第1話 たぬきはイイ感じの枝を見つけましたよ
たぬきは森でイイ感じの木の枝を見つけたのですよ。
あの日は天気もよくて、木の元気もとってもある季節で、枝にはいっぱいの葉っぱが茂っています。たくさん葉の茂った隙間を抜けて土の上に踊る光も愉快で綺麗。ところどころに顔を出している花や、花びらの散ったあとの軸の先に小さな実の気配もします。たぬき、目が悪いのでしっかり見ることはできないのですが。なんとなく感じるのです。今年の秋はお腹いっぱい食べられるぞ、と。ワクワクしますね~。
もっともたぬきは、いつだってお腹いっぱい食べられるように頑張ってますけどね。うふふ。だからあの時も、ご飯を探していたのです。でもイイ感じの木の枝というのは、イイですよね。ついつい咥えてしまうわけですよ。楽しいですよね。
たぬきはご機嫌でイイ感じの木の枝をちょっと振り回す感じでルンルンと足取り軽く森のなかを歩きました。その辺に生えてる木の幹に時々ぶつかるのはご愛敬。わたしはたぬきですからね。ルンルンとした足取りがヨチヨチに見えても、ヨタヨタに見えても気にしません。
でも、ですね。
まさかその木の枝が、魔法の杖だとは思わないじゃないですか。
ブンブン振り回してプワンとなんとなくクゥーンとかキュルルとか鳴いていたわけですよ。
わたしはたぬきですから、多少の変化は体験済みなのですが、魔法のほうはチンプンカンプンなのですよね。
「わっ⁉」
だからボワンと白い煙が立って、たぬきの体が茶色の髪と瞳を持ったグレーのフード付きマントをまとった女の子の体になった時には驚きました。
「えっ⁉ ナニコレ? え? どうしたら……」
どうすればいいのか分からないので、たぬきはいったん両親の待つ巣へ帰りました。そこからが酷いのですよ。
わたしを見た両親は丸い目をまんまるにしました。わたしはたぬきですから、両親ともにたぬきです。黒くて丸い目でわたしをじっくり、じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃくりと凝視したあと、父は目元をキリッとさせていいました。
「もうそろそろお前も自立しないといけないね、アディ。大丈夫、もう大人だ」
「そうよ、アディ。あなたも独り立ちの時期だわ。それにあなたは人間の魔法使いになれたのだもの。なんの心配いらないわ」
母もうんうんとうなずいて同調しました。そしてわたしは巣から追い出されてしまったのです。クスン。両親は人間になってしまったわたしの相手をするのが、面倒くさくなってしまったのでしょう。それにわたしは、ひとりで暮らせないというわけでもありません。だけど……ひとりで暮らすのは寂しいし面倒くさい。たぬきでも面倒なのに、女の子の魔法使いになってしまったから、もっともっと面倒くさい。
たぬきは魔法使いになれても人間の体には慣れません。たぬきへ戻るにしても、どうすればいいのか分からないのです。どうやら魔法使いになったからって、すぐに魔法を上手に使えるわけではないらしいですよ。自由自在にたぬきと人間を行き来できれば楽しそうなのですけどね。とりあえずどうにかしなければならないけれど、どうすればいいのか分からない。魔法の杖が振って欲しそうにしていたので、たぬきは人間になった手で魔法の杖を握って、ブンブンと振りながら森のなかを歩いていきました。
すると魔法の杖だったイイ感じの枝が、一軒のイイ感じの廃屋へとたぬきを案内してくれました。古いけれど、誰も住んでいないし、どうやらたぬきが住んでも問題なさそうです。なにより魔法の杖がオッケーだしているのだから、オッケーなのでしょう。オッケー、オッケー。たぬきは全てが面倒になって、新しく手に入れた古い小屋を住処に決めました。
こうしてイイ感じの枝を見つけたたぬきであるわたし、アディは魔法使いとして森の奥でひとり暮らすことになったのです。そして少しずつ生活を整えながら、一年二年と経って行き、何度目かの春を迎えたある日のことです。
「えっと……コレはどうしたら?」
目の前に血まみれの人間、それも金髪色白細マッチョで整った顔立ちの、かなり美しい男性が倒れているのを見つけてしまったのでした。




