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Ⅱ-2:からだ

「まーったく、びっくりしたっすよ。いきなりぶっ倒れちゃうもんだから、もう同調が切れちまったのかと思ったっす」


 目が覚めるなり、近くにいた魔術人形(オートマタ)がキイヨとユゥを呼びに行った。

 外を見れば、太陽(のような役割をしている天体)も空高くなっていた。

 そして、やってきたキイヨが私を見るなり発したのが今の言葉だ。


(ごめんなさい、心配かけて)

「いや、怒っているわけじゃないっすよ」

「まだ同調されていることはすぐにわかりましたから」


 ユゥ曰く、同調が切れたら全く動かなくなるので、寝返りをうったことで同調が確認できたのだという。

 んな適当な……。

 そういえば、同調ということは私の元々のカビの体ってどうなってるのだろうか?

 意識を中に向けてみれば、人形の中に確かにカビフォルムがあるのを見つけた。

 そっちの方にも栄養補給しないと死んでしまうので、形を記憶してから人形の方を≪多次元収納≫でしまい、いつもの三角錐状になる。

 ……のだが、三角錐の形を保てなくなって、体が崩壊してしまった。あれ?


「サーシャさん、何したんすか? それに……なんか、大きくなってねーっすか」


 そう、キイヨの言う通り、体の大きさが人形に入る前の八倍くらいになっていたのだ。

 多分体の重さに体が耐えられなかったのだろう。この体に骨なんてないし。

 体の一部も同様にしまって、いつもの大きさの三角錐になる。よし、崩れないな。


「今度は、小っちゃくなって……?」

(収納系のスキルで体の一部をしまってるだけだけど)

「いやいやいや、それ、理論上は確かに可能かもしれねーっすけど、試そうとした人が往々にして収納されたまま帰ってこなくなるとかゆー曰く付きの手法っすよ」


 詳しく話を聞けば、これはせん断応力という力と密接に関係しているらしく、収納可能範囲内外にまたがる個体を収納できないのもこれで説明できるらしい。

 で、それによると体の一部だけを収納すると、体が破壊されずに引っ張られて体全体が収納されてしまい、戻ってこれなくなってしまうのだとか。こわい。

 ……でも、だとすると。どうして私の体は全部持ってかれなかったんだろう? そう聞くと、不定形になるように促され、体の半分だけを高く持ち上げられて真っ二つにされる。


「つまりはこういうことっすよ。あーし達ゃこんなことされても、よっぽど小さい部分だけを持ち上げたんじゃねー限り体が切れるこたぁねーから体中持ってかれちまうんす」

(だからといっていきなり切んないでもらえる?)

「切っても大丈夫なことはさっきのサーシャさんが証明済みっすよ。ねぇ、ユゥさ……ユゥさん?」


 キイヨがユゥの目の前で手を振る。微動だにしない。

 あ、これ立ったまま気絶してるな。器用な人だな……じゃなくて。

 いつ倒れるかわからないし、とりあえず寝かせよう。

 しまった人形と体を出して、ユゥを抱き上げ、私の寝ていたソファに横たえる。

 キイヨがまた何か言ってるけどスルーだ。

 とりあえず毛布を、と立とうとして……、気がついたら、なぜか私もソファに横たわっていた。

 え? と思って見てみれば、腰をユゥに抱き着かれている。


 って、起きてるじゃないですか!

 抜けだすことができない。本当にこの小柄な体のどこからこんなに力が出てるんだ。


 と、ここで私は天才的な手段を思いついた。

 再び人形をしまい、不定形になって抜け出してから人形に戻る。

 うん、完璧だ。


「やはり、動くことができるのですね」


 不意に声をかけられる。喋れるんかい!

 いや、これ最初っから気絶してなかった奴だね、うん。


(全部見てたんなら、驚かさないで下さいよ)

「……それは妾の言葉でございます」

「今のはサーシャさんが悪いっすね。人族と混じって行動しようと思ってるんなら、これを機に、人族の常識も少しは覚えてほしいっす……」


 なんか遠回しにお前は常識がないと言われている気がする。ひどい。

 でも実際問題自分でも常識がずれてきているような気がしているので、前の世界で会得した物を完全に忘れないうちに再会得するべきなのは確かだろう。

 それと、かろうじて覚えているのを忘れないようにする、という面でも。

 できれば人形に入っている時間を長くしておかないといけないな。


 それから、ユゥは人形から取り出したそのままの状態の私の体積を測ったのち、工房でデータの整理を始めた。

 ちなみに、私の体積は約十二シタンらしい。単位がよくわからないが、だいたい三分の十リットルと≪水平獲得コンピテントトランスファー≫が言っている。意外と大きくなっていたようだ。

 私は、ユゥやキイヨに計測や実験に付き合う傍らで、明日の朝の準備をすることにした。

★Tips:長さと体積の単位

劇中世界でよく使われている長さの単位はフトという単位で、1フトが現実世界の1フィートである。

体積の単位は1立方フトが1リンタンとされているが、大きすぎて使いにくいため、シタンやビタンという補助単位を使うことが多く、1リンタン=100シタン=10000ビタンである。1シタンがだいたい大きめのコップ一杯程度なので、日常的にはよく使われているようだ。

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