Ⅴ-02:「キミにプレゼントをあげようかぁ」
「ねぇサーシャぁ。ボクもねぇ、この前キミを探してるってあの二人が来た時に色々聞いてたんだけどぉ、なんか面白そうな匂いがするから教えてほしいなぁ」
私を呼び出したミーシャが伝えてきたのは、そんな理由だった。
わざわざ言われなくとも、そのうち話すつもりだったけど、どうやら彼女は今すぐに聞きたかったらしい。
確かに明日の朝、明るくなり次第出発する予定だったから、今を逃すとしばらくは話す機会はなさそうだけど……。
まあ、別に私は寝る必要もないし、せっかくだからここで話してしまおうか。
「じゃあ、ゼノムに呼ばれてここを出てからの話を……」
と、突発的に話し始めたのはいいけど、話をしているうちにどこまで話すべきなのかを悩む羽目になった。
流石にゼノムに誰にも言うなって言われたことを話すわけにはいかない。でも、ミーシャはテンについては知っているのだから、その正体が最終魔導具テンペストであることは話してしまおう。
そんな風に情報を取捨選択しながら、この場に至った理由までを一通り話した。
「……なるほどぉ、最終魔導具、ねぇ」
「知ってるの、ミーシャ」
「知ってるも何も、大戦争の時にこの森をほぼほぼ焼き尽くしてくれたんだよぉ、最終魔導具デュアルショックがねぇ!」
ミーシャは見たこともないほどの怒りのオーラを纏いながらそう言った。
……あ、これ、言わなきゃよかった奴だ。
「でぇ、サーシャ。そのテンペストはどうするつもりなのかなぁ?」
私に詰め寄るように、ミーシャはそう畳みかける。
ミーシャはこの森を維持しなくちゃならない立場だ。そんな彼女の目からは、森を滅ぼしかねないテンペストを野放しにするわけにはいくまいとの意志が明確に感じ取れた。
「親和しちゃったし、悪意を抑えるようにってミリスが」
「……ミリスって、『信念』を貫く者のぉ? やっぱり、サーシャは面白いねぇ、もう全部の『頂』と接触できてるなんてぇ」
……え、ちょっと待って。
どうしてミーシャは『頂』を知ってるんだ? 『龍王』ならばかなり有名だけど……あ。
そういえばミーシャってバレンシアの友人だったんだった。そりゃあ知っててもおかしくはないか。
私がそう勝手に納得していると、ミーシャは何かを思いついたように声を上げた。
「そうだサーシャ、キミにプレゼントをあげようかぁ、きっと役に立つはずだよぉ」
プレゼント?
そんな私の疑問の中、無機質な声だけが頭の中に響く。
それは……バレンシアの――いや、大霊樹の声だった。
【アカシック・セカンドが告知します。
個体名:サーシャ・タカトオ・ナガノ・ニホンが、以下のスキルを獲得しました。
≪(樹裏)≫
以上です】
「……! ミーシャ、このスキル、コマンドの……」
「うんうん、やっぱりわかっているんだねぇ、このスキルがなんなのかを。サーシャもコマンドになろうとしてたんだねぇ、嬉しいなぁ! 何を隠そう、樹裏王とはこのボク、ミーシャの事だからねぇ!」
ミーシャは本当にうれしそうにそう声を上げた。
コマンドの事は言わなくてもお見通し、だったか。この人には本当にかなわないな。
っていうか、そんなホイホイあげていいものなのか、これ……。
「別にぃ。ボクは『頂』じゃあないしねぇ。それにこうでもしておかないとぉ、コマンドが足りなくなっちゃうしねぇ」
「……知ってるんだ、コマンドが必要な理由も」
「おぉ、その言いぶりだとキミも誰かから聞いてたんだねぇ。ボクはキミと同じ世界を歩く者だからねぇ、この世界の外側に他の世界があることをもとから知ってたし理解もしてたからぁ、コマンドになった時にバレーシャにそこを聞いたら教えてくれたんだよぉ。……あ、もちろんコマンドでもその候補者――そうだねぇ、『頂』か『龍王』の証を持ってる人でもない人には喋っちゃだめだよぉ、世界の調和が乱れちゃうかもしれないからねぇ」
ミーシャはそう、口の前に右手の二番目の指を立て、片目をつむりながら私に教えてくれた。
「ありがとう、ミーシャ」
「がんばってねぇ。サーシャがコマンドになるのも、楽しみに待ってるよぉ」
翌朝。私たちはミーシャと別れ、今度こそミッパラへと向かう。
昨日の龍がまだこの辺りにいないか警戒し、山特有の乱気流で山肌に衝突してしまわないよう深く注意しながら慎重に高度を上げながら増速し、風を向かい風から追い風に変える。
今回は特に何かと遭遇することもなく、雲より上まで飛び上がって針路を北北東にとることができた。
それからは大きなハプニングもなく、平和に一昼夜のフライトを終えて、私達は朝のミッパラの島に辿り着くことができた。




