アンジュレスの呟き Ⅱ
そう。
怒号のような命令を発しながらアンジュレスは内心ヒヤヒヤしていたのだ。
自軍が簡単に崩壊しそうな状況であることにいつ魔族が気づくのかと。
だが、魔族に気づく様子は見られない。
いや。
気づいていないのは魔族の剣士たちだけであり、指揮官クレベール・ナチヴィダデ、それからその場にいた魔術師アパリシード・ノウトはもちろん気づいていた。
いや。
その状況の一翼を担っていたと言いだろう。
もちろんすべての状況を魔族がコントロールしていたなどとは思わないアンジュレスは必死にその場を取り繕っていたのだが、そのアンジュレスにとって都合の悪い人物が背後から現われる。
クロヴィス・シャッスイヌとオーレイアン・ポアティア。
むろん本人たちは悪気など全くないのだが、彼らの口から魔術師が失われている事実を漏れてしまえば、綱渡り状態の戦況は一気に崩壊する。
それを防ぐためにアンジュレスが打って一手。
それがふたりに対するあの怒号だったわけである。
そう。
アンジュレスは気づいていたのだ。
そして、渋々引き上げるふたりを見ながら心の中でこう呟いていた。
……貴様たちではあるまいし、現場で何が起きているか把握している。
……全くあの程度の輩と同格に扱われるなど屈辱の極み。
その直後、魔族側に新たな者がやってくる。
そして、あの誘引の言葉が呟かれることになる。




