3.5話【壱】神隠しの裏側(将門塚)
スタートダッシュのラストです。
もう一人の主人公、あの謎の女学生、遠藤冴子から将門塚の事件を紐解いていきます。
※明日以降は、毎日19時頃の更新となります。
――そういえば、もう一つ気になることあったね
あの人は無事だろうか――
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一閃が、暗闇を切り裂くように走った。
そこで刃の軌跡はとどまらない。翻るように切り返された切っ先が次の亡者を切り裂いていく。
その中心にいるのは少女だった。
えんじの矢絣柄の着物に紺の袴。端正な顔立ちを包みこむ滑らかな肌は彼女の育ちの良さを表している。
少女の名を、遠藤冴子といった。
なぜ、彼女がこの日、この場所に居合わせたか。
それを語るには、少し時間をさかのぼらなければいけない。
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昭和三年三月二七日深夜。
夜の神田の街を歩く、奇妙な一行の姿があった。
一人は和服姿の少年、一人は盛りをすぎた前掛けに和装の婦人、そしてもう一人が全身を黒マントで包んだ少女――冴子である。
彼らはあたりを気にしつつも足元を最新の懐中電灯で照らして進む。
少年と前掛け姿の婦人は、それぞれ興奮と緊張、不安といった感情がありありと表に浮かび出ている。一方、彼らを先導する冴子は、まるで風のない水面のような静けさで迷いなく前に進む。
「立ち止まって。二人ともこちらに隠れなさい。お志乃さん。消灯してください」
冴子の命にお志乃と呼ばれた婦人が明かりを消した次の瞬間、すっと通りに人影が現れた。三人はそのまま息を詰める。
何とか通行人が通り過ぎるのを待ったところで、少年は詰めていた息を吐き出しながら呟いた。
「姉さん。なんで今の人が来ることが分かったのさ。もしかしてお祖母様譲りの千里眼?それとも殺気を感じ取ったとか?」
「物音に決まっているでしょう?貴方が読んでいる冒険小説じゃないのだから」
「だって、そんな音しなかったじゃないか」
「していたのよ。貴方が気付かなかっただけ。良いから行きましょう」
冴子はそう言って足を速めた。
冴子は神田須田町に居を構える老舗雑貨問屋・遠藤商店の主人、遠藤勝右衛門と静江の次女である。付き従うのは冴子の弟信介と、女中の志乃だ。
この奇妙な供連れの背景には、かの将門公の鎮魂祭が深く関係している。
「鎮魂祭は大々的にやったんだろう?親父にお袋も出席してさ。なのに、なんでわざわざ俺たちが隠れて儀式やんないといけないのかな」
「儀式をされるのはお嬢様おひとりですよ、坊ちゃま。私たちはお嬢様のお供兼護衛です」
志乃の言うとおり、祖母の遠藤ふじより密命が下ったのは冴子一人だ。
神田明神の宮司の娘であるふじは霊能力者としても名高く、若き日より失せもの探しの名手だった。
年老いて隠居してもなお神田明神にも遠藤家にも強い影響力を持つ彼女は、鎮魂祭の為にはるばる鎌倉から上京してきたのだ。
今日も遠藤家の神棚の前に陣取って、こまごまとした次第について方々に指示を送っていた。
鎮魂祭は無事終了し、直会も引けて遠藤家の皆がほっと息をついたのもつかの間、冴子は一人、ふじの居る奥座敷へと呼びつけられた。
「このままでは、鎮魂は果たされぬじゃろう」
開口一番とんでもないことをと冴子が息を呑むのも許さず、ふじは衰えぬ眼光を冴子に送ってきた。
「昼間に行った祭りはあくまで陽の儀式。本来、その後に陰の秘儀を行わなければならぬものなのじゃ」
「陰の秘儀、ですか?」
そのようなもの聞いたことないと冴子は首をかしげるが、ふじは気にせず続けた。
「知らぬのは当然じゃ。これは神田明神の女のみに伝わる儀式じゃ。
昼間行われる陽の儀式に対して、陰の儀式は人目にふれぬ深夜、月の力を借りて御霊を鎮める舞を踊るのじゃ…。
しかし、今の神田明神にこれを執り行える力のあるものなどおらん」
訥々と話される言葉は、まるで江戸時代のような言葉だ。昭和に生きる冴子にはピンとくるものではない。しかし、冴子も神田明神にゆかりの深い身であり、幼い日より将門公は敬愛していた。その将門公の御霊が踏みにじられたままというのは許せることではない。
冴子は神妙にふじの言葉を聞く。
「お主がやれ。心月の舞で御霊を鎮めよ」
その言葉に冴子はびくりと震えた。
「身に余る光栄ですが、わたくしなどではとても勤まりませぬ」
「いや、お主しかできぬ。まず神田明神の神職の血を引くこと。うら若き処女であること。そして心月の舞を踊れることじゃ」
「…心月の舞など、わたくし、存じません」
「いいや知っておる。真壁にならっておろう」
再び冴子の手元が震えた。
真壁忠之。冴子の母方の祖父。旧旗本の彼から学んでいることについては、誰にも知られていないはずだった。
「わしに隠し立てはできん。真壁から既に小太刀を授かっているはずじゃ。…あれこそが儀式に必要な神具。あれを用いて舞え」
心に沸き立つのは、見透かされた恐怖や動揺、未熟さへの不安―――そして、そんななかでもわずかに灯る、運命の予感だ。
「――これがわたくしの使命ということでしょうか」
「……そうじゃ。お前の使命じゃ。全てはこのためにある」
ふじは唱えるようにそうつぶやいた。
冴子はそっとマントの下に隠している小太刀に触れた。
――お師匠様、わたくしは立派に務めを果たします
そうすれば彼は誇りに思ってくれるだろうか。そうであればいい。否、そうでなければいけない。
そのためにも心を鎮める。暗い夜道は気を研ぎ澄ますにはちょうどよい。だからこそ歩む足は緩めずに、しかし乱さない。
「でもさ。なんで姉さんにそんな儀式が任されるのさ」
後ろで信介がまだ文句を垂れている。
流石に冴子とお供の志乃だけで夜道を歩かせるわけにはいかないと、身内の男である信介に同道が命じられたのはやむを得ないことだった。
そうはいっても、彼に冴子の秘密を知られることはやや面白くない。冴子は適当にごまかすことにした。
「神田明神の女だけの秘密なのよ。男が詮索するものじゃないわ」
「ちぇ。いつも姉さんばっかりずるいよな。俺もそういうの欲しいのにさ」
「『僕』といいなさい。はしたない言葉は精神まで堕落させるわよ」
「わかってないな、姉さんは。今どきは『俺』って言う方がかっこいいんだぜ」
そうやって言い争う二人を志乃は静かに見つめている。信介はわかっていない。彼女の前でそういう言葉を使っていたら、必ず母の静江に伝わる。そうすれば、結局、信介が望む背伸びなど容赦なく叩き潰されるのだ。
――自分を貫きたいなら、仮面は徹底的にかぶらなきゃいけないものなのよ
冴子は心の中でひとり呟く。そうはいっても、彼女自身、ふじの目をごまかすことはできなかったのだが。
昼間にあれほどの鎮魂祭を執り行ったというのに、夜の斎場はしんと静まり返っていた。
「誰にも見られてはならないというお話でしたし、ちょうどいいですね。では準備いたします。お嬢様もご準備なさってください」
志乃は持っていた懐中電灯を置くと、もう片方の手に抱えて居た小包を開く。
中にはお神酒や祓い塩、簡単な御幣など、儀式に必要なものが取り揃えられている。
志乃はてきぱきと秘儀の準備を進めていった。志乃はふじが鎌倉から連れてきた女中である。そのためか流石に手馴れている。
冴子の方は特に準備することはない。ただ身を包んでいたマントを脱いでたたむだけだ。
「そんな服装でいいの?もっとそれっぽい恰好した方がいいんじゃない?」
「わたくしもそう思うけど、お祖母様がおっしゃるには、穢れのないことがわかる格好ならばそれでいいんですって。神聖な服はみだりに神職でないものが着るべきではないし、何より目立つのは良くないそうよ」
「ま、姉さんらしくていいけどさ。ねえ、その刀、本物なの?」
「ええ、本物よ。だから儀式のときは絶対に近寄ってはだめよ」
「触ってもいい?」
「お止しなさい。秘儀で使う神具なのよ。儀式が終わったらわたくしが自由にしていいと言われているから、終わったら触らせてあげる」
その言葉に信介は顔を明るくする。全く、男の子ときたらと、冴子は内心で苦笑いした。
「お嬢様。準備が整いました。こちらへどうぞ」
志乃が声をかけてきた。見れば斎竹を四方に立てたごくごく小さな祭場ができている。
ついにその時が来た。
冴子は一度目を閉じて静かに深呼吸をする。そして、ゆっくりと祭場の中に入ると、ふじに教わった祝詞を紡いでいく。
「かけまくも かしこき
たいらのおおかみ
ひのぎはなり、いまは つきのよ。
いんのしずけさもて
みたまを むすびたてまつる」
真夜中の祭場は、ただ冴子の声だけを聞いている。
冴子は祝詞を唱えながら、ゆっくりと祓い塩を振りまきながら大きく円を描くように歩く。
「このちに しずまりまさす みたまよ
しずまりたまえ、なごみたまえ」
そこで冴子は静かに腰の小太刀を抜き放った。
そのまま踏み込みとともに刃をふるう。ふるわれた刃はとどまることなく回転しつづけ、更にもう一度空を切り裂く。
凍てつく湖のような刃紋に、ほのかに温かく輝く地金。そこに月に光が降り注ぐことで、刃の軌跡が残像となって弧を描く。
冴子は、よどみなく刃をふるう。
踏み込みと回避、転身と連撃。
動きは常に連続する。とどまることのない円の理合い。
それはまるで月の姿を現すかのようだ。
心月の舞。
心に、常に揺るがぬ月を持て。
祖父の言葉を胸に冴子は最後の祝詞を唱える。
「あめのことわりよりはなれし
まつろわぬみたまよ!
ちびきのいはと、ここにしずまりませ!」
天から地へ光が落ちる様に、刃が一閃する。
後に語られる。
それが、全ての始まりだ。
変化は劇的だった。
小太刀の軌跡はまるで夜の闇に一筋の切れ目を与えた様に輝き、そして突然極光となって広がった。
「なーー!」
冴子はたまらず顔を背けて後ずさった。
「うわ!」
「きゃあ!」
信介と志乃の方からも、そんな声が聞こえてくる。
二人に何かあってはいけない。冴子は一旦小太刀を鞘に納め、二人の元に駆け寄った。
「信介、お志乃さん。なんともなくて?」
「は、はい。びっくりしただけです」
「俺も眩しくて声が出ただけだよ。心配性だなぁーーって、うわあ!」
強がっていた信介がまた叫び声を上げた。
「どうしたの!?」
「いや、なんか急にさっきまで姉さんがいた場所に変な建物が…!」
振り返ると確かにそこには今までなかった建物が生えていた。
見たこともない建物だ。西洋式建築と思われるが、妙に小さい。ちょうど門と同じくらいの大きさしかない。石垣の上に急に鉄が生えているような作りで、その上には見たこともない記号が付いた青色で四角い物が乗っている。
更におかしなことに、その建物の中にあるのは地下に続く階段だけだ。他には何もない。随分と奇妙な建物があったものだ。
その階段の上には、門の名前らしきものがついている。
「…大手町、駅?」
聞いたことのない駅名だ。そもそも、こんな小さな建物が駅のはずがない。あんな建物の中のどこに列車が走る空間があるというのだろう。
「これが将門公の御社…?」
そんなはずはないと冴子は首を振った。このような建物と将門公とに、関係があるはずはない。
あまりにもよくわからない異変に三人がまごついているときだった。
「ひ、ひぃぃ!」
突然階段の下から、女性と思われる悲鳴が聞こえてきた。
その声に、冴子は緊張感を取り戻す。何が起こったかは分からない。しかし、悲鳴があがったということはそこに人がいて、何か危機に陥っているということだ。
思わず駆け出しそうになるところで、お志乃の手のひらが行く手を遮った。
「いけません!あんな怪しい場所にお嬢様が入っていくなんて!」
「でも、今女性の悲鳴がしたでしょう!一刻を争うかもしれないのよ!」
そう叫んでいる間、更に下から声が続く。
「やだやだやだやだ!!」
そのまま声は遠ざかっていった。何かから逃げている。冴子はそう判断した。
愚図愚図している暇はなさそうだ。
冴子は素早く自分の手札を確認する。あの階段の下に飛び込むのだ。場所は狭い屋内。ならば今装備している小太刀は最適だろう。しかし、状況によっては、もう少し間合いを確保できる手段が欲しい。
冴子はサッとあたりを見回すと、祭場の隅に立っている斎竹を引き抜いた。
「姉さん!罰が当たるって!」
「それどころじゃないでしょう!儀式は終わったしもういいのよ!」
問答する暇も惜しい。冴子は制止する志乃や信介の声を置き去りにして、怪しい階段の下へと駆け下りていった。
階段の下はさらに異様な光景が続く。
整然とタイルを張っているくせに狭い階段を降り切ると、複雑な地下通路のようなものが急に現れる。
随分贅沢に石を敷き詰めている割に、なんというか殺風景だ。
装飾もあるにはあるがどれもまるで意味が分からない、たとえるなら看板のような雑然としたものばかりだ。ここまで金をかけるならもっと良い装飾をほどこせばいいだろうに。
あのへんな門といい、いきなり地下に続く狭い階段といい、この建物を作った人は少しおかしいのかもしれない。
そんなことを頭の端で考えていると、
「誰か助けて!助けてよ!」
再び女性の声が聞こえた。声のした方を見ると、不自然に明るい場所があった。
そこには妙に小綺麗な作業着を着た、男性と思われる人影があった。不思議なことに女性の姿は見えない。その代わり、明らかに死者という体の男たちが何人も彼を取り囲んでいるのが見えた。
――あの格好はまさか!
鎮魂祭の発端。将門公の塚を荒らしたとして事故死したという十数人の男たち。その噂にたがわない姿が、目の前にあった。
そして、その亡者たちは、今まさに、へたり込んでいる男性を取り殺さんと手を伸ばしている。
まずい!
冴子は可能な限りの速さで駆け付けながら叫んだ。
「ふせて!」
竿の先端に重みが最大限乗るように大きく横にふるう。その竿が正確に亡者の側頭部に当たり、そのまま将棋倒しに亡者たちの一画をなぎ倒していく。
それで、亡者たちの手が止まった。
冴子はその隙をついて、竿を立てて壁にするように突き出しながら、へたり込んだ男性の前に割り込んだ。
――わかったわ。鎮魂というのは、将門公のことだけじゃないのね
考えてみれば明らかだった。この事件で命を落とした彼らも又、この世をたたる荒ぶる御霊だ。
冴子はこれを使命と見定めた。ならば、この腰の抜けた男性にはさっさと立ち去ってもらいたい。
「逃げなさい!」
冴子は叫びながら、竹竿を低く構えて突き出すようにふるう。
やはり、天井が低いのと、間合いが狭いせいで竹竿で立ち回るのには無理がある。そのため、冴子は亡者たちの分断のために竹竿を使った。
亡者たちは、死人のくせに足があった。それを使わない手はない。ひっかけるように転ばせることで、彼らに一斉に襲われる状態をまずは防ぐ。そのあとは、彼ら全体が体勢を立て直さないうちに、各個撃破だ。立ち上がってきた亡者から、順に対処する。
武器は当然、小太刀だ。
思い切って亡者の喉を掻き切る。神具の効き目は十分だった。ふるうたびに亡者たちは面白いくらいに倒れては消えていく。それを見て、確かにこの儀式をするのは自分以外にいないなと確信した。
この小太刀を戦いの為に振える神田明神ゆかりの処女?それが自分でなくて誰だというのか!
とはいえ、冴子自身、実戦は初めてだ。いつものように先を見据えて動くことができず、立ち回りがぎこちなくなる。おまけに、足手まといの男性は一向に動こうとしない!
「何をぼさっとしてるの!逃げなさいと言っているでしょう!」
思わずはしたなくも叫んでしまった。まあ良いだろう。こんな極限状態に、お嬢様の仮面など維持できるわけはないのだ。
それを受けて男性ははっとしたようにして立ち上がると
「ありがとう!」
と、妙に高い声でそう言って走り去った。
――え?もしかして女性なの?…いえ、そんなはずはないわよね
きっと、信介と同じくらいの男の子なのだろう。女性があんな恰好でこんな深夜に歩き回っているはずはない。
そんな雑念を払うように、冴子は小太刀をふるい続ける。始めは迷いのあった動きが次第に繋がっていき、やがて相手の行動の起こりを見逃さずに無駄のない立ち回りが完成していく。
大勢いた亡者たちの姿も、もはや最後の一人だ。
――さあ、これでおしまいよ!
そうやって振りかぶった、その時。
急に視界がぶれた。
「きゃ、きゃあ!」
思わず悲鳴を上げてしまった。体勢が崩れる。
冴子は小太刀で自分を傷つけないように刃を外に向けて、瞬時に体の平衡状態を整えた。
「あ、あら?」
気が付いたら、なぜか冴子は建物の外にいた。
先ほどまでいた、祭場近くだ。
見ると、信介と志乃がこちらに向かって走ってくる。
「姉さん!無事だったんだね!」
「お嬢様!無茶はおやめください!」
どうもずいぶん心配をかけていたようだ。少し周りが見えていなかったことに気が付き、冴子は素直に謝った。
「ごめんなさい。思わず頭に血があがってしまっていたわ。…それより、何が起こったかわかって?」
その問いに、信介は目を瞬かせた。
「え?姉さんが、何かしたんじゃなかったの?」
どうも信介も、今の出来事についてはよくわかっていないようだ。
「今回の将門公の祟りで亡くなった霊を祓っていたところだったの。
なのに、最後の一人というところでいきなり視界がぶれて、気が付いたらここにいたのよ。流石に最後の一人を残して終わるってことはないでしょうし、外で何かあったのかと思っていたのだけれど」
その言葉に志乃も首をかしげて見せる。
「何もありませんでしたよ。――ああ、そういえば中から妙な格好の男性が飛び出してきましたね。少し派手なうえに小奇麗で、張りのある作業着を着た男性です」
その言葉に信介もうなずいた。
「ああ、確かに出てきたな。なんか出てくるなりぼうっと立ち止まって、ただ周りをきょろきょろしていてさ。後はふらふら動き出したかと思うと、酔っぱらったみたいな足取りでどっか行っちゃったぜ?
――そういえば、ちょうどその後だったな。急にあの変な建物が消えちゃったの。だから、俺、姉さんが閉じ込められたのかと思って不安だったんだよ」
話を聞いても一向に要領を得ない。
――あの妙な少年がどこかに行ったら建物が消えてわたくしが放り出されたというの?そんな訳の分からないことってあるかしら
ただ、なんとなくわかることがあるとすれば、これ以上ここでできることなどないということだ。
「…一旦、帰ってお祖母様にご判断を仰ぎましょう。もし、何か足りないことがあったなら、そのときはまた必要なことを教えてくださるでしょう」
流石にこのようなひらけた場所に長居をして人目に触れる危険を冒したくない。ここは早めに撤収するしかない。
そうして、将門塚での秘儀はよくわからない珍事によって一旦幕を閉じた。
ちなみに、ふじに事の仕儀を報告した時、三人は、訳が分からないというふじの表情を生まれて初めて見ることになった。
この時の出来事がこれからもたらされる更なる珍事の幕開けであることを、このときの彼らは知る由もなかった。
これで、物語のベースラインが整いました。
物語は以降、陽菜と冴子の二人の視点を基軸に進んでいきます。
何もかもまるで違う二人の少女の運命が、帝都東京でどう交差していくのか。ご期待ください!
次は陽菜視点に戻って第4話。
ついに明かされる能力名『ダンジョン生成』。100年前の世界をハックするための「ルール」の解析が始まります。
「続きが気になる!」「冴子、もっと出せ!」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!




