世界最後の日、そして始まりの日
世界が終わる音を、俺はよく知っている・・・。それは人々の悲鳴でも、街が崩れる轟音でもない・・・
腹の底まで震わせてくる、低い・・・低い鐘の音だ。
ゴォン――と、雲の向こうで鐘が鳴るたび、赤黒い空に亀裂が走る。裂け目から無数の影が落ち、燃え尽きた帝都へ降り注いでいた。
翼の生えた獣。人間の腕を幾つも継ぎ合わせた巨人。戦車をも噛み砕く、鋼の顎を持つ巨大な蟲。
数十年に及ぶ戦争の末、人類は自らの手で古の封印を破壊したのであった。
その結果が・・・このざまだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おい!シオン! 止まるんじゃねぇ!」
怒鳴り声と同時に、背後で重機関銃が火を噴いていた。白い魔力光が暗闇を切り裂き、追ってきた獣の群れを払う。
カイル・ベリア・・・同じ部隊の仲間だ。
右頬は血に濡れ、背負った魔晶炉からは黒い煙が上がっている。それでも、あいつの笑いを聞いただけで、心のどこかでホッとしていた。
「先に行け! こういう派手な仕事は、俺の担当だ!」
「これ以上はお前の炉がもたないぞ!」
「だから今使うんだよ!・・・全部な!」
言い返そうとした俺の腕を、カレンがつかんだ。
「行くわよ、シオン!」
「だが、カイルが――」
「振り返ったら全員死ぬ!」
俺の腕をつかんだのは、またしても同じ部隊のカレンだ。彼女の状態はひどく、左腕は、もう肘から先がない。
乱雑に巻かれた止血帯は血に染まり、その顔からも血の気が失われていた。それでも彼女は俺を引きずるように走った。
地下へ続く遺跡の通路が、俺たちの前に口を開けている。この先に、古代兵器を統率する中枢がある。それを破壊すれば、地上を埋め尽くした生体兵器は止まる。
正体不明の遺物から届いた、たった一つの情報。俺たちはそれだけを信じ、大陸の端からここまで来た。
「カイル!」
呼びかけに返事はなかった。代わり銃の連射音が響き――直後、魔晶炉が爆発した音が聞こえ、衝撃波が走った。
熱風が地下通路まで吹き込んできたが、カレンは一度も振り返らなかった。
俺も振り返らなかった。この戦場で・・・そういう歩き方だけは上手くなった気がする
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「前方から、三体」
暗闇の中で、レオンの銃が短く三度鳴った。遺跡の天井を這っていた人型兵器が、ほぼ同時に落下する。三発すべてが、小さな核を正確に撃ち抜いていた。
こいつが最後の部隊メンバー、レオンだ。狙撃や遠距離の武器を得意としている。
「相変わらず外さないな」
「でも・・・あと一発しかない」
普段無口な狙撃兵は、それだけ答えた。といっても、俺の弾倉にもあと五発くらいしか残っていない。そしてカレンの銃は、とうに弾切れだった。
それでも、引き返すという選択肢は俺らにはなかった。地上に生きている人間が、あと何人残っているのかも分からない
故郷は三年前に消え、じいちゃんも、ばあちゃんも、妹も、村ごと生体兵器に呑み込まれてしまった。
守るものを失ってからも、俺は戦い続けた。なぜ戦うのか、自分でも分からなくなったあとまで。どのみちもう・・・戻れないんだから・・・
「扉だ」
進んだ通路の先に、巨大な白い扉が現れた。表面を走る無数の回路が、心臓のように明滅している。中央には、人ひとりが通れるほどの隙間があった。
レオンが先に近づいた瞬間、壁の一部が作動した。
「伏せろ!」
俺はとっさにカレンを押し倒した。白い閃光が通路を貫き。焦げくさった肉の臭いがした。嫌な予感を抑え込み振り向いた。レオンは壁にもたれて座り込んでいた。
脇腹は大きく抉れ、片脚が吹き飛んだ状態で
「レオン!」
「と・・・びら・・・を」
レオンは震える手で、最後の弾丸を装填した。銃口の先には、扉を閉じようとしている核がああった。
「ふ、たりで・・・行ッけ!」
最後の銃声が響いた。核が砕け、扉の動きが止まった。レオンの手から銃が落ち、また一人、仲間が死んだ・・・
俺は、それでも走った。走るしか・・・なかったっ・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
扉に入って進んだ先にはは、白い花畑が広がっていた。
地下深くにあるはずなのに、頭上には青い空があって、暖かい風が吹き、鳥のさえずりすらも聞こえてきた。
「気をつけて」
カレンが息を切らしながら言った。
「どうぜこれも全部、まやかしよ」
その腹部から細い刃が突き出していることに、俺は気づいた。花畑の下から伸びた銀色の触手が、彼女の身体を貫いていた。俺はその触手を撃ち砕き、カレンの倒れる身を抱き止めた。
「カ、カレン、大丈夫だ!今から止血する!」
「衛生兵の私にできないことを……あんたができるわけないでし・・・」
「黙れ!今度は絶対に助ける!」
「今度なんて、ないのよ」
カレンは俺の胸を押した。だが、その手にはもうほとんど力が残っていない。
「行きなさい・・・シオン・・・」
「一人で行って何になるんだ・・・」
「あんたは、いつもそう・・・」
血の気を失った顔で、カレンはかすかに笑った。
「自分だけが生き残るの・・・怖いのよ・・・」
「・・・・・・」
「だったら生き残って・・・全部終わらせてから、私たちのことを思い出しなさい・・・」
ズトンって音とともに、彼女の手が落ちた。
「・・・カレン?」
語りかけても、もう返事はなかった。白い花が風に揺れ。その中央では、巨大な光の塊が脈を打っていた。
あれを壊せば・・・すべて終わる
俺はカレンの遺体を花の上へ横たえ、最後の弾倉を銃に差し込んだ。
「待ってろ、俺もすぐにそっちに行く」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
「すぐに終わらせるから」
白い光へ向かって歩き。その周囲に、無数の人影が現れた。
殺された仲間。置き去りにした兵士。じいちゃんと、ばあちゃん。妹のノエル。そして、軍服姿のアウレシス・ヴァルフィシア。
この戦争が始まる直前に殺された、第一皇女。俺は歴史書に残された肖像画でしか、彼女の顔を知らない。
『適合個体を確認』
登勢前女の声が、頭の中で響いた。
『救援者の選定を完了』
「・・・誰だ」
白い光から無数の回路が伸び、俺の足を這い上がってくる。迷わずに引き金を引いた。だが、放たれた弾丸は、光へ届く前に消滅した。
『最古の観測記録を検索』
くそ・・・身体が動かない。逃げることも、銃を捨てることもできない。
『帝国暦六一二年、白陽月一日』
「何をするつもりだ」
『アウレシス・ヴァルフィシアの命令を実行します』
視界が白く染まった。焼け落ちた故郷が見えた。笑っているノエルが見えた。
カイル、レオン、カレンが、まだ新しい軍服を着て俺を呼んでいた。これは十年以上前の光景だ。
『今度こそ、彼女を・・・救って』
それが、世界最後の日に聞いた最後の言葉だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
けたたましい起床ラッパで、俺は跳ね起きた。肺いっぱいに冷たい空気を吸い込み、何度も咳き込んだ。
焦げた肉の臭いがしない。口の中に血の味もない。腹の傷もない。
「朝からうるせえぞ!シオン」
隣の寝台で、カイルが毛布をかぶっていた。向かいではレオンが銃を整備している。そして窓際では、カレンが長い髪を結んでいた。
・・・生きている。
「おい」
カイルが毛布から顔を出した。
「なんだシオン?なんで泣いてんだお前?」
答えられなかった。ふと壁に掛けられた軍用暦を見てみた
帝国暦六一二年、白陽月一日。
ノルヴェイン要塞へ配属された、初日の朝。
アウレシス皇女が暗殺され、戦争が始まる――数か月前だった。
皆様こんにちは!新作です! 以前言っていたストックをためている作品とは別で、今回は行き当たりばったりで書き進めていくタイプの話になります。
タイムリープして、世界を救う話を書きたい!せっかく世界を救うなら、そのついでに女の子も救おう!
あとは自分の好きな作品の要素も色々と入れて、読んでいて気持ちいい作品を作ろう!そんな感じで書き始めました。
この作品は、とにかく毎日投稿することを目的に書いていきます。
思いついた日は三千文字くらいになるかもしれませんし、どうしても書けない日は千五百文字くらいになることもあると思います。
話数ごとの文字数は安定しないかもしれませんが、毎日投稿だけは続けます!
よければ、シオンたちの物語に最後までお付き合いください!




