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リトル・デビル3

 今日は事務室にてブラックドッグさんの事務の手伝いだ。

 昨日、仕事終わりの報告をしに彼の所へ行ったら、今日は資料の整理を手伝いうように頼まれた。

 何でも、次に領土にしようとしている村についての調査らしい。

 二十畳程度の部屋には戸棚がぱんぱんに詰め込まれている。そして、その戸棚にもたくさんの資料や本がぱんぱんに詰め込まれていた。

 部屋の壁際にある机に向かっている、黒くてモフモフな毛に全身を覆われているのがブラックドッグさん。

 前世の世界の堅守に例えるならアイリッシュ・セッターと言う犬が近いかな。その犬の更にけが長くて、顔が見えないくらい毛が伸びきっている感じなのがブラックドッグさんだ。因みに彼の毛の中には能見賀だくさん居る。

 普段から忙しいのでお風呂には修一しか入らないらしい。

 彼は魔王軍でも特に事務の整理に長けている。

 だから、大変な資料整理や下調べは彼の所に回ってくるのだ。

「ブラックドッグさん、この本はどこに置いておきますか?」

「お?それはこっちに持ってきてくれ。」

「はい!」

「はー、手伝いがいるといいな!あんがとよ、チビ。」

「はい!」

 自分の体よりに三倍は大きい本を持ち上げ、飛んで彼の所まで運ぶ。

 ブラックドッグさんは古びた地図を机に広げていた。

 そこにはフロンティアクエスト内の国の一つである、アルビノ大陸が描かれている。

 六芒星のような形をした、でもどこか歪な形の大陸。

 六芒星の六つの角には、それぞれ大きな国があって、その内の幾つかを人間が収めているらしい。

 まだ行ったことはないけど。

 そして大陸の内、丁度中央に位置しているのが魔王城。

 かつて魔王様が盛大に獲得したと言う領土だ。

 詳しくは魔王城発行の書籍、魔王様武勇伝の第二章に綴られている。

 ブラックドッグさんが作ったと言うその本は魔王様が生まれてから現在に至るまでの異形が綴られており、魔王軍のみならず、野生のモンスターたちにとってもバイブルになっているらしい。

 私もこの間読んだばかりだ。

 そう言えば、ブラックドッグさんに感想を言おうと思ってたんだった。

「ブラックドッグさん、この間、魔王様武勇伝読みました!凄く面白かったです!」

「あー、あれか。」

「魔王様ってやっぱり凄く強いんですね!僕、改めて魔王様を尊敬しました!」

「でもあれ半分以上創作だけどな!あははははは!!」

「ん!?」

「だって一々あんな決め台詞言わないだろ!?『例え天が希望を抱いたところでこの魔王の前では絶望に変わる。』って中二病こじらせすぎだろ!?」

「ええ!?」

「そもそも自分の事魔王って言っちゃテるしな!事実をもとに盛大なフィクションを創作しただけだ!」

「それ言っていいやつですか!?」

「大丈夫!大丈夫!誰も聞いてないから!あははははは。」

「笑い過ぎですよ!!僕、信じちゃいました・・・。」

「まあ、でもやったのは事実だし?」

「あ、それもそうですね。」

「作ってくれって言ってきたのが魔王様本人だったのも事実だし?」

「もうそれ以上余計な事実を暴露しないで下さいよ!!」

「やー、やっぱり魔王様もご自分のイメージとか気にするんだねえ。魔王様とは言え、根はモンスターってことか?」

「知りたくないこと、結構知っちゃいましたよ・・・。あれ見た後、ロゼットさんいこのこと話しましたし。」

「どんな顔してた?」

「普段のにこにこ顔でしたよ?」

「あっれ、可笑しいな。俺がこれ書いて出した時は」


 数十年前

 魔王様武勇伝が発売されて直ぐの頃。

 廊下でロゼット様と会った時。

「ロッゼト様、ご機嫌麗しゅうございます。」

「あら、ブラックドッグ。御機嫌よう。所で、これを書いたのはお前?」

「あ、それは魔王様武勇伝。はい、間違いございません。いやー、まさかロゼット様にまで手に取っていただけるとは恐縮ですね。」

「ええ、拝見したわ。」

「いかがでございましたか?」

「そうね、ゴミ虫をすり潰しているような書物だったわ。」

「え?」

「数千年、生きてきているけれどここまで不快感を覚えた読み物は初めてよ。これを読み終えた後、何故か得も言われぬ吐き気と腹の中が熱く煮えているような感覚に襲われたわ。ねえ、ブラックドッグ。これはそう言う効力のある本なのかしら?これで人間を殺すの?」

「いえ、その・・・。」

「まあ、いいわ。それではね。」

「・・・。」



「と、まるで道の毛虫でも見下ろすような目で言われたけどな?」

「・・・そうですか。」

「うん。」

「・・・。」

「・・・。」

 ――沈黙が重い!

 密閉された資料まみれの空間に重たい沈黙が立ち込めた。

 ――ロゼットさんはその・・・、魔王様のことをどう思っているんだろうか?嫌いなんだろうか?解らない。

 さっきまでの元気はどこへやら、黙り込んだブラックドッグさんとの沈黙に耐え切れず、私は勢いあまって地図の上に飛び込んだ。


 ガシャアン


 本ごと突っ込んだので机の上の資料が宙を舞った。

 置かれていたランプが揺れ、コーヒーがこぼれそうになるのをブラックドッグさんが咄嗟に受け止めた。

「どわあ!!何やってんだチビ!?」

「す、すいません!!机に乗ろうとしたら勢い余ってしまいました!」

「そ、そうか!!」

「はい!」

「大丈夫か?」

「はい!それで行き成りですがブラックドッグさん、今日はどこについて調べてるんですか?」

「お?おお、今日はドラクセ王国の中に有る国だな。」

 ――早速いろんなものに引っかかりそうな名前が飛んできたな。

 ドラクセ王国は何となく予想がつくだろうけど、勇者の出身国である。

 六芒星の頂点にある国で今、唯一魔王軍といがみ合っている国だ。

 その中に有る村となれば、獲得するにはどう足掻いても国と一戦交える羽目になる。

「危険じゃないんですか?」

「ぶっちゃけそんなに強い国じゃないし大丈夫だろ。勇者クソだし、王様馬鹿だし?」

「酷い言われようですねえ。」

「ただ首都に近すぎるせいか、情報がかなり少ないんだよなあ。」

「そうなんですか?」

「おお。何か最近、力の強い聖職者が首都に来たらしくてさ、そいつが近隣の村々にまで結界を張った訳よ。」

「え、じゃあモンスターは入れないんじゃ、」

「おお。」

「何でわざわざそんな所を狙うんですか?他にも目ぼしい村はあるのに。」

「魔王様がこの聖職者に対抗心焼いてるんだよなー。『面白い!人間ごときがこの魔王軍を払いのけよう名だとは片腹痛いわ!!馬鹿な人間どもよ!!慄き、戦慄くがいいわ!!』つって。」

「今の台詞、ブラックドッグさんが作ったんですか?」

「いや、資料私に来た時、魔王様が言ってた。因みにこのセリフは次巻に乗るぞ!!」

「もう嘘って解っちゃったら読む気失せますよお。」

 魔王様武勇伝は毎月最新刊が出る。

 流石は事務のブラックドッグさん。執筆速度が尋常ではない。

「しかも、その村は石油が湧くらしい。」

「獲得出来たら魔王軍は石油王になりますね!」

「頑張ればまた給料が上がるぞ?」

「やったー!!」

「お前ってかわいい見た目の割に金にはがめついよな!」

「はい!お金のない人生なんてまっぴらごめんです!!」

「潔くていいな!!あはははははは!!」

「クソ位だと思ってます!!」

「その気持ちは解るぞ!!」

 二人で盛大に笑うと声が部屋中に響いた。

 そう、魔王軍の給料はかなりの割合で上がっていくのだ。

 魔王様が新しい村や町を獲得するごとに我々の給料も右肩上がりで上がっていく。

 さっきまでの話の流れでは、魔王様が少しどうしようもない魔物のような印象を受けるかもしれないけど、実際は社員思いでとても経営上手な魔物様である。

 さらに、領土にした村や町の人間たちも国に属していた時よりもいい待遇を受けるのでみんな大喜びだ。

 まず、魔王軍に属せば魔物に襲われることはなくなるし、魔王様の経営両力からめきめきと経済力を伸ばしていく。餓死寸前だった村が翌年には指折りの貿易村にまで発展するほどだ。

「家畜を殺せば面倒事が増えるが、一生奴隷として扱えば余の利益と化すであろう!!使える道具は使うと言うだけの話よ!さあ、人間どもよ!!恐怖に震えるがいいわ!!」

「魔王様万歳!!魔王軍に栄光を!!」

「きゃー!!魔王様!!」

「おい!もっと魔王様に差し出せるものはないのか!?村中を探せ!」

 最早人間たちは人間としてのプライドなどドブ川に捨てていた。

 魔王軍に属した村人たちからは毎月出し渋りの一切ない大量の貢物が差し出される。

――魔王様が世界を収めるようになったら世の中は安泰だろうなあ。

 笑っていたブラックドッグさんが一息つくと地図を見ながらコーヒーの入ったカップに手を伸ばした。

「しかしまあ、こりゃ実際に調べに行かないとだなあ。あー、めんどい。」

「この結界ってどのくらいの範囲に貼られてるんですか?」

「幅にしては首都とその周りの村々・・・初級の森の手前までだ。形としては王城を軸に半球体。だから、目当ての村の決壊の高さは精々4~5mだな。」

「低いですね?」

「そうだな。所詮は人間が這った結界だし、その程度だろ。問題は誰を生かせるかだが。その辺の無職モンスター雇ってもいいけど、あいつらすぐ就職とか賃上げとか媚びてきて鬱陶しいんだよなあ。」

「ほお。」

「誰かいねえかなあ。仕事そんなになくて、上空から村の様子覗いてこられるような・・・あ。」

「え。」

 コーヒーをすすっていたブラックドッグさんの見えない目が私の姿を捕えた。

 わさわさで完全に顔を隠してしまっている毛の中で彼がニヤリと笑ったのがよく解る。

「行ってきてよ。」

「やっぱりそうなるんですか!!」

「大丈夫大丈夫!ちょっと様子見て来るだけだって!!心配すんな!もし、勇者に会ってもあの魔王様すら眠らせた必殺の睡眠魔法があるだろ?」

「何でそのこと知ってるんですか!?」

「俺の情報網をなめんなよー!!そのくらいのことは知ってるぜ!!」

 親指を立てて良い笑顔を向けて来る。

――魔王様、私は誰にも他言してませんからね!?

 心の中で叫んでも魔王様には届かないだろうけど。

「それ絶対に魔王様武勇伝には載せないでください!!僕の首が飛びます!!」

「解った解った!!じゃあ代わりに行ってきてくれ!」

「うう、解りました・・・。」

「心配すんなよ、別に一人で行けって言ってる訳じゃない!!確か、今はペドロが暇してるって言ってたからあいつと行け!頼んだぞ!!」

「はーい。」

 ブラックドッグさんに言われ、こうして私は魔王軍が制圧を目指す村の下見に行くことになった。

――ペドロさん・・・少し苦手なんだよなあ。

 上司のペドロさんと一緒に。

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