Ⅱ-47:ボルベルブルーの試練
百数十フト程北へと進むと、ボルベルブルーは口を開いた。
「それでは試練を始めよう。なぁに、簡単なことだ。この我をいかなる手を以てでも良い、傷つけてみせよ!」
そう言うとボルベルブルーは強烈な上昇気流を生み出し、それを翼で受けると空へと飛びあがる。
さて、どうしたものだか。最悪の事態たるルとの全面衝突だけは避けられたものの、結局ボルベルブルーと戦うことになってしまっている。
旅団の皆もエレンなどのごく一部を除いて動かなくなっているし、彼らが先に動き出すか、或いはスコトリア軍の完全な無力化が終わってラルアを保護するのを待つべきか。
……いや、逆だ。この期に及んでラルアが運び出されたとすれば、ボルベルブルーは怒り狂うだろう。ならば、彼らが来る前に私は試練を終えて戻らなきゃいけない。
それか、私が地面から離れられなくなる代わりに、菌足を伸ばして到着したエレン達に事情を伝えられる体制を作っておくか。……こっちだな。
さて、まずは上空にいるボルベルブルーを撃ち落とさないといけない。まずは下降気流を生み出して、翼で受けているであろう上昇気流を打ち消す。
しかしルは落ちてこなかった。どうして? と思って空気の流れを注意深く見れば、ボルベルブルーの周りで吹いていたのは、上昇気流ではなく強力な向かい風だった。
こんな話がある。飛行機は、強力な追い風の中では飛ぶことができない。だから、同じ空港でも滑走路を走る向きが逆向きになるのだと。
ならば、と強力な追い風、そして翼の前側には追加の上昇気流を吹かせてみる。幸いにしてハルカのおかげであふれんばかりのマナがあるから、離れた場所に対しての魔法の使用が可能だ。
こうして十分な妖力を得ることができなくなったボルベルブルーは、今までピンと伸ばしていた翼を急にバタバタと羽ばたかせるも、その甲斐もなく墜落した。
その衝撃にガラスの大地が割れたので、地上を伸ばしていた菌足を回収して地中に伸ばし変え、ついでにルの下に魔法陣を描く。
「ククク、我を落としせしめるとは、お主なかなかやるではないか」
「誉め言葉として受け取っておきますよ。それじゃ、{減速}!」
ボルベルブルーの下の、土属性の暴発魔法陣を完成させて動きを封じる。
魔法陣から垂直方向への効力範囲は狭いが、その中に入った固体の運動エネルギーを奪う凶悪な魔法陣だ。自由落下中の物体にまで作用して重力によって与えられる運動エネルギーまでもを無限に吸い取ってしまうため、一瞬で暴発まで行ってしまう危険な魔法陣なので使うのを控えていたが、さっき兜割がブラックホールのように無限に魔力を吸ってくれることが分かったので使ってしまうことにした。
「あんたはもう、物理的に動けない」
(声すらも出せぬほどの強力な魔法か。だが、お主この試練をはき違えていないか? 我に負けを認めさせるのではないのだぞ?)
「ああ、覚えているさ。傷つけるんだろ、やってやるさ、{水刃}!」
この魔法陣が奪えるのは固体からだけ。ならば、流体で攻撃するまで!
しかし、ボルベルブルーの強靭な鱗に阻まれて水は弾かれてしまった。
(それだけか? この程度、痛くも痒くもない、精々くすぐったい程度だ。無理だと悟ったらいつでも言うがよい。我は彼女を連れていく準備はできている)
「あんたの鱗の強度を見ただけさ」
(その強がりがいつまで持つか、見物であるな!)
こっちはね、強靭な鱗を持つ奴とは一回やりあったことがあるんだ。なら、ロセの狙った場所と同じ場所を狙えばいい。
{水刃}を、今度はボルベルブルーの左目に向けて放つ。
(鱗がなければ通るとでも思ったのか? 大莫迦め)
……だめだったか。ならば、もうあそこを狙うしかない。
さて、この魔法陣、しまった体を中で直接取り出せば、取り出した瞬間にその場に固定される。しかも、普段だったら鉛直方向には体を伸ばせないが、この魔法陣の中では逆にそれが可能だ。そして、効力範囲の中で個体が液体になった場合は動くのである。
これらを使って体を積み足し、体の外側層の固体部分を酵素で溶かして管状に液体の層を形成しながら上に伸びる。目標は、ボルベルブルーの口の中だ。
歯の隙間から口の中に入り、そして人形を一旦仕舞ってこちらに持ってきて、この場所で再度取り出す。口の中は意外と狭く、体が入るだけで精いっぱいだった。
丁度エレンがラルアの下に到着したようなので、事情を話して待機させておく。
「さて、鱗のある外側じゃあダメだったようだが、こっちならどうかな!」
懸念材料は全て消えた。口の外の体を全てしまうことで、魔法陣もその力を発揮するのをやめ、固体が動くようになる。
それと同時に、私はマキリをボルベルブルーの口腔内に突き刺した。




