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あそこに住んでいたら、出入りするのも大変だろうな。……いや、でも、ギンクちゃんの部屋の近くに、外へつながる場所がなかったっけ?
とはいえ、街中で、獣に近い獣人はあまり見かけないので、なにかあるのかもしれない。ヴォジアさんや、イベリスさんみたいな、人間ベースに獣の耳としっぽがついているパターンは結構見かけるけど。
「そういうアンタも買い物っすか?」
「いえ、ちょっと迷子のバルツオーネちゃんを郵便事業局へ届けに行った帰りです」
イベリスさんのせいで、だいぶ郵便事業局へと行くのが遅くなってしまったが、別に仕事をさぼっているわけではない。……今は、まあ、雑談してるわけだけど。誤差みたいなものだし、ヴォジアさんへの言い訳は、全部イベリスさんのせいにしてしまおう。
そんなことを考えながらわたしが言うと、「えっ」と、ちょっと喜んだような声を、彼は上げた。
「いいなあ。オレも後で少し寄ろうかな。あそこ、すごいっすよね」
すごい、というのが、みなまで言わなくとも、可愛いバルツオーネちゃんたちがが一杯いる、という意味合いで言っているのが、聞かなくとも分かる表情をしていた。
その表情を見て、ビビッとくる。
もしかしなくとも、猫好き同士……?
「……そういえば、アラインさんって、犬を使い魔にしないんですか?」
魔女が使い魔にするのは猫族ではなく犬族。かつて、旅商人に教えてもらったことだ。
ならば、似たような立場の魔法使いである彼も、犬を使い魔にするはず。アビィさんだって、猫が魔法使いの家にいることを警戒していたくらいだから。
いかにも猫好きそうな彼に、もしかして、と思って聞くと――。
「昔は犬族を使い魔にしようかとも思ってたんすけど、たまたまレティが家に迷い込んできて、そのまま飼ってたら可愛さに勝てなくなったんすよね。なんかもう、猫族の使い魔でもいっかなって。今じゃすっかり猫族の虜っすよ」
「……、分かるッ」
わたしはひっしとアラインさんの手をつかんで、上下に振った。めちゃくちゃ分かる。猫しか勝たん。
わたしの唐突な奇行にも、「猫可愛いっすよねー」と朗らかに返してくれるアラインさんに、わたしは感動した。
ゼインラーム王国にいたときは言わずもがな、こっちに来てからもわたしについてこられるレベルの猫好きはいなかったから、テンションが上がる。
「あ、レティと言えば……ちょっといいっすか?」
わたしはアラインさんに言われて、手を放す。その手で、彼はポケットを探り、何かを取り出した。




