スプレール現象
五限目の授業は魔法基礎知識という授業だった。
黒板に長々と意味不明な言葉の羅列が連ねられていた。
文字が読めなかったわけではない。
基礎知識がある前提で話をされているので、内容がちんぷんかんぷんだったのだ。
授業を聞いてもわからないのでタクは教科書を適当に読み始めた。
魔法界の成り立ち、魔法圏に属する国々、そこで生活する多種多様な人種と生活様式、さらには、魔法だけでなく、魔法が引き起こす極めて専門的な現象まで書かれていた。
ふむふむ、この授業は、魔法の土台となる知識を学ぶのか。
ここで、教科書のある一説に目が留まる。
――魔法界と人間界はお互いに干渉しあっている。しかし、我々は、彼らよりも特殊な力――魔法を扱える分だけ、特殊な環境に身を置く適性を・・・。
その後の文は書かれていなかった。
教科書自体がかなり古いので、ところどころ、文字がかすれていた。
特殊な環境ってなんだよ。
水の中で生活でも出来るのかよ。
「タク、おい・・・タク。伯爵にお前、当てられているぞ」
隣の席の奴がタクをこついてきた。
「あん?」
「おい、タク、これはどういう意味か、説明しろ」
タクを当てていたのは、黒のスーツに身を包んだ男性教師だった。
髪はオールバックに整えられ、病的までに青白い肌にはこけた頬が目立ち、
パッと見、かなり気難しそうな印象をタクは抱いた
「どれのことについて、言っているんですか?」
黒板には隙間ないほど、文字がびっしりと書かれており、
どれについて教師がいっているのか、タクはわからなかった。
「これだからな、その傲慢な姿勢がいつか響いてくるぞ」男性教師は鼻で笑う。「・・・まあいい。お前に質問したのは、スプレール現象についてだ」
スプレール?モノレール?
電車か何かについて聞いているのか?
「電車の名前?」というと、男性教師は口元をニヤリとさせた。「いえ、違いました。えっと・・・わかりません」
正直、癪だったが、わからないものを適当に答えて恥をかくよりは、
素直にわからないと言った方がましだ、とタクは思った。
「あ~駄目だ。駄目だ。やっぱり、これだよ。こんなんだと、将来不安だな。お先が真っ暗だから、授業なんて聞いても無駄だと思ってるんだろ。相変わらず傲慢だな。もういい、座れ。元から、答えられるなんて期待はしていない」
なんだよ。この野郎。
わからないといったら、なんだよ。
わからないことを教えるのが教師だろ。
「スプレール現象はな~。おい、しっかりと聞いとけよタク!」男性教師は、黒板をバンバンと叩いた。「まったく、お前という問題児は・・・こんなろくでなしに深く関わっていたら、授業がいくらあっても足りやしまい。さあ、こんなろくでなしとは違う諸君、スプレール現象というのはな、運命の糸を読み解く能力とでもいおうか・・・我々の目に見えないありとあらゆる空間、この教室にすら運命の糸というのが無数と張り巡らされているのだ。
運命の糸?
あらゆる空間、この教室にですら?
本当かよ。
「可視光線やX線、電波、電磁波、放射線などとは違う、あらゆる存在が放つ波動。それが存在されているといわれている。それをうまく紐解けば、あらゆる情報がどこにいようとも手に入るとされている」
どこにいようとも、あらゆる情報が手に入る?
なら、俺が教室で座っていても、
この足元、地下数千メートルで起きている活動について、はっきりと、わかるのか?
タクは、スプレール現象が現実に存在する現象なのか、理解できなかった。
「ただ、これは、まだ仮説で、魔法研究機関は今この現象を研究の柱として解明を進めている。実際にこのような現象を、自らの意思によって扱えたとされる人物が、過去に何人もいたらしいんだが、現在、使える人間を、俺は知らない」
な~んだ、とタクは拍子抜けした。
パラパラと教科書をめくり、索引でスプレール現象について調べようとするも、
教科書には載っていなかった。
教科書に載っていない内容を説明してんのかよ。
俺にわかるわけね~じゃん。
最初から、俺をいびるつもりだったな。あの野郎。
「知っての通り、強力な魔法ほど、何かと引き換えになる場合が多い」
ミゲルシティ――『代償:臓器』という項目が、タクの脳裏にちらつく。
「これだけの驚異的なモノだからな。俺個人としては、いったいどんな対価を払わされるのかと、想像するだけでも・・・」
男性教師は、わざとらしく、ブルリと震えた。
その後、男性教師は、アフェレリー理論やら、スナイデルの原理などを説明した。
スプレール現象ほど興味深くなく、かつ、ちんぷんかんぷんだった。
なんだよ。ちゃんと説明しろよ。
妄想まがいの理論ばかり説明してんじゃね~よ。
というか、妄想なら、何でもありじゃね~かよ。
授業が終わり、男性教師は教室を出ていく際、
何人かの女子生徒に声をかけていた。
女子生徒と話している時は、実に楽しそうだった。
けいきよく、ステップなんかを踏んでいた。
うざいし、さらに、女たらしかよ・・・。




