第65話 コラボしませんか?
『おひねりちょーだい』盗作疑惑から発生した脅迫事件。
『渋谷戦争』の撮影開始が目前に迫った今日…ついにこの日が来た。
この日僕は東京に立っていた……
この忌まわしき、20話以上の尺を浪費するエピソードに終止符を打つべく……
日比谷真紀奈に憧れ芸能界の戸を叩いたのは8歳の時…
現在12歳。雨宮小春……
初、記者会見である。
おひねりちょーだい新プロジェクト 妻百合流コラボ企画発表記者会見
報道陣に対して発表された内容を睨みつけながら僕は最後の打ち合わせの為に『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の敷居を潜るのだった…
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「……なんでも協力するとは申しましたが…ど、どういう事でございましょうか……?」
時は遡りあの日、妻百合初音と双子探偵と共に妻百合流を訪れ鼻をなくした日…
事件解決のリミット切れを前に僕は最後の賭けに出る為、一度は後にした妻百合流総本山へ再び引き返していた。
車は水没したので徒歩でだ。
途中低体温症でぶち倒れた美夜さんをとりあえず屋敷の庭に埋めてから僕らは再び家元と向き合っていた。
土の中は暖かいから大丈夫である。
困惑する妻百合花蓮を前に僕は藁にもすがる思いで最後に確認する。
「妻百合真一郎さんの所在は現在、妻百合流の方はどなたもご存知ないのですよね?」
「……ええ」
彼女はバツが悪そうに目を伏せた。
となれば僕らが切るべきカードは決まった。
僕らが最後に切るカード……それは『おひねりちょーだい』そのものである。
「では、先程の話……『おひねりちょーだい』とコラボの話、受けて頂けませんか?」
家元他、妻百合流の偉い人達が集まる客間で僕は何言ってんだこいつみたいな視線を受けつつ家元に直談判。
「……『おひねりちょーだい』?」「ほら、あのアイドルグループの…」「たしか和楽器系男性アイドルグループだっけ?」
頭のお堅い妻百合の上層部は『おひねりちょーだい』を知らなかった。
そして全ての決定権を握っている若き当主もまた「何言ってんだこいつ?」みたいな顔で首を傾げつつ「どういう事でございましょうか?」と説明を求める。
「詳しくは『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の者が来て話しますが……具体的には妻百合流の舞を『おひねりちょーだい』が踊る……的な?」
概要はどうでもいい。『おひねりちょーだい』と妻百合流がタイアップするという事実が欲しいだけだ。
「……なぜ?」
「若者の日本舞踊離れを止めたいのです」
「いえ、そのなぜもありますでございますが…なぜ探偵事務所の方がこんなお話を?」
ごもっとである。
「……隠していて申し訳ありません。実は私、こういうものです」
僕は「『ヤッテ・ランネー・プロダクション』企画部給湯室室長 マーマミヤ・モーハル」と書かれた名刺を差し出した。
「手書きですね……」
妻百合花蓮が痛いところを突いた。
「あなた、初音の同級生なのでは……?」
「当事務所では採用年齢を5歳からとしていますので、問題ありません」
「労働基準法に抵触致しませんか?」
暴走機関車と化した僕をもはや詩音さんも初音さんも止めない。というか、止められない。
そして退く訳にはいかない。
「あなた一体何者なんだ?」「胡散臭すぎるぞ?イタズラなら程々にして頂きたい」「さっきから何を言ってるのか理解不能だ」
と幹部連中から次々と苦言が出る。
しかし退かない。
「なぜ隠しておられたんですか?」
「我々は契約の際、その方々が信頼に足るかどうかを精査する為に探偵を名乗り接触するのです」
「嘘でございますよね?私の所属していた同好会の代表だった方と同じ目をしておられます」
「失礼にも程があるんじゃないのか!?」「大体、由緒ある妻百合流がアイドルグループとコラボなど……!」「あらあら、「こらぼ」などとまたハイカラなお言葉を……おほほ」「ほんとになんなんだあんた達は!」
家元のこほんという咳払いひとつで野次を飛ばしていた幹部連中は黙った。
「……日本舞踊の若者離れを憂いて頂くのは嬉しいのでございますが……最初申しておられた盗作うんぬの話は解決されたのでございますか……?」
「全く関係ありません。神事の舞が家元直々にうちの橋本に継承されたと聞いた時、僕は確信したのですよ!僕にはこの素晴らしき文化を世間により広く知らしめる義務があると」
「神事の舞を継承……?」「家元、今のお話は!?」「橋本とは何者にございますか?」
再びのこほんに皆黙った。
猛烈に複雑に過ぎる妻百合初音と詩音さんの視線が鼻に染みる…いや、鼻はない。
しかし妻百合初音のこの視線こそ、僕が真一郎に求めるものなのだ。
これは最後の賭けだ。
これで真一郎が脅迫犯ではなかったら、僕のこの賭けはただの恥さらしで終わるのだけど…
僕は信じてる。
そういう流れだと…
流れが言ってる。「犯人は真一郎だ」と…
「…………やはりよく分かりかねますでございます。急にそのような事を申されても…それに妻百合流の舞は独自の型を汲んだ由緒ある舞踊……男性アイドルが踊っても妻百合流の舞として成立するとは思えませんでございます」
「神事の舞は成立しましたよ?」
「いやあれは……と、とにかく、今の説明だけでは納得しかねるでございます。というか、美夜先輩はどちらに……?」
「美夜なら庭に埋めたよ?」
詩音さんの妹埋まりました発言に「なんだって!?我が妻百合の敷地に人を埋めた!?」と幹部連中が騒ぐ。
コイツらはさっきから騒ぐしか能がない。
「何事も挑戦です。お金も沢山入ります」
「貴様ァ!」「妻百合流を侮辱するか!?」「ぶち殺すぞ!?殺戮部隊を招集しろ!!」
「なりませんでございます…我が妻百合流は利益より伝統を重んじておりますでございます」
殺気立つおじさんおばさんを制止する家元は頑固だ。本当はお金大好きなくせにいかにもなお堅い台詞を吐いて僕を突っぱねた。
やはり厳しいか……いや……まだだ。
「伝統とは受け継がれるものです。しかし、今の深刻な伝統芸能への若者離れが進めば、この妻百合の伝統も廃れて消えてしまう」
「ですから、妻百合流は妻百合が舞うから妻百合流なのでありまして、男性アイドルが舞ったらそれは妻百合流ではございません」
「神事の--」
「あれは『おひねりちょーだい』のオリジナルでございます」
【悲報】妻百合流家元、神事の舞を切り捨てる。
「…………家元、伝統とは形を変えて継承されていくものです。それに、妻百合流を『おひねりちょーだい』が踊ったとしても、それで皆さんが研鑽を重ねた妻百合流が変わってしまうわけではない…僕は妻百合流を……日本舞踊を広く広めたいのです!その為の窓口として……世間のみんなが日本舞踊の素晴らしさを知るキッカケとして!僕は妻百合流の舞を彼らに踊って欲しい!!日本舞踊の美しさ、素晴らしさをこの機会に知ってもらい、そして本物の日本舞踊が広がっていってほしい!僕を突き動かしているのはその情熱だけなのです!!」
怒涛のラッシュ。しかし……
「……申し訳ございませんが、なんか…胡散臭すぎるので……」
給湯室室長は営業には向かないらしい……
仕方ない…僕は手の中にないチップもベッドする。
「…僕がこの情熱に取り憑かれたのは、この隣にいる初音さんのおかげなのです」
「え!?」
黙れ。僕の鼻を取ったんだ。これくらい協力しろ。
「初音さんは家元になる為幼い頃から努力を重ねてきました……彼女の日本舞踊を愛する気持ちは誰にも負けないものがある。僕は彼女からその熱意を受け継ぎ、代弁者としてここに居るのです」
その時大ブーイング。
「初音様、一体何をお考えか!!」「この胡散臭いペテン師は初音様が引き込んだと!?」「妻百合流とアイドルのコラボ!?笑止千万!!なにを血迷った事を!!」「次期家元候補だったお方が--」
「そこまででございます」
雨あられと叩きつけられるブーイングを止めたのはやはり家元の鶴の一声だった。
「……決めるのは私でございます」
…家元の目の色が変わった。
彼女とて妹の心の底に燻るものは薄々気づいていたのだろう。だからこそ、僕の咄嗟の嘘にも機敏に反応した。
彼女はほぼ僕の話など信じていない。目で分かる。
しかし家元は初音を見つめていた。目の奥の光を見逃さないように……
「……初音、あなたの気持ちは本物にございますか?」
「え…えぇ……?」
……まずいか。
ここで悪手を打ってしまった。ここで妻百合初音が協力しなければこの話、家元は飲まない。
そうなれば全てが頓挫する。
……なぜこんなふざけた事を必死こいてやってるんだろうという虚しさを抱いたが時すでにお寿司(炙り〆鯖)
妻百合初音は瞳を揺らしたまま家元を見ている。
そんな彼女に家元は問いかけた。
「……あなたはまだ、妻百合流を愛しておられますか?」
妻百合初音の瞳にぼんやりと、蝋燭が灯るように光が……
「……はい、姉上」
…灯ることはなかったが、彼女は僕の意を汲んだ。
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『話はついたようだな……』
「もうバッチリですよ宇佐川さん」
『ヤッテ・ランネー・プロダクション』所属『おひねりちょーだい』と妻百合流の正式コラボが実現した。
してしまった…
苛烈さを増す脅迫文と攻撃の中、超急ピッチかつハイスピードでこの話は進む…異常なスピードで。
なぜなら『ヤッテ・ランネー・プロダクション』側も目的を知っているから…
『……お前が考える妻百合真一郎とやらの犯行動機を考えたら、橋本達と妻百合のタイアップは挑発以外のなにものでもねー…と』
「必ず乗ってきます」
真一郎が犯人なら……
自宅のベッドの上で寝転がり魔人、宇佐川結愛と会話しながらも、僕の頭にはずっと妻百合初音の視線と、失敗したらまず間違いなく太平洋の藻屑になるというプレッシャーがのしかかる。
正直、ヤバい…
しかし僕は信じてる。
今は我が身を賭ける時なのだ…
もはや探偵の鏡である。
妻百合流に足を踏み入れた日、脅迫犯から攻撃があったそうだが、その日妻百合の本家連中は皆屋敷に居た。
このアリバイだけが、真一郎への疑惑を何とか支えていた。
僕はこのシナリオを書いている神様を信じてます。
『まぁ…色々言いたい事あるけど……』
「事業拡大のお礼なら結構です」
『お前の天狗鼻をへし折る前に決めておく事がある』
鼻は今治療中です。あの…シリコンかなんなで作るやつ…事務所に相談したら手配してくれた。
ただし100万かかるらしい。
映画に出てもギャラは吹き飛ぶだろう…
で?決めておくこととは…?
『発表記者会見だが、橋本は今ああいう状態だ』
ああいう状態というのは、エナジードリンク中毒の事だ。つまり、今彼はジャンキーである。
失念していた…
『おひねりちょーだい』の新プロジェクト発表の場に橋本圭介が居ない訳にはいかない…
が、今の橋本圭介を出す訳にはいかない。秒で業界を干される。
……ヤバい。
「……ど、どうします……?」
『替え玉を用意するしかねぇな』
「か、替え玉…?」
『お前がやれ』




