肖像画狂騒曲
貴族たちが対アリスト用の秘密道具として使用するこの世界の肖像画。
もちろんそれは別の世界でのお見合い写真。
まあ、その世界でもお見合い写真は庶民には化石化した代物のひとつであるのだが、それでもそれなりの地位にある方々の間ではアイテムとして十分に機能していることもこれまた事実である。
そして、アリストはもちろん貴族たちも十分にそれなりの方々なのだからそのようなもの利用する方々に属するというわけである。
わざわざ言うことでもないのだが、この世界には写真というものはない。
だが、視覚的に自身の娘をアピールするものは必要となる。
そこで考え出されたのが肖像画というわけであるのだが、実は写真がなかった時代には別の世界でも同じことがおこなわれていた。
同じ人間、考えることはそう変わらないということなのだろう。
だが、ここで問題が発生する。
いわゆる見本詐欺である。
別の世界で見合い写真代わりに肖像画を使用していた当時はどうだったかも、それがあった場合にどうなったかもわからないが、とにかくこちらでそれが原因でトラブルが多発していた。
相手の男の好みを聞き出し、それに見合う女性をお抱えの画家に描かせ相手に渡す。
当然相手は気に入り話が進むが、本人登場となったところで絵と違うと相手からクレームが入り揉めるという図式である。
「騙した」
「いや、これは所詮絵なのだから似ていなくても仕方がない。それよりも、ここまで引っ張っておきながら今さらなんだ。そんなことを言うのならこちらがここまで使った金を返せ」
最終的には両家の力関係によって決着するわけなのだが、もちろんその後「雨降って地固まる」式に夫婦としてうまくいった場合は確かにある。
だが、大抵の場合、結婚直後に夫婦関係は破綻となるのだが、それが両家の紛争になることも多々あり、しかも、その当事者が王族や大貴族であった場合は大騒動となる。
ついにブリターニャでは婚姻に使用する肖像画は専門の鑑定官による証明書の添付が必要ということになる。
そして、これが意外にも効果抜群とわかると同様の問題が発生していた各国もそれに続き、現在では証明書なしの肖像画は売春宿にもないと言われる状況になっている。
まあ、そうは言っても、そのような店にやってくる、見た目だけでホイホイ引っ掛かる男をたぶらかすテクニックなど女性は山ほど持っているのだから泣き寝入りする男がそれで減ったのかどうかはわからないのだが。
そして、ここからはアリスト・ブリターニャへ届ける一枚の肖像画に関わる話となる。
「これでいかがでしょうか?ポントアーペント伯爵」
ブリターニャの王都サイレンセストで一、二を争う人気肖像画家カーティス・オーセットは描き上げた絵を依頼主アヴレイ・ポントアーペントへ見せる。
「悪くない」
それが依頼主の第一声だった。
「だが、これでなんとかなるのか?」
「あれはもともと私の家に仕える使用人の娘。それらしく着飾っても育ちは出るだろうから」
「はあ」
オーセットとしてはそれ以上の言葉は言えない。
実物よりも多少は美しく、いや、年齢を考えれば実物より可愛く描いたのは事実。
だが、あまりかけ離れたものを描いては証書が発行されない。
つまり、肖像画として成立しない。
そうなった場合に自分の名に傷がつく。
それどころか、似ても似つかぬ絵を描き証明書を偽造などすれば全財産没収のうえ一族全員死刑になる。
「私として精一杯描かせてもらいました」
そう言いながら、オーセットは心の中で呟く。
……アリスト王子が王太子になるのは確実となった瞬間からこれだ。
……自身の娘や親族に銀髪の者がいなければ諦めればいいものを町娘にまで手を伸ばし義理の娘にしてしまう。
……まさに貴族のあさましさ。
……まあ、それで私は大金を手にできたのだから文句を言う筋合いはないのだが。
……それにしても……。
……本当にアリスト王子は銀髪の娘が好みなのか?
……最近連れましているのは黒髪の娘。
……というか、銀髪ではあるが十三歳の子供だぞ。この子は。




