押入れの先には
古い木の時計には牙をむきだしにしたゴキブリが描かれていた。
生きているかのように黒い眼をぎらつかせ、
今にでも飛び出てきそうだ。
カサカサカサって。
時計には、時刻を示す文字がかかれておらず、
針も一本しかなかった。
「どうしたんだよ。急にしゃっくりみたいな変な声を出して」タクは言う。
「やばい! もうこんな時間じゃない、遅刻しちゃうじゃないの。なんで起こしてくれなかったのよ!!」
ルルーシカはタクに詰め寄る。
女の子特有の、まったりとした香りがした。
「なんでって・・・そもそも、なんで俺が起こさないといけないんだよ」
「なんでって・・・あんたの役目でしょ~が。いつも起こしてくれていたじゃない」
「あん? いつも?」
「そうよ。晴れの日も、雨の日も、台風の日も、私が恋の熱でうなされているときも起こしてくれたじゃない」突然、ルルーシカは何かを思い出したかのように言葉を切り、口を結び、「・・・あ、そっか頭が悪いじゃなくて、記憶が・・・、あ~もう!!こんなことしている場合じゃないわ。早く自分の部屋に戻って用意をしなさいよね」
「用意? そもそも俺の部屋ってどこにあるんだよ」
「ほらそこのタヌキ型ロボットが生活をしていたのと同じ、押入れよ」
ルルーシカはある壁をさした。
押し入れへのドアがある場所だった。
両開きのドアで木製の取っ手がついていた。
・・・いや、マジかよ。
俺の部屋って押入れだったのかよ。
ていうか、タヌキ型ロボットってなんだよ。
「さっさと開けなさいよ。ナメクジなみにとろいわね」
押入れのドアを開けると、
その先にはルルーシカの部屋よりは小さいが、
生活するのには十分な広さを持った部屋が存在していた。
簡素な部屋だった。
机と箪笥、ベットくらいしかない。あと、誰かさんの部屋とは違って散らかってもいない。
部屋の主の几帳面な性格があらわれている。
あと、埃っぽくもないし、臭くもなかった。掃除はしっかりとしているのだという印象を抱いた。
ただ、その部屋を見ても、
タクは懐かしいといった感情がまるで生じなかった。
赤の他人の部屋を見ているような感覚が生じただけだった。




