深い森の奥でー2
「さあ、ねえさん。『永遠の転生石』を返してくれないか?」
骸骨の馬から、一人飛び降りた。
身長はタクと同じくらいだが、
声にはどこか、幼さが残っていた。
「どうして、どうして、あなたは私たちを裏切ったのですか?」
少女の怯えた表情はすでに消えていた。
胸に引きつけた袋からは、虹色の光が漏れていた。
「裏切った?俺が?くくくくく。意味が分からないな。最初から俺は裏切ってはいない。俺がそちら側だと勘違いしていた馬鹿どもの方が愚かだったのだ」
男は、フードを脱ぐ。
黒髪の、まだ幼さの残る少年が少女を見下ろしていた。
年齢は12歳ほど。
だが、表情には、その幼さをかき消すほどの、
残虐さが浮かんでいた。
「『永遠の転生石』を使い、あなたたちは何をするつもりなのですか?」
「何をするつもり?そんなこと、わかりきっているだろう?永遠に生き、そして、世界を俺たちのものにする。それ以外に何かあるのかい?」
「そんな、愚かなことを・・・」
少女は、袋を強く握りしめた。
「愚かなことではないさ。計画はすべてうまくいっている。さあ、それを渡すんだ」
「嫌・・・」
「ははははは、そうそう、その俺を拒絶する目。圧倒的な魔力を有す俺を恐れていた奴らもそんな目をしていたよ。残念ながら、もう奴らはこの世にはいないけどね」
「お父様、お母様を・・・あなたは・・・」
「甘いね。ねえさん。ギルハイド王国の奴らは、ほぼ皆殺しにしたよ。最高に気持ちよかったぜ。奴らが絶望し、助けをこう、悲痛の叫びがな」
「そ、そんな・・・」
「だから、その『永遠の転生石』を渡しておくれ」
少女は、首を強く振る。
「そうかい、嫌かい。まあ、どちらでもよかったんだけどね」
少年は手を少女へと向けた。
すると、
少女の周囲を、紫色の円形の膜が覆う。
膜の表面は淀んでおり、まるで、光に反射したシャボン玉のようだった。
「知っていたかい?魔法は、魔法陣を宙に描き、詠唱し、魔法陣を展開することで発動する。けれど、それはあくまで凡庸な魔法使い――才能のないゴミどもが、魔次元とでもいう世界に干渉するための手続きなんだ」
少女は、自分を包む膜の中でもがいている。
少年が手のひらをゆっくりと握りしめてゆくたびに、
膜はゆっくりと縮小してゆく。
「才能のないねえさん。あなたは、最初から『永遠の転生石』を渡しておけば、よかったんだ。そうすれば、姉弟のよしみで、助けてやったのに。けれど、それが、あなたの選んだ道。俺たち『―――――――』に逆らおうとするあなたの意思」
少年がこぶしを握りしめると、
少女を包んでいた膜は急速に縮小した。
「さようなら、ねえさん」
キュン!という音が響いたと同時、
膜の内部は、鮮血でそまった。
ただれる血の隙間から、少女の腕が、ダラリと
力なく垂れてゆく光景が見えた。
少年が手をひらけると、
少女を包んでいた膜は消え、
ドサリと音をたて、絶命した少女が、木の根元に倒れた。
血が、少女を中心にゆっくりと広がってゆく。
力なく開いた、少女の手から、袋が零れ落ちた。
「ねえさんには、手をわずらわせられたよ」
少年は袋を拾い、中から何かを取り出した。
虹色の光をぼんやりと放つ石だった。
「『永遠の転生石』か。こんなものにどれほど価値があるやら。死を乗り越える術など腐るほどあるというのに」
「それらを、集めることが、力に繋がるのではないのかな」
骸骨の馬に乗った者の一人が言う。
「・・・そうですね。わかりましたよ。光の魔法騎士団たちが、まだ、俺たちに力を侮っているうちに、でしょ」
「そういうことだ」
少年は骸骨の馬に歩いて行く。
手に握っていた永遠の転生石は輝きを失っていた。
「じゃあね。ねえさん、安らかに眠ってください」
七匹の骸骨の馬に乗った、七人の者たちはその場を去って行った。
それから、わずかばかりのち、
雲間から月が顔を出し、
再び、森を薄らと照らし出した。
ビクン!
少女の体が大きく跳ね上がった。
まずは腕が上がり、少女は自分の顔に触れる。
それから、ゆっくりと、上体を起こし、
「あは、あはははは・・・」
全身、血で汚れた少女は両手を顔にうずめ
哀しみとも喜びともとれる声を漏らし続けた。
「あははははははははははははははははははははは」




