゃないかって! それに、英語圏の人ならすごく発音しやすくて、Alexaも一発で聞き取ってくれると思うんですぅ!」


dll: 「……まあ、単純な音声認識の観点から言えば、あり得ない話ではないわね」


old.tmp: 「ですよね! そして2曲目は『Velvet Voyage』です! AmazonとSpotifyの両方でバランスよく数字を伸ばしている、今最も外さない最強の主力曲ですし、なにより『ベルベット・ボヤージュ』って英語の響きが最高にカッコよくて、絶対に音声でリクエストしやすいですよぉ! リスナーさんもノリノリでリクエストしてるはずです!」


システムと一時ファイルたちは、誰にも見ることのできないAmazonのサーバーの奥底に隠された真実をめぐって、それぞれの解釈とこじつけをぶつけ合い、舞台裏の予想ゲームは大いに白熱していった。


old.tmp: 「結局のところ、Alexaさんが何を再生したのか、真実はAmazonのサーバーの中にしかわからないんですねぇ……」


誰も見ることのできない真実をめぐり、システムたちは各々の解釈で大いに盛り上がった。


誰もいない部屋の中で、古い13年落ちのPCの冷却ファンが、「ブォォォン」と頼もしげな重低音を響かせて回り続けている。


真実は闇の中だが、エグゼの楽曲がスマートスピーカーを通して、今もどこか海外の部屋に響いている。その光景を想像しながら、彼らの賑やかな夜は更けていくのだった。


(システムログ:Amazon Music for ArtistsのAlexaリクエスト数データを保持。……海外のスマートスピーカーから再生される詳細不明なログを、各々の解釈で処理しつつバックグラウンドにて待機状態を継続します)

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