Another Story グワラニーと勇者との最終決戦
お互いの存亡を賭けた人間と魔族との戦いは、事実上魔族の勝利で終わる。
その結果この世界を統べるものとしてアグリニオン帝国が誕生した。
一方、人間界では、最後まで魔族と戦場で対峙していたブリターニャ王国とフランベーニュ王国は三等国へ没落し、逆に早々に戦いの舞台から降りたノルディア王国とアリターナ王国はその地位を高め、アストラハーニェ王国、アグリニオンからオンファロスと名の変えた商人国家とともにその後の歴史を歩んでいく。
そして、それから長い時間が過ぎ、歴史を俯瞰的に見ることができるようになると、多くの歴史家がこの激動の時代に焦点を当てた数多くの著作を発表することになる。
その中で人気を博すカテゴリー、そのひとつが、この世界の呼称で「仮想史」というもので、いくつかのターニングポイントにおいてその者が別の選択肢を選んでいたらどうなっていくのかというものを検証していくというものである。
もちろん、これは空想の世界となるわけなのだが、歴史の専門家が論じるものだけに、あり得ない偶然、存在しない力を登場人物に与えるなど物語の面白さを出す要素は極力排除され、より現実に近い形で進行していく。
その多くが最終的な結末は現実とそう変わらないのはそのためである。
そして、そこでも最終的な勝者となるアルディーシャ・グワラニー率いる魔族軍は、少々の歴史の改変ではその地位は揺るがぬくらいの圧倒的な力を有していたことが改めて証明されることになる。
さて、その「仮想史」であるが、ブリターニャにおいて数多く発表されたテーマがある。
アリスト・ブリターニャが魔族の国の王都破壊後、闇落ちせずグワラニーに復讐戦を挑んでいたらどうなっていたか。
アリスト・ブリターニャ。
その前提となる彼の死の様子がこの世界ではどのように伝わっているかといえば……。
ブリターニャ王国王太子として魔族の国の王都イペトスートを破壊したところで、「アルフレッド・ブリターニャの後継者」の本性を現したアリストは自身が有する巨大魔法を使いこの世界のすべてを恐怖に陥れると宣言。
それを阻止するため、同行していた勇者ファーブが仲間ふたりとともにアリストを打倒し、その野望を打ち砕いた。
これが多くの歴史書で語られているその概要となる。
そして、ブリターニャ出身の歴史学者たちが挑んだのは、ブリターニャ及び旧ブリターニャ王国出身者を祖とする者たちにとって屈辱的な結末を迎えた魔族との最終決戦。
どうやれば、魔族、いや、グワラニーに勝利できたのか?
むろんブリターニャ側にとって最も望ましい形というのは、グワラニー軍が転移してきたところを待ち構えていた勇者一行が一網打尽にすることであるのだが、これは相当難易度が高い過程を辿らなければならない。
なぜなら、自分たちが転移したところを勇者に狙われる危険性をグワラニーはこの策を思いついた時点から認識していたのは多くの史実によって証明されており、その対策としてサイレンセストへの転移を始めるのは勇者がイペトスート近郊に到着し、彼らが展開する強大な防御魔法からその場所から動いていないことを確認した後。
つまり、勇者側の転移は魔族側が自分たちの存在を確認してから転移開始の一瞬の間を捉えておこなわねばならないからだ。
さらにいえば、勇者一行の証言からアリストは最後の最後までグワラニーにはサイレンセストの目の前に転移魔法を使って現れることはできないと思い込んでいた。
つまり、魔族軍の王都直撃の可能性は彼の頭のどこにもなかった。
それらの難題をすべてクリアして、初めての迎撃が可能になるのだが、それはさすがに吟遊詩人が語る絵空事と同じになってしまう。
「史実を基に」というのが大前提である「仮想史」であるため、歴史家たちはこの案で話を進めることはなかった。
そうなると、残念ではあるが、現実的にブリターニャに戻ることができたのは、グワラニー軍がサイレンセストを包囲した後。
そして、「仮想史」を記す多くの歴史家たちがそのターニングポイントとしたのは、その後の歴史家の中でも度々論争になっている王都から勇者一行の後方を進軍していたバイロン・グレナームが王都からの急報をアリストに伝えなかったという出来事。
そう。
グレナームまでは魔族軍に王都が包囲されたという情報は間違いなく届いていた。
だが、「後方の情報は絶対にアリストに知らせるな」という王からの命令に従ったグレナームはその情報を握り潰していたのだが、もし、あの時王命背いてでもアリストに王都の危機を伝えていたらその後どうなっていたのだろうかと考えるのはブリターニャ人だけではないだろう。
ただし、過程はともかく、サイレンセスト包囲直後に勇者が戻ってくることはグワラニーの想定のうちにあり、その迎撃、そして、討ち取るために相応の対抗策を用意していたのは史実でもあきらか。
そのような条件下で話を進めるとどうなるか?
では、歴史家たちが組み上げた、あったかもしれないその出来事を楽しんでもらおう。
「……王都が魔族軍に包囲された?」
グレナームから急使の言葉にアリストは唖然とする。
「どうやってそのようなことを……」
「アリスト。やり方など今はどうでもいいだろう。奴らが王都を直撃した。その事実が重要なことだろう」
事実を告げられても信じられないということをその言葉から滲み出すアリストを叱咤するようにそう言ったのはファーブだった。
「問題はここからどうするかだ」
「ガルベイン砦を突破した魔族の大軍。そして、王都を直撃した別動隊。魔族の王の言葉どおりだったら、例の魔族は王都を直撃した部隊を指揮している」
「とにかく、王都救援に向かうべきだろう」
「だが、目の前に敵の王都イペトスートがある。戻るのはイペトスートに一撃食らわしてからではないのか」
「いや。魔族の王があれだけのことを言っているのだ。おそらく王都を攻撃した瞬間、グワラニーに連絡が入ることになっているのだろう。つまり、イペトスートを破壊すればサイレンセストも同じ運命を辿るということになる」
「しかも、王を仕留め王都を破壊されるということは同じでも巻き添えになる者の数が全く違う」
「ここは手出しせずに引くしかないぞ。アリスト」
ブランからの提案を蹴り飛ばしたファーブは返す刀でアリストにも迫る。
「ですが……」
「もちろん間に合わないかもしれない。だが、イペトスートに手を出したらそれがサイレンセスト炎上は絶対となる」
「俺たちは勇者。敵を倒すよりも人助けを優先すべきだ」
「そうだな」
「俺も賛成する。残念だが。まあ、楽しみは後に取っておくと考えればいいだろう」
ファーブの勇者然とした言葉に沈黙で応じたアリストに対し、賛意を示したのはマロとブランのふたり。
続いて、フィーネも三人に続く。
「ハッキリ言えば、グワラニーの軍さえいなくなれば、残りの魔族軍など雑魚同然。イペトスートを落とすことはできるでしょう。糞尿勇者の言葉とは思えませんが、ここはファーブの意見こそが正しいでしょう」
「わかりました」
「残念ですが、ここは一旦引くことにしましょう」
「それで、どうする?」
「まず、ガルベイン要塞を突破した奴らを叩くか?」
「いや。まず、ラフギールに戻り、状況を確認しましょう」
「それから南から王都へ進みましょう」
ブランからの問いにそう答えたアリストは、もう一度イペトスートに目をやる。
「では、戻りましょうか」
その直後、勇者一行の痕跡が消える。
むろん、強大な防御魔法が消えたことから勇者一行が去ったことは魔族側にも知られ、それはサイレンセンスを包囲しているグワラニーにも情報が伝わる。
「……イペトスートに手を出さずに戻ってきましたか」
グワラニーは苦笑する。
「ですが、だからと言って状況がよくなるわけではないのですが」
「とにかく。予定通り勇者たちと決戦となりました」
「明日の朝には彼らは我々のもとにやってくるでしょう」
そして、翌朝。
グワラニーの予想通り、勇者が現れる。
南から。
「さすがです。グワラニー様。ですが、なぜ彼らが北でも東でもなく南側からやってくると思ったのですか?」
「特に北側はブリターニャ軍が支配しているのです。多くの点で有利でしょうに」
「だからです」
草むらの中で彼らの動きを眺める小集団。
護衛隊長のコリチーバの問いに、双眼鏡で遠くの眺めたままグワラニーはそう答える。
「敗戦続きで気が動転している味方に転移直後に狩られる可能性がある。そういう点では西も同じ。東に関しては我々がどの辺まで勢力下に収めているのかわからない。敵の目の前に転移するようなことになれば目も当てられない。その点、彼らの第二の根拠地はそのような心配はない。そこから移動してきたということでしょう」
……短距離転移で。
……保険をかけ、ふたりが代わる代わるおこなっていたようですが、それによってアリスト王子とフィーネ嬢が一緒にいると確定できたのですからこちらとしてはありがたいかぎりですが。
「確実にアリスト王子を仕留めるため、目視確認できるまで様子を見ますが、その間、こちらも相応の被害が出ます」
「ですが、こればかりは止むを得ない。これまでと違い、相手の力は我々と同等なのですから」
「そして、アリストの王子の渾身の一撃がここにやってきたら我々は消え、こちらの負けとなります。ですが、それくらいの覚悟がなければ彼には勝てません」
「ですから、デルフィン」
「今日は、防御魔法を展開するのは、攻撃魔法を放ち、アリスト王子を仕留めたのを確認した後です。それを忘れないように」
そう。
これは実際にグワラニーが敷いた布陣。
そして、あれこそが勇者一行を仕留める策の第一段階。
何重にも重ねた縦深防御陣地。
その最深部に本隊を置く。
それを効率よく突破するために勇者たちは巨大魔法を使わなければならない。
そして、その結果、勇者一行のふたりの魔術師の存在があきらかになったところで、「魔法無効化結界」を発動させたうえ後方に控えていた主力部隊による反撃をおこなう。
グワラニーは自分たちとの最終決戦で再び「魔法無効化結界」を使用するとアリストは信じ、当然フィーネたちも同じように考えていた。
そして、その陣形を見たアリストは自身の考えに自信を深める。
むろんアリストはその対策を用意していたわけなのだが、その核となるものは徹底的な殲滅戦と広大なエリアをカバーする転移避け。
「こうしておけば、反撃が始まったときに前からやってくる敵の数を補うために本来背後に転移させるはずだった部隊を前に転用しなければならなくなります。そうすれば、当然背後の敵の数は薄くなる」
「グワラニーの配下は二万人弱。我々を狩ることに集中すれば、王都の包囲は緩むことになるのだが、それでは戦いの切り札を失うことになり、あり得ない。そうなれば、包囲を維持するため最低一万は残さねばならない。つまり、前面に展開する部隊の多くを狩れば反撃部隊の大部分が消える」
「そこに事前に展開した広範囲の転移避け。包囲網は不完全なものしかできず、突破は容易」
「仮にグワラニーが王都の包囲を解き、我々を狩ることに専念しても状況はそう変わらない」
「一見すると逃げる算段だけをしているようだが、そうではないのです。『魔法無効化結界』は膨大な魔力を消費する。つまり、暫くの間は次はない。となれな、彼らは決め手を失ったまま戦うしかなくなる。すなわち、こちらの勝ち」
そう言って自信を示していた。
実際はアリストの精神崩壊によって戦いはおこらなかったわけなのだが、アリストはグワラニーが「魔法無効化結界」を使用して勝負を挑んでくることを確信し、それに対し「魔法無効化結界」を発動させたうえで逃げ切りを図り、結界が解除された直後に、反撃を開始する策を用意していたことはフィーネやファーブの言葉から推測できるものである。
フィーネより魔力が高いアリストが防御魔法を広範囲に展開し、その内側からフィーネが最大級の攻撃魔法で外縁部に展開するグワラニー軍の第一陣である魔術師とその護衛を焼き尽くす。
続いて、その後方に点在する見張り台も駆逐していく。
ここでようやく、魔族軍から反撃の第一波となる火球攻撃がやってくる。
これは第二線に配置されていた上級魔術師のひとりアウグスト・ベメンテウの指揮する魔術師団からのもの。
この世界で最高級ともいえるこの魔術師団の攻撃だったが、アリストが展開する魔法、物理、両面に対応する結界に跳ね返される。
当然、位置を特定された彼らはフィーネのお返しによって全滅したのだが、この時点でグワラニーは千人の兵士と三百人の魔術師を失っていた。
むろん、絶対数ということで考えればたいした数とは言えない。
特にこれまでグワラニー軍に被った各国の損害を考えれば。
だが、本格的に参戦してきてから損害が皆無だったことを考えれば、これは物心両面で大きなダメージとなったといえるだろう。
ただし、アリストだけではなく、グワラニーたち魔族軍幹部のなかでもこれは想定の範囲内。
相手はあの勇者一行。
これまでと同じように無傷で倒せる相手ではないのだ。
そもそも戦いとは敗者だけではなく勝者も相応の傷を負うものなのだ。
「アリスト。あの魔族はどの辺で、例の魔法を使ってくると考えている?」
そう尋ねてきたのはファーブ。
「前回みたいな失態は遠慮したいからな」
「まあ、今回は相応の対処をしていますが、障害物となる森林地帯に入る前には『魔法無効化結界』を発動してくると思いますが、先ほどのフィーネの攻撃によって森林が相当焼けてしまいましたので、さらに前に進めそうですね」
「もっともそれがいいのか悪いのかわかりません」
「おそらくグワラニーは前回と同じように私たちを懐深く呼び込むつもり。一応逃げる手立ては準備していますが、ここからはいつ『魔法無効化結界』が展開されてもいいようにこちらの結界を少し変化させます」
そう。
アリストが準備した「魔法無効化結界」への対策。
その第二段階。
それは……。
「魔法無効化結界」はその範囲内では魔法は使用できない。
ただし、すでに発動されているものはその範囲でのみ有効。
また、範囲外でつくられた魔法でつくられた武器や、火球や氷槍は有効。
その特徴を利用し、その発動が始まる前に魔法攻撃、物理攻撃、そのどちらにも対応できる結界の魔法を展開させておく。
さらにその展開する範囲に広くすれば、「魔法無効化結界」が発動されても、範囲外からの火球攻撃を防ぐことができるうえ、周辺に兵を転移する場合でも散兵化させられる。
そして、「魔法無効化結界」対策の結界を、火球対策ともいえる対物理攻撃に重点を置くものへと変化させる。
準備万端。
「さあ、いつでも来い。グワラニー」
アリストが呟く。
その直後だった。
「なんだと……」
もちろんアリストもフィーネもグワラニーからの攻撃が来ることは予想していた。
そして、それに対して十分な準備はしていた。
だが、それはあくまで「魔法無効化結界」を使用したもの。
「なぜ……」
アリストの身体はその言葉を言い終える前に消える。
一方、魔法を展開していなかったフィーネは、一瞬の差で防御魔法を展開するものの、自身に覆うまでが精一杯で仲間までは間に合わない。
アリストだけではなく、ファーブ、マロ、ブランの身体も一瞬で完全に消滅する。
もちろんフィーネは自身に治癒魔法をかけ、完治させるものの、精神的ダメージは抜けない。
「ギリギリ。アリストの結界がもう少し対物理攻撃に寄せていたら私も灰になっていました……」
「ですが、どうやってこれだけの強力な魔法を撃てたのでしょうか……」
「いいえ。考えるまでもありません。これこそ渾身の一撃ということですか」
そう呟き、強力な防御魔法を感じることができる遥か彼方を睨みつける。
「……完敗ですね」
アリストが最後の一瞬になるまで気づかず、フィーネもすべてが終わったところで気づいたグワラニー軍からの一撃。
むろん、それは「魔法無効化結界」ではないのはもちろん、来ると予想されていた、オールドスタイルの攻撃魔法でもなく、この世界で一般的に使用される攻撃魔法だった。
だが、アリストの結界は攻撃魔法に対しても十分な効果がある強度があったはず。
それを簡単に突き破り、防御魔法を展開し直す時間も与えずアリストやファーブを炎の中に飲み込んだ。
なぜ?
アリストがこの世界最後の言葉となるこの疑問を説明するには、この世界における攻撃魔法と防御魔法に関係をもう一度説明する必要があるだろう。
この世界で使用されている攻撃魔法は、術者が放った魔法が相手のもとに届いたところで発動するというもの。
つまり、相手は魔法が発動したところで攻撃を受けたことに気づくため、防ぎようがない。
だが、その対策として生まれたのが、防御魔法。
これは見えない壁を対象者に纏わせ、外部から魔法が侵入することを防ぐというもの。
簡単にいえば、対魔法特化型の結界。
この上位種が魔法無効化結界となる。
だが、この防御魔法が確立したところである問題が起きる。
魔術師は自身を守るために、まず自身の周辺に防御魔法を展開する。
その上で攻撃魔法を相手に放つわけなのだが、そうなった場合、攻撃魔法の効果はまず自身の防御魔法によって減衰され、相手の防御魔法によってさらに減衰される。
能力がほぼ同等のときはもちろん、相応の差があった場合でも攻撃魔法は相手にダメージを与えることができなくなっていたのだ。
もちろん、アリストやフィーネ、それにデルフィンや彼女祖父クラスであればそれでもほぼすべての敵にダメージが与えられることはできるのだが、その相手がこの世界の頂点にある者となれば、攻撃魔法の効果は消えることになる。
そして、その対策として登場したのが、人間と魔族の戦いの最終盤に登場した、所謂オールドスタイルの火球の撃ち合いというわけである。
もっとも、これも相応の術者が展開する対物理攻撃用の結界で防ぐことはできるのだが。
この攻撃魔法と防御魔法の堂々巡りの解決策は、人間と魔族の戦いの終わりにもうひとつ示されていた。
それはグワラニーによって提案され、フランベーニュ軍が自国に侵攻して生きたブリターニャ軍を迎撃、粉砕した際に用いられている。
防御魔法の恩恵を受けない状態で上級魔術師が自身の魔力を完全に消し去り、敵を視界に入れたところで全力攻撃をおこなう。
これであれば、自軍の防御魔法で減衰されることがないため、攻撃力が大幅に上昇し、相手の防御魔法が自身の力を上回っていないかぎり防御魔法を抜くことができる。
もう少しいえば、攻撃側の魔術師が相手の魔術師より数割ほど上級者であれば、確実に仕留められる。
ただし、これは諸刃の剣。
防御魔法を纏っていないのだから、狙われれば一瞬で終わる。
だから、これをおこなうのは、相応の必要性と覚悟がいるわけである。
そして、グワラニーが勇者を仕留めるために使ったのはこの策となる。
グワラニーが対勇者の策として用意していたもの。
それはこのようなものだった。
王都サイレンセストを包囲する。
その知らせを聞いた勇者一行はイペトスートからブリターニャに戻ってくるわけなのだが、フレンドリーファイアを避けるため、拠点である南の町ラフギールに転移する。
そこからサイレンセストにやってくるわけなのだが、時間がないため、本来避けるべき転移魔法を使用することになる。
もちろん、より安全性の高い「視界の範囲内」への転移をするわけなのだが、その魔力によってその接近は容易に気づくことができる。
続いて、南に偏重した縦深陣の突破にかかるのだが、ある時点で必ず「魔法無効化結界」対策のために広範囲に防御魔法を展開する。
しかも、それは遠方からの火球攻撃を避けるため対物理攻撃に重点をおくもの。
用心深いアリストのことだ。
その役は魔力量の大きい自分が担う。
そして、フィーネとともに「魔法無効化結界」を放つために待ち構えている自分たち本陣を探り当てようとする。
だが、そのグワラニーやデルフィンは、本陣よりかなり南。
さらに勇者一行がやってくる南からの街道からも離れた場所に潜んでいる。
視界ギリギリで捉えられるほど。
そして、フィーネの魔法によって前方の陣地を攻撃しながら前進し、アリストが防御魔法の変更をし、「魔法無効化結界」に備える体制になったところで、渾身の一撃を話す。
おそらく勇者たちの背後から。
自軍の防御魔法による魔力の減衰はなし。
さらにアリストによる結界魔法は対魔法の効果が下がっている。
この状況でデルフィンの最高位の攻撃魔法を放てば、勝負は一瞬でつく。
むろん、この話も全て仮定のものであるのだが、公開されている資料や伝聞に基づいている。
勇者側はグワラニーの切り札は「魔法無効化結界」であり、間違いなく、最終決戦でも使用すると思っていた。
そして、アリストはその対策として通常の結界を広範囲に展開し、戦いが始まる前には対物理攻撃に重点を置くものに変化させるつもりでいたのはファーブやフィーネの言葉から推測できる。
イペトスートからブリターニャに戻る際にはラフギールに転移するのは、実際にそのルートでやってきている。
一方のグワラニーは、「魔法無効化結界」を使った戦い方とほぼ同じ陣形で戦いに臨むものの、自身はデルフィンとともに、より南方の戦いとは無縁な場所で勇者たちの到着を待っていた。
これは実際の戦いどおり。
そして、勇者を仕留めるのは、通常の攻撃魔法。
これらを条件として、歴史家たちは話を組み立てていた。
むろん、話のいくつかについては、周辺を焼き尽くしていたフィーネの火球が隠れていたグワラニーを偶然直撃し、結果としてブリターニャが勝利するというものもあったのだが、多くはアリストの勝利はこの条件では難しいようである。
そして、歴史家たちが手に入れた資料にはなかったのだが、グワラニーがこの策を思いつくきっかけ。
それは、まさに「魔法無効化結界」によって勇者一行を窮地に陥れた「モエリス平原の戦い」の最中だった。
用心しながら近づいてくる勇者たちをコンクリート製のトーチカの中から覗いていたグワラニーは思った。
ここで、デルフィン嬢が渾身の一撃を撃てば確実に勇者一行を仕留められると。
どうせ魔力を消して待つという危険を冒しているのだ。
「魔法無効化結界」など使わなくても勝てるではないか。
その時は予定通り、「魔法無効化結界」を展開したのだが、心の隅に常にこの策を秘めていた。
そして、実際にフランベーニュ軍を使って効果を試し、有効性を確認したところで勇者との決戦に用いることにしたのだ。
もちろん、アリストの精神が崩れず、ファーブやフィーネの提案を受けた場合、この通りにはならなかったことは十分にあり得る。
すべてが、「たら、れば」の世界である。




