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アグリニオン戦記外伝 Ⅳ  作者: 田丸 彬禰


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サングラスの話

 フィーネがワイバーンと出会った日に交わした彼女とアリストの会話には続きがあった。


「そう言えば……」


「ファーブたちがなにやら言っていましたね。ワイバーンが身に着けていたものをあなたが購入する約束をしたとか。金貨十枚に、セイシュまでつけたそうですが、本当にそれほどのものなのですか?それは」

「それはですね……」


 サングラス。

 別の世界ではそう言えば説明は終了なのだが、こちらはそうはいかない。

 だが、面倒ではあるが答えないわけにはいかない。


「ワイバーンが言うには、眩しい太陽の光から目を守るものだそうですが、これがカッコいいのです」


「私から言わせればオシャレ小道具」


 アイテムという言葉が存在しないため、それに近い言葉でそれを表現する。

 むろんそのようなものに興味などないアリストはまったく気持ちの籠らない相槌を打つ。


 ……だから、あなたはダメなのです。


 フィーネは白い目でアリストを眺める。


「王女も似合うでしょうね」

「だが、それは男物なのでしょう」

「そうとは限らないでしょう。現に私は似合うと言われましたよ。……ファーブ」


「あなたはどう思いましたか?」

「はあ?」


 身構えていないところにやってきたその問いに間抜けな返事を返したファーブをフィーネは睨みつける。


「サングラスをかけた私はどうでしたかと聞いているのです。正直に答えなさい」

「ああ。あれか」


 もったいぶっているわけではない。

 単純にそれの良さがわからない。

 ただそれだけなのだが、彼にもこういう時どのように答えればいいかということくらいはわかる。

 

 そして……。


「見栄えはよくなる。金貨十枚かけるほどかは知らないが」


 これがファーブが言える最上級の答えである。

 だが……。


 ……聞いた相手が悪かった。


 フィーネは後悔するものの、彼女の持っている残りの駒から考えれば選択肢はこれしかなかったのも事実。


 ……マロはどうせ金のことを言い出す。

 ……ブランにいたってはまったく興味がない。

 ……だから、ファーブを選んだというのに。


 ……やはり、あなたも糞尿剣士のひとりです。


「だそうです。それで、どうですか?アリスト」

「それは実際に現物を見てから決めることにしたいということにしておきましょう。それで……」


「金を払ったものの、どうやって品物を受け取るのですか?」


 フィーネからやって来た問いには保留と答えたアリストがすぐさま切り返したその問いは当然浮かぶ疑問である。


 たとえば、グワラニーとの連絡はクアムートという事実上人間と魔族が接触できる場所があるが、海賊とブリターニャが公的に接触できるのは金銀貿易の場のみ。

 ただし、そこは国が厳格に管理しているので、そこに紛れ込ませて持ち込むことはできてもフィーネのもとに届く可能性は限りなく低い。

 可能性としては「王太子への献上品」と注意書きをつけて、アリスト経由で手に入れる方法だが……。


「それでは私とワイバーンがなんらかの関係があると思われるではないですか」


「しかも、得をするのはフィーネであって、私はまったくいいことがありません。その手を使うのなら、然るべき手数料をいただきます」


 そう。

 アリストが考えた、フィーネがおこなう商品の受け取り方法は王太子の特権と生かした密輸。

 だが、それは違った。


「まあ、その手が一番手っ取り早いと思ったのは事実ですが、あなたに手数料を払うくらいならと別の方法を考えました」

「クアムート?」

「まさか。頼むのはアグリニオンの女傑ですよ」


 ……まあ、偉大なる女性という単語の並びでは日本語の女傑の意味にはなりませんが。


 誰にも聞こえぬ声でフィーネはそう呟いた。


 ……まあ、それはそれとして……。


 ……やはり、興味を引かないようですね。では……。


「実はそのサングラスという小道具ですが、実に変わった素材でできているのですよ」

「変わった素材?」

「ええ」


「目を覆う部分はガラスでできているのですが、それが黒いのです」

「黒く塗っているということですか?」

「いいえ。黒いガラスなのです。しかも、色がついているにもかかわらずよく見える」

「……ほう」


「海賊たちにはそのような技術を持った者がいるのですか」

「そうなります。と言いたいところなのですが、どうやらつくっているのはガラスで財を成しているボランパックではなくワイバーンが持つ工房だそうです」

「ということは、ワイバーンのあらたな儲けの種ということですか?」

「ところが、ワイバーンはそれを売り出す気はないそうです。本当に自身の配下のためだけにつくっているようです」


「まあ、最近つくりだしたらしく、今後どうなるかはわかりませんし、創造意欲を刺激されたマルシアル・ボランパックが同様のものをつくりだすかもしれませんが」


 ……といっても、「幻影の大海賊がつくれるのはガラス部分のみ。しかも、あの薄さがつくれるかは見ものです。それに……。


「どうですか?」

「少し、いや、だいぶ興味が出てきましたね。一刻も早く商品が見たいです。それに、うまくすればバレデラス・ワイバーンに会えるわけですから……」


「商品受け取りの際にはぜひ同行したいものです」


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