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ダンジョンに挑みまして②

 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ。

 実戦経験を積むためにダンジョンに来たら、最推しの軍荼利姉さんが現れた。

 な……何を言ってるのか、わからねーと思うが俺も何が起きたのか分からなかった。


「それで、私も同行してかまわないな?」


 俺が脳内で盛大に混乱していると、軍荼利姉さんが再度問いかけてくる。


「それは構わないけど……なぜここに?」


 俺は震えそうになる声を抑えながら、リライターとしての芝居がかった演技を崩さないように尋ねる。


「ダンジョン発生の連絡を受け、一番近くにいた私がやってきたのだ。お前こそ、なんでここにいるのだ、リライター」


 警戒の態度を隠すことなく、目を細めながら姉さんが尋ねる。


「――人助けさ。《《魔法少女》》なのだから、当然だろう?」


 俺は、チラリと男性の方を見ながらそう答える。

 先ほど、男性にもそう答えてしまったため、今さら変えるわけにはいかない。


「え、ええ。先ほど業魔に襲われていたところを、このリライターさん? という方に助けていただきました」


 剣呑な雰囲気を感じたのか、男性がフォローするように伝える。


「……そうか。それに関しては礼を言おう。聞きたいことは山ほどあるが――この件が終わってからにしよう」


 軍荼利姉さんがそう言うと、ダンジョンの奥へと進み始める。


「あの……お二人とも魔法少女なんですよね。仲が悪いんですか?」

「彼女はオフィシャルで……私は違うからね」


 俺がボカすように答えると、男性は「あぁ」と納得したように頷く。

 民間の魔法少女《コーポレート》達はおおむねMAHOと良好な関係を築いているが、中にはMAHOの選考に落ちたことを恨んでいる者もいるため、必ずしも仲が良いわけではない。

 まぁ、それ抜きにしても生きている人間同士なので個人的に思うところもあったりするしな。


「何はともあれ、君の事はちゃんと守るから安心するといい。なにせ、ここには魔法少女でも最強の軍荼利ね……焔華が居るんだからね」


 実際、軍荼利姉さんは歴代魔法少女の中でも上澄み中の上澄みで、活躍度や人気などを総合的に見て決定される魔法少女年間チャートでも三年連続一位を取っている。

 MAHO、民間関係なく選ばれる栄えあるランキングなので、みんな上位を目指しているのだ。

 ちなみにトップ10はMAHOが七人、民間が三人ランクインしている。

 当たり前だが違法少女《イリーガル》は選考外である。

 たまに悪ノリした連中が投票したりするが即座に弾かれる。

 まぁ、イリーガルだけを対象にした裏の人気投票などもネットで開催されていたりするのだが。


 その後、俺たちは危なげなくダンジョンを進む。


「浄焔《セイクリッド・ブレイズ》!」


 炎属性を得意とする軍荼利姉さんが、錫杖を振るい業魔を焼き払う。

 さすがは姉さん。キモイ見た目の業魔相手でも臆することなく果敢に戦っている。

 最推しの戦いを間近で観戦というファン垂涎の状況に、俺は思わず拍手をしてしまう。


「いやぁ、素晴らしい! さすがは軍荼利くんだ! 《《現役最強》》なだけあるよ!」


 俺はパチパチと手を鳴らしながら、心からの賞賛を送る。

 この時ほど、この世界に転生してよかったと思うことはない。もう死んでもいいくらいだ。


『ならば、我に体を譲ってくれてもよいのだぞ?』


 ははは、寝言は寝てから言ってもらおうか。

 隙あらば俺の体を乗っ取ろうとするマキナを脳内で一蹴する。


「心にもないことを……お前は、いったい何を企んでいるんだ」


 俺の賞賛が気に食わなかったのか、姉さんはキッとこちらを睨んでくる。

 うひょー、推しが睨んでくるのたまんねぇ~。ありがとうございます。


「企んでいるだなんて、とんでもない。私はただ……皆の幸せを願っているだけさ」


 俺は一切の敵意の無い笑みを浮かべて、そう伝える。

 推し達には青春を送り、時には笑い、時には苦戦し、絆を深めていってもらいたい。

 それを邪魔する障害を排除するためならば、俺は労力を惜しまない。


「……っ」


 俺の言葉を聞いた姉さんは目を見開き、口を開けて何かを話そうとするが、言葉を飲み込み顔をそらす。

 きっと、俺の純粋な目的に感激したに違いない。


「そう、か。幸せ、か」


 その会話を最後に、姉さんはこちらに何か話しかけてくることはなかった。

 俺が敵でないと分かって、これ以上の問答は不要と判断し、救助に集中することにしたのだろう。


 その後、俺と姉さんで業魔を斬り伏せ、燃やし続け、最奥にやってくる。


「た、助けてぇ!」

「いやぁーー!」


 ダンジョンの最奥には、巨大なウツボカズラのような業魔が太い蔓を自在に動かし、二人の少女を拘束していた。

 二人とも中学生くらいで制服を着ているので、おそらくは学校帰りに異界化に巻き込まれてしまったのだろう。


「可哀そうに……今、楽にしてあげるからね」

「っ! 待て、あの子らに何をする気だ!」


 俺が大剣を構えて彼女らを助けようと前に出ると、姉さんが慌てた表情でこちらを止めてくる。

 何って……苦しみから救ってあげようとしただけだが?


「私が、君の代わりにやってあげようと思ってね。君の魔法ではあの業魔とはおそらく相性が悪い」


 業魔にも属性があり、魔法少女との相性が存在する。

 植物は炎に弱いと思われがちだが、実は生木や水分を含んだ植物は案外燃えにくい。

 それがダンジョン主レベルの業魔となれば、たとえ姉さんだったとしても一気に倒すことは難しいだろう。

 人質が居なければ姉さんに任せるのも手だが、彼女がてこずっている間に人質が危険な目に遭う可能性がある。

 ならば、俺の方が適任だ。


「君の魔法では彼女らを苦しめるだけだ。何、私がすぐにあの苦しみから救ってあげる……君はそこの男性を守っていたまえ」


 俺の言葉に、姉さんが思わず男性の方を向く。

 その隙に俺は地面を蹴った。


「……!」


 後ろで姉さんが何かを叫んでいたが、俺は目の前の敵に集中する。

 俺を敵と判断したウツボカズラの業魔が、残った蔓をこちらに放つ。

 よく見ると蔓には無数の棘が生えており、アレに捕まったら大ダメージは免れない。


「マキナ、変形《シフトチェンジ》」

『りょ』


 俺の命令にマキナが短く答えると、大剣のギアがギリギリと回り出し、姿を書き換え始める。

 蔓がこちらに肉薄するころには、重厚な大剣は、身の丈ほどもある死神が持つような大鎌へと変形していた。

 実はこのマキナ、大剣以外の姿も持っているらしく、敵や状況によって変形が可能とのことだった。

 なんで黙ってたんだと聞けば「聞かれなかったし……」とほざいていたので、今度黙ってたら塩漬けにしてやると脅しておいた。


「さぁ、草刈りの時間だ!」


 迫りくる蔦を大鎌で切り裂き、業魔に肉薄していく。

 近づくごとに蔓の数が増えていくが、リライター状態の俺の敵ではない。

 四方八方から襲い掛かる攻撃を軽々とくぐり抜け、少女を拘束していた蔓を一閃の元に断ち切った。


「ひゃあ……っ」

「おっと、危ない」


 支えを失い地面に落ちかけた少女達を抱え上げる。


「二人とも、怪我はないかい?」


 安心させるために微笑むと、二人はぼうっとした表情でうなずく。


「は、はい、大丈夫です!」

「ありがとうございます……お姉さま……っ」


 うむ、お姉さまの意味は分からんが無事で何よりだ。


「ギシュアアアアアア!」


 餌を取られたことによる怒りなのか、業魔はどこからか怨嗟の声をあげる。

 そして、こちらに向かって粘着性のある液体をぶちまけてきた。

 ウツボカズラの姿からして、おそらくは強力な溶解液なのだろう。

 体にかかれば、たちどころに溶けてしまうだろうが……心配はしていない。


「だろう、軍荼利くん」

「言われなくとも! 鳳凰焔劫!」


 俺の声に応えるように姉さんが飛び出し、鳳凰の形をした炎を業魔に向かって放つ。

 鳳凰はそのまま業魔を喰らうように包み込むと、万象一切すべてを焼き尽くしていく。

 人質が捕らわれたままでは絶対に使えなかったであろう大技だ。

 業魔はそのまま燃えカスとなり消え去っていった。

 そして、ダンジョンボスが倒されたことで異界が崩壊し、元の現実の景色へと戻っていく。


「流石は軍荼利くんだね」

「……」


 俺の言葉に、軍荼利はプイッと顔をそむける。

 照れてるのかな? 可愛いね。


 その後、助け出された三人はMAHOで異界化による精神汚染の影響を検査するため、保護されることとなる。

 救助者の女子中学生二人が、難治《なんじ》 英眠《えいみん》と井土《いつち》 か。

 サラリーマン風の中年男性が巣礼田《すれた》 哲夫《てつお》と言うらしい。

 まぁ、縁があれば、またどこかで会うことだろう。


 救助した人たちと姉さんがやり取りしている隙に、俺はそのままクールに立ち去るのだった。


 ◆


【事後報告書】

 作成者:MAHO日本支部 所属 軍荼利 焔華


 件名: 森林型ダンジョン発生および未知のイリーガル、リライターとの接触に関する報告


 事案の概要

 本日、業魔によるダンジョン発生の報告を受理。

 最寄りに位置していた当職が初期対応および市民救助のため単独で突入。

 ダンジョン内部にて、以前接触したイリーガルであるリライターと遭遇。

 不審な点は多々見受けられたが、要救助者の安全確保を最優先とし、一時的に同行。


 対象者「リライター」に関する特記事項および所見

(1)行動理念について

 同行中、対象者に目的を聴取。

 「皆の幸せを願っている」と供述した際の表情には一切の悪意や虚飾が見られず、極めて純粋な動機に基づいて行動していると推測される。

 しかし、その純粋さは常人の理解を絶する狂気を孕んでおり、自身の定義する『幸せ』のためならば、いかなる犠牲や手段も厭わないという強烈な意思を感じ取った。他者を称賛する言動もどこか芝居がかっており、対象者が現実を一種の《《舞台》》のように俯瞰しているような超然的な違和感を覚える。


(2)戦闘における異常性

 ダンジョン最奥での業魔戦において、対象者は人質となっている市民に対し「楽にしてあげる」と発言し、凶刃を向けようとする素振りを見せた。

 当職が制止し真意を問いただしたが、対象者は明確な回答をはぐらかしている。

 最終的に人質は無傷で救出されたものの、当職がその場に居合わせなかった場合、対象者が人質の命をどのように扱っていたかは未知数であり、非常に危惧される。


 結論および提言

 対象者リライターは、一般的な善悪の規範やMAHOのルールには一切縛られず、己の歪んだ目的を第一義として行動する異常な存在であると断定する。

 現在は結果として人命救助に寄与しているが、不確定要素が極めて多く、状況次第では我々と真っ向から敵対する危険性が高い。

 今後も最重要警戒対象として注視することを強く進言する。


 以上


【TIPS】

「皆の幸せを願っている」と語ったときの笑顔は、

か〇くりサーカスのフェイスレスの「夢はいつか必ず叶う!」と言った時の笑顔と同じ

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