奇妙な儀式
グワラニーの軍では食事前にある儀式がおこなわれていた。
これはクアムート平原会戦前におこなわれたその儀式の様子を示したエピソード。
前日激しい戦いがあった山岳地帯の北側にあるグワラニー軍のキャンプ地。
その一室に集まったのはグワラニー軍幹部。
いわゆる誕生日席に座るグワラニーから見て右側の席に、バイア、魔術師長のアンガス・コルペリーアと副魔術師長での孫デルフィン。
それに続くのは戦闘工兵を率いるディオゴ・ビニェイロス、ベル・ジュルエナ、アペル・フロレスタ。
彼らに向かい合うように座る左側の席には、ペパス、プライーヤ、タルファという三人の将軍が並ぶ。
それから、騎士長ながら、この部隊内では将軍格のタルファとともにこのような場にも参加できることになっているアビリオ・ウビラタンとエルメジリオ・バロチナもそこに加わる。
さらに、タルファとウビラタンの間の席には、追撃戦に参加した将軍三人が座る。
グワラニーの護衛隊長であるコリチーバはこのような場ではグワラニーの後方に立って職務に勤しむ。
数少ない見せ場として。
それから、もうひとりのタルファである、将軍タルファの妻であるアリシア・タルファであるが、当然幕僚である彼女の席はデルフィンの隣に用意されているのだが、今のところ空席となっている。
その理由は……。
「準備が整いました」
女性給仕の声とともに次々と持ち込まれる食事。
そう。
アリシアが席を離れていたのはこの準備のためであった。
「……これが噂のあれか……」
テーブルに並ぶものを眺めながら、クレベール・ナチヴィダデの口から言葉が漏れると、同じくそれを初めて見るデニウソン・バルサスは大きく頷き、それに応じる。
「部下たちが噂していたのは知っていたが、たしかにこれはすごいな」
「そうだろう」
ふたりの言葉に割り込むようにその言葉を押し込んだのは、ふたりよりもずっと早くその食事を目にして仰天し、さらに食した経験のあるもうひとりの新参者だった。
まるでそれを自分が手配をしたかのような自慢気なその男の言葉はさらに続く。
「……それなのにおまえたちは部下たちにお預けを食わせていたのだ。その点、部下思いの私はすべてを許した。これだけでも私とおまえたちとでは将としての器が大きく違うといえるだろうな」
もちろんその言葉には言われた側からの猛烈な反論がやってきたわけだが、むろんそれが本気ではなかったことは三人が直後に大笑いしたことであきらかだった。
「だが、これを見てからのお預けはさすがに辛いだろう」
それが一段落したところで、その男アライランジアがふたりにそう問うと、残りのふたりも今度は素直にそれを肯定する言葉を口にする。
「それに関しては同意だ。知らなかったとはいえ、部下たちには悪いことをしたと思う」
「そうだな。それにしても……」
そこで言葉を切った男は目の間に並ぶものをもう一度眺める。
「同じ軍内でのこの格差は納得がいかん。というより、これは本当に我々のものと同じ材料でできあがっているのか」
「そうですよ」
バルサスの独り言のような問いに答えたのは、ようやくその場に現れたその食事の差配をおこなっていた人物だった。
そして、その瞬間、全員が立ち上がる。
まるで、上官が姿を現わしたときの部下たちのように。
もちろんその会食に初めて参加したバルサスたち二人も理由がわからぬまま、同じく立ち上がる。
「……アライランジア。これはなんだ?」
「まあ、簡単に言ってしまえば、この部隊の会食前の儀式みたいなものだ」
小声で尋ねるナチヴィダデにニヤリと笑いながらそう答えたアライランジアはさらに言葉をつけ加える。
「まあ、私も最初は何が起きたのかと驚いたものだ。軍幹部全員が人間の女性に対して最高の敬意を示すのだから」
「なぜ?」
「見ていればわかる」
もう一度笑うアライランジアが言うその儀式。
それはこの直後始まる。
「我々のためにこれだけ豪華な食事を用意してくださったアリシア・タルファと彼女のスタッフに感謝の意を……」
「感謝します」
「感謝します」
アリシアに続いて姿を現わした厨房スタッフ及び配膳係が並び終わると、まずは胸に手を当てたグワラニーが感謝の言葉を述べ、それに続いて残り全員が感謝の言葉を口にする。
もちろんナチヴィダデとバルサスも、これがこの部隊の作法だと思い、周りと同じようにその言葉を口にしたものの、アライランジアの「見ていれればわかる」という言葉とは裏腹に、それをおこなう理由はわからないどころか、謎は深まるばかりだった
さて、部外者にとっては意味不明なだけのその謎の儀式であるが……。
グワラニーがこれを始めたのは、戦いは剣を振り回している者だけがやっているわけではないという強い思いがあったからだ。
つまり、自分たちが戦っていられるのは地味で目立たない場所で働く後方支援を担う者たちのおかげである。
最も実感できる食でそれを示したというわけである。
もっとも、これはアリシアの料理が存在しなければ成立しなかったのは間違いのない事実。
「腹を満たすだけの食べ物であれば、さすがにあれは難しい」
バイアがのちに苦笑いとともに語った言葉がそれを如実に表しているのだが、同類の言葉は他の者からも多く聞かれる。
プライーヤとペパスの言葉。
「我が部隊の団結力の高さを示すこの儀式だが、あれはタルファ夫人の料理なしでは成立しない。つまり、今やたった一部隊でこの国を支えていると言ってもいい我々の強さを担っているのは実はタルファ夫人」
「まさに国母……」




