Ⅱ-10:解放の丘
解放の丘は、遺跡と言っても、見た目にはなだらかな丘の上に、記念碑が一つ立っているだけのものだ。
ただ、この解放の丘は、この地区で魔導具が発掘されるよりも前から、その名を知られていた。
なぜか? それはひとえに、この解放の丘が、魔境と呼ばれる類のものだからである。
生物は自然発生しない。では、生物ではない魔物はどうだろうか? その答えは、いくつかの条件下でするものもある、というものである。そして、そのように魔物の自然発生が起きる空間のことを魔境と呼ぶのだそうだ。
「サーシャ。一つ、忠告する。初めて魔境に入るときは、全ての常識を捨てろ」
「私は、常識なんせないよ?」
「……人族の常識じゃない、全ての常識を捨てろと言っている。まぁここだったらそこまででもないが、ハルマティーダから西へ行ったところにある多魔境エリアなんてもう酷かったからな」
あそこは行って戻ってくると地形が変わる。二度同じ地形だったことは無い。そうトシフは言う。
ちなみに、ウィコット皇国の西側は海沿いを除けば、多魔境のみならずそんな風に魔境ばっかなのだそうだ。
「魔境っせ……魔物?」
「そういう学説もあるな。というか、初めて行くんだったらその程度の認識を持っていた方がいいかもしれん」
まぁ、解放の丘はそんなに酷くはないけどな、と付け足すトシフ。
学説もある、か。つまり、私達は魔境という魔物の中に入る。そして、そこは魔境が神なる世界が広がっているわけだ。
ぶっちゃけて言えば既に思い付きでキングモービィの体内に侵入してたので魔物の中に入る事への抵抗感は大きくはない。そう伝えると、微妙な顔をされた後、解放の丘へと歩き出した。
解放の丘の中に入る。地下空間のはずなのに、屋外であるかのように明るく、また天井も存在しないかのようである。
そう不思議がっていると、一羽のウサギが飛びかかってきた。かわいい。
……ってちょっと待て。なんか鋭い角が生えてないか? しかも、それを向けてってことは、完全に刺しに来ている!
とっさに兜割で角を弾けば、横からトシフが剣を振り下ろした。
「一角兎だな。こいつは生物だ」
「それは見りゃ判るよ!」
「……見た目で判断は危険だからやめとけってのは、俺はお前で一番実感したんだがな」
……それは何も言い返せない。そうこうしている間に、ローレンスとユゥが一角兎の血抜き・解体をしていた。焼くと美味しいのだとか。
私やローレンスみたいに収納系のスキルを持っていない人にとって、食料補給は死活問題だ。テタニみたく魔道具を使う人もいるが、あれはあれで容量に制限があるらしい。だから、こういう食べられる敵に関しては、基本的に食べられるように考えて倒さなければならない。
「にしても、サーシャにその兜割は、俺は合わないと思ってたんだが、どうやら取り越し苦労だったようだ」
「ほれしは無はっさんれしょ?」
「別に魔導具だけが武器じゃあないんでね。なぁ、ローレンス」
「はい、いくつか合わなかったとき用に普通の武器や魔道具のも持ってきたんですよ。念のため確認します?」
その後、度々やってくる動物たちや枯れ木、そして転がっている岩などを相手に様々な武器を試してみたが、なぜかあの兜割がいちばんしっくりときた。魔法陣はインクがないから描けないけれど、木刀みたいに打撃武器としてそれなりに使えそうだ。
真後ろでユゥがホクホク顔で今日の夕食は何にいたしましょう、などと言っているが、多分私の武器選択が終わったらトシフはユゥがどれだけ動けるかを見ると思うよ?
「よし、サーシャはやっぱりその兜割が一番使いやすいようだな。じゃぁ、次はユゥ、お前がどれくらい戦えるのかを見せてほしい」
ほらね。
だけれど、ユゥの実力は、私達の想像以上のものだった。
なぜか定期的に跳びかかってくる一角兎をレイピアで一突きにすれば、そのまま振り上げてローレンスの方に投げ飛ばした。折れそう。
そしてそのまま一角兎の血で岩に何かを描けば、その岩は真っ二つに割れてしまった。
「俺はどれだけ取り越し苦労をすればいいんだ……」
トシフがにやけながらぼやく。気持ちは分からなくもないけど、ちょっと気持ち悪いぞ。




