Ⅱ-44:一筋の光
偽りの暗闇の中で戦いが始まってから暫くが経った。残念なことに私は肉弾戦に関してはトシフから多少手ほどきを受けた程度でしかないため、こんな激戦の最中への割り込みなんてできるはずもなく、ただ地面の下から魔法攻撃を続けていた。
攻撃がお互いにひと段落したのだろうか? それとも大技のタメにでも入ったか、多少余裕も出てきたようで、ラルアは再び口を開いた。
「あたし達はね、召喚されて右も左も分からないうちに洞窟に閉じ込められた。生き残るためには、一緒に召喚された皆を食べるしかなかった」
「わざわざ魔物を召喚する物好きもいるんだね」
ハルカはラルアの言葉を聞き流すように答える。
なんかさっきから個人的にすごく気になる単語が続出してるが、今、水を差すのはよろしくないだろう。後で聞こう。
「しらばっくれないでほしいんだけど?! サナトスが助けてくれて知ったよ、あそこがスコトリアの地下実験場だったんだって! それに、あたし達をあんなところに召喚したのがスコトリアだったってことは、ハルカ・ミナミアルプス、あんたの存在が証明している!」
「……言いたいことはそれだけ? 大量の魔物を召喚して殺し合いをさせるってのは、面白いアイデアだねぇ、確実に強い魔物と狩りをできる。こんなふうに、ね! {重ね合わせ光線}!」
すると、ラルアに向けられていたハルカのレイピアが急に光りだした。それを認知した瞬間、強烈な青い光の暴力が私達を襲う。
幸いにしてその威力は{消波}の魔法陣によりほぼ無効化することができた。何が起きたのかは分からなかったが、光の波動エネルギーから還元された魔力の量が瞬間的にえげつないことになっていた。恐らくはソニックウェーブの音波のように光の波を重ね続けたものだろうか?
ともかく、これ以上{消波}を続けていると流石に体内に魔力が溜まりすぎてしまうので、カモフラージュのために人形を取り出して一旦魔法陣を崩す。
……そうだ。私は魔法陣に加えて土の中にいたからかなり威力が減衰されていた。じゃあ、直接攻撃を受けたラルアは? そんな疑問を抱えながら、ラルアを見る。
燃え尽きたかのように、完全に白くなっていた。
手を取れば、その表面にはヒビが入る。慌てて手を放そうとすると、僅かに、弱弱しい力で握り返された。
「ごめ、ん。無茶、しちゃった」
「……へえ、こいつは{重ね合わせ光線}を耐えたんだ」
直ぐに右後方に兜割を構えれば、何かを受け止める感触。動かなくなったラルアから手を離し、一旦飛び上がって間合いを確保する。
狂気の笑みを浮かべたハルカが、そこにはいた。
「今回の聖戦に参加できて本当によかったよ。君みたいな面白い魔物に出会えたから」
「そう、私は最悪だよ。お前みたいな奴がいて」
「ははっ、誉め言葉として受け取っておく、よ!」
そういうと彼はもう一度{重ね合わせ光線}を出さんとしているのか、レイピアをこちらに向けようとしている。
……まずい。今の私が{消波}を使えば、確実に魔力を吸収できずに体に流してしまう。
技能でやれば減衰しきれずに波を直撃、魔法陣でやれば体全体での暴発。何もしなければどっちに転んだところで大ダメージは不可避だ。≪並行思考≫で同時にいくつかの解決策を模索する。
魔術の乱発――下手すると火災旋風みたいに自分に跳ね返る、否決。
しまっている体からの空マナ融通――可決。
≪中心教義≫による巨大建造物の建造――倒れているラルアを巻き込みかねない、否決。
大量の魔力の注ぎ込み――注ぎ込む魔道具が……いや、待て。魔導具だけど兜割がある、可決。
とりあえず思いついた二つの方法を実行し、左掌に{消波}の魔法陣をもう一度準備しておく。
「でも、これでおしまい。{重ね合わせ光線}」
「まだまだぁっ! {消波}ッ!!」
ハルカは案の定青い光線を撃ってきたので、魔法陣と技能の{消波}で無力化を試みる。
刹那、膨大な魔力が私の体を駆け巡る。それを今度は全て兜割に流して処理する。
実際の時間では一秒にも満たないこの作業が、体感時間では永遠に続くかのように感じられた。




