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新入社員の緋墨くん

(発売記念に三話更新予定です。各店舗ごとに特典SSと、書籍版書き下ろしもあります。よろしくおねがいいたします)


20XX年X月12日


 どーも! わたくし、入社二週目の緋墨です!

 業務日誌をつける役目をいただいたので書いています。ぶっちゃけなんでも書いていいみたいです。誰も見ていないんですって! じゃあなんのためにあるんですかこの仕事!!

 参考になるかと思って倉庫で見つけた六年前の日誌を見てみたら、前半はまともだったのに後半知らん小説が連載されていたので、マジで誰も見ていないんだと思います。何のためにあるんですかこの仕事!!


 何のためにあるんですかこの仕事!! と琴浪先輩に聞きに行ったら、継続に意味があるんだろ、と言われました。死ぬほど面倒くさそうだったので、多分適当を言っています。そういう先輩です。

 納得がいかない顔をしていたのがバレたのか、更に適当を言われました。

 「別に心臓だって動いてるのに意味なんかないけど、止まったら困るだろ」だそうです。

 心臓は意味があって動いていると思いますけど。我々が生きていくために動いていると思いますけど。先輩の心臓って意味もなく動いているんですか? 怖くないですか? 日誌が心臓だとして、俺は嫌ですけどね、手動で動く心臓。


 何の意味もないのにマス目を1000文字分は埋めないといけないの意味分からなくないですか?

 そりゃあ小説の連載も始まってしまいますよ。『ブラック企業で働く俺が異世界転移したら最強チートでみるみる成り上がってハーレムに!?』みたいな内容のやつだって始まっちゃいますよ。なんだかんだでヒロインが可愛いんで、結構いいですよこれ。

 初手で死んだ主人公が死体のまま異世界に飛んで、ネクロマンサーのエリィちゃんに使役されるって話なんですけどね。主人公の死体を見たエリィちゃんが初っ端からゲロを吐いちゃって。でも「私が召喚した大事な子なんだから……!」って泣きながら修復してくれる治療院まで連れて行ったりして。二人の絆が深まったりして。

 ところでこの敵として出てくるマッツヴァーって松馬さんのことですか?


 仕事も覚えてなくて暇すぎたんで、琴浪先輩にもおすすめしておきました。

 あんまり読まない方がいいぞって言われました。

 なんか。

 これを書いていた社員の方、飛び降りちゃったんですって。


 それはちょっと。話が違うじゃないですか。先に聞いてたら、俺だって無理に触れませんでしたよ。もう消すの勿体ないから、書いちゃいますけど。


 ちなみに二年ほど前からは、毎日同じ文章が書いてありました。

 なんだー! そういうのありなんですか!


 毎日一字一句違わず手書きで1000字書くのとか無理なんで、やりませんけどね!




 20XX年X月2日


 全世界の皆さんこんにちは! 入社から一ヶ月くらい経った緋墨です! 全世界に発信しているという体でやっていきますが、この日誌はこの会社の倉庫から出ることは一生ありません。単純に、持ち出さない方がいいからです。


 いや。結局、わたくし全て読んでしまいまして。エリィちゃんと主人公くんは結局結ばれることなく未完で完結してしまったのですけれども。なんか寂しいなあと思っって。琴浪先輩は感想とか言い合えるタイプじゃないし、遺作になってしまったこれを無遠慮に公開して楽しむってのも違うとは思いますし。でも、なんか、ただ僕一人で読んで、ああ、この人の書くヒロイン可愛いなあなんて思ってるのに、もうその人がこの世にいないとか、悲しいじゃないですか。普通に。

 だから、まあ、信頼できる知り合い数人にだけね、見せようと思ったんです。松馬部長には許可取りましたよ。


 したらですね。

 いるんですよ。エリィちゃんが。


 窓の外に立っているんですよ。黒髪のハーフツインで胸の大きな魔法少女みたいなのがね、立ってるんです。外に。うちは三階なんですけど。ベランダがないタイプの物件なんですよ。窓の外には柵があるくらいでね。とにかく。


 立ってるんです。真っ白な顔した淀んだ目のエリィちゃんが。僕のこと見てるんですよ。

 なんて言えば良いんですかね。コスプレイヤーさんみたいに人間として表現できる風貌の美少女って感じではないんですよ。そう、言ってしまえばイベントの着ぐるみの顔を皮にして無理やり人間に貼り付けたみたいな、そういう、美少女の皮を被らされた何かが、突然現れた訳なんですね。


 嫌ですよね。普通に。無理ですよね。ぶっちゃけ。というかわたくし、普通に叫びました。二十歳超えた大人の男が。馬鹿みたいに。

 だから急いで日誌を倉庫に戻したんです。持ち出してしまったから良くなかったんだ、と思ったので。


 そしたら、やっぱり居るんですよ。うちに。窓の外にずっと立っているんです。

 あれは日誌に取り付いている社員の怨念か何かであって、持ち出されたことに怒っているのだとばかり思っていましたから、元に戻しても消えないのには当然取り乱しました。

 部長は何も問題はないと言っていた筈なのに。

 こんなことになると知っていたら、持ち帰りなんかしませんでした。


 家の外に魔法使いの女の子がいる時って、どうすればいいんですか?

 誰か助けてください。


 僕はこれを全世界に公開している体で書いています。そうしないと、不安でおかしくなりそうだからです。

 今日も家に帰らなければなりません。あの家に。エリィちゃんのいる家に。



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