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3話 充電方法模索 in 1928

スタートダッシュの3話目。

文明の利器のスマホも、電気がなければただの文鎮です。

一挙公開、このあと3.5話が待っています。

「痛たたた…」


 私は血のめぐりの悪くなった背中をさする。


 あの後、あまりの絶望感に気が遠くなっていたのだが、気づいたらそのまま眠ってしまったらしい。コンビニの床になんて寝るもんじゃないよね。

 見ればあたりはまだ暗い。手持ちのLEDのランプをつけると、見慣れたコンビニの店内が浮かび上がった。


「……やっぱり夢じゃないんだよね」


 コンビニに寝てる時点でわかっていたことだった。しかし、それでもひょっとしたら事態は改善しているんじゃないかと期待していた。


 そんな夢みたいなことはなかった。


 コンビニのガラスの向こうに見える光景は、とてもじゃないが2028年には見えない。

 真っ暗なのだ。あの騒がしかった夜の光景は、一転、火が消えたように静まり返っている。店や建物の明かりや電球の街灯は全て消えている。

 人通りは全くない。

 その中を懐中電灯のようなものを持った警官が遠くで歩き回っており、カッカッという足音がよく響いている。


「…そうだ。裏口はどうなってんだろ」


 もしかしたら、ひょっとして、万に一つくらいは現代の世界につながっていたりしないだろうか?

 私はガバッと立ち上がるとLEDをもったまま裏手に急ぐ。

 ……相変わらず狭いよねここ。

 そのうえ暗いんだから、気を付けて進む必要がある。それでもどうしても気がはやり、ちょっといろいろぶつかりながら私は裏口までたどり着く。


 深呼吸だ。あとなんだろう?念仏?祈り?

 なんでもいいので、お願いします!私を未来に帰してください!

 そんなことを思いながら扉を恐る恐る開けた。


 ………はい。わかってましたよ。


 そこにあるのは、ものの見事に昔の光景だ。わかっていた。私に優しい展開なんて用意されていないことなんてわかりきっていたよ。でも、どうしても、胸の中の獣が暴れるのは抑えられない。

 土を踏みしめるジャリっという音、バラックから漂う炭とか体を洗ってない人の匂い。もうたくさんだ。


 ふと、明かりを照らした先で何かが動いた気がした。私は慌てて扉を閉める。さっきもなぜか警察は入ってこなかったわけだし、扉さえ閉めてしまえば大丈夫だよね……?


 扉を背中で押さえながら、ずるずるとまた座り込む。


 だめだ。これこそ、まさに、八方ふさがりというやつだ。

 何か気持ちが明るくなる物でも見ないと、先のことが考えられそうにない。


 そこで思い出す。

 昨日アップロードした動画!

 そういえばすごい反応があったんだった!それを見よう!というか、こんな状況でも電波がつながるなら、使わない手はないじゃん!

 私はまた慌てて目が覚めた場所に戻る。スマホは地面に放り出したままだった。


「えっと、どれどれ……ってうわ!何これ!さらにすごい数字になってる!」


 いまや再生数が50万回に届きそうだ。再生している部分のほとんどが後半の意図しない部分だというのが悔しくはあるがフォッグ研究所史上類を見ない快挙と言っていいだろう。


 コメント数もすごい。


『何これ!本当にゾンビじゃん!』

『怖すぎ!今日夜トイレいけないわ…』


というように、映像を信じてくれているコメントもあれば


『どうせCGだろ。最近のAIはすごいからな』

『グロすぎ。子供が見たらどうするんだ。削除しろ。』

『やらせ乙』


というような批判的なものもある。


「あ!嬉しい!研究所のみんな心配してくれてる!」


 研究所のみんなとは、もともとチャンネル登録してくれていた視聴者さんたちだ。


『ヨルさん、大丈夫ですか!?無事だとしても、とにかく何か報告してください!』


 見慣れたハンドル名の一つからのこんなコメントに、抜けていった力が戻ってくるのを感じる。


「そうだよ。まずは報告だよ」


 あんな動画を挙げてしまったんだ。せめてちゃんと応えないと。それに、それこそきさらぎ駅じゃないけど、ネットにつながるならみんなに助けを求めることで、もしかしたら色々解決するかもしれないじゃん!


 できることが見つかって、脳がだんだん動き出してくるのを感じる。

 まずはZXに近況報告、そして情報の収集だ。

 このあまりにも意味の分からない現象について、少しでも考える頭数を増やしたい。あれだけバズっているなら考察班は相当数爆誕しているはずだ。彼らに助力を仰げば思いもよらなかった解決策がどっかにあるかもしれない。


 そこまで考えてSNSを開いたとき、はたとスマホの画面のアイコンに目が留まった。

 バッテリーアイコンだ。もはやバッテリーは20%になっている。


 サッと血の気が引いていく。


 そうだよ!バッテリー問題があるじゃん!


 今、私が元の世界につながる手段はこのスマホしかないんだ。誰かに助力を頼むのも、情報を集めるのも、このスマホでしかできない。目が覚めても1928年のままだったことを考えても、時間経過で勝手に私が元の世界に戻れるとも思えない。

 その、未来に帰れない長い時間、私はスマホを維持し続けなければいけないんだ。


「…こういうスマホをもって異世界に行くみたいな話だと、なんかバッテリーを維持できる方法ってあったりするよね?なんかないかな、そういうの」


 なんせ急にコンビニが現れたんだ。

 今のこの場所が、本物の1928年かは正直疑わしいのではないかと思っている。

 だったらさ。お約束のチート能力の出番じゃない?


 とりあえずスマホに対して手をかざしてみる。


 1分経過。

 2分経過。

 3分、もういいよ。無理だよね!わかってました!


「なら掛け声がいるかんじかな?スキルでそういうのがあるとかさ――チャージ!」


 無反応。……いたたまれない…!


 そっから色々試してみた。頑張ってポーズをとってそれっぽい詠唱までしてみた。

 でもだめ。

 結論。そんなご都合な展開が、私にやってくるわけない。以上。


 つまり、私は、極めて現実的な手段を用いて、このスマホを充電しないといけないというわけだ。


 さて、そうなると、問題はかなりシビアになってくる。

 スマホは最大の武器ではある一方で、無暗矢鱈に使うわけにはいかない。使うときは使い、後は節電というのを徹底しないと多分私は早々に詰む。


 まず私はZXに必要最低限の報告と呼びかけを行う。


『ご心配おかけしています。ヨルです。私は無事ですが、動画で見ていただいた通り昔の日本のような風景がひろがる世界にいます。電波はなぜか繋がります。』


 ついでにガラス越しに何枚か写真を撮ってアップする。


『これは、私が今隠れている場所から撮った景色です。何か情報があれば教えてください』


 さらに考察班に呼びかける。


『 以下のような現象を確認しています。これに対して、何らかの説明やヒントがあれば募集しています。私だけでは解明できません。ぜひ皆様のお力をお貸しください』


 そして書いていく異常事態のラインナップ。

 突然停電になった地下街、襲ってくる工事作業者の幽霊、どこまでも広がる1928年の光景、そしてなぜか5GにつながりGPSも届くスマホ、念じるだけで現れる停電したコンビニ、それもコンビニもその中身も外からは見えないというおまけつき……。


 ほんとさ。ひとこといいかな。


 なんだよこれ!!!


 なんか逆に腹が立ってきたよ?神様、私に恨みでもあるの?というか、なんでこんな意味不明の現象思いつくんだよ馬鹿!!


 ふー。ステイ、ステイ私。深呼吸だ。素数を数えるんだ。

 何とか気持ちを落ち着かせた私はその最低限の投稿だけすると、スマホの設定を切り替えていく。明るさは最低にして、つかわないWi-FiとかBluetoothはOFFにする。当然、低電力モードはONに。あ、不用意に音を立てないため、マナーモードもON。


 さあ。こっからがサバイバルだ。

 こんなバカみたいな世界に私一人なんだ。軽はずみなことはせず、よく考えて行動して行こう。


 まず、何はともあれ充電だ。

 コンセントで充電できないか、手持ちの充電コードを使ってバックヤードで試してみる。これはだめだった。コンセントをさしても何ら反応しない。まあ、電気もつかないのに充電できるわけないよね。

 

 次に試すのは、コンビニ内の商品だ。

 バイトをしている身として商品に手を出すことには抵抗があるが、背に腹は代えられない。

 ……これを勝手に使うことによるペナルティとか、ないよね?

 正直わからないというしかない。しかし、私が念じたら出てきたコンビニだ。それを全く使っちゃいけないなんてないんじゃないかという気はしている。


 とりあえず物品の見繕いだ。

 基本的にうちのコンビニにあるバッテリーは普通のリチウム電池タイプのモバイルバッテリーだ。これが何種類か揃えてあった。在庫も含めて全部で20個ほど。

 これらはあらかじめ70%くらいの充電がされているのが普通だから、これは使える可能性がある。ちびちび使うなら数か月は持つだろう。


「お!そうだこれがあったよ!やった!」


 見つけ出したのは、電池式モバイルバッテリー。単三電池が4本必要なタイプだ。


「電池なら何箱もあるじゃん!店長最高!よくこれを仕入れてくれた!」


 かなり光明が見えてきた。一箱に入っている電池は80本だ。それが3箱ある。これだけで240本。表に並べている電池と合わせれば300本にはなる。だいぶ光明が見えてきた。


 その一方で、欲しいと思っていた、手回し式のモバイルバッテリーやソーラーバッテリーはなかった。これがあったら、ほぼ充電で悩むことはないだろうから本当に惜しい。

 まあ、何はともあれ、すぐさまこのバッテリーが切れるということはないだろうということが分かっただけでも大収穫だ。


 ひとまず手持ちのモバイルバッテリーでスマホの充電をする。それでも一応充電効率を考えて、電源を切ってからの充電だ。


 さて。

 バッテリーの問題はどうにかなった。では次に考えるべきことは何だ。


 さっき、この世界についての謎について、情報やなぞ解きを呼びかけた。これらはある程度時間がたってからまとめて確認でいいし、その時に色々考えればいい。

 それより考えるべきは、この世界でどう生き延びるか、だ。


 ……まあ、落ち着いて考えるとマジどうすんのって感じだけどね。


 何せ私は、この世界で何一つ持っていない。


 まず金も、身寄りも、職もない。

 まあ現実世界でも金なんてカツカツし、身寄りもあのくそ親父以外親族がいない時点でないも同然だし、職は一応あるけど全部バイトなんだけどねー。

 それでも私には住む場所があった。安くて狭い1Kの賃貸だけど、自分のお金で手に入れた私の城、私の誇りだ。それもない。私はもはや無宿人である。


 あ、そうだ。戸籍もないや。

 1928年の東京に私の戸籍があるわけがない。これがどれくらい不利になるかは正直分からないが、少なくとも社会的なサービス全般は受けることができないと考えるべきだろう。


 ……これ、詰んでない?大丈夫?

 思わず気持ちがしぼみそうになる。私は慌てて大声を出した。


「まけるな!私!大丈夫!この世界では私は未来人なんだ!」


 そう。

 私には切り札がある。

 異世界モノでもタイムリープモノでも、絶対の優位を持つ特性。

 そう。未来知識だ。


 正直この時代の日本でどんな知識が有効かなんて知らないし、学のない私が知識豊富なわけがないが、そんなことは心配ご無用。

 私には、そんな弱みを補って余りある絶対的チートがあるんだ!


 それこそがスマホだ。


 どんなことでも大体のことは調べられるし、相談できる。そのアドバンテージを最大限利用すれば金を稼ぐなんてきっとわけない。

 金さえ稼げれば、住む場所なんて何とでもなる。社会が保証してくれなくても生きていける!

 いや、もしかしたら、現代で生きるよりよっぽど大金持ちになることだって全然夢じゃない!


 うおおお!私は成りあがるんだああああ!


 ふう。

 何とか気持ちが持ち直せたかな。

 

 周りが真っ暗に見えても、前が見えるなら歩いて行ける。

 歩いて行けるなら、生きていける。私はそう信じてこれまでやってきたんだ。


 だからそれをここでもやるだけだ。


「ま、とりあえず、このコンビニに居ればとりあえずこの時代の人に襲われることはないし、食べるものも一旦事欠かないよね」


 コンビニというセーフゾーンが手に入れられたことは、考えてみればかなりラッキーだったかもしれない。籠城するうえで、これほど便利な場所はないだろう。コンビニエンスの名は伊達じゃない。


 それを考えると、今は無理をする時じゃない。

 頼れるものは自分の身一つ。そんな中、体は何よりの資本、絶対に壊すわけにはいかない。

 情報が集まるのには時間がかかるだろうし、それにLEDのライトだって充電が必要なのだ。充電手段が限られている以上、行動をするのは明るくなってからの方がいい。


 私は、バックヤードからいくつか段ボールを引っ張り出して何重にも敷き詰めた。

 さらにその上に。あとはいくつかタオルを広げて敷いていき、防寒用にレインコートだとか靴下だとかを着込んでいく。

 これで簡易式寝床の完成だ。

 正直めちゃくちゃ寝にくいけど、寒くはない。レインコート、意外と暖かいんだね。


 あと、明日はできる限り朝早く活動を開始したいな。

 コンビニから外に出るところを誰かに見られたら最悪だ。朝起きて人がひっきりなしに通るようだと、とてもじゃないが外に出られなくなってしまう。

 私は商品棚からトラベル用の小型目覚まし時計を仕入れてくると、腕時計で時間を合わせる。…まあ、この時計がこの時代の時間とあっているかは知らないけどね。そこは賭けるしかない。一旦余裕をもって5時くらいにセット。今は2時ちかくだから3時間は眠れる。

 

「よし!明日から頑張るぞ私!」


 そう言って私は掛布団代わりにタオルをかぶる。

 激動の一日に、よほど精神的に疲れていたのだろう。こんな急ごしらえの段ボールベッドであっても、それほど経たないうちに意識がふっと遠のいてきた。


 ……そういえば、もう一つ気になることあったね


 眠い頭の中ふと浮かんだのは、あの真っ暗闇の地下街で、眩しいほど鮮やかに私を助けてくれた少女の姿だった。


 この世界で、唯一、私を助けてくれた人。

 

 あの出口は消えちゃったけど、あの人は無事だろうか。


 そんな疑問の声も、疲れ切った私の頭の中では、うっすらと溶けて消えていった。

これでようやくスタートラインです

コンビニから一歩も出てないですが、勘弁してあげてください。


さて、この後公開する3.5話では、少し時間をさかのぼり1928年の視点で始まりの事件をリプレイします。

陽菜を救った謎の女学生の正体と、彼女がなぜあの場所にいたのか。 その裏側を知ることで、この物語のもう一つの姿が見えてきます。


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