7話 ネカフェ初日陥落
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自分でもよくわかっていない能力を使っていると、思わぬ落とし穴にハマることもあります。
私のネカフェ。
言葉にすると何と素晴らしい響きなんだろう。
しかし、その恩恵を享受しまくるには一つ問題があった。
ねむい!!!
考えてみて?わたしもともと深夜勤の予定だったわけよ?つまりこの時間、普通に寝る時間なんだよね。
まあ昨日は色々あったこともあって、仮眠はとったよ。でもコンビニの床で段ボールで寝るなんて、しっかり休めるわけないじゃん。おかげで起きた時は頭が重く感じられたくらいだったんだから。
そんな状態で、人目を気にしながらの東京撮影ツアーだ。その結果新しい拠点が無事得られ、スマホの維持に必要な収入も十分に確保できたこともあって、思いっきり気が抜けてしまっている。
もういい。ねよねよ。
その前に。スマホをしっかり充電。
バッテリーはもう15%になってる。思ったより減ってるね。まあ、ずっと配信しっぱなしだったし、しかたないか。
あと、寝る前に、体だけ軽く洗うか。流石にそろそろ気持ち悪くなってきたからね。
ネカフェにはちょうどシャワー室がある。試しに軽く蛇口をひねる水が出るかを確かめる。結果ぺけ。
…うん。わかってたけど結構残念。熱いお湯を浴びるってのはほぼ無理そう。
んー、どうしよ。一応、水は余裕もって持ってきたけどそれ使う?
あとは、ドリンクバーとかの水とか使うという手もあるけど、多分あれ、電気が通ってないから使えないよね。
そこで、ふと閃いたことがあった。私はいそいそとスタッフルームの中へと入っていく。
「あったあった!」
見つけ出したのは予備として供えられた水だ。一度ネカフェでバイトしたことがある。こういう場所には基本バックヤードにある程度の水は備えているんだよね。予備であっても私ひとりが使うと考えれば水量は十分だ。
「あと、カップラーメンがあるならこれも絶対あるよね、ポットのお湯」
ウォーターサーバーとかお湯しかないといまいち沸騰していないから、カップラーメン用には100度に近いポットのお湯が備えられていることも多い。確認してみるとしっかりまだ温かいままだった。これを適当に混ぜていけばそこそこ良い感じの温度になりそう。スタッフルームにある厨房を適当に借りて水と熱湯を混ぜて。ほい完成。
……なんか、流石に世知辛くなるな。今後こんな感じで生きていくしかないのかな…。たまにでいいからあっついお風呂に入れるように頑張ろ。
とりあえずそれで軽く体をふき頭も濯いでさっぱりすると、すっかり眠気はピークに達した。
あー、ドライヤー使えないんだった…。え?このまま寝るの?嘘だろお…。でも使えないものはどうしようもないし、タオルを上手いことまいて我慢するしかないか。
そうして私は個室の中で一番大きくて匂いの気にならない場所を見つけ出すと、いそいそと毛布を引っ張り出してそのまま横になった。
そうやって目をつぶった瞬間にはもう、私の意識は一気に遠のいていった。
どれだけ経っただろう。
ふとなんとなく目が覚めた。
ぱっと見は何時かわからない。地下の電気の通っていないネカフェだから、基本ずっと暗いのだ。
あー。なんかすごく頭が重い。今回はちゃんと寝たのにな…。むしろ逆に寝すぎた?
充電中のスマホを確認。18時だった。うわ。10時間近く寝てるよ。まあ、そりゃ逆に頭も重くなるよね。まあ、まだ寝れる自信あるけど。
さて、どうしよ。
これまでずっと追い込まれては行動するという連続だった。
それがやっと、最高のセーフハウスを見つけ出したのだ。なんかあまりやる気が起きてこない。
「食べていくならまあ、ある程度は何とかなるしね」
まあ、流石にいろいろ足りないものばかりだし、物資の補給のためにアクションを起こす必要はあるのだが、なんか当分はいいや。
とにかくそんな気分だった。
とはいえ、今後の指針のためにもとりあえず、いったん外の様子を確認してみるか。
そんなのんきで軽い気持ちで外に出ようとして。
私は、あまりに遅すぎながらも、とんでもない事態に自分が追い込まれていたことに、やっと気づいた。
出口が、塞がれていた。
「は?」
階段の出口。そこからほんの少し離れた場所に杭が打ち込まれ、縄が貼られ、そこにテントのようなものがかぶせられている。完全に出口をふさぐ形で。
え。何が起きてるの?
偶然こんなところで工事でも始めた?そんなことある?
しかし工事の音は特には聞こえてこない。なんとなく聞こえてくるのは、やや騒がしい人の話す声だ。
……ちょっと待って?
私、神社の周りは人通りが少ないだろうってことで、ここ選んだんだよね?なんでこんなに人の声が聞こえてくるの?
猛烈に嫌な予感がしてきた。私はできるだけ音を立てないよう階段を上り、必死に聞き耳を立てる。
すると、どうも塞いだ出口のすぐ近くで話しているらしい声がギリギリ聞こえてきた。
「んで、いつ地下に――り込むってんだい?」
「もうちいと暗く―――の目がねえようになって――でえ」
「わざわざ荒事――た若ぇのまで―――大層なこったな、おい」
「将門――祟りか知ら――妙ちきりんな建物――乗り込む――しょうがねぇ――が」
ん?
んんん?
地下?みょうちきりんな建物?!それってもしかしてここのこと?
それに、乗り込む…?!乗り込むって言った???
は。
なんだそれ。
私は思わず階段に座り込んでしまった。
なんだそれ。なんだそれ。
ここは、この時代の人には見えないんじゃなかったの?
それがこんな風に穴塞いで、中に入ってくるって言ってるの?
私の、やっと見つけた最高のセーフゾーンに???
やばい。
叫びたい。
ふざけるな。
もう頭にはそれしか浮かばなかった。
ふざけるな。
ふざけるな…!!
なんでこうなるんだよ!私が何したよ!
何にもしてないだろうが!あんたらに何一つ迷惑かけてないだろうが!
なのになんで、私の大事なところを踏み荒らそうっていうんだよ!
せめてみつけた、ささやかな居場所すらも、あんたら寄ってたかって奪おうっていうのかよ!!!
感情がふりきれすぎて、気持ち悪い。頭がガンガンと鳴りわめいてどんどん重くなってくる。
だめだ。
このままここにいちゃ私は絶対に爆発する。
早く中に戻らなきゃ。
さっき私は神様に宣言したんだ。生き続けてやるって。
だから考えなきゃ。どんな状態でも、私は前に進まなきゃ。
体を引きずるようにして、私は来た道を引き返していった。
そうやってまたネカフェに戻ったわけだが。
で。どうすればいいのこれ。
脳がしびれたようになって何も考えられない。
何から考えたらいいかわからない。
なぜ彼らにこの建物が見つかったのか。なぜ彼らはあんな覆いを作ったのか。彼らは私をどうするつもりなのか。
いいや違う。
そんなのすべてどうでもいい。
私は、どうすればいいか。それだけを考えろ。
私は回らない頭で状況だけを考える。
彼らが入ってくるタイミングはわからない。多分聞いた感じ人目がつかない深夜とかに踏み込んでくるんだろう。
そして踏み込まれたら私はどうしようもなくなる。
隠れるったって限度がある。見つかったら抵抗なんてできるわけがない。私はあっという間に自由を奪われるだろう。
あの覆いを破って逃げ出す?
無理。たぶん近くで控えている二人すらふりきれない。
詰んでいる。
というか、明るいことが考えられない。
どうしたって気持ちが暗い方へ暗い方へ落ち込んでいってしまう。
「……そうだ。配信するか」
こんな状況で何を言っているんだと、普通の人なら思うかもしれない。
でも私にとって、これが唯一心が上向く方法なんだ。
何にも考えられなくても、配信のことは考えられる。
それに、頭が全く動かない今なら、コメント見て考えた方がよっぽどましだろう。
「…あ、声出し」
それがあった。いろいろ相談したいのに、無声配信ではそれができない。
えっと、AIさんAIさん。何かいい方法ないですか。
え?登録すればその声だけボイスチェンジしてくれる機能がある?じゃあそれで。
とにかく考えない。動く。それならできるから。
「世界は一つじゃない――みなさん、お久しぶりです。1928Travellerのヨルです。…お久しぶりって言っても、昨日ぶりか。あれからまだ一日もたってないんだね。嘘みたい」
ネカフェの映像を見せながらいったん配信をスタート。
動画のタイトルは「【相談】1928年 ネカフェで詰みました。」にした。動画見てる人、意味わかんないだろうな…。本気にしてくれる人、どれくらいいるんだろう。
「今までの動画を見てくれていた人、急にチャンネルを閉じちゃって本当にごめんなさい。私としても、断腸の思いでした。でも、このチャンネルでこれからも配信は続けていくので応援よろしく」
いったん、普通の挨拶をしていく。
こんな状況なのに何やってるんだろうね、私。
「これまでの話は置いておいて、いったんさっそく本題に入ります。私はいま追い込まれています。私が今いるのは私が呼び寄せた2028年のネカフェです。それが今、1928年の人たちに取り囲まれてるみたいなんです」
私は事情を説明する。ダンジョン生成のこと。私が把握しているルールのこと。神田明神のすぐ足元にダンジョンを作って仮の拠点としていたこと。そして今の客観的現状。
コメントの様子をみると、半分はさすがに信じられないという反応だ。意味が分からないそうだ。うんわかる。私も意味が分からないもん。
でも、意外なことに、もう半分はすんなり信じてくれている。
あの、長回しの生配信東京ツアーはよほど効果があったようだ。
私はもうちょっと事情が伝わるよう、音を立てないよう慎重に再び自動扉の向こう、階段の上の様子を映し出す。ちなみに荷物は一応背負っておいた。何かあった時そのまま逃げれる準備だ。
変わらず覆いがかぶされた階段出口は、先ほど以上に不穏な雰囲気に包まれていた。
なんだか、少し人の気配が増えたような気がする。私は音を立てないようできる限り近づく。
「あらかた揃っ――うだな」
「いいか、今回の――は他のやつら――て知られちゃ――ねえ」
「今から――は、階段下の得体の――え建物に踏み込んで、元凶の術師をしょっぴく」
「何が起きるか――たもんじゃねえ。くれぐれも油断くれるなよ」
やば!今まさに踏み込もうとしてるところじゃん。私は大慌てで(もちろん音は立てずに)ネカフェに戻り自動扉を閉めた。
「やばい。本当に踏み込まれます。どうしたらいいでしょう」
『ひとまずにげろ』
『スタッフルームに隠れたら?』
『非常階段側はつかえないの?』
あ!非常階段!
いつもの非常灯のマークがついていないもんだから、すっかり脳内から消えていた。
それしかない!
私は急いで非常口を探す。正直、暗くて間取りはよくわかっていないんだよね。
急げ!と思っていると、入り口の方が騒がしくなってきた。
やっば…!もう来ちゃったよ。
私は慌ててブースの一つに隠れた。
こっそりスマホのカメラだけのぞかせて様子を見る。
今まさに自動扉をいぶかしげな顔をしながらこじ開けて入ってきた男たちは、昨日の地下街に沸いた傷だらけの男たちと同じような、汚い肌着に半纏という格好をしていた。どうしても、トラウマがよみがえってきて、背筋がぞわっとする。
「な、なんでえ、こりゃあよお」
「気味のわりい場所だな、おい。妙ちきりんなついたてがずらっと並びやがって。こいつぁ、何かの仕事場かねえ」
「見ろい、得体の知れねえもんが棚に並んでやがらあ。さては、こいつが噂に聞く魔導書ってやつかい? こりゃあ長居はごめんだな。頭がおかしくなっちまうぜ」
「相手はたったの一人だそうだ。さっさと引っ捕らえて、おさらばしようぜ」
さんざんな言われようだ。
彼らは二手に分かれると、あたりを見回したり個室の中を調べたりしている。
……本気で詰んだ?
手に力が入らなくなってきた。すがる思いでスマホをチラ見する。
『ここ来たことある!たしか店に入って奥の方、右側の通路奥に非常口あるはず!急いで!』
ありがとう!!!!
今いる場所は、入り口から離れた場所にある。彼らはすぐには来ないだろう。
カメラでこちら側の通路にはまだ人が来ていないことを確認すると、私は個室を飛び出し急ぎ通路奥に駆け込んだ。
非常口は防火扉にもなっているから結構分厚い。…これを開けて閉めたら絶対音がするなあ。どうにかなんないかな。
まだ、こちらに男たちはやってこない。素早く相談する。
『非常口は押し扉だから、中に入った後扉の前になにかおくとか?』
『さっさと一階から外に出たらいいじゃん』
『↑待ち伏せされてたら詰むだろ。少しは考えろ』
『ダンジョン生成で何とかならん?一階と地下の切り替えとかできたんでしょ?』
天才か!
それだよ。要するにさ。非常階段しかない建物って思い浮かべたら、非常階段だけ残って、あとは消えるでしょ?一階が消えた時みたいにさ。まあ、なんで彼らが踏み込んでこれたのか分かんないから、絶対安全かは知らないけど、今よりましなはず。
私は即行動する。
音は当然なった。
「なんだ今の音は!」
「居やがった!こっちだ!」
男たちの声を背にドアを閉めるとすぐに開けられないよう必死に体重をかけてドアを押さえる。
そして念じる。ここには地下なんてない!あるのはこの階段!階段だけ!
お願い!
すると、ドアの向こう側の駆け寄ってくる足音が急にふっと消えた。
……うまくいった?うまいこと地下の部分消えてくれたかな?
私はドアに突っ伏すようにへたり込んだ。
本当にもうだめかと思った。勿論まだ終わりではないがひとまず息くらいつかせてほしい。
しかしなあ。警察官だけじゃなくて、普通の人たちまで追ってくるなんて思わなかったよ。ていうか、なんだよそれ。そんなことになったら、敵しかいないじゃん。
…そういえばあの人たち、ネカフェ消えた後どうなったのかな。突然かべのなかにいる状態になってたりする?だとしたら私はいきなり大量殺人犯になる。
ん。いや大丈夫だ。だって今朝、私を助けてくれた昨日の女の子見かけたじゃん。あの子はタイミング的にあの地下通路の出口から出てきたとは思えない。ならば当然ダンジョンが消えた時地下にいたはずなんだ。それでも無事だった。ならば、きっとあの腹の立つ男たちも一応無事だろう。ちょっと安心。
うん。なんだか頭がようやく回ってきたよ。
まあ、そんなことよりだ。
いったん、退路をきちんと確認しておかなきゃ。
私はそのまま一階にある非常階段の出口まで歩いていく。そこにあるのは窓のついていないスチール製の扉で、外の様子はわからない。えっと鍵は、ってあれ、このバーかな?これを横にずらせばいい感じ?あ、なんか力入れたら簡単にあくね。
扉を押してそっと外の様子をスマホで映してみる。誰もいな――
「お待ちしておりました」
突然女性の声が聞こえた。
ドアにガッと複数の手が伸びてきて無理やり開け放たれる。私は思わず二三段飛び降りた。持っていたスマホも落としてしまった。
逆光のように月の光を浴びて、着物姿の女の人が一人と、複数人の特徴のない服を着た男たちが数名立ちふさがっている。
「あの方のご指示の通りでした。敬服いたします。――さて、マレビト様。随分と手間をかけさせてくれましたが、これからはおとなしく私共のおもてなしを受けてくださいませ」
もう、冗談のような詰み展開。
思わず笑ってしまった。
「結構です。いいからそこどいて。ここは私の拠点だから」
「何をおっしゃるのです?ここは神田神社の聖域。それを無遠慮に荒らす貴女様こそ、ここから立ち退くべきでしょう。――まあ、問答など良いのです。誰かに見られて、鎮魂に間違いがあったなどと噂されては障りがある。さっさと済ませましょう」
無表情の男たちがこちらに降りてくる。
私はじりじりと階段の下に追いやられていく。どん、と背中に何かがぶつかる。さっき入ってきた非常ドアだ。
本当に追い詰められた。
「そう警戒されないでください。無体な真似は致しませんよ――あなたが私たちに従う限りは」
はい。無体な真似をされますと言われました。私がお前らに従う?冗談じゃない。
私はあきらめない。
暴力なんかに屈してたまるかってんだ。
もう一か八か、男たちにいきなり体当たりしてその隙に逃げる!
えい!
思いっきり突っ込んだはずなのに、男たちはびくともせずにそのまま私は地面に引きずり倒された。かぶっていたハンチング帽が脱げて髪の毛が表に出る。
「まったく、女だてらに何とかなると思いましたか?」
さげすんだ声が聞こえてくる。
その一言で感情はキャパを超えた。
ふざけるな。
お前まであのくそ親父みたいなことを言いやがるのか。
踏みにじられた怒りに、自由を奪われる絶望に、視界が赤く染まっていく。頭が粉々になりそうなほど、痛む。
お前らなんか
死んじゃえばいい
変化は突然だった。
いきなり目の前に、昨日の血まみれの男達が現れた。
「へ?―――う、うわぁぁ!」
彼らがいきなり腕を振ると、それだけで男たちはみな階段の上に思い切り吹き飛ばされた。すさまじい怪力だ。こいつらこんなに強かったんだ。
「ま、まさか事故で死んだ幽霊??」
「やっぱり鎮魂は失敗だったんだ!」
男たちが真っ青な顔をして引き下がっていく。
ざまあみろ!そう思った時だった。血まみれの男の一人がぎゅんと首をこちらに回してくる。
手が不意にこちらに伸びてきた。
「ひ、ひぃ!!」
必死で転がってかわす。
私のことは見逃してくれるなんてことはないらしい。そりゃそうだ。そんな都合のいい展開あるわけがなかった。
亡者たちの追撃は止まらない。もともと私は追い詰められていたんだ。またあっという間に非常ドアまで追い込まれた。
「ま、まっーー」
懇願の声を止めるかのように亡者の手が私の首を締め付ける。
し、しぬ――!
「なんて様です!あなたちの専門でしょう!」
「し、しかし、まさか本当に…」
「く…!いったん引きます!」
そんな声が聞こえてきた。男たちはうまく逃げていったようだ。
そして、私が生み出した非常階段に、私と亡者だけが残される。
亡者たちが全員こちらのほうに向きなおるのが視界にうつる。
せめて恨みがましい目であってほしかった。その瞳が、私のことなど興味ないと、雄弁に告げていた。
ただ殺す。理由はそこにいたから。
私なんてそれだけの存在。
踏みにじられるゴミカスだ。
「ち、くしょ、、う…!」
頭に酸素が回らなくなってくる。涙が流れて止まらない。
ふざけるな。せめてこっちを見ろ。私が憎くて襲ってこい。こんな、こんなのあんまりだ。
ほんと、誰でもいいから、私とちゃんと向き合ってよ。
その思いを胸に、渾身の思いで息を吐き出す
「だ、れか、たすけ」
その声は当然誰にも届か―――
カ!と音が鳴って、私を締め付けていた手の甲に何かが刺さった。
亡者が思わずといったかんじで私を手放した。
私はせき込みながら刺さったものを確認する。
それはかんざしだった。
「今行くわ!それまで耐えて!」
頭上から声がした。
この世界で唯一、私を助けてくれた人の声。
昨日の夜、あの絶望的な状況で、神秘的に戦っていたあの少女。
矢絣の着物に袴姿。
彼女が、輝く小太刀を抜き放ち、月影を背負って立っていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は冴子パート。
なぜネカフェは取り囲まれたのか、なぜ冴子はあの場に駆けつけてきたのか、裏側のストーリーをお楽しみください。
「陽奈、がんばれ!」「冴子きた!」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!




