Ⅱ-3:おしゃべり
明日の朝に控えていること。それは、トシフたちとの再会。
そこでキイヨの悪戯に便乗してトシフたちを驚かせることになっている。
だけれども、私はまだうまく喋れない。かといって≪念話≫なんて使ったら一発でばれてしまう。
だから、実際に音を出すべきなのだろうけれど。
発声自体は船や駅馬車の中での特訓(もちろん迷惑をかけないように非常に小さい声でやっていたが、≪水属性魔術≫のおかげでどれだけ小さい音でも判断できるので問題なかった)の成果、子音もカ・タ・ダ・パ・バ行以外は発音できるようになっているので、最悪それぞれハ・サ・ラ・ファ・マ行に置き換えて喋る事は可能だ。
声質もまあほとんど合成音声だけど、トシフはここに魔術人形がいっぱいいることを知っているはずなのでこれはこれでアリだと思う。
問題は、声のトーンとアクセント。ぶっちゃけ、魔術人形たちのレベルにすら届いていない。なんというか、お経というか……
「ワレワレハ、ウシュウジンラ」
ああ、これだ。めっちゃしっくり来てしまったのが納得いかない。
……あれ? ちょっと待って。
「ワ、レ、ワ、レ、ワ、ウ、シュ、ジ、ン、ラ」
……違う。音として出そうと思った時と、言葉として出そうと思った時で、全然音が違う!
全然音が違うのに、同じように聞こえる。
どうして?
言葉として発した音を、音として解析する。自分で発したはずの言葉なのに、全く意味の分からない謎の音波を発している。
でも、これを言葉として聞こうとすると、きちんと意味が分かる。
素直に、怖い。
分からないはずのものが、分かるということは、分かるはずのものが分からないことよりも。
そして、その分からないはずのものを、あろうことか自分が発しているということが、何よりも。
「サーシャ様、ご気分が優れないようでしたら……」
おっと、また気を失っていたようだ。でも、それよりも。
注意して聞いてみれば、ユゥの喋っているのも、よく分からない音波列。
あぁ、そうか。最初っから、こっちの言語は私の知る物じゃあなかったんだ。おそらく、最初に聞いたミーシャの声も、そして大霊樹様の声も。
どうして私はこの世界の人々と普通に会話できていたのか? タオで文字を見るまで気づかなかったからデータが表示されていなかっただけで、最初っから≪水平獲得≫が理解できるようにしてくれていたからだろう。
とだとすれば、なんでキイヨの発言が多摩訛りに聞こえるのかが謎だけど、それは今は置いておこう。
では、アウトプットは? これも、文字にヒントがあった。既に二回ほど、私は文字を記入しているのだ。≪水平獲得≫と共に、最初から持っていたスキルを使って!
≪自己閲覧≫、あの情報を出してくれ。
../../../../../../../../../../
ユニークスキル:≪中心教義≫
起動
・設計を基に素材を組み立てる。
誘発
・内部から外部に情報を出力するとき、起動能力で補助する。
../../../../../../../../../../
やっぱりだ。音波という素材を、音声という設計に組み立てる。これは意識してやっていた。
そして、気づかないうちに≪中心教義≫は音声という素材を言語という設計に組み立ててくれていた。これが、答えなんだ。
≪中心教義≫、最初っから思っていたけど、やっぱりずるいスキルだ。
ならば、この後は。声のトーンとアクセントの設計を導くだけだ。
こういうのは、実際に話されている声を聴いて模倣するのがいいだろう。
「いやー、こうやって見てっとサーシャさんとユゥさんって似てるっすね」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「そのままっすよ。自分の思考に入ると周りが見えなくなっとことか」
……うん、これ意識してやろうとするとすごく難しいね?
とりあえず、この会話に返してみよう。
「……善処いたします」
「がんまります」
うん、だいぶ自然に喋れたかな?
とりあえず、自然に喋れてるかどうかを聞こ……
「!? 喋ったあああああ!? サーシャさん、喋れないんじゃなかったんすか!?」
それ以前の問題として、どうも喋ったこと自体で驚かせてしまったようだ。
自業自得なんですが今回が書いてて一番頭使いましたね……。
あと、サーシャの言葉はこの世界の言語でもpbtdkgがfmsrxŋになっているという設定です。ガ行が発音できなくて鼻濁音になってるのは本人は気づいていませんが。




