第53話 首、大丈夫ですか?
妻百合流--
それは京都に総本山を置く1万人以上の門下を抱えた日本最大クラスの日本舞踊の流派。
わずか18歳の若さで現家元、妻百合花蓮が家元に就任したのは記憶に新しい。
旧華族の家柄でその影響力は政財界にも及ぶと言われる、よくフィクションに登場するトンデモ一族である。
申し遅れました。僕、日本最小規模の新興宗教、日比谷教教祖、雨宮小春と申します。
波乱を呼ぶ大人気男性和楽器系アイドルグループ『おひねりちょーだい』脅迫事件。
なんだかんだで事件の解決に漕ぎ出した僕と双子探偵は今『おひねりちょーだい』の闇に埋もれし盗作疑惑のベールをめくる……
「…では、問題の『いよーっぽん』は妻百合流の神事の舞をパクった盗作作品…という事ですね?」
言葉にしにくい内容を世論を切り裂く批評家の如くズバッと口にするのは双子探偵、浅野詩音。
隣で鼻が痒いのは双子探偵の片割れ、浅野美夜。
「だから、継承されたって言ってんだろ?」
と、悪びれる事なく開き直るのはこの人、生きる天災こと『ヤッテ・ランネー・プロダクション』警護主任、宇佐川結愛。
「あの日、九尾の狐との決戦の地には現家元、妻百合花蓮とその弟悠々斎が居た。その2人が世界の命運を圭介に託して、神事の舞を継承したんだよ」
「あぱーーーー」
宇佐川結愛の隣であぱーーーーになってるのは世界の命運を託された英雄もといエナジードリンク中毒の橋本圭介。当事者である。
そして彼女の言い分は分かった。
「あの時本当は妻百合花蓮が神事の舞を舞って九尾の狐を封印するはずだった。でもアイツは腰をやった。そこで圭介が--」
「事情は分かりました」
僕は宇佐川結愛の経緯説明を切って続ける。
「つまりそれをパクったんですね?」
「いやだから…継承されたんだって。その時点であの踊りは圭介のものだろ?」
「言い訳が苦しいぞ宇佐川」
依頼人に噛み付く美夜さんと宇佐川結愛がメンチを切り合う中で頭を抱えたのは早川大地。
誠実が服を着て歩いてるようなこの男は事の経緯を何も知らなかったらしく、事態の深刻さに頭を抱えた。
「要はその踊りをそのまま僕らのデビュー曲として売り出したんでしょう?妻百合流に無断で!」
「落ち着け早川…だから、継承したんだってば!」
「宇佐川お前さっき盗作といえば盗作って認めたよな?」
「黙れ隈女」
眠っても眠っても隈が取れないのが人生最大の悩みである美夜さんに対しての禁句に美夜さんが消火器を手にテーブルに片足を乗せる。ちなみに消火器はポケットから出てきた。四次元ポケットである。
そして双子探偵は手錠で繋がれてるので美夜さんの暴挙は座したままの詩音さんがストッパーとなり止めた。
話を戻そう。
「落ち着いてください美夜さん。僕らの仕事は脅迫犯を何とかする事で、盗作があったかないかはこの際二の次です」
「じゃあここまでの流れなんだったんだよ(怒)」
窘める僕の前で早川大地が『おひねりちょーだい』のマネージャー兼プロデューサー兼ヘアメイク兼家事代行兼公認会計士の折月へ熱すぎる眼差しを向ける。
その眼差しはこの件を穏便に済ませたい僕にとっては本当に熱すぎるものだった。
「公表するべきだ。盗作はあった…」
「いや…それは…ねぇ?宇佐川さん」
「早まるな早川。盗作してましたなんて公言したらお前の今後にも響くんだぞ?それに盗作かと言われたらビミョーなライン……」
「問題は妻百合流がどう認識しているかだと思いますよ」
ここでこの場で1番の大人、詩音さんが昂る波を収めようと口を開く。
「盗作なのか否かは妻百合流と話し合うのがいいと思います。宇佐川さんの言い分の通り継承したから自由に使って良いのか、否かは…」
「しかし人様のダンスを勝手に使ったのは事実--」
「お前はもう黙ってろ早川。見ろ、お前が騒がしいから圭介が爆発しそーだろうが」
「ぴぇーーーーー」
橋本圭介は限界だった。
「…しかし、いずれにせよ妻百合流には話を聞く必要があるかもしれません」
と、詩音さんがそう言葉を紡ぐ。全員の視線が集まる中で詩音さんは手錠がガチャガチャやかましい手で脅迫状を手に取って告げる。
「『いよーっぽん』が完全オリジナルでないという事実を知っているのは、妻百合流の人間とこの場に居る人間…ならばこの脅迫状を出してきたのは……」
「妻百合の人間……」
僕の言葉に詩音さんが頷く。
が、僕は彼女の出した結論に対して僅かに懐疑的だった。
妻百合は大きな力を持った一族だ。『おひねりちょーだい』に何らかの償いを求めているのならこんなせこい手を使わずともいくらでも手段はあるだろう。
自分達の言い分に正当性があると言うならこんな陰湿な手を使わずとも、盗作だと声高に宣言すればいい。社会的に影響力のある一族ならむしろ、そうすべきだ。
こんな犯罪行為に頼るかたちで『おひねりちょーだい』を糾弾するだろうか……?
「……いや、妻百合だけじゃない」
「「「え?」」」
その時宇佐川結愛がボソッと吐き出した言葉に僕と双子探偵がそちらを見る。
その先で俯いた宇佐川結愛はこう言うのだ。
「……あの場には他に、まだ人間が居た。九尾の狐との戦いの一部始終を見ていた奴ら…あるいは、共に戦った奴らが……」
*******************
「え?」
白ひげの髭をパクった先生の口から飛び出した一言に私は思わず間抜けな声を落としていました。
職員室でぽかんとするのは私、妻百合初音。この中学校で演劇部を作ろうと躍起になる新1年生です。
先日、『トレジャーハンター部』と『演劇部』の設立を賭けたタイマンに勝利した私…
演劇部(予定)の仲間の期待を背負い再度設立の訴えを起こした私を待っていたのは、私の目を丸くさせる返答でした。
「いや『トレジャーハンター部』に勝ったからって認めないものは認めないから…」
「いえ、しかし……『トレジャーハンター部』との部を賭けたタイマンに……」
「それ、君らが勝手にやっただけだよね?」
確かに……
「とにかく『演劇部』はちょっとねぇ…」
なぜなのですか?
なぜアリジゴクを研究したりトレジャーハンターする部は認められて演劇はダメなんですか?
あまりにも頑なな先生の態度に疑問と不信感が募ります。
「……あの、どうして申請が通らないのか説明を……」
「前にも話したでしょ?部の設立の目的が薄いのと、演劇分かる顧問が居ないから」
「あの…コンクールとかは無理かもしれませんけど、ちゃんと活動するので……」
「ダメだって」
--妻百合初音、撃沈。
子供の駄々のような説得は通らず結局認印の押されていない申請書を片手に私は化学準備室へととぼとぼと引き返します。
部長を任されてこのザマ。いや、もはや部長ですらありません。だって、部が出来てないので……
「……目的」
部を作るには学校側を認めさせる目的……部の目標となるものが必要なのでしょうか。
大会とか、コンクールとか……
「お嬢ちゃん」
「!?あなたは……」
夕日の紅が落ちる廊下を1人帰還する私の背中に声をかけてきたその声に、私は驚きの声とともに振り返りました。
そこには眩しいオレンジ色を浴びたコーンロウがゆるゆると歩調に合わせて踊っていましたので…
そう。『トレジャーハンター部』部長のエカテリーナ・ジョニー先輩です。
「あ、大丈夫でしたか?その…首……」
「え?何が?」
なんということでしょう。永谷兄弟のバイクに頭を轢かれたのにこの方、全くダメージが見えません。分かりやすくコルセットでも装着していれば少しは痛々しいのですが、この方は「余裕だけど?」と言わんばかりに首をコキコキ鳴らしてます。
ゴキッ
「「あっ」」
そしたら首がありえない角度まで曲がりました。首の骨が外れたみたいに頭が重みで傾きます。最大トーナメントで刃牙に頚椎外された烈海王みたい…
どうやら強がりだったようです。
「病院行きましょう」
「あたしは『トレジャーハンター部』の部長だぞ?世界の秘境を探検する冒険家が、首の骨が折れたくらいで泣き言言えるか」
「折れてるんですか?それ…」
え?というか…
「『トレジャーハンター部』できたんですか?」
「先生いいって言ったし…」
「え?ではあのタイマンはなんだったんですか……?」
あなた、なんの為に首折ったんですか?
どうにも頭が安定しないエカテリーナ先輩はそんな世間話も程々に「そういうそっちは」と斜めになった頭から語りかけます。
「『演劇部』は出来そうかい?」
「……」
返事の代わりに沈んでみせる私の表情に彼女は答えを予想していたように目を逸らします。
どうでもいいですがこのやり取り、死闘を繰り広げた後のライバルのようです。
戦いというのは新たな友情を呼ぶのです。
戦いとはコミュニケーション。
つまり私達は友…悟空とベジータ?
「ベ、ベジータ……?」
「は?」
違いました。
「とぼけんなよてめぇ」みたいな顔をされたエカテリーナ先輩、私の事を哀れみに満ちた瞳で見つめた後「やはりな…」と呟きました。
やはり?
エカテリーナ先輩、『演劇部』の設立が困難だと予想していたのですか?
やはり『演劇部』が出来ないのには何か理由が……?
「……エカテリーナ先輩。先輩は何かご存知なのですか…?」
「ご存知ってか……」
エカテリーナ先輩は首をプラプラさせたまま私に問いかけます。
「お嬢ちゃん、怖い話得意?」




