深い森の奥で―1
月明かりが、深い森の奥を薄らと照らし出していた。
木々の幹にも、そこらに転がる石にも苔が生えている。
それだけで、この森が深い森だとわかる。
ここは・・・。
どこだろうか?
見覚えがなかった。
先ほどまで、教室にいたのに、なぜ、森の中に。
それも、真夜中の森の中に、なぜ、自分がいるのか、タクはわからなかった。
タッタッタッタ。
足音が聞こえて来た。
懸命に腕をふり、何かから逃れようとする少女が、
自分の目の前を、走り抜けていった。
いや、自分の体をすり抜けていった。
「うがあっ!!」
自分の体をすり抜けていった少女に、
びっくりしたタクは声を上げるも、
体には何の異常は何もなかった。
あれ? 女の子が俺の体を通り抜けていったけど、
なんで、俺、なんともないんだ?
手を見ると、薄らと透けていた。
いや、体全体が薄らと透けている。
どういうことなんだ?
なんで、俺の体、透けているんだ?
その時、
ブ~ン、と低く重い音をはなつ光の矢が、
自分の前を何本も通過していった。
「あっ・・・」
少女の弱々しい声が聞こえて来た。
前のめりで倒れ、左足のふくらはぎには、先ほど、
自分の前を通過していった光の矢が突き刺さっている。
「お、おい、大丈夫か?」
タクは、少女に声をかけるも反応がない。
腰にまでかかる長い髪をロープへと落とし、
ふくらはぎを貫通している光の矢を、必死に抜こうとしている。
それも素手で。
「はあ、はあ、はあ、はあ、あっ!!」
光の矢に触れるたび、ジュッと音を立て、
少女の手のひらは赤くただれた。
そのたびに、少女の悲痛の叫び声が木霊した。
「おい、本当に、大丈夫かよ」
タクはもう一度声をかけるも、少女はタクの声に反応を示さない。
必死に矢を抜こうとしている少女の苦悶に満ちた表情が、実に痛々しかった。
「お、俺も、手伝うよ」
光の矢がとてつもなく強力な魔法であるとわかりつつも、
タクも素手で、少女のふくらはぎにささった矢を抜こうとする。
魔法が使えないタクにはそれしかできなかった。
「あれ?なんで・・・」
タクは矢に触れようとするも、矢に触れることが出来ない。
いや、それだけではない。
少女に、触れることすらできない。
「なんで、なんで・・・」
タクは唇を噛んだ。
自分の無力さに両こぶしを握り絞める。
少女が何度、矢を抜こうと試みたかわからないが、
月が雲に隠れ、周囲を照らす光が弱まった――まさにその時、
突然、
少女に突き刺さっていた光の矢は、
色を失い、パリンと音をたてはじけた。
「あっ!!!」
少女の悲痛の叫び声が木々の梢をざわつかせる。
少女のふくらはぎから、血が噴き出し、少女は流血を両手で押さえようとするも、
靴は赤く染まってゆく。
くそ、くそ、くそ。
なんで、なんで、俺は何もできないんだよ。
タクは自分の服を破り、少女のふくらはぎの血止めにしようとしたが、
自分の服に触ることすらできなかった。
ダンダンダンダン。
ふと、地響きが聞こえてきた。
木々のざわつきは静まり、七つの青白い光が縫うように迫ってくる。
宙を滑空し、少女の周囲に降り立た、それらの七つの青白い光は、
骸骨の馬だった。
その馬たちに、七人の黒色のフードに身を包んだ者たちが乗っていた。
「よかった、この子を助けてくれないか」
タクの声に、やはり、骸骨の馬に乗った者たちも反応しない。
それどころか、少女は怯えた顔をし、
両手で包み込むように持った何かを、強く胸に引き寄せた。
それは、手のひらほどの大きさの袋だった。




