0 小姓による現状報告
前作でお世話になった読者様、お久しぶりです。ようやく準備ができました。
のんびり書いていくので、お暇つぶしにでも楽しんでいってくださいませ。
グレン様に性別詐称がばれ、口止めと引き換えに「小姓」なんぞというものになってからおよそ1年と4分の3が過ぎた。
姉様が無事、殿下の婚約者になった後も僕がグレン様から解放されることはなく、あれからも、グレン様の身の回りの支度や、ちょっとしたお仕事の手伝いという名の無人権超過労働、小姓としての訓練などをしながら僕は日々を過ごしている。
下僕以下の扱いを受けたり、仕事のお手伝いよりもよほど酷いお仕置きの嵐を耐え忍んだりするのはなかなかに辛かったけれど、そうしているうちに僕は精神的にも、肉体的にもだいぶ頑強になった。
グレン様のことは、天使のような可愛らしい見た目とは真逆、大抵嗜虐趣味に突っ走っている性格の歪んだ鬼畜野郎であるということ以外は未だに知らない。表に出せない仕事をしているだろうことや、ご実家であるアルコット家とそれほど良い関係にないだろうことはお近くにいて薄々察しているけれど、それだけだ。
でもグレン様がああ見えて殿下には絶対の忠誠を誓っていることも、日ごろからかっているイアン様を一番に信用していることも、実は寂しがりやで子供っぽいことも、知っている。
そして、僕に対してそれなりの信頼を置いてくださっていることも。……多分。
そんなこんなで過ごして、もう少しで17歳になる僕は、最近は、森に行って動物や魔獣の治療をする傍ら年明け後にある宮廷獣医師の国家試験に向けて昼夜勉強に励む模範生のような生活を送っている。
小姓のお仕事?
そりゃあ、ありとあらゆる艱難辛苦を乗り越えたこの僕ですから?今では誰もが認める完璧な小姓になって――
「誰の話?」
「そりゃあ、グレン様の完全無欠の小姓、このエルドレッド・アッシュリートンの話以外に誰のことがありえましょうか!」
「へぇ?お前の仕事が完璧だったためしがあったっけ?ついこの前だって『芳香剤』を聞き間違えて『膀胱剤』を薬剤部に注文してくれてたよね?僕の名前で」
「…………そ、そんなこともありましたっけね……」
「その話が医療部にまで回って排泄機能の病の懸念をされて検査されかけるという僕の人生初の汚点を作ってくれたあの時のお仕置きが足りなかったのならいくらでも追加の準備はできてるよ?」
「嘘です嘘ですっ!見栄張りました!!まだまだ半人前の僕にこれからもご指導よろしくお願いいたします」
「本当だよ。半人前だなんて見栄を張り過ぎ」
「……あれ?半分にもなってないってことですか?」
……はおらず、相変わらずだ。出会ったときより要領よくグレン様のお仕置きをかいくぐれるようになったという意味では成長しているはず。
体の成長の方はって?17歳で周りにばれないはずがないって?
ははは。ナタリアには、
「安心して!入学したときは8歳くらいだったけれど、今は12……い、いえっ、すごーく頑張れば14歳くらいに見えるから!」
「14歳くらいの……女の子?」
「それならこれまで無事じゃないわよね?」
「ですよねー」
と押されたくもない太鼓判を押されているので、男装生活自体はそれなりに順調。
そんな僕の日常が始まります。
不肖な小姓ですが、どうか僕にお付き合いくださいませ!
(前編から1年半と少し経ちました。エル16歳、グレン18歳スタートです。)
(会話の続き部分)
「ぶ、部下の成長には褒めることも大事だってイアン様が仰ってましたよ?」
「大丈夫、お前にはまだまだ伸びしろがいっぱいあるってこと。一生かかっても伸びきれないほどの伸びしろだよ、おめでとう」
「うわーこれほど嬉しくない褒め言葉は初めてです。せめて常識の範囲内でのご指導をお願いいたします」
「僕はいつも常識の範囲内に抑えてあげているはずだけど?」
「何度も申し上げている通りグレン様基準の常識は世間の非常識です。グレン様の指導は一般には虐待と言います。いい加減御自覚くださいませ」
「世間に合わせるから成長しないんだよお前は。固定概念の殻を打ち破ってこそ発見も成長もあるんでしょ?」
「人とずれたところに常識を持つ人種を世間では奇人変人と申しましてね――いだだだだだ!ほっへがひぎれる――!!」
「ほら、よく伸びた。これくらい伸びると期待してるよ。僕の優秀な小姓のエルドレッドくん?」
※ 芳香剤事件は殿下とイアン様の「絶対に忘れたくない珍事件簿」に殿堂入りしております。