Ⅱ-32:所属決定
地上に出て人形に戻り、兜割で氷のドームを割って、ラルアを開放する。
「うぅ、危なかったー。あたし寒じるのには弱くてさ、体をあっためるのが追い付かなくてあとちょっとで動けなくなるとこだったよ。あたしの負けだね!」
ラルアは氷の中から出てくるなり、元気にそう口を開いた。
なんだあ、ピンピンしてるじゃないか。
「いやいや、こっちだって、体が凍ったら制御できなくなって暴発させる所だったんだ。制限時間が無かったら勝てなかったかもしれない」
「模擬戦程度でそんな捨て身の作戦を取らないでほしいわ……」
いつの間にか審判台から降りてきたサナトスに苦言を呈されてしまった。
でも、仮に魔法陣が凍ってしまったとして、最悪一旦しまってから地上に出して割ればいいので、暴発すること自体には問題は無いんだけれど。
「で、ラルア。率直な感想を聞かせてほしいんだけど、サーシャの戦い方、どう思った?」
「あたしと一緒で、どの部隊に入ってもやっていける程度には強いけど、部隊行動に向いてない」
ラルアは急に真面目な顔と声で、そうはっきりと言い放つ。
確かにアレを戦場でやったら確実に味方も巻き込んでしまうんだけれど、面と向かって言われると凹むなぁ。
「だからね、あたしは単独行動の多い諜報部隊が向いてると思う。さっきも最後までどこにいたかわかんなかったし」
「諜報、ね。確かに、サーシャさんは諜報向きではあるけれど……どう、サーシャ?」
「どう、って言われても、信用の一つもない新人の傭兵に任せていい仕事ではないでしょう」
きっぱりと断っておく。
私としては情報が集まるだろうからむしろ喜んで受けてもいいんだけど、絶対それ新人の傭兵に任せたらいけない仕事でしょ。
私は、最低限その程度の分別は弁えているのだ。
「それもそうねぇ……。よし、決めた。貴女は私直属で諜報活動をしてもらうわ」
「ちょっと待て、話聞いてたか?」
「ベネフィットがコストを上回るとの判断よ。実際のところ、先ほどの問に肯定で答えれば別の部隊に飛ばすつもりだったけど、貴女はきちんとわかっていて否定した。それに、諜報と言っても貴女にやってもらうことはただ一つ、敵の監視だけ。注意力が高いラルアですら貴女が地面に潜っていると気づかずに地上を探していたんだから、これ以上の適材がどこにいるのよ」
「え、地面に潜ってたの!? そんな気配、全くしなかったけど」
「ラルア。先に喋ると模擬戦の意味がないから黙ってたけど、サーシャは魔導埃黴でもあるの」
あ、言ってなかったんだ。ラルアは信じられないとでも言いたげな顔でまじまじと私を見つめている。
先に出会ったのがこっちの姿だったら、普通信じられないよな……。
「ほ、ホコリ……カビ? 汚い?」
「いや、汚くはないから」
こればっかりはきっぱりと否定しておく。
っていうかそうだよな、名前的にそういう反応になるよなぁ……。
むしろ、今まで教えたのって……ミーシャはカビだとわかって接触してきたし、三人はそもそもテタニがカビから薬を作っていることを知っている。ハラモにリンパオは厳正な職務中、ロセは同じ日本生まれだという認識が先で、キイヨとユゥは魔法陣という接点で魔導埃黴がどういう生物かを知っていた。うん、いままで教えてた人たちやタイミングがおかしかっただけで、ラルアの反応が正しい気がする。
そう考えると、この種の命名者をぶん殴りたくなってきた。どうしようもないけど……。
とりあえず目の前で頭がこんがらがっているラルアのために、目の前で一旦人形をしまってから、入りなおす。
「まあ、こういうこと。人前で行動するんだったら、こっちの姿の方がいろいろ都合がいい」
「……わかる訳ないじゃん、こんなの」
「それは自分でもそう思う」
そもそも自律人形自体が失われた技術であったわけで、ごくまれに遺跡から発掘されて再起動させられる程度の種族。そして、魔導埃黴は普遍的に存在こそすれど対話が可能だという訳ではない。
……うん、我ながらにして気づけと言う方が無理だと思う。
「でも、いまので確信したよ! サーシャはやっぱり、諜報が合う」
「でしょ? じゃ、出発は明後日だから、よろしくお願いしますよ、サーシャさん」
強い声で念を押される。
……どうやら、彼女たちの中では私が諜報に携わるのはもう決定事項のようだった。
「あの、私はまだ諜報にかかわるとは……」
「トリマドル自治共和国防衛軍第三旅団長、将軍補サナトス・スランヴァイアプールグウイングィスルゴゲールウクウィールンドロブスルスランティシリオゴゴゴーフ・カムリ・プルダインからの命令です。貴女には諜報をしてもらいます」
「……了解しました」
命令ならばしょうがない。それに、彼女たちがいいと言っているのならば、大人しく諜報に携わってやろうじゃないか!




