敗者の門
本来、凱旋とは勝利をした者たちが戻ってきたことをいう。
つまり、大惨敗を喫した今回の遠征軍の敗残兵が王都に戻ってきたことを凱旋という表現で表わすべきではない。
だが、敢えて凱旋という。
いや。
言わねばならないのだ。
なにしろ、多数の王子が二十万の兵とともにあれだけ派手に王都を出発したのだ。
結果がどうであれ、凱旋でなければならない。
盛大な取り繕い。
そう見えるし、事実でもあるものの、これは国の体面を保つ以外にも、王権維持や戦意低下を防ぐためには必要なことであり、ブリターニャにかぎらず、フランベーニュやアリターナでもおこなわれることである。
だが……。
「あれでは逆に晒しものになるのではないか」
ダワンイワヤ会戦で捕虜になり、ようやく解放された者たちが敗残兵とともに戻ってきたその様子を眺めながら口にした王の言葉に宰相アンタイル・カイルウスはこう答えた。
「そうであっても……」
「自分たちは、敵を倒し、勝利した者」
「そう演じてもらわねばなりません」
「少なくても今は」
「そうでなければ、死んだ者たちも浮かばれませんし、捕虜になった者たちを救い出すために大金を支払った意味がなくなります」
「そして、なにより、ホリー王女殿下……」
「わかったからそれ以上は言うな」
カイルウスの言葉を遮った王は言葉を続けることなく、その敗者の列を見守った。
そして、その列はあの門へと向かう。
それより半日ほど前。
「帰還してきたアイゼイヤたちが王都に入る門を変更する?」
王は訝しげに確認する言葉を口にすると、それを提案した典礼大臣で侯爵でもあるアートボルト・フィンズベリーは大きく頷く。
「そうです。彼らが通れば『王者の門』を汚すことになりますので」
つまり、出発時に利用した王族たちが利用する門ではなく、貴族や平民の指揮官が率いる部隊が使用する「勝者の門」から王都に入れるというのだ。
「だが、王族が率いる部隊が戦いに負けたことはこれまでもあった。その時でも、使用したのは『王者の門』であったはずだが」
「もちろんそれは私も承知しています」
「ですが、それは相応の戦果を伴ったものであり、勝ったと言えなくもないものでした。ですが、今回は戦果など皆無。しかも、大金を取られ、捕虜を取り返すため王女殿下まで差し出すという大失態。とてもこれまでのものとは同列には扱えません」
「そもそも本来は戦いで負けた者はあの門を通り王都へ帰還させることは叶わぬと定められているのです。これまではそれを拡大解釈してきましたが、さすがに今回は目を瞑るのは難しいかと」
さすが典礼大臣だと王は心の中で呟く。
「わかった」
「だが、そういうことであれば、おまえが提案した『勝者の門』も同じであろう」
まあ、その理論でいえば王の言葉は正しく、王子たちが使用できるのは平民たちが使用する門ということになるはずである。
だが、フィンズベリーは首を横に振る。
「いいえ。『勝者の門』に関しては問題ありません」
「王族が『王者の門』が使用できない場合は『勝者の門』を使用すべしとありますので問題ないかと」
詭弁である。
だが、それと同時の王権を守る立場である男が考えた理由でもある。
「なるほど」
王はフィンズベリーの忠誠心に感謝するものの、さすがに苦笑せざるをえない。
「だが、戦いで負けたことを理由で『勝者の門』を利用するというのは少々皮肉が効いているように思えるが」
「いいえ」
「その門を通ることにより、次戦の勝利が得られると考えればよろしいかと。そして、そうすれば『勝者の門』の名は大いに高められることでしょう」
「なるほど」
「……では、それを期待するとしようか」
だが、残念ながらそうはならず。
それからまもなく「勝者の門」には「敗者の門」という不名誉な別名がこっそりとつけられ、一般にはその名が使用されることになる。




