魔法のお菓子 再び
ディダール・カンタレー。
弟たちとともにダワンイワヤ会戦に伝令兵として参加、瀕死の重傷を負って倒れているところを魔族の兵に発見され、捕虜となる。
「血縁関係がある者とともに参加し、ともに捕らえられている者」というグワラニーの提示した基準に当てはまった彼はブリターニャへの使者に選ばれる。
魔族側とブリターニャ軍の間を一往復するだけでお役御免となり、自分と共に生き残った弟たちとともに故郷に帰れるはずが、ブリターニャ側の事情により二日間の間にブリターニャ軍と魔族軍の間を三往復することになった。
もっとも、ブリターニャ軍の言葉を魔族側に伝えにいく仕事についていえば、彼には密かな楽しみがあった。
そう。
理由とはもちろんアリシア特製お菓子。
毎回戻る前に渡されるそれは、裕福な家とは言えない彼の家では絶対に口にできないものであり、毎回貰えるのであれば魔族のもとに出かけることを毎日の仕事にしてもいいとさえ思った。
それと同時に初めて接してみてわかった。
もちろん敵であることはわかっている。
だが、それを除けば魔族などといっても、自分たち人間と変わらない。
まあ、見た目は耳が多少長く目も赤いので、すぐに判別はできるが、違いなどそれくらい。
恐れも憎悪もない。
それどころか、自分をお客さん扱いする魔族と、最下層の者としてこき使うブリターニャ軍。
少年がそのどちらに親しみを感じるかとなどいうまでもないことであろう。
もちろんこれはグワラニーが指揮する軍が特別なのであり、さらにグワラニーも単純に人間世界に存在する階級制度のひずみを利用して分断を図る策のひとつとしておこなっているのであって博愛主義者や人道主義者を標榜する気などはまったくない。
そうであっても、少年の心に魔族に対する親愛の情が涌くのは当然である。
「我々は戦いにぼろ負けし多くの仲間を失ったのだが、あのような様子を見てしまうと、それ以上に負けた気がする」
カンタレーが持ち帰った、いわば魔族軍からの配給品をありつこうと群がる多くの兵士たちに囲まれるカンタレーの様子を眺めながらバルハルはそうぼやき、タリーンコートとバラチナルも大きく頷いた。
「……だが、これはたしかに美味い」
「ああ。私の将などという地位になければあの行列に加わるところだ」
「同じく」
そして、同じくカンタレーより分配された菓子を摘まむシャラーフは真実に微妙に近い言葉でこう結んだ。
「あの魔族軍が強いのはこの菓子のおかげではあるまいな」




