Ⅱ-45:動揺
「ははっ、化け物みたいな威力だ……」
「そういう君こそ、正面から{重ね合わせ光線}を完全に無効化してくるとはね。僕の武勇伝に君の名前を乗せてあげてもいいんじゃないかとも思っているよ」
口ぶりからして、どうも彼は自分が勝つということを疑っていないようである。
確かに、あれだけの威力のを二発撃ってもまだマナ切れを起こす気配すら見えない。本当に恐ろしいやつだ。
「ねえ、この僕に君のお名前をいただけるかな?」
「それはどーも。言っておくけどこのサーシャ・タカトオ・ナガノ・ニホン、素直にお前に負けてやるつもりはない!」
そう答えを返すと、いつ何時も笑みを絶やさなかったハルカの顔が、急に固くなった。
どうかしたのだろうか?
「……高遠、長野……!? ちょっと待って、君、魔物だよね?」
「あぁ、そうさ。私はいっぱしの自律人形に過ぎない」
なぜかはよくは分からないが、彼は急に狼狽し、戦場にもかかわらず「なんで」「どうして」「嘘だ」などと繰り返し叫び始めた。
あまりにも急激な変化に、警戒すら忘れて完全に困惑してしまう。しばらく呆れかえっていると、ようやく弱弱しくも震えた声でハルカは呟く。
「あっちには、魔物なんていなかった」
「前の世界ではヒトという獣だったさ。気付いたら、そうではなくなっていたけどね」
まあ、ちょっとばかりごまかしてる部分もあるけど、今のところ嘘は言っていない。
ハルカを見れば、何かにおびえた様子でプルプルと震えている。
「嘘、うそでしょ……。僕が、今までしてきたことは……? 君が代は、千代に八千代に、さざれ石の」
「巌となりて、苔のむすまで。どうしたんだ? いきなり君が代なんて歌いだして」
「あ、ああああああああああああ!!」
いや、本当にいきなりどうしたんだコイツ。
とりあえず、抵抗もされなさそうな今のうちに彼の持つレイピアや杖を没収しておこう。
「さて、何かよくわからんがお前は事情をいろいろ知ってそうだから拘束させてもらう。……って」
気絶してやがる。本当に何があったんだよコイツ。
とりあえず縄を取り出してぐるぐる巻きにして拘束する。
それと、ラルアは……うん、息はしているな。
私一人ではどうしようもないので、菌足を伸ばす。サナトスは戦闘を継続していて呼べる状況ではない。って事は、旅団の方だな。
集団の中から、一人の妖花人を見つけて話しかける。
「エレン大佐、少しよろしいですか」
「誰……、あぁ、サーシャ君か。要件は?」
「硬山の北は戦闘終了、一名拘束、ラルアが負傷。数名ほど救援が欲しい」
「ラルアが、負傷……?! 了解、調整す……っ、総員、警戒!」
そう話をつけていると、西から何か強い気配が近づいてくるのを感じる。
……西? 西にはコナジ達がいるはず。まさか、スコトリアの援軍が到着して挟撃されたのか? いや、違う。この風の息遣いを感じるに……地上ではなく、空だ。
何か円柱形の物が、音速を超えて近づいてきている。
ミサイル? いや、違う。長い円柱の後ろに一対の大きな翼がある。下側がまっすぐで上側が膨らんでいる、飛行機のような翼。
その飛行物体は翼の角度を上げて翼の前の円柱を短くすると、半ば失速するような感じで硬山の山頂に降り立った。
それは、長い首に一対の翼、そして二対の脚を持ったドラゴンだった。
「久方ぶりに帰ってくれば、どうしてまた世界を歩く者がぶつかり合っているのか! 周旋龍ボルベルブルー=ビルバルザークの名の下に鎮まれ、≪一界之主≫!」
その声が戦場に響いた瞬間、戦場にいた者は……急にそのほとんどが動きを止めて、虚ろな目をして静かになった。
周旋龍、ボルベルブルー。その名はオウォッキャンにいる頃、トシフからキングモービィの話がてらに何度も聞いた事がある。
曰く、太古より残る最古にして最強の生命体の一体。古代文明の崩壊を経験し、それを防がんとした赤の英雄だと。
ボルベルブルーは辺りを見回すと、何かを見つけたようで北側に降りようとしている。
……まさか。
「エレン大佐、私は先にラルアの元に戻ります」
「了解。時間はかかるかもしれないが、この機にスコトリア軍を完全に無力化してから向かう。ご安全に」
「ご安全に」
意識を人形に集中させる。案の定、ボルベルブルーはまっすぐとこっちに向かって降りてきているようだった。
体高、およそ二十フト。そこまで大きくはないながらも、三百五十フトもあったキングモービィよりも圧倒的なオーラを感じる。
逆光の中降りてくるその姿は、美しい、と言うより他無かった。
★Tips:妖花人
妖花人は、環境の急激な変化に適応するため、移動を行うように高度に進化した茄子の一種で、つる植物の人族である。
自分で動くことができるようになったため、その星型の花は鳥や虫ではなく同種族にアピールするために美しく進化し、生殖に適さない時期でも生殖目的ではない花のようなもの(こちらは星型とは限らない)をつける個体も多い。
その果実は栄養価も高く美味であるが、個体の裁量で猛毒を持つこともあるため、優良な関係を築いておくことが推奨されており、これも生存戦略の一種であると主張する学者も多い。




