気まぐれな女の子
チュンチュンという、小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
タクは背後を見ると、
金属製のドアが、生い茂った雑草の間からポツリポツリと幾つも顔を出していた。
地面にドアだけが突き刺さっている光景は、違和感がハンパなかった。
「なんだこりゃ~。どこなんだよ。ここ」
「あ~もう、やばいな~。もうこんな時間だと誰も歩いていないじゃない」
レンガ道には誰も歩いていなかった。
そもそも、見渡す限り、
木と雑草しか生えていない、山の中みたいな場所に人が歩いている姿を、
タクには想像できなかった。
動物ならわからなくはないが。
「あ~もう仕方がない。校則に触れるけど、最終手段だわ」
ルルーシカは宙に指を走らせる。
何らかの動物を思わせる紋様が宙に描かれた。
胴体よりも大きな翼を広げ、尻尾も持つその紋様のフォルムは正直、かっこよかった。
紋様は地面に展開され、輝き放つ。
直径3mほどの大きさの紋様だった。
ルルーシカは意味が分からない言葉をブツブツと唱え、
両手を上げ、「私に会いたいでしょ、私に会いたいでしょ」と不気味に何度となく呟いた。
そして、10度目の同じ言葉を呟いたのち、「来た!!」と叫んだ。
紋様は地面から宙に光を伸ばし、
ルルーシカも自家発電しているかのように発光した。
風が雑草を揺らし、タクは「なんだ、なんだ」と呟いた。
「来い!! 我がしもべ、りゅー君」
シュン、という甲高い音が発せられると同時、紋様が瞬く。
光が消えると、紋様が描かれていた場所には、一匹の白いドラゴンが姿を現していた。
体長は3メートルほど、尻尾の長さを入れたらもっと大きいかもしれない、
鋭利な爪を持った翼は体長と同程度。
そのドラゴンを見て、タクは、かっこいいと思ってしまった。
自然とタクの足が、ホワイトドラゴン――――りゅー君へと近づいてゆく。
「やめた方がいいわよ」
「あん?」
タクは足を止める。
「撫でようなんて、考えないことね」
りゅー君は猫のように、前足を舐めていた。
前足にも鋭い爪が生えている。
「この子は、気まぐれで、気位が高いの。だから、犬や猫を撫でるような感覚で撫でようなんてしようものなら、鋭い歯で、頭ごとぐしゃりよ」
「げっ」
りゅー君は欠伸をした。
開いた口には、ライオンやトラなどの肉食動物がかわいく思えるほど、
鋭利な牙がふんだんに蓄えられていた。
「それにね、この子は、女の子なの」
「・・・りゅー君なのに、女の子かよ」
「そうよ。気まぐれだと言ったでしょ。名前も気まぐれなの。契約者である私が呼びかけても、来てくれないことだって頻繁にあるのよ」
気まぐれで、気位が高いドラゴン。
名前はりゅー君。ちなみに雌(♀)。
たしかに、アメジストのような深い紫色を称えるその目には、
気難しさが宿っているように見えなくもない。
「さあ、早く乗って」
ルルーシカはりゅー君の背にまたがる。
「いや、でも」
機嫌をそこねたら、頭をぐしゃりとされてしまうのでは。
「さあ」
タクはルルーシカに手をつかまれた。
「あっ・・・」
女の子の柔らかい手の感触に再度心奪われたタクは、
気がつくと、りゅー君の背にまたがっていた。
両腕をルルーシカのお腹にまわし、体はルルーシカに密着。
「さあ、いくわよ!!」
ルルーシカが声をかけると、
リュー君は天高く咆哮をあげ、両翼を大きく広げた。
そして、次の瞬間、
タクとルルーシカは空高く舞い上がった。




